今、子どもたちが自由に、思う存分遊べる空間や時間が減っています。塾や習い事に忙しく遊べる時間がなかったり、遊べる場所があっても自由に遊ぶことが許されないこともあります。子どもが思いのままに自分の「やりたい」を追求したり表現したりする世界が、大人の都合によって壊されつつある現実。遊ぶことの大切さを理解し、受け止める大人を増やしたいと活動する団体があります。(JAMMIN=山本 めぐみ)

今、子どもたちの「遊び」が脅かされている

市民がボランティアで運営する遊び場にあるのは、手作りのハンモック。「いろんな工夫で、ふつうの公園を面白くしていくことができます」

「子どもたちがたっぷり時間を使って、日が暮れるまで思う存分遊ぶことが今、どんどん難しくなっており、子どもが遊べない社会になってきています」と話すのは、一般社団法人TOKYO PLAY(とうきょうプレイ)代表理事の嶋村仁志(しまむら・ひとし)さん(54)。

「いろんな面で、子どもたちの遊びが脅かされています。ひとつは、子どもの遊びに対する大人の眼差しです。子どもたちが興味を持って始めた遊びが、大人によって『ダメ』と止められてしまうことが増えています」

「たとえば、子どもが水道の水を出して遊んでいたら、『もったいない』とか、ノコギリとか刃物を持つと『危ない』といって止めてしまう。『何時になったから、これをしなさい』と止めてしまうことも。大人がよかれと思って子どもに介入してしまいます」

お話をお伺いした嶋村さん

さらには、子どもが遊べる遊び場自体も減ってきています。

「かつては空き地があちこちにあって、そこで子どもたちはめいっぱい遊べました。ところが今は空き地も減っているし、今のような季節は外で遊ぶにも熱中症が心配だったり、あるいは騒音を出してはいけない、ボール遊びはしてはいけない、この柵を超えてはいけないなど。至るところに禁止・禁止の張り紙で、遊べる場所が減っています」

「遊ぶことは生まれた時から人間に備わっている本能であり、『いのちのしくみ』」と嶋村さん。

「今、失われつつある『遊びの生態系』を、皆で守っていきたい」と、TOKYO PLAYを立ち上げ、子どもが遊ぶことの大切さを社会に広めるための活動を行っています。

「やりたい」から、子どもたちは自由に遊びをつくりだしていく

「自分たちの遊びの世界は、大人からちょっと離れた場所でつくられます」

「遊びは、自分で『今』を決められる時間」と嶋村さん。一人ひとり、その子の心が赴くまま、「おもしろそう」「やってみたい」という本能にひたすら従い、没頭できること。それが遊ぶことだといいます。

「それは子どもの暮らしの中で、とても大切な時間です。何をするのか、どちらの方向に向かっていくのかを、自分で決められるのが遊び。いつ辞めてもいいし、自分だけがやっていてもいいし、とにかく自分がやりたいようにやらせてくれる時間です」

子どもたちが作り上げた泥団子。「日をかけてひたすら磨く。もちろん、みんな大事にお持ち帰り(笑)」

「だから、ずっと地面をほじくりまわして虫探しをしてもいいし、算数ドリルで問題を解き続けてもいいし。『遊び』というとどうしてもワイルドなイメージが浮かびがちですが、それはどっちでもよくて、大切なのは、時間の流れ方なんです」

「ところが、今の日本の子どもたちが置かれた現状を考えると、『あれ?子どもたちが遊べないぞ』と気づいて。今、日本全国で『遊びの生態系』が壊されつつあり、遊びや遊べる空間が守られていないと、子どもたちは健全に育っていくことは難しいと考えています」

壊れつつある「遊びの生態系」とは

宮城県石巻市でのみちあそび。「子どもたちが来る前に、ますはスタッフ皆でごろん」

壊れつつある「遊びの生態系」とは?嶋村さんに尋ねました。

「イメージするに、街があって自然があって、街中や路地に木の枝だったり石ころだったり葉っぱだったり、落ちているものもたくさんあって、それを遊びに使えるということです。近所の大人たちがそれを見守り、時々怒るおじいちゃんがいたり、おやつをくれるおばちゃんがいたりすること」

