地震や豪雨などの災害が発生し、避難しなければならなくなった時、ペットと一緒に避難できるのか、避難のために日頃からどんな準備が必要なのか、飼い主の皆さんは考えたことがあるでしょうか。「ペットと防災」の啓発を行う団体に話を聞きました。見えてきたのは、災害時に限らず、普段から飼い主とペットが「揺るぎない信頼関係を築いておく」ことの大切さでした。(JAMMIN=山本 めぐみ)

ペットは「モノ」ではなく「パートナー」

飼い主の皆さん、ペットとの災害に備えていますか?写真は「ペットと防災勉強会・しつけ編」でのひとコマ。飼い主さん以外の人がリードを持ち、人に慣れる練習の様子。「飼い主さん以外にも攻撃的にならずに挨拶できるかな?」

京都を拠点に活動する認定NPO法人「アンビシャス」。「人と動物が共生する社会」を目指し、セラピードッグを育成し、老人介護福祉施設や障がい者施設、ホスピスや医療少年院を訪れてドッグセラピーを届ける活動を続けてきました。また一方で、飼い主とペットが信頼関係を築き上げるセラピードッグ育成の技術を生かし、「ペットと防災」の普及にも力を入れています。

「私たちの調査では、町内で暮らす全世帯の約2割がペットと暮らしており、ペットと暮らす世帯は増えています」と話すのは、「アンビシャス」代表の松岡幸子(まつおか・さちこ)さん(64)。

「しかし一方で、いまだに『犬畜生』『(ペットは)吠える』『汚い』『人を噛んだら困る』などと声をかけられることがあります。飼っている方も『懐かないから』『大声で吠えるから』『引っ越すことになったから』と、都合が悪くなったらまるでモノのようにペットを捨てるということが残念ながら起きています」と指摘します。

京都市内のアンビシャス事務所にて、お話をお伺いした松岡さん(左)と湯浅さん(右)。松岡さんの愛犬の「ケン」「クッキー」「ルゥ」と

「迎え入れたのなら、たとえどんなことがあっても、パートナーとして、飼い主として最期まで責任を持つのは当然のこと」と話すのは、理事の湯浅(ゆあさ)あやのさん(55)。

「年老いた犬を『もう要らない』と捨てたその足で、幼い犬を買いに行くなどという話も聞きますが、もってのほかです。飼い主として『最期まで責任が持てるのか』ということと向き合うのは当然のこと。後先考えず、あまりにも簡単にペットを迎え入れてしまうということが起きてはいないでしょうか」

「ペットは『モノ』ではなく『パートナー』。本当に最期まで面倒を見ることができるのか、何かあってもその仔のいのちを背負うことができるのか、飼い主がしっかり責任を持つ必要があるのではないでしょうか」

いつ、どんな災害が起きるかわからない。
普段から「ココロ、モノ、ワザ」で備えを

ペット用の防災バッグの例。「小さなスーツケースなど持ち運びやすいカバンに、必要なグッズを用意しておきましょう。持病のあるペットには、お薬も予備で用意しておくと安心です」(湯浅さん)

「それは防災においても同じ」と二人。

「いつ何時、どんな災害が起こるかわかりません。その時にペットに対して、果たして『知らなかった』『予期していなかった』で済むのでしょうか。ペットが家族の一員であるのだとしたら、常日頃からもしもの時に備えて置く必要があります」

では、どのような備えが必要なのでしょうか。アンビシャスでは「ココロ、モノ、ワザ」の3つの準備を勧めているといいます。

「『モノ』については、避難時に必要なもの、最低7日分のフードと水、薬、ゴミ袋、ペットシーツ(猫の場合は猫砂も)、排泄用の処理道具などといった生活用品のほか、飼い主さんの連絡先やかかりつけの動物病院、既往歴やワクチンの接種状況などを書いた情報メモをペット用に一つのバッグにまとめておくと良いでしょう」

アンビシャスが発行している「ペットと防災カード」。「飼い主さんの連絡先やペットの写真やデータを記入したカードをケージにつけておくと安心です。ペットと自分が一緒にいる写真も付けておくと誰のペットかわかるのでお勧めです」(湯浅さん)

