世界で2番目の汚染産業
華やかな印象を持つファッション業界ですが、国連貿易開発会議(UNCTAD)は「世界で2番目の汚染産業」と位置付けています。
UNCTADはファッション業界について、毎年、500万人が暮らすために必要な水を使い、約50万トンものプラスチックでできた合成繊維を海に投棄していると批判しています。
さらに炭素排出量にいたっては、国際航空業界と海運業界を足したものよりも多い量を排出していると報告しています。
特に「ファストファッション」の領域では、シーズンごとに出る新作の半分は一度も着られずに処分されるというデータもあります。
負の影響を受けているのは工場で働く労働者もそうです。象徴的なのは、2013年にバングラデシュの首都ダッカで起きた「ラナ・プラザの悲劇」です。8階建ての商業ビル「ラナ・プラザ」には、バングラデシュの安い人件費を利用して、コストを抑えようと考えた人気ブランドの縫製工場が入っていました。
このビルは8階建てですが、もとは5階建てでした。6~8階は違法に建て増しがされ、この3層にはアパレルブランドの縫製工場が不正に入居していました。ビルには許容人数を超える人が入ったことで、いたるところにヒビが入り、ここで働く労働者たちからビルオーナーに耐震性を強化するように再三の訴えが出されていたといいます。それでも、オーナーは労働者からの訴えを無視、「できるまで帰らせない」などと恫喝したとも報道されています。
労働者をコストとしか見ない経営が、「ラナ・プラザの悲劇」につながります。ビルは崩壊し、死者1127人、負傷者2500人以上を出す大惨事でした。
こうした課題を背景に、人や環境、社会に配慮したファッションとして「エシカルファッション」は注目されだしました。
原動力は「知ってしまったから」
エシカルファッションの発祥はチャリティー文化が根付いた英国です。キャサリン・ハムネットやステラ・マッカートニーらに代表されるようなエシカルファッションブランドが相次いで誕生しました。
日本で紹介されだしたのが2008年ごろ。ファッション誌が英国のエシカルファッションの特集を組みました。この時期に興味を持ち出した一人の高校生がいました。それが、鎌田さんです。
2010年、高校2年生だった鎌田さんは雑誌のモデルとしても活躍していて、大好きなファッションを調べていくうちに、ファッション業界の裏側で起きている環境や労働者への負の影響について知ります。
問題を知ってしまったことで、服の背景の透明化に関心を持つようになった鎌田さんはブログやSNS、登壇したイベントなどで学んだことを発信し始めました。
鎌田さんのTwitterには同世代の女性約7万人のフォロワーがいます。自身の発信力を活かして、服の背景に興味を持つ人を集めて、生産工場を訪問するスタディツアーを開いたり、コットンの種を育てるコミュニティをつくったりと行動を広げました。
今年の7月には、小泉環境相にファッション産業の透明化を求める提案書を提出。水やCO2の排出量など企業が開示するガイドラインを策定するように環境省に提案しました。
提案書の作成は、鎌田さんがプロデューサーを務めるファッション産業の透明化を推進するグローバルキャンペーン「ファッションレボリューション」の日本支部ファッションレボリューションジャパンが中心となって行われました。賛同者には伊勢谷友介さんやマリエさん、ファッションジャーナリストの生駒芳子さんらが付きました。
小泉環境相は提案書に対して、「環境省からトップダウンで押し付けるのではなく、企業の声を聞きながら行動を推進したい」と前向きな反応を示し、意見交換会につながりました。
意見交換会では、参加した9社の担当者がリサイクル技術などサステナビリティの取り組みを3分でプレゼン。その後、どのように開示項目を決めていくべきなのか議論が交わされました。
小泉環境相は、ファッションの透明性については、「できることだけを発信する方法では、国際社会には刺さらない」と指摘。ファッション・パクトに署名している日本企業がいないことを問題視しました。
ファッション・パクトとは、フランスが2019年のG7サミットで、ファッション業界が環境負担減を目指すことを取り決めた協定です。世界にうまくアピールしたこの出来事を例に挙げて、「ジャパンファッション・パクトなる協定を日本が打ち出すことも有効だ」と話しました。
この意見交換会は継続して行う意向を示し、「今の若い世代は消費のあり方が変わってきている。次回はメルカリに加えてエアークローゼットなどのサブスクリプションサービスを展開する企業も交えて話し合いたい」と意欲的でした。
1時間半に及ぶ意見交換会のファシリテーターを無事に務め上げた鎌田さん。「ファッション産業の透明化と循環の仕組みづくりの具体的なアクションを生み出したい」と力を込めます。