「情報を得ることでこころの傷つきをプラスに変え、自分らしく生きる力にしてほしい」。自らも過去にDVに苦しんだ女性が、傷つきからの回復を支援したいとNPOを立ち上げ、講座を開催してきました。「今すぐには使わなくても、いろんな道具を持っていたらいつか役立つ時がある。道具箱の道具を増やすように、何かにつまずいた時、しんどい時にここでの学びが手助けになれば」。活動について、話を聞きました。(JAMMIN=山本 めぐみ)

傷つきからの回復のための「こころのcare講座」を開催

講座会場の様子。後ろにある本棚には、貸し出し用の関連図書が入っている。「講座の開催、書籍の貸し出しのほかにも、寄付のお洋服を選ぶことができたりピアサポートグループがあったりと、リソースセンターのような資源にもなっています」(西山さん)

DV(家庭内暴力)や虐待、その他さまざまな原因による心の傷つきやトラウマについて、情報を広げることでそこから脱し、新たなエネルギーを発揮してほしいと講演やワークショップ、研修を行うNPO法人「レジリエンス」。2003年に代表の中島幸子(なかじま・さちこ)さんがスタートした「こころのcare(ケア)講座」は、これまでに1000回以上開催されました。

「DVだけでなく虐待、パワハラ、いじめ…さまざまな傷つきについて、人が人を傷つけるということはなぜ起こり、どんな影響をもたらすのか、自分や人を大切にするための方法を学び、回復のためのこころの手当てをできる場所を提供したい」と話すのは、共同代表の西山(にしやま)さつきさん(53)。西山さん自身、過去にDVに苦しんだ当事者です。

「活動を始めた2003年ごろはDVのことが今以上に知られておらず、被害にあった方が加害者の元を離れるとそこで支援が終わってしまうことが少なくありませんでした。しかし実際のところ、被害を受けた本人の苦しみやつらさは加害者から離れたら問題が解決するわけではなく、ある意味そこから始まるともいえるのです」

予約不要、途中退室もOKで
気軽に参加できる

レジリエンス代表の二人。2003年に「こころのcare(ケア)講座」をスタートした中島幸子さん(左)と、お話をお伺いした西山さつきさん(右)

レジリエンスが主催する「レジリエンス☆こころのcare講座」は、東京都内の表参道、四谷、そして京都の3箇所で、女性限定で定期開催しています。講座は全12回で、人と自分との境界線やパートナーシップ、DVのさまざまな形態やトラウマへの対処法や周囲とのより良いコミュニケーションの方法などについて学ぶことができ、参加費用は一回あたり500円です。さらにレジリエンス主催の場合、参加は予約不要、途中参加・途中退室もOKだといいます。

「これはトラウマ症状を理解した支援の一つのあり方です。トラウマを抱える方の中には、『当日行けなかったらどうしよう』と予約が精神的負担になることがあります。できるだけ不安や負担を排除しようということで、事前予約も必要ないし、いつ来ても帰っても良いというかたちをとっています」

仙台にて、トラウマに関する研修会を行った時の様子。「東日本大震災の後、東北では数年にわたり研修を行っています」(西山さん)

では、どのような人が講座に参加しているのでしょうか。

「DV被害の渦中にある方だけでなく、家庭内暴力のある家庭で育ち、おとなになってからも苦しさを抱えている方、加害者から逃れた後、日常生活につらさを抱えて来られる方、パワハラやいじめで傷ついた方、メンタルの面で気になることがあるといった理由で参加される方もいます。DVやトラウマで苦しむ方の友人やご家族も参加されています。この問題に関心のある女性ならどなたでもご参加いただけます」

「ひとくくりにするのは難しい『生きづらさ』、それはもしかしたら講座に参加してくださる方だけでなく、誰しもが持ったり感じたりしていることなのではないでしょうか。何となくフタをして見て見ぬフリをしておけるサイズの時もあれば、環境やタイミングで、本人が『フタをあけてこの問題と向き合ってみよう』と勇気を出す時もある。そんな時に役に立つ、どなたでも自分と向き合える内容です」

