国内最大級のバイヤー・メディア向け展示会rooms(ルームス)はこのほど、OMO事業(オンラインとオフラインの融合)に本格的に取り組むことを発表した。第一段として、今年9月3~5日に東京・新宿で予定している展示会で、来場できない人向けの「オンライン展示会」を同時に開く。コロナ禍に対応したDX(デジタルトランスフォーメーション)化を進め、本質的なエシカルを訴求していく。エシカル事業部の坂口真生ディレクターにコロナ禍での「エシカルPR戦略」を聞いた。(オルタナS編集長=池田 真隆)
始まりは10ブランド
roomsとは、アッシュ・ペー・フランス(東京・港)が主催するバイヤーやメディア向けの合同展示会だ。これまでは2月と9月の年に2回、国立代々木競技場第一体育館などで開いており、今年で20周年を迎える。毎回、新作をそろえた300~500ブランドが出展し、規模は国内最大級だ。
そんなルームスでエシカルファッションブランドが出展し始めたのが2012年。ただ、当時は「エシカル」とは名乗らず、「地場産業の活性化」をアピールポイントとして紹介しており、出展ブランドも10に満たなかった。
いまでこそ、「エシカル消費」の認知度は約24%(参考:2019年Marketing Reserch Camp調べ)だが、2012年のエシカルの認知度は、わずか13%(参考:デルフィス社内プロジェクトチーム、「デルフィス エシカル・プロジェクト」によるエシカル実態調査)だった。
しかし、作り手や環境に配慮した「物語」を持つエシカルなブランドは、有名なブランドに囲まれたルームスの中でも異彩を放った。バイヤーやメディアからの評価は高く、翌年には、「エシカルエリア」の新設が決まった。
出展ブランドも一気に30に増え、ファッションだけでなく、雑貨やアンティーク、ジュエリーブランドが並んだ。この時、「ライフスタイルとしてのエシカル」を見所として、エシカルエリアをプロデュースしたのが坂口真生氏だ。高校卒業後に渡米すると、ニューヨークで自社音楽レーベルを立ち上げた経歴を持つ人物だ。
当時の取材では、坂口氏は、「エシカルは豊かさを享受した日本社会が次に目指すべき方向。エシカルには、環境課題や貧困格差などを気付かせる力がある」と語っていた。
エシカル検索数は6年で10倍に
その後、社会からの関心の高まりを受け、エシカルは徐々に世の中に浸透していった。日本では、グーグルでエシカルと検索した数は、2010年は4.6万件だったが、2016年には約50万件と10倍に増えた。
ルームスにおいてもエシカルエリアは欠かせない存在になっていった。そして、エシカルをPRする存在として、ルームス自身もエシカルな行動を取るようになる。大量の廃棄物を排出する展示会事業のあり方を見直した。
産業廃棄物処理業者ナカダイと組み、会期中に使用するパンチカーペットのリサイクルを実施。2019年からは会場内で排出される全てのゴミをナカダイが監修し、リサイクル率100%を目指した。
社会問題への意思表示が消費者とのつながりつくる
そんな中で、新型コロナの影響を受ける。外出自粛によることで、小売りへの打撃は大きい。一部の経営者からは、「いまはサステナビリティに取り組む以前に、稼ぐことに専念したいのが本音」という声も聞かれる。
だが、坂口氏は、「ルームスとして考えてきたエシカル戦略に変更はない」と言い切る。「方向性は変えずに、より強化していくだけ」とする。
そこで始めたのが、OMOサービスだ。OMOとは、オフラインとオンラインの融合を意味するもので、この言葉通り、オフラインでの展示会とオンラインでの展示会を同時に開くことに挑む。
9月3~5日に新宿住友ビル三角広場で開く「rooms41」を皮切りに、デジタルトランスフォーメーション化を進めたいと言う。商談もオンライン対応し、rooms41のテーマを、「感じるトレードショー」とした。
従来は、企業価値は株価や売上高、利益などの数値化できる財務情報で測られていたが、災害や有事が相次いで起きる社会では、数値化できない環境や生物、人への対応力も問われている。ESG投資の潮流もそうだ。
坂口氏は、今回のコロナ禍で得た教訓として、「生きるために不要なモノと本当に必要なモノが分かったこと」と述べる。自然環境を含めた社会の中で、そのブランドは持続可能なのか、そして、本当に必要なモノであるのか――消費者の見る目は確実に変わったと強調する。
「モノをどう売るかではなく、社会にどんな意味を持つのか。そのことを示すことが企業価値に直結し、中長期的に見ると消費者との本質的なつながりを生むことになり、ビジネスを成功させるカギだ」と主張する。
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