「彼らのたくましさ、明るさ、生命力の強さを感じた。彼らのことを『ネガティブで悲惨な人たち』という視点からだけで見てはいけないと気付かされた」――。難民キャンプを訪れたNPOスタッフはこう振り返ります。ロヒンギャ難民が生まれた背景や現状の課題を現地で活動するNPOに聞きました。昨今、ニュースで話題になっているロヒンギャ難民の問題について考えてみませんか。(JAMMIN=山本 めぐみ)
■ロヒンギャ難民が大量に発生した背景
「2017年の8月までのロヒンギャ難民のバングラデシュへの流入は30万人。しかし8月末からは、70万人を超える大量の流入があり、合計の難民数は100万人を超えた。難民の実に4分の3が、8月末から一気に流れ込んだ状態。難民キャンプの整備や支援が追いつかず、課題も発生しつつある」
そう語るのは、認定NPO法人ADRA Japan(アドラ・ジャパン、東京)のスタッフとして、ロヒンギャ難民支援にあたる小出一博(こいで・かずひろ)さん(55)。
そもそも、ロヒンギャ難民とは何なのでしょうか。
「『ロヒンギャ』とは、ミャンマー西部、バングラデシュの国境に近いラカイン州というところに住む少数民族のこと。2017年8月末、ロヒンギャの人たちの中のごく少数の過激派がミャンマーの警察署などを襲撃し、それを口実にミャンマー側が『不穏分子を探す』という名目でロヒンギャの制圧に入り、虐殺やレイプなどが発生した。これが、難民が生まれた背景にある。村は焼き払われ、小さい子どもも容赦なく虐殺された。2017年の8月末からわずか1カ月間で、6千人を超える人たちが虐殺されたと言われている」
■急速に拡大する「100万人の難民コミュニティー」
この事件の後、身の危険を感じたロヒンギャの人たちが大量に国外に逃れました。
「実は、ロヒンギャ難民自体は以前から2、30万人ほど存在した。難民の滞在先であるバングラディシュでは、一部の地域でそういった人たちが季節労働など安い労働力として雇われ、生活をすることができており、UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)もそういった状況を見て、ロヒンギャ難民の人たちが避難した先で生活していけるように後押しをしてきたという背景がある」
「しかし2017年8月末以降、ロヒンギャ難民の数は増える一方で、バングラデシュに流れた難民は100万人にもなる」と小出さん。このままでは、避難先であるバングラデシュのコミュニティーを脅かしかねないといいます。
「たった1年に満たない間に、100万人もの人が新たに住む場所を見つけてそこに定住するということを想像してみてほしい。これは、その地域にもともと住んでいる人たちの立場や利益が脅かされる可能性が高くなるということを表している。バングラデシュ政府はロヒンギャ難民を基本的に受け入れ、サポートする姿勢を示しているが、彼らも自分たちの生活を守る必要がある。難民を受け入れる地域の人たちにとっても、そしてサポートする私たちのような支援団体にとっても、今後どうしていったらいいかというのは大きな課題」
■難民キャンプでは水問題が深刻化
100万人規模のコミュニティーが、ある日を境に突然現れる。難民キャンプ内の整備が急がれる一方で、キャンプの巨大化や長期化に備え、緊急支援だけではない、長期的な支援が必要になってきていると小出さんは言います。
ADRA Japanでは、バングラデシュにある支部と連携しながら、難民の流入が始まった昨年の秋から冬にかけては、緊急援助として生きるために必要な食料や生活用品などの提供をしてきました。
年が明けた2018年からは、キャンプの長期化に備え、雨が降った際の排水を考え土砂崩れに備えたり、道の整備をしたりとキャンプ内の土木環境を整えながら、キャンプマネジメントに従事してきたといいます。
一方で、このところのキャンプ内の一番の課題は水問題、特にトイレの問題だと小出さんは指摘します。
「キャンプに人が増えだした当初、慌てて浅い井戸を掘り簡易的なトイレを作ったために、飲み水の帯水(たいすい)層とトイレのし尿槽が同じ層にあるため、飲料水の汚染が深刻な課題になってきている」
「少ない数であればそう大きな問題にはならないが、今回は難民キャンプに滞在する人たちの数が莫大で、飲料水の汚染は逃れられない問題」
「キャンプ内には水の浄化装置がなく、水は帯水層から汲み上げただけのものを、それぞれの家庭で煮沸して飲んでいる状態。汚染した飲料水が伝染病などのもとになってしまう恐れが出ており、各国のNGO団体が協力し合い、課題解決へ向けて取り組んでいる」
