家庭崩壊や虐待などによって親と一緒に暮らすことができない子どもが、働きながら自立を目指す生活の場があります。原則として15歳から20歳(学校に通っている場合は22歳まで)の子どもたちが、自ら寮費を納めながら自立を目指す暮らしの場「自立援助ホーム」です。2020年5月、奈良市内に開設したばかりの女子専用の自立援助ホームを取材し、社会的養護下にある10代が抱える課題について聞きました。(JAMMIN=山本 めぐみ)
虐待などにより親と暮らせない少女が自立を目指す場所
” open=”no” style=”default” icon=”plus” anchor=”” class=””]7月、奈良市内にある女性専用の自立援助ホーム「ミモザの家」にお邪魔しました。ホーム長の中山眞由美(なかやま・まゆみ)さん(52)が出迎え、二階にある食堂に案内してくれました。ちょうど入居している子どもたちとスタッフの皆さんが、大きなテーブルを囲んで昼食をとっていました。
この日のメインの献立はそうめん。食卓を囲んで、たわいもない話に花が咲きます。どこにでもいそうな少女たちの10代らしい会話。しかしそれぞれに、ここに来た背景を抱えているといいます。その中の一人、ここで生活していたというAさん(19)が、別室で話を聞かせてくれました。
「2017年から、父親から性的虐待を受けました。母親に相談すると、最初は味方をしてくれたのに、ある時急に『あんたが女を見せるからや』って…。ママは私を子どもとしてではなく、一人の女として見ているんです。警察に通報したくて、父親の職場の上司にも相談したけれど『通報しないでほしい』と言われました。そんな時に、当時付き合っていた彼が『俺が家族から引き離したる』と言ってくれて、結婚の約束もして同棲しました。だけど何度か自殺未遂をして病院に緊急搬送されて入院し、相手とも別れることになりました。退院後、同棲していた家にも、家族のもとにも帰ることができなくてここに来ました」
今はミモザの家を出て、一人暮らしをしながら完全な自立に向けての生活を開始したAさん。明るくチャーミングで、こちらにも気を配ってくれる、とても素敵な女性でした。ここに来るまでに、どれだけ孤独でしんどい思いをしたでしょうか。
もう一人、「私、お誕生日が9月なんです!待ってますね」と明るくおどけて周囲を笑顔にしていたBさんは、お弁当屋さんとファミレスのアルバイトを3つかけもちしながら通学しているのだそう。
現在は、薬局やドラッグストアで薬剤師が不在の際にも一般用の医薬品販売が取り扱える「医薬品登録販売者」の試験合格を目指して勉強しています。「資格があれば、有利なんで」と言う彼女の横顔は、17歳とは思えない、大人の表情でした。
「”施設”よりも”ホーム”」
本来最も安心できる場であるはずの家庭で、一番信頼したいはずの人から身体的・精神的、また性的な虐待を受け、大人への信用も、住む場所も失ってしまった彼女たち。児童養護施設が「学校に通っていること」が入所の条件であるのに対して、自立援助ホームの場合は学校に通っていなくても入所可能ですが、一方で寮費や、大人と同じように税金も納めなければなりません。
「ミモザの家」の定員は6人。現在は3人の入居者がいて、スタッフが交代で寝泊りして生活を支えます。「ホームの中はわりと自由で、夜10時の門限さえしっかり守ってくれたら、あとはあまり多くは口出ししたくない」と中山さん。普段、どんな思いで彼女たちと接しているのでしょうか。
「私もここをスタートして思うのが、家族でもないしきょうだいでもないんだけど、かといって同士でも合宿所でもない。不思議な関係だし、空間だと感じています。ただ”施設”ではないですね。”施設”よりも”ホーム”という表現がしっくりくる場所で、本当の家族ではないんだけど疑似家族というか、そういう安心やあたたかさを感じられる場所、何より『ここにいていいんだ』と感じられる場所にしたい」
「なかったこと」にされてきた子どもたち
「私たちが関わる子やここに来る子は、あったことが『なかったこと』にされている子どもたち」と中山さん。
