通信会社で働きながら、私財を費やしてロヒンギャの元へ通う写真家の新畑克也さん。「わたしはジャーナリストではないです」――そう言い切るも、ロヒンギャを知る識者として知られる。新畑さんは、なぜ仕事の合間を縫って、ロヒンギャの元へ向かうのか。(聞き手=小西 遊馬・慶応義塾大学総合政策学部1年)
■カメラを銃と見間違える赤子も
――新畑さんは普段は通信会社で働いていますが、どれくらいの頻度で写真を撮りに海外に行っていますか。
新畑:会社では週4日でカスタマーサポートの仕事をしています。年間に1ヶ月程度の休みを取って、ミャンマーなど海外を訪れて、旅先で出逢う人たちの写真を撮っています。
――ロヒンギャの撮影はいつ頃から始めましたか。
新畑:2015年ですね。
――ロヒンギャを撮影したいと思ったきっかけは何ですか。
新畑:初めてミャンマーに行く前に読んだある本がきっかけかもしれないです。その本はミャンマー全土を周った旅行記のような内容でした。筆者がミャンマー各地を訪れ、最後の章でロヒンギャに会いに行くんです。
――ロヒンギャの村、そして難民キャンプ内の様子はどのようなものだったでしょうか。
新畑:わたしは今まで、ミャンマーのロヒンギャの住む村と国内避難民キャンプ、そして隣国バングラデシュの難民キャンプに足を運びました。国内避難民キャンプでは、彼らは仕事をすることも許されておりません。暇を持て余し、ただただ座り込む男。不衛生な環境の中で寄生虫に腹を膨らませる子ども。
そしてバングラデシュの難民キャンプでカメラを向けた赤ちゃんがパニックになったことが忘れられません。カメラを銃だと勘違いし、怯えを通り越しパニックに陥る赤子、虐殺の記憶がトラウマになっているんです。なんとも言い表せない気持ちになりました。
■撮る理由は「人柄に惚れたから」
――難民キャンプ内で体調を崩し、ロヒンギャの人々にお世話になったと聞きました。
新畑:熱中症になってしまいました。そうしたらロヒンギャの人たちがなけなしのお金でエナジードリンクやアイスを買ってきて介抱してくれました。
ミャンマーの村では友人たちがわたしの見送りをしてくれました。ロヒンギャは町に出ることは許されていませんが、それでも行けるところまでは見送りたいと。
途中まで来て、突然足を止めると、「ここから先には行けないんだ」と言い別れました。
涙が止まりませんでした。ゲートはないのに、そこには見えない壁が立っていて、彼らの優しさに触れると同時に、彼らの置かれた状況に怒りを覚えました。
――なぜロヒンギャ族を撮り続けるのですか。
新畑:彼らの人柄に惚れたから。だからこそ、多くの人に彼らのことを知って欲しく写真を撮っています。ミャンマーの人々は、断片的なニュースだけを見て、彼らを野蛮だと信じている。
悲惨な状況もそうだけど、彼らに興味を持ってもらいたい。うっかり「この写真綺麗だな」ってわたしの写真を見てミャンマーの人にも感じてもらえたら何よりです。
――最後にお聞きしたいのですが「平和」とは何だと思いますか。生と死の間を彷徨うロヒンギャの人々、そしてそれを横目に平然と過ごすミャンマーの人々を目にした新畑さんの考えを知りたいです。
新畑:正直わからないです。言葉にできない。ただ、現地では敵対するはずのラカイン族とロヒンギャが一緒にお茶をしている光景を見ることもあります。その時「平和」を感じました。
ロヒンギャを含めた全てのミャンマーで生きる人々が、一緒にお茶を飲めるようになった時、初めて「平和」が何かわかる気がします。
一刻も早く、彼らの置かれている状況が少しでも良くなってくれればと、今年も足を運びたいと思います。
新畑克也 Katsuya Shimbata:
1979年広島県呉市生まれ。東京都在住。
2010年に初めて訪れたミャンマーに魅了され、同国へ幾度も通い旅先での人々との出逢いを写真に収め始める。2015年より西部ラカイン州で多くの困難を抱えながら生きるロヒンギャの集落や難民キャンプを訪れ人々の暮らしを見つめ続ける。
HP :http://www.katsuyashimbata.com/
FB :https://www.facebook.com/kman57move
筆者プロフィール
小西遊馬 Konishi Yuma:
慶應義塾大学総合政策学部1年生。
「社会をよりよくを、誰もが憧れる“かっこいいに”」をテーマに、二人組のジャーナリスト、“レッツコニー”として活動中。インドのスラムや売春窟、台湾の環境汚染など、様々な社会問題をテーマに調査し、自身のSNSを中心に発信している。
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