オランウータンが絶滅の危機に瀕していることをご存知ですか。背景にあるのは生息地である熱帯林の急速な消失です。生息地のひとつ・ボルネオ島では、1999年から2015年のたった16年で10万頭以上がいなくなりました。この100年で80%が減少し、このままいけば遠くない未来に地球から完全に絶滅してしまうといいます。「オランウータンのことを知って」。研究者と元飼育員が、その魅力や現状を発信しています。(JAMMIN=山本めぐみ)

オランウータン研究者や飼育員が集まり、情報交換や魅力を発信

オスのオランウータン。「人間に比べれば無表情に見えるオランウータンですが、じっくり観察すると様々なしぐさや細かな表情が見えます」

「オランウータンの魅力を一人でも多くの人に伝えたい。そして野生のオランウータンが置かれている現状を知ってほしい」。「日本オランウータン・リサーチセンター(通称『おらけん』)」は、オランウータンの研究者と飼育員が集まって2019年に設立したNPO法人です。

「オランウータンは今、絶滅の危機に瀕しています」と話すのは、団体理事であり京都大学宇宙総合学研究ユニット特定助教の田島知之(たじま・ともゆき)さん(37)。

「保全のために野生のオランウータンの研究も非常に大事ですが、日本で実際にオランウータンを見て知ってもらうためには動物園がその窓口となります。飼育員と研究者が連携しながら、オランウータンの魅力や最新の情報を発信しています」

お話をお伺いした黒鳥さん(左)と田島さん(右)

「動物園の生き物たちは、野生から連れてこられた個体が繁殖しているわけなので、野生とまったく切り離して考えることはできません」と話すのは、東京都恩賜上野動物園や多摩動物公園の飼育員として長年にわたり大型類人猿を担当、カリスマ飼育員として活躍した代表の黒鳥英俊(くろとり・ひでとし)さん(69)。

「動物園は特にここ10年ほどで動物福祉に対する意識が高まり、環境エンリッチメントが進みました。以前はお客さんに見てもらうこと、すなわち人が中心のあり方でしたが、それぞれの動物の生態を把握し、彼らを中心にした、彼らのために良い環境・福祉を考えていこうという意識が強くなってきています。ここでの飼育管理や繁殖についても、研究者と飼育員たちが連携して情報交換をしながら活動しています」

一生の多くの時間を木の上で過ごす、穏やかでマイペースな生き物

多摩動物公園で長年暮らしたオランウータンの「ジプシー」。「60歳を超えたジプシーの眼には不思議な魅力がありました」

オランウータンってどんな生き物?以外と知らないオランウータンの生態について伺いました。

「インドネシアのスマトラ島と、インドネシアとマレーシアにまたがるボルネオ島の熱帯林にのみ生息しています。霊長類は基本的に群れを作るのですが、オランウータンは珍しく単独性が強く、1頭で行動することの多い生き物です。木の上で生活し、一生の生活のうちの多くをそこで過ごします。主食は果物や木の葉、シロアリなどの虫も食べます」

授乳中の母子。「オランウータンの子どもは親離れまで7年以上かかります」

「一度出産すると、子が独り立ちするまでの7〜8年間、母親がそばについて面倒をみます。一回の出産で生むのは一頭で、繁殖スピードはきわめて遅い。15歳ぐらいから50歳ぐらいまで産むことができるといわれているので、メス1頭が一生に産む数はだいたい4〜6頭です」

「絶滅の危機に瀕していますが、そこにはこの繁殖スピードも影響しています。一度数が減ってしまうと、子孫を増やすことは非常に難しくなります」

性格はマイペースで穏やか。野生でも動物園の飼育下でもそれぞれに豊かな個性があり、そこが魅力的だと二人は話します。

この100年で80パーセント減少、背景にあるのは、森の破壊

開発が進む森。見渡すかぎり、パーム油の原料となるアブラヤシが広がる。「オランウータンのすみかとなる原生林が切り開かれ、大量のアブラヤシが植えられています」

オランウータンは今、IUCN(国際自然保護連合)が発表している、絶滅のおそれがある野生生物の種のリスト「レッドリスト」で、最も絶滅に近いとされる「近絶滅(絶滅寸前)」に指定されています。

