厚労省の調査によると、駅や河川敷など路上で生活する人の数は3,448人(2022年)。いわゆる「路上生活者」の数こそ年々減りつつあるものの、定まった住居を持たず、ネットカフェなどを転々する人たちの数はわかっていません。「支援する・されるという垣根を越えて、携わる人たちが自由に関わる」。名古屋で50年以上にわたり、生活困窮者の支援を行ってきた団体があります。(JAMMIN=山本 めぐみ)

「支援する・される」という垣根を超え、「こうあるべき」という概念も超えてつながる

炊き出し会場の一角を借りて毎週木曜日に開催している「生活・医療相談」の様子

愛知県名古屋市を拠点に、路上生活者や生活に困りごとのある方の支援をしているNPO法人「ささしまサポートセンター」。

1976年に国鉄名古屋駅構内に集まる日雇い労働者におにぎりや味噌汁を配り始めたのが活動のルーツで、1985年には医療面での支援を強化するため、ボランティアの医師らによって「笹島診療所」を設立しました。

2012年にはNPO法人となり、ホームレスへの医療相談を実施しながら、生活保護をはじめとする福祉の制度に適切につなぐ活動にも取り組んできました。

「『路上生活者は家に入る方がいい。そうあるべきである』ということもないし、支援する・されるという垣根もなく、携わる人たちが自由に関わっているのが特徴です」と話すのは、団体理事の松島周平(まつしま・しゅうへい)さん(38)、事務局スタッフの山本茜(やまもと・あかね)さん(40)、石黒好美(いしぐろ・よしみ)さん(43)。

お話を聞かせていただいた、写真右から松島さん、山本さん、石黒さん

「私たちの団体が大切にしていること、『こうあるべき』という考え方を押しつけないこと。一人ひとりに顔と名前があるように、それぞれ生きてきた背景もニーズも異なります。一人ひとりが居場所を感じながら、かつ出番がある場所があれば」と3人。

ささしまサポートセンターの主な活動内容は、「出会う・つながる・続ける」の3つのカテゴリーに分けられます。

「『出会う』は、炊き出しや『アウトリーチ』と呼ばれる巡回相談、また事務所に直接来られる方から、生活や医療に関する相談を受ける活動です。出会った次は『つながる』ことと『続ける』こと。行政の窓口等への同行支援や、アパートなどで一人暮らしする方が孤立しないように集える場所を運営しています」

名古屋で医療相談や同行支援を実施

医療相談を受ける、ささしまサポートセンター理事長であり医師の森亮太さん。「医学部を目指して浪人していた時、医療相談のボランティアで、日雇い労働者の方に”坊主、ありがとな”と励ましてもらったおかげで今の自分があります」

名古屋の繁華街・栄を通る首都高速の高架下で、毎週木曜日に別団体が実施している炊き出しにあわせ、生活医療相談を実施しているささしまサポートセンター。

「このあたりは自動車産業が盛んで、『期間工(期間従業員)』と呼ばれる方が少なくありません。契約を打ち切られ、派遣会社などが用意されたアパートを出て行かざるを得なくなり、次の仕事が見つけられないまま栄にたどりついたという方もいらっしゃいます」

「毎回100〜180人ぐらいの方が集まるので、その場で『ボランティアのドクターがいますよ』『相談があれば声をかけてください』などと声をかけながら、必要な方にはタオルや石鹸などをお渡ししています。気になることや相談がある方は、炊き出しの食事をとった後にブースに立ち寄られます」と松嶋さん。

野宿生活を送る方を訪れ、声をかける「巡回相談」

「相談に乗って、必要な場合は支援につないだり、行政の窓口に同行したりします。医師による医療相談も受けています。症状を聞いて、必要な方には無料低額診療の制度を案内したり、緊急時には救急車を呼ぶこともあります」

