日本で暮らす在日外国人の数は373万人超(総在留外国人数+超過滞在者数、2019年)。日本で生活している外国の人を見ることは珍しくなくなってきました。
あなたの街にも、外国にルーツを持つ人たちが暮らしているのではないでしょうか。しかし移民や難民の中には生きるために必要最低限の保障が受けられず、困難な暮らしを余儀なくされている人も少なくありません。「すでに共に生きている」。彼らの権利のために活動するNPOに話を聞きました。(JAMMIN=山本 めぐみ)

日本で暮らす移民・難民、移民ルーツの人たちの人権のために活動

移住労働者の権利を訴える人たち

NPO法人「移住者と連帯する全国ネットワーク、以下『移住連』」は、移民・難民、移民ルーツをもつ人びとの権利と尊厳が保障され、誰もが安心して自分らしく生きられる社会の実現を目指して活動する全国ネットワーク組織です。

「主に法制度の確立・改善のために活動しています。移民・難民や移民ルーツをもつ人たちを現場で支援する団体や、この問題に関心を持ってくださっている個人の方たちをつなぐ全国ネットワーク組織で、現在は100の団体・500人ほどの個人の方が参加してくださっています」と話すのは、事務局次長の安藤真起子(あんどう・まきこ)さん(46)。

お話をお伺いした安藤真起子さん

「移住連は1997年に『移住労働者と連帯する全国ネットワーク』として発足し、2015年に『NPO法人 移住者と連帯する全国ネットワーク』として設立されました。それまではそれぞれの団体が現場で支援活動を行っていましたが、各地で移民の方たちが繰り返し同じような問題に遭遇する中で、課題の共有と制度や法的な枠組み自体が変わらないと問題は解決しないという認識が生まれ、会員につながるネットワークを通して課題を集約し、政府と交渉をする組織として移住連が立ち上げられたのです」

「現在はネットワーク形成と法制度改革のための取組み、また市民社会への発信をメインに活動しています。入管法に関することはもちろん、医療や労働、女性や子ども・若者をめぐる課題など、全国の支援者や支援団体から挙げられてきたさまざまな課題について、プロジェクトチームごとに分析・検討し、国への要望書の提出、国会議員への要請や関係省庁の担当者との協議といった活動を行っています」

日本で暮らす移民・難民を取り巻く課題

毎年2日間をかけて議員会館で開催される省庁交渉の様子。「労働、技能実習、医療・福祉・社会保障、人種差別・ヘイトスピーチ、教育・進路保障、入管収容・難民をめぐる課題、移民女性の抱える課題、貧困の問題などのテーマごとに関係省庁の担当者を招き、協議を行っています」(安藤さん)

日本で暮らす移民・難民の人たちはどのような課題を抱えているのでしょうか。

「『移民』や『難民』と呼ばれる人たちがなぜ日本へやってくるのか、その理由や背景は人によってさまざまです」と安藤さん。

「本国の経済状況が悪いため仕事がない、政情不安で安心した生活を送ることが難しい、日本に家族がいる、などの理由で日本にやってくる人もいれば、紛争や政治的迫害から逃れて来日する難民もいます。そして、日本で合法的に滞在するためには『在留資格』が必要になります。これは『(一定期間)日本に在留してもいいよ』という国からのお墨付きですが、これを持っていれば日本国籍を持つ人と同じようにすべての権利が与えられるかというと、そうではありません」

「参政権は日本国籍者以外には認められていませんし、また社会保障制度や健康保険のなども在留資格の種類によって適用の状況は変わってきます。また、中には在留資格を持たずに日本で暮らしている人たちがいます。私たちは『非正規滞在者』あるいは『非正規移民』と呼んでいますが、こういった人たちは就労も認められないばかりか、生きる上で必要最低限の保障も受けることができません」

移住労働者の生活と権利のための3月行動「マーチ・イン・マーチ」にて、プラカードを掲げるデモの参加者たち

なぜ、「非正規滞在者」と呼ばれる人たちは在留資格を持たないのでしょうか。

「一概に『在留資格を持っていない』といっても、その背景もまたさまざまです。観光ビザで入国し、そのビザの有効期間が切れた後も在留し続け、働いている人。中長期日本に在留できる在留資格を持っていたけれども、何らかの事情によって更新ができず在留資格を失ってしまった人。20年も30年も日本で働き、生活し、家庭を持ち、地域社会になじんできた人たちもいます」

