プロスノーボーダーであるジェレミー・ジョーンズ氏が、気候変動から冬を守るために2007年にアメリカで立ち上げた団体「Protect Our Winters(通称「POW」)」。そのネットワークは現在、13の国に広がっています。日本では2019年2月、13カ国目として「POW Japan」が設立され、主に長野県白馬エリアを拠点にアクションを起こしています。気候変動によって今、冬の雪山では何が起きているのでしょうか。そして私たちにできることとは。(JAMMIN=山本 めぐみ)

気候変動から冬を守るために活動

2019年、白馬村で気候変動と地域経済をテーマにシンポジウムを開催した際の一枚

一般社団法人「Protect Our Winters Japan」は、2019年2月、気候変動から冬を守る世界的なネットワーク「Protect Oure Winters(以下「POW」)の13カ国目の参加国として、プロスノーボーダーの小松吾郎さんが中心となって活動をスタートしました。

「気候変動やその影響について皆さんいろいろとご存知だと思いますが、世界でも有数の豪雪地帯と言われる日本の雪山も、気候変動の影響を受けて年々雪が減っています」と話すのは、事務局の鈴木瞳(すずき・ひとみ)さん。

「全国的に見ても昨シーズンは、十分に雪が降らないことが原因でオープンできないスキー場やわずかな期間しか営業できなかったスキー場がありました。これはスキーヤー・スノーボーダーにとって滑ることができなくなるという問題だけでなく、スキー場が観光業として大きな収入の柱になっている地域にとっても大きな打撃であり、課題です」

冬の白馬には、良質な雪と様々な地形を求めて世界中からスキーヤー/スノーボーダーが集まる(Photo: Sho Fukaya)

「私たちはこの危機的状況から雪を守るため、スノーコミュニティを中心に、まずは気候変動問題について知ってもらい、解決に向けての行動を呼びかけています。これまでに、例えば地球温暖化の原因となる温室効果ガスの排出削減アクションとして有効な再生可能エネルギーへの切り替えを提案するキャンペーン『Change is POWer』や、中高生を対象とした環境教育プログラム『Hot Planet Cool Athlete』などを実施してきました。同時に、スキー場や自治体の人たちとも協力しながら、より自然に負担をかけない方法や脱炭素化を目指し、持続可能な社会を築いていくための政策提言なども行っています」

「冬を愛する滑り手とともに
アクションを起こしていく」

「気候変動&地域経済シンポジウム」には、プロスキーヤーやプロスノーボーダーとして世界で活躍するPOWのアンバサダーも参加。雪山や自然のことを知り尽くす彼らが気候変動について語る姿はとてもクールだ

「気温上昇は科学的にも証明されていますが、その影響をうけて年々降雪量や積雪量や減っています」と鈴木さんは指摘します。

「スキーやスノーボードといったウィンタースポーツに親しみ、スキー場や雪山に通われる方は、雪が減っていることを肌で感じているのではないでしょうか。特に昨シーズンの冬は、『こんなに雪が降らない冬はなかった』と地元の方たちも口を揃えて言うくらい暖冬・少雪のシーズンで、パウダースノーを楽しめるはずの白馬村の1月2月でも雨が降ることも多くありました」

「スキーやスノーボードを楽しむ私たち滑り手は、雪や自然のおかげで至福の時間を楽しませてもらっています。もしこのまま温暖化が進んでしまったら、今と同じように滑ったりパウダースノーを楽しんだりすることができなくなってしまうという危機感もあります。雪の恩恵を受ける者として、雪山や自然を守りたいと思うのはある意味当然のこと」と鈴木さん。

お話をお伺いした小松さん(左)と鈴木さん(右)

「そのために、私たちに一体何ができるのか。一人ひとりがこの問題を知り、考え、皆で共にアクションを起こしていこうというのが、POWのアイデンティティでもあります。さらにスキー場は観光地として地域の経済を支えているので、『雪が減っている』という変化は観光にも大きな影響を与え、地域の衰退をも招く結果にもつながる可能性があります。雪山は、私たち滑り手にとってはライフスタイルそのものであると同時に、そこに関わる人たちの生活にも大きな恩恵を与えてくれているのです」

