虐待のニュースが後を絶ちません。最悪な結末になる前に、どこか頼れる先がなかったのか。専門機関の訪問や支援という改まったかたちではなくても、変わったことや家庭内の不穏な動きを、地域の中で見守るようなことはできなかったのでしょうか。さまざまな事情を抱えた家庭を訪問し、家事の手伝いや子どもの保育、送迎、学習支援などをしながら、孤立した親子に寄り添い、見守るNPOがあります。(JAMMIN=山本 めぐみ)

さまざまな背景を抱えた家庭を訪問、家事や保育をサポート

東京都江戸川区から委託を受けて実施している「江戸川区おうち食堂」の様子。「食の支援が必要なご家庭に支援員さんが訪問し、食事を作ります」

東京都内を拠点に活動するNPO法人「バディチーム」は、子育て支援・虐待防止を目的に、家庭訪問型の支援活動を行っています。

「さまざまな事情や背景から子育てが大変な状況にあるご家庭を訪問し、日常生活の家事や保育などをお手伝いしています」と話すのは、団体代表の岡田妙子(おかだ・たえこ)さん。都内のいくつかの自治体から委託を受け、主に3つの訪問支援を行っています。

「一つめが養育支援訪問です。行政を中心に、保健師の家庭訪問や乳幼児健診、あるいは学校や幼稚園でのお子さんの様子から『支援が必要』と判断された家庭を週に1〜2回訪問しています」

お話をお伺いした岡田妙子さん

「二つめが社会的養護下の子どもたちを育てる里親家庭への訪問支援、三つめが困難な状況にあるご家庭を支援員さんが定期的に訪れ、食事を作って提供する食の支援です」

家庭への訪問は、「子育てパートナー」と呼ばれる支援者が多く関わっています。

「学生さんから70代の方まで幅広い年齢で、性別や資格の有無も問わず多くの方が支援に関わってくださっています」

「一市民として寄り添い、見守る」

訪問の様子。「保育支援ではお子さんの好きな遊びで保育をします。その間、お母さんは休んだり家事をされたりしています」

自治体と連携しながら、しかしあくまで「一市民」として家庭を訪問するバディーチーム。その重要性を、岡田さんは次のように話します。

「虐待やネグレクト(育児放棄)などが疑われた時、行政の専門機関の役割としては、課題解決のために『指導する』というふうになりがちです。そうすると家庭側が訪問を拒否したり、受け入れられないということも出てきてしまいます」

「私達の役割は、『地域の一住民』という自治体とはまた異なる立場で、あくまで『寄り添う』こと。指導したり解決を求めたりするのではなく、寄り添いながら見守ることが、孤立したご家庭の心を開き、やがて自ずと解決にもつながっていく部分があると考えています」

しかし一方で、「家庭」というプライベートな空間に入っていくことの難しさもあると岡田さん。

「江戸川区おうち食堂のお料理です。限られた調理器具や食材の中を上手にやりくりしてくれる支援員さん。子どもたちの好き嫌いを把握し、リクエストに応えます。最近はワンプレートの盛り付けが人気です」

「支援が必要でありながら、訪問ができていないご家庭もたくさんあると感じています。中には訪問を拒否されるご家庭もありますが、ヘルパーさんのような感じで『家事をお手伝いします』と言うと、『だったらお願いしようかな』と受け入れてくださるご家庭もあります」

「訪問して掃除や洗濯のサポートをしているうちに少しずつ心を開き、悩みや困りごとを相談してくださるような関係性も生まれていきます。過去には、子どもが一時保護された家庭に対して『バディチームが毎週訪問する』ことを条件に、お子さんが家庭に戻ったケースもありました」

「食の支援でも、子ども食堂がこれだけ盛んになった今でも、中にはやはり子ども食堂にさえたどりつけない家庭があるのが実情です。『来てくれるのを待つ』だけでなく『こちらから訪問する』ことでつながり、開かれていくこともあると考えています」