「オランウータンは3種が存在し、数でいうとスマトラ島に1万〜1万5000頭の『スマトラオランウータン』、800頭以下の『タパヌリオランウータン』、ボルネオ島に5万〜6万頭の『ボルネオオランウータン』が生息しています」

「5〜6万頭もいるならまだ大丈夫なのではないかと思われるかもしれませんが、東京ドームの収容人数が5万人ほど。世界にたったそれだけの数しかいないというのは、非常に危機的な状況です」と二人。

木の上で生活するオランウータン。「私たち人間と違い、オランウータンの足は枝を器用に握る事ができます。野生のオランウータンは寝る時も、食べる時も、子育てもいつも安全な木の上で行います。彼らの生活は、常に木とともにあります」

ではなぜ、オランウータンの数が減っているのでしょうか。

「オランウータンが暮らす森が減っているからです。なぜ森が減っているのか。居住地や農地として、人が森林を伐採し、開発してきたからです。あるいは開発の過程で発生した森林火災によってすみかを奪われることもあります。密猟もあります。深刻な問題です」

「私が2009年にオランウータンの研究のために初めてボルネオ島を訪れる直前、第二次世界大戦に出征した祖父からは『鬱蒼としたジャングルだ』と聞かされていたのですが、実際に現地に足を踏み入れてると木は少なく、イメージしていたものとかなり違っていて驚いたことを覚えています」と田島さん。1940年代には生い茂っていた森が、この5〜60年でそれだけ森に人が入り、切りひらかれたことになるのです。

森の破壊は、私たちの暮らしともつながっている

田島さんお気に入りの一枚。「ダナムバレイで撮影した、メスの『リナ』です。娘の『ケイト』が友達と遊んでいる間、木の上で寝そべりながら待っている様子です。オランウータンらしい、のんびりとした平和な光景が私は好きです」

なぜ、森がそれだけ切りひらかれたのでしょうか。

「初期は木材輸出が大きかったと思います。今もですが、天然の木を切って建材として日本を含め、国外に輸出しています。次にゴムです。採取した樹液が天然ゴムの原料となるゴムの木を育て、輸出しています。そして近年、最も勢いを伸ばしているのがオイルパーム(パーム油)の原料となるアブラヤシのプランテーション(大規模農園)の開発です」と田島さん。

私たちが普段口にするチョコレートやポテトチップスなどの原材料で目にする「植物性油脂」とは、まさにパーム油そのもの。酸化や劣化に強く、安価で用途も多彩なため、企業にとっては非常に使い勝手の良い油だといいますが、この油をとるためにもオランウータンの住む森が脅かされています。

「知らなかったという声も多く聞きますが、木材にしてもパーム油にしても、知らずの間に日本は大きな消費国になっています」と田島さん。熱帯林が減少し、オランウータンをはじめ他の生き物たちがすみかを失っていることは、日本で暮らす私たちの生活とも大きく関わっていると指摘します。

「いろいろな観点がありますが、現在でもかなり厳しい状況を、なんとかこれ以上悪化させない方法、ギリギリのバランスを模索していく必要があります」と黒鳥さんは話します。

日本で暮らす私たちと野生とをつなぐ、動物園の役割

多摩動物公園の伝説のオランウータン「ジプシー」との交流を描いた一冊『オランウータンのジプシー』(黒鳥英俊著・2008年・ポプラ社)を手にする本人。「この本を出版した時に、まず本人に進呈しました。本の中に仲間たちの写真がたくさん写っているのがすぐにわかったようで、本をずっと眺めていました」

「たとえばパーム油一つをとっても、日本との関係やオランウータンの暮らす森との関係は知られていません」と二人。

「まずは共通認識として、この現実を知ってほしいと思っています。ただその時に、絶滅しそうだという話だけをしても悲しく暗い話になってしまいます。まずはオランウータンの魅力をたくさんの方に知ってもらってこその保全活動だと考えています」

その時に、動物園はまさにその魅力を伝える大きなきっかけの場になる。動物園の動物たちを「野生からの親善大使」として、動物と一緒に現地の状況をパネル展示するなど、野生と動物園とをつなぐ取り組みが進んでいます。

