野生のイルカと泳ぐ「ドルフィンスイム」を社会的養護下にある子どもたちに届ける活動を25年にわたり行ってきたNPOがあります。より幼い時から子どもたちを支援したいと、家庭的な環境で子どもたちを育てるファミリーホームの運営や、自立に向けての支援を続けてきました。「家族のようなつながりを大切に」。活動への思いを聞きました。(JAMMIN=田中 美奈)

「実家」のような場所を目指して、親と暮らせない子どもたちをサポート

御蔵島のドルフィンスイムでの一枚。「大きなイルカがとっても近くに来て、小学5年生の男の子は思わず潜りました!初めて水面より深く潜れた瞬間でした。彼はこの日を境に、どんどん潜れるようになりました」

神奈川県横須賀市を拠点に活動するNPO法人「CROP.-MINORI(クロップみのり)」。25年間に渡り児童養護施設で暮らす中高生の子どもたちに、東京都御蔵島(みくらじま)で自然を体験し、野生のイルカと泳ぐドルフィンスイムやアートセラピーを届けてきました。

親と暮らすことが難しい0〜18歳の子どもたちを家庭的な環境で養育するファミリーホーム「クロップハウス」の運営、また親を頼ることが難しい子どもたちが社会を出た後、何かあった時に気軽に相談できたり遊びに来たりすることができる実家のような場所になりたいと、児童養護施設退所後の子どもたちの自立支援を行っています。

「施設を出た後、就学したり就職したりと進路はそれぞれですが、多くの子どもたちが実際には頼れる人もなく、社会に出て一人で生きていくことを強いられています」と話すのは、団体代表理事の中山(なかやま)すみ子さん(56)。

「つらいことやしんどいことがあった時、あるいは嬉しいことがあった時、あるいは何もなくても、まるで実家のように、子どもたちがいつでも来ることができ、安心できる場を提供したいという思いから、社会でがんばる子たちとつながり続け、支援しています」

イルカと出会って感じた「ありのままの自分でいいんだ」という感覚を、子どもたちにも

ファミリーホーム「クロップハウス」で、ウッドデッキでキャンドルディナー。「ちょっとした日常の一コマに幸せを感じます」

「親元を離れて暮らす子どもたちの多くが、心に大きな傷を負っています」と中山さん。

家庭で暴力や育児放棄を受け、命の危険すら感じながら生きてきたようなケースも少なくなく、否定され、愛された経験や大切にされた経験が少ない子どもたちにとって、「自分を認めることはすごく難しいこと」といいます。

中山さんはこれまでに接してきた子どもたちから、「自分なんて生きていない方がいい」「自分の存在は無意味だから」という言葉を何度も聞いてきました。

そんな子どもたちに「ありのままの自分を認めるきっかけをつかんでほしい」と、1997年から、御蔵島で野生のイルカと泳ぐドルフィンスイムを届けてきました。

「イルカと目が合った瞬間。イルカは、ありのままの自分を受け入れてくれているように感じます」

「ドルフィンスイムで一度水の中に入ると、イルカが近づいてきて、目を見ながら隣で一緒に泳ぎます。心に傷を負った子どもたちの体の底から、シンプルに『楽しい!』というワクワクした気持ちが沸き上がってきます。その体験が『ありのままの自分でいいんだ』という自己肯定感の土台となっていきます」

「海の中に一度入ると、そこではこうあるべきとかこうしないといけないといった制限が取っ払われて、また自分の年齢や性別、肩書きや障がいなどもすべて関係なく、ただ一人の個、一つのいのちとして存在しているという感覚を持ちやすくなります」

「私も例外ではなく、ドルフィンスイムを体験して『自分は自然の一部』と感じることができました。自然がそのまま全部受け止めてくれる。これは子どもたちにとっても、必ず良いきっかけになるはずだと思ったんです」

学校でもない、施設でもない。御蔵島で過ごす、自由な時間

ファミリーホーム「クロップハウス」で暮らす子どもたちとスタッフの皆さん。お話を聞かせていただいた、写真中央が中山さん、左から4人めが片平さん、右から3人めが阿部さん

