心臓に何らかの疾患を持って生まれてくる赤ちゃんの数は、およそ100人に1人、1000人に7〜8人といわれています。医療の進化によって先天性の心臓病患者の約95%以上が成人を迎えられるようになった一方で、広く知られていないために先天性の心疾患を持つ当事者は日常生活や人生のさまざまな局面において困難を余儀なくされることがあるといいます。先天性の心疾患を持つ当事者とその家族の会に話を聞きました。(JAMMIN=山本 めぐみ)

活動スタートから60年、心臓病の子どもを取り巻く環境の変化

一般社団法人「全国心臓病の子どもを守る会」は、1963年に結成された心臓病の当事者とその家族のための会です。

「団体設立当時は今のように医療も進んでおらず、心臓手術を受けたくても手術が受けられる病院が限られていたし、保険も適応外で、医療費の助成制度もなく非常にお金もかかりました」と話すのは、団体会長であり心臓病の子を持つ親でもある神永芳子(かみなが・よしこ)さん(62)。

当時は献血制度が日本にまだなかったために、子どもの手術の際に必要となる血液も家族が自分たちで集めなければならない状況でした。「我が子をなんとか助けたい」と心臓病の子を持つお母さんたちが集まったのが会の発端だといいます。

「この頃は手術に必要な血液を集めるために周りの人に声をかけて、良いよと言ってくれたら事前に輸血ができるか調べ、さらに手術の日に輸血のためにその人が仕事を休むとなれば、そのお金や宿泊費などもすべて家族が負担しました。親御さんからするとなかなか大変な時期だったのではないかと思います。献血については団体としても熱心に国への働きかけを行い、今の制度ができました」

2019年、厚労省に出向き社会保障制度の要望を行う。「先天性心臓病児者と家族が安心して暮らせるよう、また必要な人に十分な福祉が行き届くように社会保障制度(医療制度、福祉制度)の改善について毎年要望を続けています」(神永さん)

団体創立から60年近く。制度の改善や医療の進歩に伴って医療の面での課題が減った一方で、新たな課題が生まれていると神永さんは指摘します。

「医療の進歩によって早期に手術ができるようになったことで、成人を迎えられる患者が増えました。しかし完治はなかなか難しく、心臓に疾患を抱えていることには変わりはありません。他の人と同じように体を動かしたり働いたりすることが難しく、日常生活や就労の面で課題があります」

先天性の心臓病とは

心臓の構造

そもそも心臓とはどのような働きをしていて、先天性の心疾患とはどのようなものなのでしょうか。

「心臓はにぎりこぶしぐらいの大きさをした臓器で、右心房・左心房・右心室・左心室の4つの部屋があります。それぞれの部屋が機能することで、きれいな血液を全身に送り、また汚れた血液を回収して体の血液を循環させています」と話すのは、団体理事であり夫が心臓病の中村典子(なかむら・のりこ)さん(52)。

「先天的な心疾患は、たとえばこの4つの部屋が2つや3つしかなかったり、部屋の間にあって血液の逆流を防ぐ『弁膜』という弁が機能していなかったり、あるいは血管の位置が入れ替わっていたり塞がっていたりということがあります」

当事者である伊藤綾さん(いとう・あや)さん(35)は、「両大血管右室起始症(りょうだいけっかんうしつきししょう)」という疾患を持って生まれてきました。

「心臓の両側、血液を受け取る右室と血液を送り出す左室、それぞれから出るはずの血管が、両方とも右室から出ている状態でした。そのために汚れた血液ときれいな血液が混ざって全身に巡ってしまうのです」

「約35年前、生後1年で手術を受け、心臓にトンネルを作って右室から出ている2本の血管のうちの1本を左室から出るようにしました。おかげさまで今は比較的きれいな血を全身にめぐらせることができるようになり、状態も安定しています」

生まれて1年ほどで心臓手術を受けた後、ICUにいた頃の伊藤さん。「外泊を何度かしていましたが、なかなか退院できなくて約1年の入院生活となりました」(伊藤さん)

一方で、この当時新しい取り組みだった心臓外科手術が体に及ぼす影響については、未だわかっていないことも多いといいます。

「ちょうど私の世代、35歳から上の世代は、医療の進歩に伴って少しずつこういった心臓手術が行われ始めた頃でした。良い面もあれば、やはりなにぶん初めてのことなので将来が予測できないというネガティブな面もあります。私が受けた手術は当時かなり画期的な手術だったようで、私は元気に過ごしていますが、のちに後遺症が出るケースがあることがわかり、現在は行われていないようです」

最近では、手術によっては術後しばらく経ってから不整脈が起こる、心臓とは直接関わりのない肝臓や甲状腺など他臓器への影響が出るといったこともわかってきているといいます。