「定期的な訪問」も大きなポイント

2021年3月に開催したオンラインイベント「生まれる前から始める虐待予防~産前産後の家庭訪問型支援の現場から~」にて、イベントに出演した「子育てパートナー」の皆さん。「支援を始めたきっかけや支援の内容、やりがいなどを発表していただきました」

一回きりや時々ではなく「定期的に訪問する」ことで、家事や保育をサポートするだけでなく、家庭の状況を把握し、孤立を防ぐ役割も果たしていると岡田さんは話します。

「定期的に家庭に入っていると、情報からだけではわからない、実にさまざまなことが見えてきます。冷蔵庫に食べ物があるかどうか、子どもが問題なく成長しているかといったといった安全の確認にもなりますし、愛情表現は上手ではないかもしれないけれど、お母さんが実はお子さんのことをこんなにも愛しているんだなということも見えてきます」

「かなり心配に映る家庭でも、どこかに健康的な習慣や愛情があります。そういったことも含め、定期的に訪問するからこそ、家庭への理解が深まっていきます。そしてそこから、その家庭が本当に必要としていることは何なのか、より良い支援の方向性も見えてきます」

「利用家庭のお子さんから、お手紙や折り紙などをいただくときがあります。お子さんの思いがとても嬉しくて、私たちにとっては宝物です」

「部屋が散乱していたり料理をする習慣がなかったりするようなご家庭でも、私たちが週に1度でも継続して定期的に入ることで、少なくとも深刻な状況には陥らず、現状が維持できるといった効果もあります」

また、定期的な家庭への訪問は、子どもにとっても健康的な大人のモデルになると話します。

「支援を必要としている家庭は、親御さん自身が家庭的なことを知らずに育ってきたケースも少なくありません。訪問して家事をしたり料理をしたりする姿や、一緒に遊んだり勉強したりする姿を見て、子どもたちが『こういうふうにやるんだな』とか『こんな大人もいるんだな』ということを知る機会にもなるのです」

「目に見えてわかりやすい成果や効果はないかもしれません。しかし少しずつ気を許し、心を開いてもらいながら、ご家庭の気持ちや安全を担保しつつ伴走したいと思っています」

支援には「傾聴・受容・共感」が大切

里親家庭支援研修に参加した「子育てパートナー」の皆さん。「里親家庭への訪問にあたり、通常の研修とは別で里親に特化した事前研修を受けていただいています。コロナの関係で現在はオンラインで開催中です」

家庭を訪問する「子育てパートナー」を育成しているバディチーム。さまざまな背景を抱えた家庭を見守り、支援するためのコツはあるのでしょうか。

「研修では、まず『傾聴・受容・共感』が大切だということをお伝えしています。

子育てパートナーさんが指導的になって『こうした方が良い』とか『これじゃダメ』などと意見を言うようになってしまうと、弱っているご家庭にとってそれは重く厳しく、受け止め難いところがあるからです。まずは受け止め、寄り添う態度を示していくことが大切だということを伝えています」

「ご家庭と子育てパートナーさんの相性もあります。それぞれのタイプを見極めながら、過去の経験も生かしつつ、事務局の方で慎重にマッチングしています。あとは、座学の研修を受けて頭では理解をしていたつもりでも、実際現場に行くと思っていたのと全然違うということもあります。コーディネーターが訪問するご家庭だけでなく、パートナーさんとも常々コミュニケーションをとりながら現場を調整しています」

「子育てパートナーさんがそれまで生きてきた価値観で『親としてこれはどうなの?』と感じるような現場も出てくるかもしれません。訪れるご家庭の中には、調理器具が一切ない、食材が一切ない、コンロがなくて食材を温められるのは電子レンジだけという家庭もあります。許容できる範囲であれば親の方針にも寄り添いながら、多様な価値観や状況がある中で、いかに受け入れ、共感できるかが大きなポイントになってきます」

「虐待は、社会の問題」

「江戸川区と一緒に作成した、おうち食堂メニュー集です。昨年度の支援員さんが訪問家庭で調理した料理を、写真付きで掲載しています。支援員さんの工夫やアイデアがいっぱい詰まっています」

