現在、日本には18,000人を超える日常的に医療的なケアが必要な子ども、いわゆる「医療的ケア児」がいるとされています。難病の子どもがいる家庭では、介助や移動の難しさから、家族で出かける機会が少なくなりがちです。「家族での思い出づくりや非日常の時間を楽しんでほしい」と、難病の子どもとその家族を東京旅行に招待、支援する団体があります。(JAMMIN=山本 めぐみ)

難病の子どもとその家族を東京旅行に招待

複数の家族を、同時に東京に招待した日の一枚。「ご家族同士で話は尽きず、笑顔が絶えない一日でした」(津田さん)

東京にある公益社団法人「ア・ドリーム ア・デイIN TOKYO」は、難病の子どもとその家族を東京に招待する活動を行っています。移動から宿泊、観光に至るまでのプランニングや手配だけでなく、東京滞在中はボランティアスタッフが同行し、招待した家族が安全で楽しい時間を過ごせるようにサポートしています。

「ご家族に負担なく、思い切り旅行を楽しみ、満たされた時間を過ごしていただきたい」と話すのは、団体事務局長の津田和泉(つだ・いずみ)さん。2007年の活動開始から、これまでに89家族・92病児、総勢450人(2020年5月現在)ほどを招待してきました。

「病児とそのご家族の東京滞在日数は最長で一週間。滞在中に提供させていただく施設での食事や宿泊費、ご自宅から宿泊施設までの往復旅費交通費、テーマパーク等の入場料・交通費などの費用は団体でサポートします。また、移動に必要な手続きや宿泊先、外出時の案内や移動などもすべてサポートし、お子さんの体調やご家族の希望にあわせ、完全フルオーダーの旅のプランを立てています」

お話をお伺いした津田さん(左から2人目)。招待したご家族と共に訪れたテーマパークにて、ボランティアさんとスケジュールを確認中

「病児の疾患の種類によっては旅行がリスクになることもあるため、招待をお断りするケースも皆無ではありませんが、『どうすれば安心して旅行を楽しんでもらえるか』という視点で小児科医師からなる選考委員会で事前の可否審査を行い、医師たちが移動や東京滞在中の安全面の留意点を細かく話し合ってから招待を決定しています」

医療が進化した一方で、新たに生まれた課題

「人工呼吸管理や胃ろうの造設をしている病児には、家族の24時間のケアが不可欠です。お母さんたちはゆっくり休む時間がありません」(津田さん)

二代目の事務局長を務める津田さん。団体立ち上げのきっかけについて尋ねました。

「初代の事務局長が、日本にまだ少なかった医療的ケア児の支援を思いついたことがきっかけです。国内外の既存の支援組織の調査などを経て、小児科のドクターにも協力してもらい、医療的ケアが不可欠で自力で歩けないお子さんや意思表示ができない子たちに非日常の楽しい経験を届けたいと願って活動をスタートしました」

「医療的ケア児の支援団体が今より少なかった2007年、初代事務局長が福祉車両のドライバー探しやボランティア参加の仕組みをゼロから作り上げました」(津田さん)

「団体を立ち上げた2007年当時、医療の進歩に伴って救える命が増えた一方で、人工呼吸器などの医療器具が24時間必要な子が増え始めていました。そしてその人数は年々増えており、この10年強で、当時の倍近くになる18,000人を超える医療的ケア児がいると推計されています」

「医療的ケア児の日常のケアは、ご家族、主に病児のお母さんが在宅で担っていて、旅行はもとより外出の機会も非常に限られていることがわかりました。きょうだい児(難病の子どもの兄弟姉妹)も親に甘えることを控えていたり、不安な気持ちを抱いていたりすることも少なくなく、旅行という新しい経験をすることで、ご家族全員の『QOL(Quality of Life、生活の質)』を上げようという取り組みが少しずつ注目されるようになった時期でもあります」

事前に家庭を訪問、旅行にあたり徹底した下調べを行う

2007年に第一号の家族を受け入れて以来、たくさんの家族が宿泊してきた株式会社ニチレイの研修センター「スコレ雪ヶ谷」。普段は経管で栄養を摂取している子どもも、旅行中は家族と同じメニューを楽しめるよう、食堂でミキサー食を用意してもらうこともあるのだそう

小児科医師達による審査を経て東京への招待が決まると、旅行前に必ずその家庭の自宅を訪れ、ヒアリングを行うといいます。

「ご家族それぞれの希望を聞きながら、細かく予定を立てていきます。団体名に『ア・ドリーム ア・デイ IN TOKYO』とあるように、たとえば東京ディズニーリゾートやスカイツリー、ジブリ美術館など、東京・首都圏には子どもから大人まで楽しめる魅力的なテーマパークがたくさんあります。無理のないスケジュールで、ご家族の希望が一つでも多くかなう旅程を組むようにしています」