「あるいは、難民。昨年の日本の難民認定率はたったの0.4%で、残る99.6%の方は難民認定が認められませんでした。難民認定が認められなければ在留資格は与えられず、非正規滞在となってしまいます。また、本国を逃れて難民として日本にやってきたのに、空港で上陸拒否をされてそのまま入管施設に収容されてしまう人、オーバーステイとなっている状態から難民申請した人なども非正規滞在となってしまいます」

技能実習生として来日、
妊娠、出産時に支援を受けられないケースも

安藤さんが技能実習生のシェルターを訪問した際の一枚。夕食に使う野菜をみんなで畑に採りに行き、共に食卓を囲んだ

近年よく耳にする「技能実習制度」にも、多くの課題があると安藤さん。「制度を通して来日する技能実習生たちは使い勝手のよい『労働力』として用いられ、人間として当たり前の権利を制限されがちな状況にある」と現状を指摘します。

「たとえば、妊娠や出産の権利です。妊娠したことを会社側に告げたら、中絶するか子どもを産むために国に帰るかという選択を迫られたケース、また、(異性との)恋愛を禁止した契約書にサインをさせられたというケースもありました。昨年は、生まれた子どもを捨てた技能実習生が逮捕されるという事件も発生しています」

「技能実習生は、人手が不足している産業を中心に『安い労働力』として使われています。これまで私たちが見てきたところでは、時給300円ほどで働かせられているようなケースも少なくありませんでした。技能実習生たちは決まった制度の中で『労働力』として日本に招かれているので、勝手に職種を変えたりすることもできません」

「国際移住者デー2019」の様子。故郷の歌を披露する南米出身の労働組合のメンバーたち

「たとえば技能実習生のカップルに子どもが生まれて、どちらかが育児のために休んだり辞めたりできるかというと、それも現実的にはかなり難しい。たいていの場合、途中で実習を断念あるいは中断し、女性が帰国します。そもそも送り出される際に、妊娠や出産は想定されていない。仮に実際にそうした状況が発生した際、出産する環境も育児をする環境も整っていないため、『日本に残る』という選択ができないのです。そのまま日本に戻れなくなった場合は、来日するためにつくった多額の借金を背負うことになります」

「技能実習生の多くは20代30代の若者で、実習の期間は最大5年とされています。これは決して短くない時間です。5年も暮らせば、地域になじみ、友達や仲間ができ、恋愛したり家族を持ったりすることはもちろん、転職やスキルアップを考えたりするのはごく自然のことではないでしょうか。しかし、3年もしくは5年限定の『労働力』という扱われ方であるため、実習生たちは家族を連れてきたりすることは許されず、また日本にいる間は家族を作りにくい条件で縛られる。実習終了後も長く日本で暮らすようなビジョンは描けないよう制度的にコントロールされているのです」

「移民政策はとらない、定住化させないというのが、政府の示す方針です。政府は技能実習生に対して『決められた期間、決まった労働をするだけの人材。その人たちの人としての生活や日本での暮らし、人生は知らない』という姿勢なのです。人間を『労働力』としてしか見ない政策では人を幸せにすることはできないし、社会を豊にすることもできません。技能実習制度から見える課題は、日本社会の問題を顕著に表していると思います」

国は今、一層強固な政策をとろうとしている

外国特派員協会での記者会見。日本に約8万人いるとされる非正規滞在者の正規化と、入管の収容制度の改善を日本政府に求めた(2019年7月26日)

国は今後、日本に滞在する移民・難民に対してより一層強固な政策をとろうとしています。

「政府は今、入管法改定法案を用意しています。この秋の臨時国会で改正法案の提出がされるといわれていますが、その中で、帰国を拒否している非正規滞在者に刑事罰を与えたり、複数回難民申請をした人たちを送還できるようにする措置が検討されています」と安藤さん。

「政府は、『送還』を促進するための方策として、退去強制を言い渡された非正規滞在者が本国に送還されることを忌避(きひ)、つまり『帰りません』と拒否した場合、この人に刑事罰を科す法律を提案しています。この法律が施行されると、送還(帰国)を拒否した人は刑事犯として刑務所に送られることになります」