そのほかにも、月・金の午前中、水曜の午後には事務所にも相談窓口を設けており、誰でも気軽に訪れることができるようになっています。

「もちろん相談でこられる方もいらっしゃいますが、スタッフや仲間とおしゃべりに来たり、居場所として来られる方が半分くらいですね」

「受け入れてもらえた」感覚が本人の「やりたい」を引き出す力になる

「『体調が悪い』『石けんが欲しい』と言って訪れた方と話しているうちに、生活や仕事の悩みをぽつりぽつりと話していただけるようになることも。時間をかけて信頼関係を築くことを諦めないように心がけています」

「炊き出しの会場ではタオルや石鹸を、巡回や事務所での相談の際には、たくさんあるわけではありませんが、求められれば食べ物もできるだけお渡ししています」と山本さん。

「そうすると、『あげてばかりだと甘える』とか『生活保護をもらっているんだから、その中でやりくりするべきだ』というご批判をいただくこともあります。しかし私たちとしては、『困った時に受け入れてくれる人がいる』『聞き入れてくれる人がいる』とご本人が感じられることが、何より大切だと思っています」

「ちゃんと応えてくれるんだ、ちゃんと自分のことを認めてくれるんだ、そんなやりとりを何回も何回も重ねることで、本当に少しずつですが信頼関係が築かれていくし、それによって、本人の『こうしたい』という生きる意志のようなものが芽生えていくところがあるのではないでしょうか」

「信頼関係が少しずつ築かれていった時に、頼まなくても事務所を掃除してくれたり、壊れていたフェンスを直してくれたり、巡回や炊き出し会場での活動をボランティアで手伝ってくれたり…、『自分ができること』で関わってくださる方がいます。居心地よくいられる住まいや場所を用意すれば、自然とその人自身の『やりたい』が引き出されていくんだと思います」

障がいが理由で路上に出て、本人がそのことに気付いていないケースもある

住まいや仕事に関する相談を受け、区役所の窓口に同行することも。「心身の不調を訴える方には、ボランティアの医師が話を聞きます」

「全国的に路上で暮らす人の数は減少していると言われていますが、一方では障がいをもつ人が路上に取り残され、支援が行き届かなくなっている現状がある」と3人は指摘します。中には障がいがあるために社会にうまくなじめず、しかし本人も周りの人もそれを知らないままに路上に出たり、生活に困窮している人たちも少なくないといいます。

「2014年に私たちの団体も協力・参加して実施した精神保健調査(全日本民医連、2014年11月)では、対象者(114人)の約43パーセントに精神疾患があることが分かりました。また、知的障がいのある人は全体の約20パーセント、知的障がいと精神疾患の両方がある人は全体の18パーセントでした」

身寄りがなく、住む場所を見つけたり一人で暮らしていくことが難しい人たちの日々の生活を支援するため、ささしまサポートセンターは2020年5月より、障がいのある方のグループホーム「規俊荘(きしゅんそう)」もスタートしました。

「入居者の定員は15名。中には医療刑務所などを出た後に身を寄せる場所がないという相談を受けてから入居に至る方もいらっしゃいます。規俊荘でもスタッフがあれこれと指示するのではなく、入居者一人ひとりに安心できる空間を用意して、本人の中に自然と湧き上がってくる気持ちを大切にしています」

「その人らしい生活」を送れるための支援を

「家を失って車上生活をしていたこともあるクレイジー・マイクさん。もとは画家として活躍されていた経験を活かし、現在ではささしまサポートセンターで絵画教室の先生として活躍しています。クラウドファンディングで資金を集めて展覧会をしたこともあります」

「たくさんの方と関わる中で、ご本人が元気になったとか、活動にボランティアとして参加してくれるようになったといったといった美談ばかりではありません。むしろ日々の活動は、そこからは程遠いことのほうが多いかもしれません」と山本さん。

「ほぼ毎日、何かしら事件が起きています。でも、それは果たしてよくないことなのでしょうか。必ずしもそうとはいえないと思うんです。一人ひとりに幸せがあって、その人が幸せで、生きていてよかったとかご飯がおいしいとか、好きなことができる環境にあることが、何より大切なのではないでしょうか」