黒鳥さんお気に入りの一枚。「おばあさんのジプシーと娘のチャッピー、さらに孫娘のミンピーの三世代が写った写真です。オランウータンの子育ては母親だけが行い、ヒトより長い7、8年もの間大切に育てます。この写真はなごやかな気持ちにしてくれ、動物園の中でも親から子へ命がつながっていることがわかります」

しかし一方で、日本の動物園でもオランウータンの数が減りつつあるといいます。

「ここ10年ほどは繁殖に力を入れていますが、この先見られなくなるかもしれません。そんなに簡単には増えないし、かといって海外から新しくオランウータンを入れるのも難しい。どこもかしこも数が減っている中で、さまざまな立場の方と一緒に、いろんな方面にアプローチしながら向き合っていくしかないと思っています」

「この先100年も200年も、オランウータンに会えるように」

笑顔で遊ぶ子どものオランウータン。「100年後、森で同じようにオランウータンが笑っている世界であって欲しいと切に願います。そのためにもまずはオランウータンのことを多くの人に知ってほしいです」

「同じ地球で生きているけれど、きっと人とは見ている世界も時間の流れも違っていて、それでいて人と似ているところもある。オランウータンは親しみを感じる動物です」と二人。団体としての使命を、次のように語ってくださいました。

「オランウータンを研究する人たちが集まってできた団体なので、生態や行動を研究して明らかにすることで、しいては彼らの保全につなげていくことも我々の大きな目的です」

「生態が明らかになれば、オランウータンが暮らす木や森の重要性、その森を保全することの大切さの科学的な根拠を示すことにもつながります。彼らがどういったコミュニティを作っているかがわかれば、ただ森だけを守るのではなく、たとえば地域ごと保全しなければならないとか、そういった道筋も根拠を持って示していくことができる。それも大きな使命だと考えています」

「皆さんにも、ぜひ動物園でオランウータンを見ていただいて、その魅力を五感で感じ取ってもらえたらなと思います。我々は、100年先も200年先もオランウータンに会えるように、これからも研究を続けていきたいと思います」

団体の活動を応援できるチャリティーキャンペーン

2019年、日本モンキーセンターで開催したシンポジウムにて。「日本では情報が少ないスマトラ島の自然と動物に焦点をあて、現地の研究者を招いて講演もしてもらいました」

チャリティー専門ファッションブランド「JAMMIN」(京都)は、オランウータン・リサーチセンターと12/6(月)~12/12(日)の1週間限定でキャンペーンを実施、オリジナルデザインのチャリティーアイテムを販売します。

JAMMINホームページからチャリティーアイテムを購入すると、1アイテム購入につき700円が団体へとチャリティーされ、調査地であるマレーシア・ダナムバレイ保護区での調査活動資金として活用されます。

「JAMMIN×オランウータン・リサーチセンター」12/6〜~12/12の1週間限定販売のコラボアイテム。写真はオーガニックコットンスウェット(700円のチャリティー・税込で7600円)。他にもパーカー、Tシャツ、エプロン、バッグなど販売中

JAMMINがデザインしたコラボデザインには、野生のオランウータンを緻密に描きました。オランウータンの思慮深い眼差し、威厳のある姿をストレートに描くことでその魅力を最大限に表現すると同時に、「オランウータンをよく見て、知ってほしい」という団体の思いを表現しています。

JAMMINの特集ページでは、インタビュー全文を掲載中。こちらもあわせてチェックしてみてくださいね!

「オランウータンを知って」。絶滅の危機にあるオランウータンの魅力と現状を、飼育員と研究者が共に発信〜NPO法人日本オランウータン・リサーチセンター

山本めぐみ:JAMMINの企画・ライティングを担当。JAMMINは「チャリティーをもっと身近に!」をテーマに、毎週NPO/NGOとコラボしたオリジナルのデザインTシャツを作って販売し、売り上げの一部をコラボ先団体へとチャリティーしている京都の小さな会社です。2014年からコラボした団体の数は380を超え、チャリティー総額は6,500万円を突破しました。

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