団体理事の片平大輔(かたひら・だいすけ)さん(38)は、児童養護施設にいた高校1年生の時から中山さんが実施する御蔵島のプログラムに参加してきました。

「児童養護施設では、一人の職員が何人もの子どもの面倒を見ます。学校でも施設でも団体生活で、『あれはダメ』『これもダメ』と常にルールに縛られ、大人たちにも監視されているような感じがして、生活の中に自由を感じられませんでした」

「でも御蔵島にドルフィンスイムに行くと、大人たちが僕に注意したり叱ったりすることもなく、ただただイルカと泳いで、あとはそれぞれが思い思いに過ごす、自由な時間があったんです。それはとても新鮮だったし、『こんな時間の流れ方があるんだ』と感じました」

御蔵島でのドルフィンスイムの後は、皆で一緒に晩ご飯。ゆったりとした、豊かで温かな時間が流れる

「施設で暮らす子どもたちの多くは、一般の家庭と比べて旅行やお出かけなどの経験が少なくなりがちです。そのことで寂しさを感じている子も少なくありません。だけど夏休みに御蔵島を訪れて、学校に戻ってから、『イルカと泳いだんだ!』と友だちに自慢もできます」

「他の施設の子どもと出会い、交流が生まれ、『自分だけじゃないんだ』と感じられる点も、このプログラムの良い点だと思います」と話すのは、スタッフの阿部(あべ)すみれさん(34)。中山さんたちはこれまでに、のべ500人の子どもたちにドルフィンスイムを届けてきました。

「助けて」を言えないまま必死で生きている子どもたち

「小学4年生からクロップハウスで育った子が、今年20歳になりました。20歳のお誕生日祝いの一コマ。長年クロップをサポートしてくださっている、皆の家族の様な大切な人たちと一緒に」

御蔵島のプログラムに参加する子どもたちに、ただ体験を届けるだけでなく、その後も「つながり続ける」ことを大切にしているというクロップみのり。その理由を尋ねました。

「何かあった時、子どもたちが自分から『助けて』と言うハードルが非常に高いからです。施設を出てからも我慢して我慢して、多くの子どもたちがSOSを出せずに必死で生きています。借金を背負い、お金がなくなってガスや電気が止まっても、それでも助けてと言えず、水道の水でラーメンをふやかしながら生活をしていた子もいます」

片平さんも施設を退所した後、就職したものの仕事がうまくいかず、その時に頼ったのが、御蔵島で出会っていた中山さんだったといいます。

片平さんのようなケースは少なくなく、2011年にファミリーホームをスタートするまでは、中山さんは自宅に行き場のない子どもたちを泊めていました。その人数は、多い時で8人にもなったといいます。

クロップハウスを始める前、中山さんの自宅に集まっていた若者たちと。「かつてはこうやって、自宅の狭いキッチンに肩を並べていました」

「私に助けを求めるくらい、非常事態で大変な状況なんだと思いました。頼ってくれた子どもたちに応えるしかない。大人としてできることをしたい気持ちでした。それでも、直接『助けて』と言われたことはほとんどありません。別の子から『あの子が今困っているらしい』という話を聞いて、本人に連絡をとるということが多かったです」

社会で生きていかなければならないのに、SOSを発信できず追い込まれていく子どもたちを見ているうちに、「もっと幼い時から関わりを持ち、信頼関係を築くことができれば、何かあった時に助けてと言える、本当の意味での自立ができるようになるのではないか」と感じたという中山さん。そこでファミリーホーム「クロップハウス」をスタートしたのです。

子どもたちの豊かな心を育むために

御蔵島で、ホームの子どもたちと一緒に見る夕日

「クロップハウス」では、家庭的な環境で、子どもたち一人ひとりとじっくり時間をかけて向き合うことを大切にしているといいます。

「問題行動などで他の施設をいくつも回った後にここに来たという子もいます。精神的な問題を抱え、通院したり服薬したりしている子も少なくありません。医療機関や学校とも連携をとりながら、最大限のサポートを心がけています」