病気が外見からはわからないがゆえの困難

伊藤さんはペースメーカーを入れて14年になるという。「最初は不安でしたが、気をつけること(IHに近づきすぎない、スマホなど磁気が強いものを近づけすぎない、防犯ゲートで立ち止まりすぎないなど。電磁波の波形をペースメーカーが認識すると体の脈があると勘違いして誤作動の危険性がある)を注意すれば、日常生活にほとんど支障はありません」(伊藤さん)

もうひとつ当事者が抱える困難として、病気が外見からはわからないために周りの人が症状を理解することが難しく、日常生活にさまざまな影響が出てくることが挙げられます。

「よく車のエンジンに例えるのですが、生まれつき心疾患を持っている人は積んでいるエンジンが小さい車と似ています。最近は軽自動車も非常に性能が良いですが、たとえば高速道路でぐっと加速した時、エンジンが大きい車と比較するとなかなかパワーが出なかったりしますよね」と神永さん。

神永さんと娘さん。「娘は生後2日目に心臓病とわかりました。『1年生きることができるかどうか』と言われましたが、生後5日目に転院した小児病院で手術ができ、その後半年カテーテルでミルクを注入しながら何とか成長してくれました。写真は娘が1才2ヶ月の時、初めて東京郊外の実家に帰った日のスナップです」(神永さん)

「わかりやすいもう一つの例えが、働きバチです。通常の人は心臓の中に働きバチが4匹いて、例えば2匹が働いている間、残りの2匹は休むことができます。だけどもし働きバチが最初から2匹や3匹しかいなかったら、ハチは皆フル稼働で頑張ることになります。そうすると次の日には疲れすぎて、もう働けなくなってしまうのです」

「私は夫が先天性の心臓病を持っていますが、仕事から帰って来て『疲れた』というときは、ご飯も食べずベッドに直行して寝ています」と中村さん。

「同じ『疲れた』でも、その疲れ度合いが違う。すべてを投げ打って疲れているんだなということは一緒に生活していてとてもよく伝わります。先天性の心臓病の人たちが日常生活を送る上で『他の人より疲れやすい』ということは、共通して言えることだと思います」

就労に難しさも、「体調管理をしながら付き合っていくことが大切」

「心臓病の子どもを守る会」が毎月発行している機関誌『心臓をまもる』。「『心臓をまもる』には当事者やご家族の体験談、子どもたちの作文や絵、本人たちの声、最新の医療・教育講座などが掲載されています。当事者や家族がつながることができる場として1963年より毎月欠かさず発行され、2021年4月には686号を数えます」(神永さん)

周囲が症状を理解するのが難しいのと同時に、「患者自身も無理をしてしまうことがある」と伊藤さんは話します。

「完治とはいわないまでも手術によって元気になってくると、特に思春期の頃だったりすると周りの皆と同じように遊びたい気持ちもあってちょっと無理をしてしまいます」

「私の心臓には人工弁が入っていますが、その影響もあって不整脈が起こり、心臓に電気刺激を与えて脈拍を保つペースメーカーも入れています。だけど見た目ではわからないし、調子が良い時はそこを大きく意識することもありませんでした」

「専門学校を卒業した後、医療職に就いて正社員として働いていました。『周りの皆に負けないように働きたい』『たくさん経験を積み、先輩に追いつきたい』という思いもあって、休日や夜中にも無理をして働き、不整脈が出て短期間でしたが休職して治療に専念することを余儀なくされたことがありました」

「ちょっと体調が悪いな、という時に大事をとって休めばよかったのに、無理をしたせいでかえって休みが長くなり、仕事にも穴を開けてしまいました。その時に『私は皆と同じようには働けないんだ』と悔しい思いもしたし、自己管理できなかったことで周りに迷惑をかけてしまったことを申し訳なく感じました。この時、この病気を持って生まれてきた以上は病気と向き合い、体の声を聞きながら一緒に生きていく必要があると感じました」

「私の場合は医療職だったので周囲の理解も得やすかったですが、外見からは病気であることがわかりにくいですし、一緒に働く中で次第に周囲から期待してもらったり、こちらもそこに応えたかったりして、なかなかバランスを見極めていくのが難しいところがありました。体調と向き合いながら、本人がきちんと自分でセーブしていけるかが重要だと思います」

当事者が集まり、心のうちを話せる場

心臓病を持つ当事者同士が集まって等身大で心のうちを話せる場所を作りたいと、「心臓病の子どもを守る会」は15歳以上の当事者が交流する内部組織「心臓病者友の会(心友会)」も運営してきました。

「職場にもよると思いますが、働いている当事者の仲間からは『病気を上司には伝えていても、実際一緒に働く同僚の人たちには知られていないのでやりづらさを感じている』とか、『体調不良や通院で休まざるを得なかった時に、周囲から“またサボっている”という風に思われて職場に居づらくなってしまう』という話も聞きます。障害者雇用で企業に入っても、見た目では障害がわからないために定時で帰ると周りから良い顔をされず、無理して残業して体調を崩すケースもあるようです」