「世間では、未だ子どもの家庭環境を『親の責任』『親に原因がある』と批判するような風潮があります」と岡田さんは指摘します。

「しかし家庭の困難の背景には、予期せぬ妊娠や若年での出産、親御さんご自身が家庭や親の愛を知らずに育っていたり、産後うつや精神的な疾患、障害や病気といったことが潜んでいたりするケースも少なくありません。DVやパートナーとの不和、外国籍や経済的な貧困などといった背景もあります」

「こういったことも踏まえ、果たして本当に親の責任なのでしょうか。特に母親は、『こうあるべき』という世間のイメージが強く、苦しんでいる中でも父親より責任が問われるようなところがあると感じています。そこ自体がまず変わって行く必要があると思います」

「私たちが掲げているビジョンは『社会みんなで子育て』です。さまざまな事情から孤立し、身動きがとれずにSOSを発することが難しい家庭もあります。それを果たして『個人の責任』で片づけられるでしょうか」

「これは個人の責任ではなく、社会の課題です。誰かを責めたり批判したりするのではなく、自分たちができることで支援を届けていくことが必要で、そのためにはみんなが自分の得意なことを持ち寄りながら、自然な形で力が発揮されるようなしくみが今後もっと広がっていけばいいなと思います」

「それぞれに、できることがある」

2007年、団体設立当初の写真。「お世話になった会社の一角をお借りして事業をスタートしました。写真はご厚意によりお借りした会議室にて、子育てパートナーの研修をしているところです」

自身の妊娠・出産・子育ての経験から、「虐待は他人事ではない」と活動をスタートした岡田さん。最後に読者の方にメッセージをお願いすると、次のように答えてくださいました。

「何か事件が起きた時、親や行政の専門機関を責めたところで何かが大きく変わるわけではありません。子どもたちのために、それぞれの地域で、一人ひとりがそれぞれにできること、少しでも動けることがあるのではないでしょうか。そう思ってぜひ活動の輪に参加してもらえたら嬉しいです。そしてまた子育てに大変さを感じている方がいたら、無理をせずSOSを発信してください、ということをお伝えしたいです」

団体の活動を応援できるチャリティーキャンペーン

チャリティー専門ファッションブランド「JAMMIN」(京都)は、「バディチーム」と9/20(月)〜9/26(日)の1週間限定でキャンペーンを実施、オリジナルデザインのチャリティーアイテムを販売します。

JAMMINのホームページからチャリティーアイテムを購入すると、1アイテム購入につき700円が「バディチーム」へとチャリティーされ、今後、訪問型の支援を各地に広めていくために、これまでの団体の経験や強みを生かしながら普及啓発を行う活動資金として活用されます。

「JAMMIN×バディチーム」9/20〜9/26の1週間限定販売のコラボアイテム(写真はTシャツ(ホワイト、700円のチャリティー・税込で3500円))。他にもエプロンやパーカー、バッグやキッズTシャツなど販売中

JAMMINがデザインしたコラボデザインには、ある家の窓辺にさまざまなギフトを運んでくる動物たちを描きました。家から出ることが難しかったり、地域から孤立しがちな家庭を訪問し、温かく寄り添う団体の活動を表現しています。

JAMMINの特集ページでは、インタビュー全文を掲載中。こちらもあわせてチェックしてみてくださいね!

貧困や虐待を親のせいにせず、「社会みんなで子育て」をかなえる、家庭訪問型の支援を全国に〜NPO法人バディチーム

山本めぐみ:JAMMINの企画・ライティングを担当。JAMMINは「チャリティーをもっと身近に!」をテーマに、毎週NPO/NGOとコラボしたオリジナルのデザインTシャツを作って販売し、売り上げの一部をコラボ先団体へとチャリティーしている京都の小さな会社です。2014年からコラボした団体の数は360を超え、チャリティー総額は6,000万円を突破しました。

ホームページはこちら
facebookはこちら
twitterはこちら
Instagramはこちら