「それぞれに考え方や温度感も違いますが、『その人らしい生活を送るための支援』であるという点は、私たちの団体に関わる誰もが持っていることではあるかもしれません。どう生きていくか、自分にとっての幸せは何か、その答えを知っているのは本人だけです。それを、こちらがどこまで信じ、待てるかということなのだと思います」

路上から抜け出すことではなく、「つながり続ける」ことが大切

「2年前の大晦日の越冬会場に相談に来てくれた方が、今も定期的に生活医療相談に足を運び、近況報告をしにきてくれています。このような継続的な関係を大切にしていきたいです」

「路上からアパートに入居するところまで支援して、やっとアパートに入れたのに、数ヶ月後には再び野宿をしていた方がいたそうです。あるいは私たちが知らない間にアパートを出て、音信不通になってしまった方も残念ながらいらっしゃいます」と松島さん。

「雨風がしのげて路上よりもずっと良い暮らしだと思うのに、なぜ、アパートを出ていくのか。それを考えた時に、路上には路上のコミュニティーがあって、一緒に寝食を共にはしないまでも、信頼できる仲間がいたんだと気づいたんです。一方でアパートはひとりぼっちで、孤立していたんですよね」

「さらに本人に家族の団らんや一人暮らしの経験がなかったりすると、自炊するとか、アパートでごみを分別して出すとかといったルールもわからなくて、どうしたらいいかわからなくなって逃げてしまうということもあるようでした」

「アパートに入った後もみんなで集まってレクリエーションを楽しんだり、食事をしたりする会を月1回開催するようになりました。また、アパートでの生活を始めた方の訪問も始めました」

アパート生活をしている人などが集まっておしゃべりやゲームを楽しむ「みちくさカフェ」でのひとコマ

「事務所でオセロや将棋をしたり、医療相談では血圧を測ったり市販の薬をお渡ししたり、それが直接何かにつながるということではないかもしれません。でも『居場所がある』ということ、『路上生活者』や『生活保護受給者』としてではなく、『○○さん』とその人の名前で呼ばれて、接してくれることで、そこに温かい居場所を感じられる。誰でもそうですよね」

「もしかしたら私たちもいつ、どんなことで住まいや仕事を失うかわかりません。その時に、『こういう社会だったらきっといいな』とか『こういう社会だったらやりにくさを感じないな』というコミュティづくりをしていきたい。『こういう社会だったらきっといいな』という世界が、名古屋の高架下で繰り広げられているのかもしれませんね」

団体の活動を応援できるチャリティーキャンペーン

チャリティー専門ファッションブランド「JAMMIN」(京都)は8/15〜8/21の1週間限定で「ささしまサポートセンター」とコラボキャンペーンを実施、オリジナルデザインのチャリティーアイテムを販売します。

JAMMINのホームページからチャリティーアイテムを購入すると、1アイテム購入につき700円が団体へとチャリティーされ、団体の活動費として活用されます。

1週間限定販売のコラボデザインアイテム。写真はTシャツ(700円のチャリティー・税込で3500円)。他にもバッグやキッズTシャツなど販売中

JAMMINがデザインしたコラボデザインには、重なり合う年輪を描きました。年輪は、人がそれぞれ生きてきた証。良し悪しでなく、ただ生きてきた歴史を持ち寄って共に在ること、その瞬間こそがすばらしく、価値のあるものだというメッセージを表現しています。

JAMMINの特集ページでは、インタビュー全文を掲載中。こちらもあわせてチェックしてみてくださいね!

生活困窮者に寄り添いながら、一人ひとりの「やりたい」が引き出されていく関係と居場所をつくる〜NPOささしまサポートセンター

「JAMMIN(ジャミン)」は京都発・チャリティー専門ファッションブランド。「チャリティーをもっと身近に!」をテーマに、毎週さまざまな社会課題に取り組む団体と1週間限定でコラボしたデザインアイテムを販売、売り上げの一部(Tシャツ1枚につき700円)をコラボ団体へと寄付しています。創業からコラボした団体の数は400超、チャリティー総額は7,000万円を突破しました。

ホームページはこちら
facebookはこちら
twitterはこちら
Instagramはこちら