「性的虐待や家庭の様々な問題…、あの子たちがここに来る理由となった問題が『なかったこと』にされているし、『なかったこと』になっているんですね。Aちゃんの話を聞いたと思います。彼女は父親から性的虐待を受けていたのに、周囲の大人たちによってそれが『なかったこと』にされてしまった。本人が訴えようと思えばできるのかもしれません。でも、まだ10代の若い女の子が実親を訴えるなんて、そんなことは到底できません」
「他の子たちにしてもそうです。みんな何かしらここに来るまでの問題を抱えているけれど、それが『なかったこと』になっている。彼女たちの身に起きた出来事や、それによって傷ついたこと。身内だからこそしっかり向き合って理解して欲しかったのに、本来であれば一番信頼をおけるはずの人たちから知らなかったことにされて、スルーされてしまった。訴えても、逆に『おかしいのはあんたや』と否定されてきた子もいます」
「『自分さえ我慢したら丸くおさまる』と心に蓋をして、被害者であるはずの本人さえ、自分の中でなかったことにしていることも多いです。ずっと仮面を被り、自分を偽り続けないと生きてこられなかった。そんな過去をそれぞれに抱えています」
「『なかったこと』にされてきたのは、彼女たちの身に起きたことだけではありません。彼女たちはその存在すら『なかったこと』にされてきたのです。仲の良い友達がいたのに、家族の事情である日突然、何も告げずに学校や地元を離れなければならなくなった。周囲は進学する中で、自分だけは進学せず働くことになった。彼女たちの存在は周囲にとっても『なかったこと』にされてきた。でも『なかったこと』ではないんですよね。目を向ければ、そこで健気に、一生懸命咲いているんです。存在して、一生懸命に生きているんです」
就職が難しく、
望まず性産業に携わることも
一方で、こうした若い女性が、性的に搾取されやすい立場に置かれやすい現実があります。
「私は青少年補導員や保護司としても活動しているので、しんどい子たちとの出会いは少なくありません。今までどうしてたん?と聞くと、『体目的で居候させてくれる人のところにいた』とか『パパ活でお金を稼いでいた』とサラッと言う子もいます。ある子は『自分みたいにリストカットの跡があったら、キャバクラとかでは雇ってもらえへん。風俗も傷物は嫌がられる』と言いました」と中山さん。
「彼女たちもやりたくてそれを選択してきたわけではないんです。履歴書を書いても学歴や経歴ではじかれてしまい、そこしか頼れる場所がなかった。風俗は『夜の福祉事務所』と揶揄されることもありますが、仕事があり泊まる場所があり、子どもがいれば託児所に預けることもできるし、話を聞いたりカウセリングをしてくれたりして、『そこがあったから生きてこられた』と言った子もいました」
「そのような現実の中で、私たちに何ができるのか。ミモザの家の役割とは何か。まずは安心できる居場所を提供したいと思っています。そしてここを拠点に人と出会い、経験や失敗もたくさんして、知識とお腹を満たしてから、勇者としてここを出て行ってほしい」と中山さんは話します。
「ここはスタートの場所。『最後のとりで』ではない」
「ここに来る子たちの多くは、『もうあんたにはここしかないねんで』と事前にクギを刺されるそうなんです」と中山さん。
「世間的にも、自立援助ホームは社会的養護が必要な子どもたちの”最後のとりで”のようなイメージで語られることが多いです。しかし私は、自立援助ホームは”最後のとりで”ではなく、自立に向けて、世界を広げるための”スタート地点”だと思っています」
「まだ構想段階ですが、ミモザの家にある空き部屋を活用して、ここにいる子どもたちが世界を広げられるような図書館のような部屋を作りたいと思っています。いろんなジャンルの本や資料を置いたり、工房のような場を用意したりして、何か子どもたちの興味や新しい一歩を踏み出すきっかけを作れたらと思っています」
「ドアを開け、新しい一歩を、勇気を持って踏み出していくのは彼女たち自身なので、代わりにやってあげるとか、私たちが決めるということはできません。『自分で決める』ということが難しい環境で育ってきた子が多いですが、一方で『支援が支配になる』ようなことはしたくないと思っています。本人たちが自発的に世界を広げていく、何かそのためのしかけや、背中を後押しするようなものを提供したいと考えています」
「『生きている』を実感できる人生を」