情報を得ることで、
状況を客観的にとらえられる

「こころのcare講座」の講座資料。図を用いてわかりやすく解説しながら、書き込み式の資料なので自分の内側と対話するように自分を振り返ることができる

「家庭や職場など限られたコミュニティー内の問題はなかなか外に出づらく、本人も問題に気づきにくいということがある」と西山さん。「講座全体を通じて自分自身を点検し、もし暴力があるとわかった時にこころの手当てをする助けになれば。情報を得ることで、少し安心できたり対策できたりすることがある」と話します。

「たとえばちょっとした失敗を何時間も責められる、大声で怒鳴られるなどという経験があった時に、加害者から離れた後も当事者はトラウマに苦しみます。また怒られるのではないかと極度に失敗を恐れるようになる、加害者とよく似た人物を街中で見かけた時に突然フラッシュバックが起きる、息苦しくなる、夜眠れなくなるといったさまざまな体の反応が起こります」

講座や研修に参加することが難しい人に向けて、様々な書籍も出版している

「こういった状況についても、体の中で何が起きているのかを知識として知ることで『これは正常な反応なんだ』とか『こういう理由でこの反応が起きていたんだ』と納得し、『私だけがおかしいわけじゃないんだ』と安心できて、そこから一歩前に進むことができます」

「暴力の経験自体がトラウマとなるのではなく、暴力の経験によってその後起きる悪影響がトラウマです。起きてしまった出来事は変えられません。『出来事=トラウマ』としてしまうと、その状況は変えにくくなります。しかしトラウマの仕組みや体への仕組みを理解することによって、悪影響は和らげることができるのです」

「回復は人それぞれ。その時々で、その人にとってのベストを見つけて」

「レジリエンスでは被害にあった方のことを『被害者』でも『サバイバー』でもなく『☆(ほし)さん』と呼んでいます。被害にあった人は弱い人ではなく、つらい経験の中で『状況をなんとか良くしていこう』『今日一日なんとか安全に生き延びよう』とたくさんの力を使っている強い人たちなのです。その力は自分を輝かせる力にもなります」(西山さん)

「肉体的なものだけでなく、無視する・怒鳴りつける・行動を制限するといったことも暴力です」と西山さん。

「常にパートナーの不機嫌を恐れて機嫌を伺っている人は少なくありません。しかし加害者はいつも暴力を振るったり怒っているかというとそうではなく、暴力の後に優しい言葉をかけるという二面性を持ちます。この優しさは相手の本当の優しさではなく、相手が自分の罪悪感を下げるためや、相手を自分の元に留めるためのコントロールに過ぎないということを被害者の側が知っていたら、起きている状況を冷静に客観視し、どうするべきかを整理できます」

「DVは混乱の中に閉じ込められる経験です。一人だと出口が見えず、どうしていいのかわからなくて同じところを行ったりきたりしてしまうことでも、誰かとつながって情報を得ることで、見える景色が変わってきます。すぐに、というわけにはいかないかもしれませんが、情報を持つことで、少しずつ回復につながっていくと思っています」

「ゴールはもしかしたら一人ひとり違うかもしれません。それぞれのタイミングもあるでしょう。しかしその時々で、自分にとってのベストを見つけてほしい。たとえばこれまで、相手から『お前が悪いんだ』と言われた時に『そうだ、私が悪いんだ』と思っていた人が、相手に言い返すという行動にはならなかったとしても、こころの中で『私は悪くない』と思えるようになったら、それも回復です。あるいは四六時中DVのことで頭がいっぱいだった人が、ある日ふと空を見て『きれいだな』と思えたとしたら、それも大きな回復なのです」

「『加害者と別れた』というのは周囲から見るとわかりやすい回復ですが、目には見えなかったとしても、その人が何か自分のことを心地よく思えたり、自分にプラスの評価を持てるようになった時、それは大きな回復を意味するのです」

