全国にいる「抱っこサポーター」が乳児院や児童養護施設を訪れ、事情があって家庭で暮らすことができない子どもたちに、「抱っこ」を通じて温もりを届ける活動をしている団体があります。一般社団法人「ぐるーん」の活動は、一人の母親からスタートしました。しかし彼女は2015年、43歳という若さでこの世を去ります。死後5年が経った今、遺志を引き継ぎ、活動を続けています。(JAMMIN=山本 めぐみ)
各地の乳児院や児童養護施設を訪問、
「温もり」を届ける
一般社団法人「ぐるーん」は、乳児院や児童養護施設を定期的に訪問し、「抱っこ」や遊びを通じて子どもたちと触れ合い、温もりを届ける活動をしています。各地で活動する「抱っこサポーター」は、日本全国に二千人以上いるといいます。
さらに子どもたちを対象にしたワークショップの開催や、里親制度・養子縁組制度の理解を深めるための情報発信、児童養護施設を卒業する若者への生活や就職面での支援なども行っています。
「小さな赤ちゃんは、当たり前に抱っこされる存在です。まずはお母さんに、そしてお父さんに、そしておじいさんやおばあさん、近所の人…そうやって社会が広がっていきますが、様々な事情で家族と過ごすことができない子どもの場合、その広がりがストップしてしまいます」
そう話すのは、代表の河本美津子(こうもと・みつこ)さん(63)。脳科学の研究では、虐待を受けたり十分に愛情を受けなかったりした子どもの脳は、愛着に関する部分で発達が遅れているということが報告されているといいます。
「そこを修復するためにはどうしたらいいのか。たとえ本当の親でなくても、欲しいときに愛を、無償の愛を注ぐことはできる。その象徴的なものが『抱っこ』です。子どもが何か要求があって泣いているときに、抱っこして大きな愛で包んでもらえたら、とりあえず安心し、満足できます」
「大切な人を、今日も惜しみなく抱きしめましょう」
最初の「抱っこサポーター」として活動を始めたのは、二児の母でもあった有尾美香子(ありお・みかこ)さん(享年43)でした。IT企業で働いていた有尾さんは双子の男の子に恵まれ、育休取得中に離婚、児童虐待を受けている子どもと出会ったことがきっかけで、彼らのためにできることをしたいと転職し、一人で乳児院を訪れ、抱っこする活動を始めました。「抱っこサポーター」が全国に増え活動が広がり始めていた2015年に卵巣がんが発覚、その後間も無くして有尾さんはこの世を去りました。その後、現代表である河本さんが思いを引き継ぎ、活動を続けています。
以下は、有尾さん亡くなる前に遺したメッセージです。
“がんの告知を受けてから今まで、信頼おける医師も戸惑うほど猛烈なスピードでがんが大きくなり、あっという間に治療の余地がなくなりました。その後、私は親族がいる新潟に移り、家族との穏やかな時間を大切に大切に過ごすことを選びました。
私はいつも気持ちに正直に、自分の道を歩いて参りましたので、これまでの人生に後悔はありません。そばには常に、子ども達がいて、家族がいて、大切な友人達がいて、私を支えてくれました。
(中略)
尊い2つの命をこの世に送り出せたこと。
愛を求める小さな命を抱きしめてくださる方々が集う”ぐるーん”をうみだせたこと。
この2つは私がこの世に生を受けた証です。
明日何があるかは誰にもわかりません。だから、あなたの大切な人を、そして愛を求める小さな赤ちゃん達を、今日も惜しみなく抱きしめましょうね。
ぐるーん 最初の抱っこサポーター
有尾美香子”
定期的に、ずっと関わる
「乳児院や児童養護施設には、職員の方も含めてたくさんの大人が関わります。ただ、多くの大人は、立場上やむを得ずにそこを過ぎ去っていってしまう存在なのです」と指摘するのは、新潟で「抱っこサポーター」として活動する高橋明日香(たかはし・あすか)さん(47)。
「施設の職員の方も入れ替わるし、施設を訪れる方も年に数回とか、1回きりとか、そういうことがあります。児童養護施設を訪問し始めた頃、施設の方から『ここは過ぎ去っていく大人が多い』という話を聞いて、『自分は過ぎ去っていくことはしない』と心に誓いました。
「子どもたちは帰り際に『また来てね』と声をかけてくれます。そして翌週や翌々週に行くと『また来たん?』という反応をするんです。施設を訪れる大人はいても、『どうせ今だけ』『一度だけ』というのを子どもたちもよくわかっているんですよね。もう慣れてしまっているから、『もてなし上手』じゃないですが、その一回は懐いてくれて、甘えるのも上手です」
「そうではなく定期的に通うことで、子どもたちはまた違った表情を見せてくれるし、とにかく続けて通うことで、『自分は応援されている』と感じたり、『この人になら話してみよう』と思うことがあったり、そんな意味があると思っています」