「『田舎にいけば自然もいっぱいあるし、それは東京だけの問題では?』と言われることもあるんですけど、僕は最近も仕事で地方を訪れましたが、どうやらそうでもないんです。確かに、地方に行けば自然も遊べる場所もたくさんあるかもしれない。だけど『自然豊かなのに、遊べない』という声を多く聞きます」

「森にはマムシがいる、マダニがいる、スズメバチがいるから危ない、稲刈りした後の田んぼや畑は他の人の土地なのでトラブルになるかもしれない。そんな理由でなかなか外で遊べないようです」

遊ぶことが、生きていく糧になる

TOKYO PLAYが取り組む事業の一つ、「とうきょうご近所みちあそびプロジェクト」。行き交う人がつい足を止め、遊び、言葉を交わしたくなる場を街の中につくっています」

「できれば小さなうちに、失敗をたくさん経験してほしい」と嶋村さん。

「たとえば仕事がうまくいかない、人間関係がうまくかないという時に、その人の中に、本当は育まれていたらよかったはずのものがなかったら、その生きづらさは一体どこに向いていくのか。自分に向かっていくこともあれば、うまくいっている他人に対して向かっていくこともあるのです」

「『特に理由はないけれど、人を殺してみたかった』という若い世代の事件も起きています。因果関係は証明できないけれど、もしかしたら小さい頃に十分に遊べる環境がなかったのかもしれないと思うことがあります」

「棒や刃物を持った子どもに、大人は『危ないから、離しなさい!』といいます。だけど、危なくない状況であれば、そこでやめさせないでほしい。なぜ、何がどう危ないのか、まだ力がない幼いうちに、それを経験していてほしいのです」

何気ないところにもある挑戦。よろけたり、転んだりしながらも挑み続けるそのまなざしは真剣そのもの

「遊ぶことを通じて、周囲との心の通わせ方やストレスを発散する経験も得られたかもしれません。経験するからこそ、物事のしくみやプロセス、人の気持ちがわかるし、『じゃあ、いいこと思いついた!』と、その後の人生が楽しい方に向かっていく、何か指標のようなものにもなっていくと思うんです」

「社会の中で、周りの人たちと仲良く楽しく力を合わせながら、困っている人に優しくできる人になる。僕はそれは、子どもの頃のさまざまな、名前もつかないような遊びの世界から得られるところが大きいと思っているんです」

場所という物理的な面だけでなく、マインドとしても「遊べる」空間を増やしていく

さまざまな大人と一緒に、遊ぶことの大切さを広めるキャンペーン「とうきょうプレイデー」。イベント前、渋谷駅に集合して記念撮影


TOKYO PLAYは、「遊びの生態系」を取り戻すこと、子どもたちがめいっぱい遊べる社会をつくることを目指し、遊びを「つくる」「学ぶ」「伝える」「つながる」の4つの軸で活動しています。

「子どもたちが思いっきり遊べる冒険遊び場のような場所、サービスとしての遊び場は全国にいくつかあるけど、でも子どもたちはずっとその中で遊んでいられるわけではなくて、そこを一歩出たら地域や家に帰っていきますよね」と嶋村さん。

「子どもが思いっきり自由に遊べる場所は大切です。ただ、『わざわざそこへ出かけなければ思いっきり遊べない』という状況は、もしかしたら地域の中から『ここで遊んでいいよ』という場所や『子どもたちが遊んでいる』という風景をどんどん切り離していくことにもつながりかねないのではないかと」

「どこでも自由にのびのびと遊びの世界に没頭できる場所を増やしていくためには、子どもの遊びの本質を理解し、受け止めてくれる大人、そういうマインドを持った人をもっともっと増やしていくことが必要だと感じ、この活動をしています」

道を活かして、長い綱引き。「『だれかたすけてー!』と声をかけられると思わず参加してしまう。遊びをキーワードに、暮らしの中で、大人と子どもがつながるきっかけづくりをサポートします」

「物理的に『遊ぶ場所がある』ということはもちろん、心理的に子どもたちの遊びを『まあいいか』と許容してくれる大人を増やすことで、『playable(遊べる)』な空間づくりをしていきたいと思っています」