DVや虐待が差別されずに
サポートされる社会を

昨年からの新型コロナウイルス感染拡大の影響を受け、オンラインでの講座開催にも力を入れている。「デジタルこころのcare講座」の一コマ

女性の約3人に1人は配偶者からDV被害経験しているという統計が出ています。実は多くの人が抱える身近な問題であるにもかかわらず、いまだに特殊な問題や一大事のように扱われてしまうことが、さらにこの問題を複雑にしていると西山さんは指摘します。

「被害を伝えたら、自分がコミュニティーから排除されるのではないか。『かわいそう』と言うだけで相手から一線を引かれてしまうのではないかといった不安が、この問題をより見えづらくしているところがあると思います。渦中にある人が『もしかしたらDVを受けているかもしれない。助けてほしい』とか『自分は被害者だ』ということを、周りに言いづらい状況があると思います」

「私は、この社会は非常にやりづらいと感じています。人は誰も皆、いろんな関係の中でこころの傷を抱えている可能性があります。表面的な部分だけにとらわれず、気負わずにこころの問題に触れられる場所があるということはとても大切だと思います」

「『助けて』といえない、それはそこに安心を感じていないからです。『助けて』という発信を、大袈裟にとらえられたり否定されたりするのではなく『そうだったんだね、よく耐えたね』とか『こんな方法もあるみたいだよ』とフラットに受け入れられたら、そのような社会は、誰にとってももっと楽で生きやすいのではないでしょうか」

「アメリカでは、キャビンアテンダントやネイリスト、美容師など接客業の方がDVについて正しく学ぶ機会があるそうです。お客さんから『実はこんなことがある』と話された時に、聞く側が正しい情報を持っていれば、話す側も安心を感じられるし、それによってSOSを拾い、その後の支援につなげられる可能性も高くなります」

「このテーマに限らずですが、障害や病気、セクシャルの問題などもなかなか受け入れられない現実があります。でも『いろいろあって、どれも良いじゃん。苦しさがある時は、互いに助け合っていこう』という社会、そのためにも『私が私を大切にできる』社会が広がっていけばと思いますね」

団体の活動を応援できるチャリティーキャンペーン

チャリティー専門ファッションブランド「JAMMIN」(京都)は、「レジリエンス」と1週間限定でキャンペーンを実施し、オリジナルのチャリティーアイテムを販売します。

3/29〜4/4の1週間、JAMMINのホームページからチャリティーアイテムを購入すると、1アイテム購入につき700円が「レジリエンス」へとチャリティーされ、「レジリエンス☆こころのcare講座」よりたくさんの人が受講できるよう、オンライン動画制作のための資金、また講座開催だけでなく、書籍の貸し出しや同じように悩みを抱えたピアサポーターの集まりなどを実施する場を継続していくための資金として活用されます。

「JAMMIN×レジリエンス」3/29〜4/4の1週間限定販売のコラボアイテム(写真はTシャツ(カラー:モスグリーン、価格は700円のチャリティー・税込3500円)。他にもスウェットやパーカー、トートバッグやキッズTシャツなど販売中

JAMMINがデザインしたコラボデザインには、カゴの中にあふれんばかりの星屑を描きました。どんなことがあっても侵されない、その人自身の「輝き」。一人ひとりがそれをひとつずつ見つけて拾い集め、生きる糧や希望にする様子を表現しています。

チャリティーアイテムの販売期間は、3/29〜4/4の1週間。JAMMINホームページから購入できます。

JAMMINの特集ページでは、インタビュー全文を掲載中!こちらもあわせてチェックしてみてくださいね。

情報を得ることで、DVや虐待などによる傷つきを、自分らしく生きるための「プラスの力」に〜NPO法人レジリエンス

山本 めぐみ(JAMMIN):

JAMMINの企画・ライティングを担当。JAMMINは「チャリティーをもっと身近に!」をテーマに、毎週NPO/NGOとコラボしたオリジナルのデザインTシャツを作って販売し、売り上げの一部をコラボ先団体へとチャリティーしている京都の小さな会社です。2014年からコラボした団体の数は350を超え、チャリティー総額は5,500万円を突破しました。

【JAMMIN】
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