ウイルス感染を防ぐために、私たちは3密を避けて、ソーシャルディスタンスを取り、そして「ワクチンを待とう」と言われた。しかし今、豚のウイルス対策は真逆に進もうとしている。(寄稿・岡田千尋=認定NPO法人アニマルライツセンター代表理事)

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” open=”no” style=”default” icon=”plus” anchor=”” class=””]世界中が新型コロナウイルス一色であった中、動物が運動をし、太陽の光を浴び、泥浴びをし、健康を保つ飼育方法である「放牧」の中止を強制させる規定がひそかに決まり、もうすぐ公布されようとしている。放牧養豚で生計を立てる当事者に、なんの事前相談もなく、しかも科学的な根拠もなく、突然、家畜伝染病予防法一部改正法に伴う「飼養衛生管理基準」の見直し案に「大臣指定地域に指定された場合の放牧場、パドック等における舎外飼養の中止を明記」との記述が加わったのだ。現在パブリックコメント中であり、7月1日に公布される予定だ。

2018年の発生から15万8千頭が殺処分された豚熱(豚コレラ)、そして中国や韓国、ベトナムなどすぐそばまで迫っているアフリカ豚熱(アフリカ豚コレラ)に備えたいという目的だ。大臣指定地域には、豚熱に感染した野生イノシシがいる都府県および豚熱ワクチンを打っている地域が指定される見込みであり、24都府県が該当する。その地域の放牧養豚場は放牧ができなくなるのだ。

しかし、屋外で動物を飼育する方法がこれらのウイルスに弱いという科学的な根拠がない。農林水産省もそれは認めるところである。屋内での飼育によって、豚熱の感染が防げるという根拠もまた同じくない。実際、日本の豚熱感染は、ほとんどが屋内飼育の養豚場で発生していたし、この豚熱を収束に向かわせた要因はたった1つ、「ワクチン」だ。抗体が全ての豚で上がりきっていないかもしれないが、それでも過去の豚熱流行もワクチンで収束し、今回も収束しつつある。

私が知る放牧養豚場はすでに他の農場と同じように感染症予防対策をとっている。外柵をつけ、放牧地は外柵の内側5mに設置し電柵をつけている。イノシシと接触することは完全に防がれる。また他の農場と同じようにワクチンを打っている。

それでも農林水産省は、今回の日本での豚熱流行時の調査で上がってきた原因かもしれない推測されたものを全て絶とうとしている。

例えば、鳥類が豚熱やアフリカ豚熱を媒介したという科学的根拠はないにもかかわらず、鳥類が運んだかもしれないという推測に基づいて、屋外では鳥と接触して感染するかもしれないから、放牧のほうがウイルスに接触する機会が多いといえるのではないかと言うのだ。

「かもしれない」と言われればそうかもしれないし違うかもしれない。調査した農場では鳥ではなく人間が運んだかもしれないし、飼料にウイルスが残存していたかもしれない。経路は結局のところ明らかにはなっておらず、鳥類が運んだという確たる証拠もない。こういう状態を、通常「科学的根拠がない」という。

念の為に補足すると、ウイルスを人間が運ぶことや、動物性食品が混ざっている飼料にウイルスが残存することは証明されているが、鳥が運んだという事例は見当たらない。

放牧畜産がウイルスに感染しないと言っているのではなく、リスクは同じなのになぜ放牧だけ制限し、屋内飼育に統一するのか、納得がいかないのだ。議論すらないまま、放牧農家が廃業に追い込まれる可能性がある。科学的な根拠もなく、農家を追い詰めていいものなのだろうか。

アニマルウェルフェアを推進し、大量生産大量消費を改め、エシカルで持続可能な社会を作ろうとしている私達団体や、消費者にとっても、これは岐路である。
希少で、アニマルウェルフェアの高い国産豚肉が消えるだけではない。

結果的に農林水産省が目指しているのは、ウィンドレス豚舎に閉じ込め、消毒、殺菌に頼る薄暗い照明の中で行う畜産である。
そういった、自然から離れ、大地から離れ、太陽から離れる畜産は、ウイルスの温床でもありウイルスを進化させるであろうし、免疫力の弱い動物たちの健康を保つために抗生物質に頼らざるを得ず薬剤耐性菌を生み出していくだろう。

新型コロナウイルスを経た今、畜産においても防疫の考え方を変えるべきときだと私達は思う。

6月11日でパブリックコメントが終わる。
消費者の皆さんの力を貸していただけないだろうか。
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