「変わらずに滑り続けられる冬を選ぶのも、雪がなく、長く暗い冬を選ぶのも、全ては私たちの行動次第。豊かな自然、未来の子どもたちの世代にも雪を残していきたいという思いで活動しています」

雪は、地域の経済も支えている

2019年2月、スノーボードやスケートボード、サーフィンなどのボードカルチャーとアウトドア、ファッションの展示会「インタースタイル」にて、POW Japanのローンチイベントを開催

「POW Japan」立ち上げの経緯を、当初から団体に携わる事務局の小松由紀子(こまつ・ゆきこ)さんに聞きました。

「滑り手の立場から日本の雪を守りたい、気候変動の問題に取り組みたいと模索していたイギリス人のポールさんという方の呼びかけで、白馬界隈のキーパーソンが集まって話し合いの場が持たれました。そこにプロスノーボーダーであり、環境問題について発信していた小松吾郎(現POW Japan代表理事)も参加していて、POW Japanとして活動していかないかという話をいただいたのがきっかけです」

「皆それぞれ雪が減っていることを身近に感じてはいたけれど、それをあえて共有したり話し合うという機会はありませんでした。POW Japanの活動がスタートし、このムーブメントがじわじわ広がるにつれ、気候変動問題の解決に向かってアクションを起こしていこうという空気がスキーヤー/スノーボーダーの間で少しずつ生まれています」

世界の冬平均気温偏差の経年変化(1892〜2020年・速報値。気象庁ホームページから転載

団体を立ち上げた後、2019年5月には、白馬村で気候変動と地域経済をテーマに、ゲストを招いてシンポジウムを開催しました。

「ゲストの一人、アメリカから来ていただいたルーク・カーティンさんは、コロラド州のヴェールリゾートの環境部門を立ち上げた方で、スキー場の再生可能エネルギーへの切り替えや運営にかかるエネルギーの使用の見直しなどに取り組んできました。それらの取り組みは、運営費用を削減しながら環境負荷を下げることにつながっただけではなく、その取り組みを発信していくことで、スキー場のブランディングにもつながっていったそうです。スキー場運営という目線からの具体的な事例はとても参考になり、私たちが活動をしていく上で大きな軸となっています」

「もう一人、各地で循環する地域経済づくりに取り組む環境ジャーナリストの枝廣淳子さんは、気候変動対策としてのエネルギーの地産地消は地域のブランディングや地域経済を回すことにもつながる、という話をしてくださいました」

「良質なパウダースノー守る」。
白馬で始まっているさまざまな取り組み

「白馬八方尾根スキー場」のアルペンクワッドリフトは、2020年2月よりCO2フリーの電力で年間を通して運行されている

このシンポジウムには長野県知事や白馬村の村長も訪れ、その年の12月には、白馬村に
「気候非常事態宣言」が出されました。

「この宣言では、再生可能エネルギー自給率100%を目指すことや温室効果ガスの排出抑制などが掲げられ、さらに、『白馬の良質なパウダースノーを守る』と宣言されています」と小松さん。白馬にあるスキー場では現在、さまざまな取り組みが行われているといいます。

「スキー場ではリフトや施設内の電気など多くの電力を必要としますが、すでにいくつかのスキー場でその一部の電力が再生可能エネルギーに切り替える、LED照明の導入や3人以上で車に乗って来た場合は優先的にゴンドラの近くに駐車できる『カープール駐車場』を設置するなど、着実に取り組みが進められています」

さらに、官民一体となって気候変動対策に取り組む動きも出てきました。

2019年9月に行われた「グローバル気候マーチ in白馬」。白馬高校の学生を中心に開催されたマーチは白馬村役場をゴールとし、役場では村長に気候非常事態宣言を求める要望書を提出。宣言が出されたのはその3ヶ月後のことだった

「POW Japanも参加する観光地域づくり法人『HAKUBA VALLEY TOURISM(ハクババレーツーリズム、HVT)』内のSDGs委員会では、持続可能な自然環境、社会を目指し、そこで暮らす人々が豊かさを感じ、魅力的な観光地としてあり続けるための取り組みを検討しています」

「さらに昨シーズンは、白馬にあるスキー場のひとつ『HAKUBA VALLEYスキー場』の再生可能エネルギー100%での運営を応援する署名アクションを行い、全国から1万4500件を超える署名が集まりました。この応援署名が間違いなく後押しとなり、少しずつ変化が見えてくるはずです」