「少しずつゆっくり関わっていく中で、大人たちや外の世界が、自分を傷つけるために存在しているのではないということを少しずつでも経験していってほしい」と三人。一人ひとりと向き合いながら、絵を描いたり海へ行ったり、地域の行事に参加したりといった時間も大切にしています。

「地域の方たちの温かいサポートにも支えられています。写真は、絵本の読み聞かせに定期的に来てくださっている方と、交流のある地域のおばあさんやお姉さんと」

「それが直接何かの解決につながるとか、目に見えて何か効果があるというものではないかもしれません。しかし子どもたちの心の栄養になってくれると思っています。安心してご飯が食べられて、眠ることができる場所があるだけでなく、子どもたちには文化や芸術、自然に触れて豊かな心を育んでほしい」

「何もかもすべてをひとりでやっていけることが自立ではありません」と中山さん。

「自立とは、孤立することではありません。人とつながりながら、手を取り合って、助け合っていくことができることが自立につながっていく。普通の家庭の子よりもしんどいことも多いかもしれませんが、だからこそ『助けて』が発信できる子を育てていく、その関係性を作っていくことが大切だと思っています」

愛の存在と、その力を信じて。傷ついた子どもたちのそばにいる

「心に深い傷を負った青年が、イルカと出会った瞬間をとらえた一枚です」

「『それぞれの存在は尊い』という思いを持っています」と中山さん。

「それが、たとえどんな状況であっても大切にされていくこと。『児童養護施設の子どもたちにドルフィンスイムを届けています』というと、『イルカと泳ぐよりも、レジャーランドに行った方が良いんじゃないか』と言われることもあります」

「『一緒に遊ぼうよ』。そう言いながら微笑んでいるように見える御蔵島のイルカです」

「でもドルフィンスイムは単なるレクリエーションではないし、ご飯と寝る場所だけあれば、子どもたちが元気に育っていくわけでもありません。わかりやすく成果や効果が目に見えるわけではないかもしれません。しかし愛を感じられることは、一人ひとりにとって非常に大切なことです」

「かたちは見えなくても、成果がでなくても、子どもたちにとって御蔵島で過ごす時間の中に、大切なことがたくさんあります。すごくいろんなものを背負って必死で生きている子どもたちが、自分の力を信じて、楽しくイキイキと過ごせるように。わたしたち大人は寄り添っていきたいと思います」

団体の活動を応援できるチャリティーキャンペーン

チャリティー専門ファッションブランド「JAMMIN」(京都)は8/8〜8/14の1週間限定でクロップみのりとコラボキャンペーンを実施、オリジナルデザインのチャリティーアイテムを販売します。

JAMMINのホームページからチャリティーアイテムを購入すると、1アイテム購入につき700円が団体へとチャリティーされ、クロップみのりを実家のように慕う子どもたちがお盆や正月などに帰省した際、一緒に出かけたり食事をしたり、あるいは生活の立て直しが必要な子どもを支援するための資金として活用されます。

週間限定販売のコラボデザインアイテム。写真はTシャツ(700円のチャリティー・税込で3500円)。他にもバッグやキッズTシャツなど販売中

JAMMINがデザインしたコラボデザインには、人とイルカが並んで、水面の光の方へと向かって泳ぐ姿を描きました。

晴れの日も、雨の日も、どんな時も。ありのままの姿で、すぐそばに安心と自由を感じながら、決して果てることのない、いのちの希望に向かって突き進んでいく様子を表現しています。

JAMMINの特集ページでは、インタビュー全文を掲載中。こちらもあわせてチェックしてみてくださいね!

ありのままのあなたでいいんだよ」。イルカと出会って感じた深い愛を、心に傷を負った子どもたちに届け続ける~NPO法人CROP.-MINORI

「JAMMIN(ジャミン)」は京都発・チャリティー専門ファッションブランド。「チャリティーをもっと身近に!」をテーマに、毎週さまざまな社会課題に取り組む団体と1週間限定でコラボしたデザインアイテムを販売、売り上げの一部(Tシャツ1枚につき700円)をコラボ団体へと寄付しています。創業からコラボした団体の数は400超、チャリティー総額は7,000万円を突破しました。

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