「あるご家族がディズニーランドに行きたいと希望された場合、すでに何度も別のご家族を案内しているので改めて下見をすることはありませんが、初めて行く場所であれば、すべて事前に下見を行います。病児の体調が変化しやすいことを考慮し、大きな負担をかけずに楽しめることを第一に考えています。テーマパークの救護施設や救急時に備えて近隣の医療機関の有無、トイレの場所、ゆっくりランチが楽しめるバリアフリーのレストランなどを事前にすべて調べ、ご家族が快適に過ごせるようプランを立てています」

「事前にご家庭に伺う理由として、ご家族の旅行のご希望を聞くということ以外にも、病児の状況や身体のことについて直接お会いして確認するという重要な意味もあります。お子さんの症状を把握するだけでなく、普段使用している医療器具や車椅子なども詳しく見せていただき、飛行機に持ち込めるかどうかの確認も重要です。旅行中に必要なものがあれば事前に準備していただくなど、準備はご家族と二人三脚で万全に備えるよう意識しています」

「病児本人だけでなく、家族全員をメインゲストとして招待したい」

初めてのきょうだい全員でのディズニーランド。「弟くんはちょっと身長が足りませんでしたが、他のアトラクションをお兄ちゃんたちと一緒に楽しみました」(津田さん)

「多くの病児にとって初めての遠出の旅になるので、不安を感じているご家族も少なくありません」と津田さん。顔を合わせてコミュニケーションとることで、あらかじめ不安や心配事を知っておくことも大切だと話します。また、病児本人だけでなく、その兄弟姉妹である「きょうだい児」への配慮も大事にしているといいます。

「きょうだい児は、お母さんが病児のケアに割く時間が長い分、甘えたい気持ちを抑えてしまったり、一緒に遊びたいタイミングで遊んでもらえなかったりすることもあると思っています。小さなきょうだいが『主役は僕じゃないから』と遠慮している様子を感じたこともあり、ご家庭を訪問する際にきょうだいさんの名前を覚えて行き、名前を呼んで話しかけるようになりました」

「好きなアニメや行ってみたい場所の話をしてちょっと仲良くなって、旅行を想像してパッと嬉しそうな表情を見せてくれると、それだけで私も嬉しいです。病児本人だけにフォーカスするのではなく、自分のことより病児のケアに多くの時間を割いているお母さん、お母さんに甘えたい気持ちを我慢しているかもしれないきょうだいさん、家族と過ごす時間が少なくなりやすいお父さん、ご家族全員をメインゲストとして迎えたい、皆の夢をかなえたいと思っています」

「飛行機での移動」という
大きな壁もサポート

飛行機に乗り込んだ子どもと小児科医師。「病児は機内に設置したストレッチャーに横たわり、ドクターが移動時のお子さんの体勢や医療器具の動きを確認します」(津田さん)

旅行にあたり、大きなハードルとなるのが移動です。中でも「飛行機での移動」は最もハードルが高くなるといいます。

「まず、病児の体調面に関してのハードルです。飛行機は気圧の変化などから体調に影響が出やすくなります。医療的ケア児を旅行に招待する際、飛行機での移動には万が一に備え、東京都立小児総合医療センターの小児科の先生4名が交代で『お助けドクターズ』として同行のボランティアに来てくださっています。現地の空港まで私とドクターがご家族を迎えに行き、東京まで同乗します」

「帰りも同じように、東京から現地の空港まで私とドクターが飛行機に同乗します。都市によりますが、朝一の便で現地の空港に行くか、遠方であれば前日入りすることもあります。何も起こらないのが一番ですが、緊急時に備えてドクターが同行しているだけで、ご家族の不安が和らぎます。ドクター達は『安全な旅のお守り』のような存在かもしれません」

機内の限られたスペースで、ドクターが手際よく医療器具の配置や動作確認を行う。「航空会社のスタッフの方々も、ご家族の快適な旅の強力なサポーターです」(津田さん)

さらに二つめのハードは、病児の搭乗に関する各種の手続きだといいます。

「病児の多くは座位保持ができず横たわった状態で空の旅に挑みますので、そのためストレッチャーを手配する必要があります。ストレッチャーは航空会社が所有しているものを設置していただくことになりますが、使用できる機体かどうかやストレッチャーの空きがあるかどうかを確認しながら、スケジュールを調整する必要があります」

「さらに医療的ケア児は吸引器や人工呼吸器等なにかしらの医療機器を使用しているので、それらのバッテリーが機内に持ち込める仕様かどうかも確認が必要です。医療用酸素ボンベを機内に持ち込む場合は制限もあり、手続きがとても煩雑です」