「スノーコミュニティーにいる一人ひとりが意思を表明することで、スキー場や自治体が変わっていく。白馬村はそのモデルケースになれるのではないかと思っています。『自分たちの意思表明で、社会に変化をもたらせる』ということを一人ひとりが実感できれば、他のエリアでもこのムーブメントが広がっていくのではないかと期待しています」

「ここから日本全国へ、
ムーブメントを広げていく」

自然の織りなす地形を自由自在に楽しむPOW Japan代表の小松さん(Photo: Tsutomu Endo)

「ただ、これはあくまで白馬の事例」と小松さん。「地域によって特徴は異なるので、それぞれの地域がその個性を生かしながら、持続可能な社会の実現に向けて進んでいけるのが理想。誰も取り残さず、その地域で循環できるかたちを作っていくこと。小さいコミュニティで考えると、実現がぐっと近くになる」と話します。

今後、白馬での経験を糧に、全国各地にムーブメントを広げていきたい、と二人。

「自然の変化に気づいている滑り手たちが気候変動問題について理解し、その解決に向けた選択と行動を起こすこと。それぞれの地域で、ローカルのスキーヤー/スノーボーダーたちが主体的にアクションを起こしていく、そのサポートをしていきたいと考えています」

「POW Japanの事務局、ボランティアスタッフ、アンバサダーは皆、『冬を愛する』という共通点を持っています。そんな仲間が冬を守るために行動を起こしています」(小松さん)

「さらにこうしたスノーコミュニティでのムーブメントが、その他のアウトドアコミュニティにも広がっていくことが、その先のビジョンです。山登りやキャンプ、サーフィンなども、すべて自然の恩恵を受けています。自然を愛し、そこで遊ぶ人たちがアクションを起こせば、それだけ大きなインパクトを社会に与えていくことができる。気候変動は『待ったなし』なので、より多くの人たちとともに行動していく必要があります」

「私は、こんなにも素晴らしい自然からの学びを、昔話にはしたくありません」と小松さん。

「人間が生きてきた中で起きてしまった気候変動という現状は、私たち人間が元に戻すしかないし、私たちならば元に戻せると信じています。そのためにも一緒にアクションをしてくださる方を増やし、美しい地球を取り戻していきたい」

団体の活動を応援できるチャリティーキャンペーン

チャリティー専門ファッションブランド「JAMMIN」(京都)は、「POW Japan」と1週間限定でキャンペーンを実施し、オリジナルのチャリティーアイテムを販売します。
「JAMMIN×POW Japan」コラボアイテムを買うごとに700円が団体へとチャリティーされ、「冬を守る」ムーブメントを、白馬エリアから全国各地のスキーリゾート、そしてスノーアクティビティを楽しむ人たちに広げていくために、各地でイベントや講演等を開催するために必要な資金として使われます。

「JAMMIN×POW Japan」11/2~11/8の1週間限定販売のコラボアイテム(写真はパーカー(カラー:ブラック、価格は700円のチャリティー・税込で8400円))。Tシャツ(チャリティー・税込3500円)やスウェット、トートバッグやキッズTシャツなども販売中

JAMMINがデザインしたコラボデザインには、雄大な雪山の景色、頂上の雪山に刺されたスノーボードとスキー板を描き、気候変動から環境を守り、雪のある豊かな冬と自然を後世へ残していきたいという思いを表現しました。

チャリティーアイテムの販売期間は、11月2日~11月8日の1週間。JAMMINホームページから購入できます。JAMMINの特集ページでは、インタビュー全文を掲載中!こちらもあわせてチェックしてみてくださいね。

スキーヤー/スノーボーダーを中心としたスノーコミュニティ発、気候変動から冬を守る〜一般社団法人Protect Our Winters Japan~

山本 めぐみ(JAMMIN):
JAMMINの企画・ライティングを担当。JAMMINは「チャリティーをもっと身近に!」をテーマに、毎週NPO/NGOとコラボしたオリジナルのデザインTシャツを作って販売し、売り上げの一部をコラボ先団体へとチャリティーしている京都の小さな会社です。2014年からコラボした団体の数は300を超え、チャリティー総額は5,000万円を突破しました。

【JAMMIN】
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