「『帰らない』と言っている人たちは日本で共に暮らす家族がいたり、もう長いこと日本で暮らし、地域、社会の一員としてなじんでいる人たちです。本来であれば在留資格が与えられてもよいはずの人たちなのに、在留資格を与えないどころか刑事罰を与える。本末転倒です」

「移住連」代表理事の鳥井一平さんは、長年日本で研修生問題、技能実習制度の問題に取り組んできた実績を評価され、2013年にアメリカ国務省から人身売買と闘う個人に贈られる「ヒーロー賞」を受賞。2019年9月にはNHK「プロフェッショナル 仕事の流儀」に出演、この問題を訴えた

「政府はまた、複数回難民申請をしている人も送還できるようにする措置も検討しています。日本も批准している難民条約には『難民として庇護を求めている人を送りかえしてはならない』という原則が示されています。複数回難民申請をしている(複数回不認定を受けている)からといって、送りかえしてもよいということにはなりません。そもそも難民が0.4%しか認められない状況を是として、繰り返し申請する人たちを『偽装難民』扱いをして追いかえす、『送還』しか選択肢にないような提案は、受け入れられません」

「私たちは、退去強制(送還)を拒否する非正規滞在者への刑事罰、複数回難民申請者を送還できるようにする措置などでは非正規滞在者の問題は解決できないと考えています。唯一の解決策は、非正規滞在者が『正規」に滞在できるようにすること。そのため政府に対しても、非正規滞在者に在留資格を与えるよう要望しています」

「同じ社会で、すでに共に暮らしている」

多文化なルーツをもつ高校生たち

「私たちはすでに共に暮らし、支え合っています」と安藤さん。

「だから、一緒に暮らしていくんだ、一緒によりよい社会を作っていくんだという意思を社会全体で共有していくことが必要なのだと思います。これは『外国人』の問題かもしれませんが、『外国人だけ』の話ではありません」

「すでにそれぞれの地域、私たちの社会になじみ、一緒に暮らしている人たちの人権に、この社会がどう向き合うのかという問題です。社会を構成する一人ひとりの問題として捉えてもらうことが必要だと考えています。そして日本で暮らす一人ひとりが、存在価値を認め合う社会を共につくっていくことができたらと思います」

団体の活動を応援できるチャリティーキャンペーン

チャリティー専門ファッションブランド「JAMMIN」(京都)は、「移住連」と1週間限定でキャンペーンを実施し、オリジナルのチャリティーアイテムを販売します。
「JAMMIN×移住連」コラボアイテムを買うごとに700円が団体へとチャリティーされ、この問題を一人でも多くの人に知ってもらうため、SNSで発信するWEBポスター制作やイベント開催などに必要な資金として使われます。

「JAMMIN×移住連」10/19~10/25の1週間限定販売のコラボアイテム(写真はベーシックTシャツ(カラー:ワインレッド(カラーは全10色)、価格は700円のチャリティー・税込で3500円))。他にパーカー、トートバッグやキッズTシャツなども販売中

JAMMINがデザインしたコラボデザインに描かれているのは、国境にとらわれず、自由に空を飛ぶ渡り鳥の姿。一人ひとりが暮らす地域で、権利を奪われることなく自由に生きられる社会が広がってほしい。そんな願いが込められています。

チャリティーアイテムの販売期間は、10月19日~10月25日の1週間。JAMMINホームページから購入できます。JAMMINの特集ページでは、インタビュー全文を掲載中!こちらもあわせてチェックしてみてくださいね。

「すでに、共に生きている」。日本社会になじんだ外国にルーツを持つ人たちの権利と暮らしを守る〜NPO法人移住者と連帯する全国ネットワーク

山本 めぐみ(JAMMIN):
JAMMINの企画・ライティングを担当。JAMMINは「チャリティーをもっと身近に!」をテーマに、毎週NPO/NGOとコラボしたオリジナルのデザインTシャツを作って販売し、売り上げの一部をコラボ先団体へとチャリティーしている京都の小さな会社です。2014年からコラボした団体の数は300を超え、チャリティー総額は5,000万円を突破しました。

【JAMMIN】
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