7年前、我が子が通っていた小学校のPTA会長になったことがきっかけで、子どもたちを取り巻く課題に触れたという中山さん。子ども食堂や学習支援、フードバンクと活動が広がっていく中で、「ミモザの家」の母体であるNPO法人「青少年の自立を支える奈良の会」が運営する男子専用の自立援助ホーム「あらんの家」と出会いました。そこで運営委員を務めながら、男子だけではなく女子の自立援助ホームの必要性を感じたといいます。
「女性の貧困を数多く見てきた中で、『子どもの貧困』はすなわち『女性の貧困』だということや、社会の仕組みによってどうしても女性が弱い立場に置かれてしまうということを感じました」
「私自身、自分が親からしてもらえなかったことをよその誰かにしてもらったことで、我が子に対してできるようになったことがたくさんあります。だから、たとえば彼女たちが仕事が終わる時間に雨が降っていていたら、『きっと駅で困ってるんやろうな』と迎えに行ってあげたいし、本当に小さいことですが、できることは極力してあげたいという思いがあります」
「たくさんの若者を見てきた中で、人が生きていくためには”居場所”だけでなく”出番”も必要だと痛感しました。”出番”とはすなわち、その人の役割や責任、社会から必要とされることです。“居場所”と”出番”がワンセットで『生きている』を感じられる。だから、彼女たちも『どうせこういう生まれだから』と闇の中を生きるのではなく、キラキラとカッコよく生きられる“出番”を見つけて欲しい」
「ここにきて明るくなった子も、暗くなった子もいます。今日は明るくても、明日は暗くなることもあります。でもやっぱり、人は一人では生きてはいない。彼女たちが過去の経験を含め、自分を自分で認められるようになるためには、人の力が必要です。彼女たちは人の力で傷ついてきたかもしれないけれど、人の力によって癒され、喜びを得て、希望や夢を見出して新しい旅に出ることができると信じています」
「『しんどいとかかわいそうとか、大変やなといわれたくない。ただ褒めてほしい』と言った子がいました。『かわいそうやな』ということは、彼女たちが経験してきたこと、乗り越えてきたことを否定することになる。過去は過去であったけれども、今の彼女たちががんばっていることや一生懸命な姿を見て、そこを認めたり褒めたりしてあげることが、きっと光が指すことなのかもしれません。そこに光があたるといいなと思っています」
10代の少女たちの新たな旅立ちを応援できるチャリティーキャンペーン
チャリティー専門ファッションブランド「JAMMIN」(京都)は、「ミモザの家」と1週間限定でキャンペーンを実施し、オリジナルのチャリティーアイテムを販売します。「JAMMIN×ミモザの家」コラボアイテムを買うごとに700円がチャリティーされ、就労や就学に向けて、少女たちが一人で生きていくために必要なスキルを身につけるための環境と設備を整えるための資金、具体的にはパソコンやデスク、プリンターなど周辺危機を購入するための資金として活用されます。
JAMMINがデザインしたコラボデザインに描かれているのは、大地に根付いたミモザの花が、雨を降らす雲を突き抜け、太陽に向かってまっすぐに伸びる姿。そこに力強く、確かに咲く彼女たちの存在を『なかったこと』にしない社会と、つらくしんどい経験も、すべてを生きる糧にして、明るい未来を信じて突き進んで欲しいという思いを込めました。
チャリティーアイテムの販売期間は、8月17日~8月23日の1週間。JAMMINホームページから購入できます。JAMMINの特集ページでは、インタビュー全文を掲載中!こちらもあわせてチェックしてみてくださいね。
・家庭の崩壊や虐待を「なかったこと」にせず、前に進める「居場所」と「出番」を〜自立援助ホーム ミモザの家
山本 めぐみ(JAMMIN): JAMMINの企画・ライティングを担当。JAMMINは「チャリティーをもっと身近に!」をテーマに、毎週NPO/NGOとコラボしたオリジナルのデザインTシャツを作って販売し、売り上げの一部をコラボ先団体へとチャリティーしている京都の小さな会社です。2019年11月に創業7年目を迎え、コラボした団体の数は300を超え、チャリティー総額は4,500万円を突破しました!