新たな体験と、自己肯定感を育むワークショップ
さらに、施設で暮らす子どもたちを対象にしたワークショップは、フラワーアレンジメントや料理、模型づくりなど、様々なテーマで開催しています。
「施設にいる子どもたちは、一般家庭で育つ子どもたちと比べて体験の機会が少なくなりがち。いろんなことに触れながら、そしていろんな大人に出会って欲しい。そんな思いもあって、施設の子どもたちを対象にワークショップを年に複数回行っています」と河本さん。
「ワークショップのテーマは本当に様々ですが、長いこと続けているのが『花育ワークショップ』です。造花や折り紙で作った花ではなく本物の花、生花を使って子どもが自由にフラワーアレンジメントをするワークショップで、花に触れることで豊かな心を育んで欲しいと開催しています」
「施設で暮らす子どもたちの多くは、普段の生活の中に『ルールだからこれはダメ』『これは〇才になってから』などといった制限や決まりごとがあって、自分の意志で自由に物事をする機会がどうしても少なくなりがちです。だからこのワークショップでは、花をどんなふうに切ろうが使おうが、子どもたちの自由にやりたいようにしてもらいます」
「大人が側について教えたり指示したりするというよりは、『いいね』『素敵だね』と子どもを励まし、見守ることを大切にしていて、そうすることで子どもたちが『思ったことを自由に表現してもいいんだ』ということを知る、感じるきっかけになればと思います」
「最初は落ち着いてワークショップに参加することが難しかった子どもが、回数を重ねるごとに要領をつかんで上手にできるようになります。継続して開催することで、普段は体験しないようなことに慣れたり、自分の興味や好きなことを見つけたりといった効果もあると思います」
活動がきっかけとなって、
新しいつながりが生まれる
「抱っこサポーター」としてそれぞれの地域で活動する河本さんと高橋さん。やってよかったと感じる時はどんな時かを尋ねてみました。
「最初に奥さんが、その後に旦那さんが『抱っこサポーター』になってくださったご夫婦がいらっしゃいます。お子さんがおらず、長い不妊治療を経て活動に参加してくださいました。施設を何度も訪れて子どもと遊んだりイベントに参加したりするうちにだんだん理解が深まって、里親研修を受けて里親登録をし、今、里親として生後4ヶ月の赤ちゃんを育てていらっしゃいます。子どもにとっては温かな家族ができ、またご家族にとってはかわいい子どもとその子と過ごす時間ができて本当に嬉しかったです」(河本さん)
「私は週末里親として、一人の男の子と細く長く関わっています。日頃から密に関わっているわけではないけれど、ずっと同じポジションで長く彼のことを知っていて、彼と『思い出話ができる』ということが嬉しいし、誇りに思っています。地域のおばちゃんとか親戚のおばちゃんみたいな存在で、『小さい時、あなたはこうだったよ』とか『あの時からあれが好きだったね』といった話ができる存在でいられることは、やっていてよかったと思うことの一つですね」(高橋さん)
施設で暮らす子どもたちの豊かな体験づくりを応援できるチャリティーキャンペーン
チャリティー専門ファッションブランド「JAMMIN」(京都)は、「ぐるーん」と1週間限定でキャンペーンを実施し、オリジナルのチャリティーアイテムを販売します。
「JAMMIN×ぐるーん」コラボアイテムを買うごとに700円が団体へとチャリティーされ、施設で暮らす子どもたちを対象に、ワークショップを開催するための資金として活用されます。
JAMMINがデザインしたコラボデザインに描かれているのは、光を受け、さまざまな生き物が豊かに自由に泳ぐ渦。「ぐるーん」の活動により生じる愛の波動が、子どもたちだけでなく周囲の人たちをもやさしく包み込んでいく様子を表現しました。
チャリティーアイテムの販売期間は、10月5日~10月11日の1週間。JAMMINホームページから購入できます。JAMMINの特集ページでは、インタビュー全文を掲載中!こちらもあわせてチェックしてみてくださいね。
・乳児院や児童養護施設の子どもたちに、変わらない「温もり」を〜一般社団法人ぐるーん
山本 めぐみ(JAMMIN):JAMMINの企画・ライティングを担当。JAMMINは「チャリティーをもっと身近に!」をテーマに、毎週NPO/NGOとコラボしたオリジナルのデザインTシャツを作って販売し、売り上げの一部をコラボ先団体へとチャリティーしている京都の小さな会社です。2014年からコラボした団体の数は300を超え、チャリティー総額は5,000万円を突破しました!