■現地の人たちの衛生啓発も課題
難民キャンプ内の衛生を保ち伝染病などを予防するためには、設備を整えると同時に、ロヒンギャの人たちの衛生習慣を育てることも課題の一つだと小出さん。
「暖かくなり病原菌などが発生しやすくなる夏にむけて、衛生環境を少しでも良くするため、この4月〜6月にかけて、たくさんのNGOが協力し合い、キャンプ内にある数千のトイレを汲み取った」
同時に、移動民族であったためトイレを使う習慣や手洗いの意識が低いロヒンギャの人たちに、いかに衛生習慣を身につけてもらうかが、衛生的で快適なキャンプを作る一つのカギ。『水は煮沸する』『手洗いする』『水を入れるタンクは毎回洗う』といった基本的な衛生習慣を伝えると同時に、彼ら自身の生活の中でトイレをきれいに使用することや、メンテンスの仕方なども伝えている」
「生まれたばかりの大きなキャンプを管理することはチャレンジングだが、無理だと諦めるのではなく、ここでどうするか、どう改善していくかが、私たちの知恵の絞りどころ、腕の見せどころ」と語ります。
■力強く生命力にあふれるロヒンギャの人たち
この4月に、バングラデシュのコックスバザールという地域にある複数のロヒンギャ難民キャンプを訪れた小出さん。現地の様子を、次のように語ってくれました。
「テレビやインターネットのニュースでは、ロヒンギャの人たちが置かれた悲惨な状況ばかりがクローズアップして映し出されているが、キャンプを訪れた時、もっと違った雰囲気を感じた」
「もちろん、つらい立場に置かれた人たちだが、それ以上に、生きようとするエネルギー、活気や熱意に満ち溢れている姿が、とても印象的だった」
「彼らに支援が必要なのはもちろんそうだが、その一方で、自分たちで何かを仕入れて売ったり、キャンプの中をスマホで録画して世界に発信したりする人もいて、彼らのたくましさ、明るさ、生命力の強さを感じた。彼らのことを『ネガティブで悲惨な人たち』というふうな視点からだけで見てはいけないなと気づかされた。彼らが生きようとする中で、その生きる力をどうプラスに変えていけるかが、僕たちに与えられた課題だと思っている」
■ロヒンギャ難民キャンプの衛生環境を保つための活動を応援できるチャリティーキャンペーン
チャリティー専門ファッションブランド「JAMMIN」(京都)は「ADRA Japan」と1週間限定でキャンペーンを実施し、オリジナルのチャリティーアイテムを販売します。
「JAMMIN×ADRA Japan」コラボアイテムを1アイテム買うごとに、700円がチャリティーされ、ADRA Japanがロヒンギャ難民キャンプ内で暮らす人たちに「保健衛生キット(1世帯あたり3,000円)」を配布するための資金になります。
「『保健衛生キット』は、身の回りに必要な洗面器やバケツ、タオル、石鹸など、生活を衛生に保つための一式が入ったキット。世帯によってはこういったものを全く持っておらず、そのために衛生環境がわるくなってしまうことがある。そこを防ぐため、必要な家庭に届けることができれば」(小出さん)
JAMMINがデザインしたコラボアイテムに描かれているのは、サフラン(花言葉は「喜びにあふれる笑顔」)とガーベラ(花言葉は「希望、常に前進」)、コマツナギ(花言葉は「希望をかなえる」)の花。彼らの生きる力をサポートするために、私たちにできることをしよう、という思いを込めました。
チャリティーアイテムの販売期間は、8月13日~8月19日までの1週間。チャリティーアイテムはJAMMINホームページから購入できます。
JAMMINの特集ページでは、ロヒンギャ難民キャンプの様子について、小出さんのより詳しいインタビューを掲載中!あわせてチェックしてくださいね。
・急速に拡大するロヒンギャ難民キャンプ、難民一人ひとりの生活と命を守るために〜NPO法人ADRAJapan
山本 めぐみ(JAMMIN):
JAMMINの企画・ライティングを担当。JAMMINは「チャリティーをもっと身近に!」をテーマに、毎週NPO/NGOとコラボしたオリジナルのデザインTシャツを作って販売し、売り上げの一部をコラボ先団体へとチャリティーしています。2018年3月で、チャリティー累計額が2,000万円を突破しました!
【JAMMIN】
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