TOKYO PLAYが取り組んでいるプロジェクトの一つ「とうきょうご近所みちあそび」は、地域の商店街などに遊びの空間を設け、多世代がつながりながら遊びを融合していくような機会となっています。

今年も10月に開催する「とうきょうプレイデー」は、世代や職業を超え、さまざまな人たちが共に遊びに触れ、その大切さを考えるきっかけにしたいと2012年より開催している一大イベントです。

子どもたちと同じ、「遊びのレンズ」で世界を見てみよう

香港での遊び場づくり。「遊び場の名前は『1/2 Playground』。遊び場の残りの半分を完成させるのは子どもたち!という思いが込められています」

嶋村さんに、一番伝えたいことを尋ねました。

「遊ぶことは誰にも備わっている、神さまがいるかどうかはわからないけれど、すべての子どもに神さまが『大丈夫なように』って与えてくれている、『いのちのしくみ』です。人間に本能として、生まれた時から備わっているものなんです。その『いのちのしくみ』だけは、大人たちで力を合わせて守ろうよ、皆で守ろうよ、そう伝えたいかな」

「遊ぶことは皆のもの、誰のいのちにも備わっているものだから、親の意識次第で子どもが遊べるか遊べないかが決まってほしくないと思っているし、まずは一番近くにいる大人が『みんな!遊んでいいんだよ』と子どもたちに言えるかどうか。何はなくとも遊べるじゃん、というところでの『遊び心』が、大人にも求められているのかなと思います」

「僕らが実施しているプレイワーク研修で、『遊びのレンズ』の話をします。一人の子を見る時、学校の先生は『教育』というレンズで見るし、お医者さんは『医学』というレンズで見るし、親は『生活』というレンズでその子を見ると思うんですね。同じ子でも、レンズが変わると見え方は変わり、そうすると、その子への声のかけ方も変わります」

「子どもが何かをしでかした時、『ダメでしょ』とか『人様に迷惑がかかるでしょ』という大人がいる一方で、『遊びのレンズ』でその子を見て、『やっべー!それ、おもしろいな!』と言ってくれる大人が増えていったら…、また変わってくると思うんです」

「子どもは常に、濁りのない遊びのレンズで世界を見つめています。だって遊びは『いのちのしくみ』であって、子どもは『いのちのかたまり』だから。だから大人の皆さんにも、皆さんも幼い時にきっと持っていた『遊びのレンズ』を、時には懐から取り出して、同じレンズで世界を見ていただけたら嬉しいし、きっと楽しいのではないかと思います」

団体の活動を応援できるチャリティーキャンペーン

チャリティー専門ファッションブランド「JAMMIN」(京都)は8/22〜8/28の1週間限定でTOKYO PLAYとコラボキャンペーンを実施、オリジナルデザインのチャリティーアイテムを販売します。

JAMMINのホームページからチャリティーアイテムを購入すると、1アイテム購入につき700円が団体へとチャリティーされ、失われつつある「遊びの生態系」を取り戻していくための活動費、10月に開催する「とうきょうプレイデー」の運営費として活用されます。

1週間限定販売のコラボデザインアイテム。写真はTシャツ(700円のチャリティー・税込で3500円)。他にもバッグやキッズTシャツなど販売中

JAMMINがデザインしたコラボデザインには、「遊びのレンズ」から広がる無限の世界を描きました。子どもたちの「やってみたい」という気持ちが止められたり奪われたりすることなく、遊ぶことで広がっていく世界への理解者や仲間がたくさんいる、楽しい社会を表現しています。

JAMMINの特集ページでは、インタビュー全文を掲載中。こちらもあわせてチェックしてみてくださいね。

壊れつつある「遊びの生態系」。大人を巻き込みながら、子どもたちの「いのちのしくみ」である「遊ぶこと」を守る〜一般社団法人TOKYO PLAY

「JAMMIN(ジャミン)」は京都発・チャリティー専門ファッションブランド。「チャリティーをもっと身近に!」をテーマに、毎週さまざまな社会課題に取り組む団体と1週間限定でコラボしたデザインアイテムを販売、売り上げの一部(Tシャツ1枚につき700円)をコラボ団体へと寄付しています。創業からコラボした団体の数は400超、チャリティー総額は7,000万円を突破しました。

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