「『ココロ』については、災害時にペットとどこに、どういったかたちで避難するのか、日頃から家族で話し合っておくようにしましょう。一緒に避難する以外にも、公園などでペットと一緒にテント泊をする、安全に自宅にいることが可能な状況であれば飼い主さんだけ避難し、定期的にペットの様子を見に帰る、あるいは親戚や友人、かかりつけの獣医さんなど信頼できる人に預ける、車中泊をするという選択肢もあります。ペットの性格や避難所の状況などを踏まえ、事前に選択肢を見据えて準備しておくと良いですね」

ペットと暮らしていない世帯への配慮も忘れずに

「ペットを飼っている世帯は全世帯の約2割ほど。残る約8割のペットと暮らしていない世帯への配慮を忘れてはいけません。避難所に避難するのであれば、ルールを守ることが大切」と二人。

「周囲に迷惑をかけないためにも、ケージに入って過ごすことができる、決まった場所でトイレができる、飼い主さんの言うことを聞くといった『ワザ』を、普段から身につけておく必要があります」

地域とも良好な関係を築いておく

「ペット防災グッズには必ず水を準備してください。被災時には水が不足することが多く、トラブルになることもあります。その際、ペット用と大きく書き込んでおくと事前に準備していたペット用のものとアピールできるのでトラブル回避にもなります」(湯浅さん)

さらに、ペットと共生した防災まちづくりのためには、日頃から地域の人たちと良好な関係を築いておくことも大切だと二人は話します。

「地域の避難訓練にペットとともに参加する、それ以外の地域の集まりにも積極的に参加する、またご近所の飼い主さん同士でコミュニティを築いておくなどしておくと、同行避難を想定した際にも周囲からの理解を得やすくなります」

「要は、もし飼い主さんが地域の方たちと良好な関係を築いていて、ペットが吠えたり噛んだりせず、かわいくてご近所さんの間でアイドルであれば、避難した際に『一緒に避難させてあげよう』というふうになりやすいということはイメージしていただけるのではないでしょうか。ペットを守るために、日頃からご近所さんと信用・信頼関係を築くことが大切なのです」

猫は警戒心が強く、犬のようにしつけが難しいという。日頃から逃走防止のために洗濯ネットに入る練習をしたり猫が不安になった時に逃げる場所・いる場所を飼い主さんが把握をしておくと、とっさの時に役に立つ

「その時に問われてくるのが『ワザ』、つまり『しつけ』の部分です。どこかしこでもオシッコやウンチをしてしまう、吠えたりずっと鳴いている、飼い主さん以外の人に噛みつくなどといったふうでは、なかなか他の人たちから受け入れてもらうのは難しいということは、皆さん容易に想像がつくのではないでしょうか」

「2015年の東日本豪雨の際、鬼怒川が氾濫して自宅の屋根に取り残され、ヘリコプターで救出されたご夫婦とワンちゃんの映像を観て、記憶に残っていらっしゃる方もおられると思います。自衛隊の方が救助に来た際、飼い主さんと一緒にワンちゃんも隊員の方にしがみついて救助されましたが、もし吠えたり噛み付いたりしたらどうなっていたでしょうか。『人命救助が優先です』と、その場に置き去りにされてしまう可能性もあったかもしれません」

「普段から『うちの子にはしつけは無理』『自由に生かしてあげたいからしつけしない』というのは、果たして本当に家族の一員であるペットのためになるでしょうか。災害があった時にも、一緒にいられるでしょうか。『他人に迷惑をかけない』ことは、ご自身とペット、家族の生活を守ることにつながるのです」

はぐれてしまった際の備えには、マイクロチップが有効

実際のマイクロチップと注射器、チップを読み取るためのリーダー(リーダーはさまざまな種類があります)

東日本大震災の際、飼い主とはぐれて保護された犬猫のうち、飼い主の元に戻れたのはたった1割程度だったといいます。「はぐれてしまったときを想定すると、マイクロチップの装着が有効」と二人。

「マイクロチップを装着してデータベースに住所や連絡先などの情報を登録しておけば、保護された際に警察署や保健所などでそれを読み取り、無事飼い主の元に帰ってくることができます」