「元気なときは自分も無理してしまうし、周囲の目もある。当事者である私たちは周りに理解してもらうための努力や十分な自己管理をしていく必要がありますが、同時に社会の皆さんが『こういう人がいるんだな』ということをまずベースとして知ってくださっていたら、双方で歩み寄ることができるのではないかな、と思います」

「成長の過程で、当事者は就労以外にもさまざまな壁にぶつかります。普段なかなか自分と同じような病気の人に出会うことが難しいですが、心友会では同じ病気の人たちが集まるので、等身大の自分でいられます」

「日頃話せない悩みを打ち明けたり悩みを相談したり、最近は参加者の年齢層も少しずつ上がってきているので、例えば『パートナーに心臓病のことを話す?』とか『話すならいつ話す?』といった恋愛の話、結婚や妊娠・出産などの話題も出てくるようになりました。参加者は皆ここで得たことをそれぞれ持ち帰って、自分の生活や人生のヒントにしています」

「あなたの周りにも心臓病の人がいることを知って」

全国交流会で知り合った友人(写真左)と中村さんご夫婦。「2018年の全国交流会の後、夫婦で彼が経営する喫茶店を訪ねました。同じような合併症や酸素濃度で頑張っている仲間が全国にいるんだな、と心強くなれた出会いでした」(中村さん)

最後に、当事者の方たちに対して何ができるのか、読者へのメッセージを伺いました。

「大人になった先天性の心疾患がある患者さんは、全国に50万も60万人もいるとされています。心臓病の人がそのくらい当たり前に世の中にいるのだということを知ってもらえたら」と神永さん。

当事者である伊藤さんも「もしかしたらあなたの周りにも心臓病の人がいるかもしれないよ、と伝えたい」と話します。

「100人に1人という割合は、決して少ない数字ではありません。もしかすると皆さんの職場にも、一人や二人はいるかもしれません。そんな目で見守ってもらえたら嬉しいです」

「私も最初に主人と出会ったときは全くわからなかったし、心臓が悪いと聞いても何がどう悪いのかもわかりませんでした」と中村さん。

「でも、わかりたいという気持ちがありました。それは私と主人の間に恋愛感情があったからかもしれませんが、もし目の前に困っている人がいたら、相手のことをわかろうとしてもらえたら嬉しいです。心臓病に限らないことですが、もし目の前に困っている人がいたら、そばにいる人がやさしさや思いやりを示してくださったらと思います。そうすれば、ハンディキャップのある人も生きやすい社会が広がっていくのではないでしょうか」

団体の活動を応援できるチャリティーキャンペーン

チャリティー専門ファッションブランド「JAMMIN」(京都)は、「心臓病の子どもを守る会」と1週間限定でキャンペーンを実施し、オリジナルのチャリティーアイテムを販売します。

4/19〜4/25の1週間、JAMMINのホームページからチャリティーアイテムを購入すると、1アイテム購入につき700円が「心臓病の子どもを守る会」へとチャリティーされ、先天性心疾患のある当事者の会「心友会」の全国交流会の開催のために活用されます。

「心友会では毎年2泊3日の全国交流会を開催してきました。昨年(2020年)は本来であればオリンピックによる混雑が予想されたので、開催を断念していました。今後の開催については新型コロナウイルスの感染状況を見ながらになりますが、実際に参加することが難しい方が増えることが予想されます。そんな方たちのために、自宅にいながら全国交流会に参加できるように動画配信をしたいと考えており、チャリティーはそのための資金として活用させていただく予定です」(中村さん)

「JAMMIN×心臓病の子どもを守る会」4/19〜4/25の1週間限定販売のコラボアイテム(写真はTシャツ(カラー:グレー、価格は700円のチャリティー・税込3500円)。他にもスウェットやパーカー、トートバッグやキッズTシャツなど販売中

JAMMINがデザインしたコラボデザインには、心臓のかたちをした草花を描きました。

同じ思いを共有できる仲間と触れ合い、励まし合い支え合うことで生まれる希望や勇気、つながりを表現しています。

チャリティーアイテムの販売期間は、4/19〜4/25の1週間。JAMMINホームページから購入できます。

JAMMINの特集ページでは、インタビュー全文を掲載中!こちらもあわせてチェックしてみてくださいね。

見た目ではわからない、先天性の心臓病を持って生まれてきた人のことを知って〜一般社団法人全国心臓病の子どもを守る会

JAMMINの企画・ライティングを担当。JAMMINは「チャリティーをもっと身近に!」をテーマに、毎週NPO/NGOとコラボしたオリジナルのデザインTシャツを作って販売し、売り上げの一部をコラボ先団体へとチャリティーしている京都の小さな会社です。2014年からコラボした団体の数は350を超え、チャリティー総額は5,500万円を突破しました。

【JAMMIN】
ホームページはこちら
facebookはこちら
twitterはこちら
Instagramはこちら