「航空会社と何十回かのやりとりを経てスムーズに飛行機に乗れる状態になるので、手配に不慣れで飛行機に乗る機会も少ないご家族にとって、このやりとりはとても難しいと聞きます。私たちがこの手続きをご家族に代わってすることで、ご家族の負担はかなり軽減されるのではないかと思っています」

楽しい思い出のために、
「ワンチーム」で挑む

家族の希望を尋ねながら、混雑したテーマパーク内を案内するボランティアスタッフ

さらに、家族の東京滞在中も細やかなサポートが用意されています。緊急時に備えつつ、日中は6〜8名の「おもてなしチーム」ボランティアが同行し、家族の安心・安全な外出をサポートします。

「病児の移動は決して楽ではありません。不慣れで混雑しているテーマパーク内ならばなおさらです。チームリーダーが中心になって役割分担し、混んでいる道を先導する、撮影係が旅の様子を写真で残す、お疲れの様子のおじいちゃんおばあちゃんとのんびりお茶休憩をするなど、抜群のチームワークで一日をサポートしてくださいます。テーマパーク内で、たくさん遊びたい『きょうだい組』と、ゆっくり移動する『病児組』に分かれて動くことも多く、ボランティアの皆さんが『ワンチーム』でおもてなしを担って下さるので心強いです」

ラグビーの試合会場にて、募金の呼びかけに協力する「三菱重工相模原ダイナボアーズ」の選手。「病児の家族がチームの応援に駆けつけ、選手との交流も増えてきました」(津田さん)

「現在、このボランティアさんは企業からお越しになる方が多いです。お仕事で培ったマネジメント力やチームワークの手腕をここでも発揮してくださり、ご家族が安心して旅行を楽しめるよう、リーダーや撮影係など役割を分担しながら対応してくださいます。想定外のことが起きても、ご家族が不安にならないよう臨機応変な対応やさまざまなアイディアで一日のアテンドをやり切ってくださいます。旅行だけでなくボランティアさんとの出会いもまた、ご家族にとって忘れがたい新鮮な体験になるようです」

「活動を通じて、皆が笑顔になれる循環が生まれていると感じています。病児とご家族の夢が私たちの夢になり、それを皆でかなえるため、まさに『ワンチーム』で挑んでいく。たくさんの方が協力してくださって笑顔の循環が生まれていくので、難病と共に生きる子どもたちとそのご家族が、皆の大きなパワーの源になっていると実感します」

難病の子どもとその家族を東京旅行へ招待する活動を応援できる
チャリティーキャンペーン

チャリティー専門ファッションブランド「JAMMIN」(京都)は、「ア・ドリーム ア・デイIN TOKYO」と1週間限定でキャンペーンを実施し、オリジナルのチャリティーアイテムを販売します。「JAMMIN×ア・ドリーム ア・デイIN TOKYO」コラボアイテムを買うごとに700円がチャリティーされ、東京に難病の子どもとその家族を招待し、かけがえのない思い出を届けるための資金として使われます。

「JAMMIN×ア・ドリーム ア・デイIN TOKYO」6/1~6/7の1週間限定販売のコラボアイテム(写真はベーシックTシャツ(カラー:ブルーグリーン、価格は700円のチャリティー・税込で3500円))。アイテムは他にパーカー、トートバッグやキッズTシャツなども販売中

JAMMINがデザインしたコラボアイテムに描かれているのは、「信頼・誠実」という花言葉を持つヘデラの葉。難病のある子どもとその家族、そしてサポートするチームが一丸となり、つながり合って楽しい旅の時間を実現する様子を、一本のリボンで表現しました。ツルで王冠がオマージュされており、「家族それぞれが旅の主役」というメッセージも表現しています。

チャリティーアイテムの販売期間は、6月1日~6月7日の1週間。JAMMINホームページから購入できます。

JAMMINの特集ページでは、インタビュー全文を掲載中!こちらもあわせてチェックしてみてくださいね。

難病の子どもとその家族を東京旅行に招待。かけがえのない夢の時間と、楽しい思い出づくりをサポートする「ワンチーム」〜公益社団法人ア・ドリーム ア・デイ IN TOKYO

山本 めぐみ(JAMMIN):
JAMMINの企画・ライティングを担当。JAMMINは「チャリティーをもっと身近に!」をテーマに、毎週NPO/NGOとコラボしたオリジナルのデザインTシャツを作って販売し、売り上げの一部をコラボ先団体へとチャリティーしている京都の小さな会社です。2019年11月に創業7年目を迎え、コラボした団体の数は300を超え、チャリティー総額は4,500万円を突破しました!

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