「マイクロチップは動物病院で3〜6,000円ほど(別途情報登録料が必要)で装着できます。自治体にもよりますが、たとえば京都府であれば、京都市獣医師会・京都府獣医師会の助成を受けることができ、情報登録料のみの1,000円ほどしかかかりません。マイクロチップを装着した後、飼い主の情報を記載した申込書を管理している団体に送付して完了です。最近はマイクロチップを装着した状態で犬猫を販売しているペットショップもありますが、飼い主さんがきちんと情報を登録しなければ、装着しただけでは何の意味もありません」

「マイクロチップは磁気なので、MRIなどの検査の際に影響があるといったリスクもあります。それもきちんと知ってもらった上での装着を推奨しています。まずは、かかりつけの獣医さんに相談するのが良いでしょう」

「良い時も悪い時も、
パートナーとしてともに生きる飼い主であってほしい」

アンビシャスの皆さん。「普通救命講習や認知症サポーター講習を受講したりとメンバーもレベルアップしています」(松岡さん)

「いつ、何があってもペットを守れるように」と、「ペットと防災」啓発のために精力的に活動するお二人。二人にとって、ペットはどんな存在かを尋ねました。

「30年以上ペットとともに暮らしてきましたが、彼らがいるおかげで人生が広がり、明るくなりました。豊かな生活を送らせてもらっています。言葉はないけれど、気持ちを一番にわかってくれるパートナー、それがペットだと思います。相手の年齢や職業、身分などに関係なく『その人自身』を見て、無償で、純粋に愛してくれる。それが彼らです」(松岡さん)

「私も同じですね。ペットのおかげで世界が広がり、それまでなかった視点から社会とつながるようになりました。じっと目を見つめて、自分を肯定してくれる存在です。だからこそ、どこでも生き抜ける社会性を身につけること、そしていのちが続く限り、最期まで見守るという責任と覚悟が必要なのではないでしょうか。縁あってパートナーになったのだから、良い時も悪い時も、その仔のパートナーとしてともに生きる飼い主でありたいと思います」(湯浅さん)

「ペットと防災」啓発を応援できるチャリティーキャンペーン

チャリティー専門ファッションブランド「JAMMIN」(京都)は、「アンビシャス 」と1週間限定でキャンペーンを実施し、オリジナルのチャリティーアイテムを販売します。
「JAMMIN×アンビシャス」コラボアイテムを買うごとに700円が団体へとチャリティーされ、「ペットと防災」について一人でも多くの人に知ってもらうため、各地での講演やイベント等に必要な資金として使われます。

「JAMMIN×アンビシャス」11/9~11/15の1週間限定販売のコラボアイテム(写真はパーカー(カラー:杢ホワイト、価格は700円のチャリティー・税込で8400円)。他にもTシャツ(チャリティー・税込3500円)やスウェット、トートバッグやキッズTシャツなど販売中

JAMMINがデザインしたコラボデザインには、部屋でくつろぐ犬や猫たちが、ヘルメットをかぶったり、缶詰や懐中電灯などの防災グッズを確認したりしている愛らしい姿を描きました。ペットが安心して過ごすことができるのは、飼い主がその空間を守っているからこそ。「ペットと防災」について今一度考えよう、というメッセージが込められています。

チャリティーアイテムの販売期間は、11月9日~11月15日の1週間。JAMMINホームページから購入できます。JAMMINの特集ページでは、インタビュー全文を掲載中!こちらもあわせてチェックしてみてくださいね。

「災害が起きた時、あなたはペットを守れますか?」。家族の一員だからこそ、もしもにそなえて「ペットと防災」を考える〜NPO法人アンビシャス

山本 めぐみ(JAMMIN):
JAMMINの企画・ライティングを担当。JAMMINは「チャリティーをもっと身近に!」をテーマに、毎週NPO/NGOとコラボしたオリジナルのデザインTシャツを作って販売し、売り上げの一部をコラボ先団体へとチャリティーしている京都の小さな会社です。2014年からコラボした団体の数は300を超え、チャリティー総額は5,000万円を突破しました。

【JAMMIN】
ホームページはこちら
facebookはこちら
twitterはこちら
Instagramはこちら