1年間に出るゴミの量は、4,272万トン(一般廃棄物の排出及び処理状況等(平成30年度)、環境省)。東京ドーム約115杯分にもなるといいます。その中には意識すれば減らせたり、再利用や他の繰り返し使えるものに代用できるものも含まれているのではないでしょうか。「リユース食器の普及を通して、モノだけでなく人も大切にされる社会を広げていきたい」。多くの人が集まる場所で、使い捨てではなく何度でも繰り返し使えるリユース食器の貸し出しを続けてきた団体があります。(JAMMIN=山本 めぐみ)

「リユース食器」のレンタル・普及に努める

リユース食器の貸し出しを行う「スペースふう」のリユース食器たち。イベントやニーズにあわせて、さまざまなかたちや色を用意している

認定NPO法人「スペースふう」は、人が集まるイベントやお祭りでのごみを減らすために、洗って何度でも使える「リユース食器」のレンタルを行っています。

「リユース食器といってもプラスチックのしっかりした作りのものです。2003年に開始し、コロナになる前は年間500件(数にして70万~100万個)ほど、全国各地に貸し出していました」と話すのは、団体事務局長の長池伸子(ながいけ・のぶこ)さん。

お話をお伺いした長池さん

「理事長の永井寛子が環境ジャーナリストの今泉みね子さんの講演で、ドイツにはリユース食器を使うしくみがあり、使い捨てごみを出さない工夫をしていることを知って『ドイツでできるなら日本でもできる』と、この事業がスタートしました。活動を始めて20年近くになりますが、少しずつ時代の変化もある中で、やはりまだまだ世のメインは使い捨て容器でリユース食器のことが知られていないと感じます」

「時代的な変化を考えると、『ストップ環境破壊!』『ごみを減らそう』いう強い思想の部分から入っていくよりは、リユース食器が少しずつ普及することでごくごく当たり前のこととして人々の生活に馴染み、社会がちょっとずつでも良い方へ変わっていくと良いなと思っています」

「これからの時代、モノも人の想いも、循環させていきたい」

リユース食器を用いた結婚式。「リユース食器の出番はイベントやお祭りだけではありません。ウェディングパーティーなど人生の大切な瞬間にリユース食器を選んでくださっている方々が毎年いらっしゃいます」

「使い捨ての方が便利で衛生的だという意見もあるし、ニーズもあります。新型コロナウイルスが流行している現在においては、特にそのように思われることが多いかもしれません」と長池さん。「『使い捨てが絶対ダメ』ということではなくて、私たちとしては『選択肢が増えたら良いよね』と考えています」と話します。

「場合によっては、使い捨てでなければならないこともあります。一方で、使い捨てでなくても良い場面も多々あります。『ごみを減らす』という視点からこの活動がスタートしましたが、結局のところは私たちの暮らしにすべて直結しています。これからの時代、モノも人の想いも、循環させていけたら。そうやって穏やかで軽やかな、風のような時代をつくっていきたい。次世代を担っていく子どもたちに届けたい未来です」

とあるイベント会場で、リユース食器にのった料理。「店頭でリユース食器に盛り付けて販売していることをわかりやすく案内すると、お客さまも返却しやすくなります」

知的・身体に障がいのある息子の親でもある長池さん。「親として『どんな人も輝ける社会であってほしい』と願う一方で、願うだけではそのような社会はつくれないと思いました」と話します。

「大量生産、大量消費が当たり前の時代ですが、同時に今は転機でもあると感じています。

用が済んだら捨てるのではなく、社会全体が人、モノ、ことを大事にできる世の中になったら、もう少し違う動きが生まれるのではないでしょうか」

「ごみでいうと、目の前からごみが消えたら、それはイコール『ごみがなくなった』というわけではなくて。使い捨て容器も立派な資源なわけですよね。その資源が、たとえばイベント会場で、お客さんがたこやきを買って食べ終わるまでのものの10分のためだけにごみになる。その方法が果たして最善なのか、果たして幸せを生むのか。もし違う選択肢があったら、資源も無駄にせずに済むし、そこに盛り付けられる食べ物も食べ物を手にした人も『大事にされた』という感覚は、必ず循環していくと思うんですね」

安心して使えるよう、食器は徹底管理

返却された食器を一つひとつ手洗い。「お客様から返却されたリユース食器は、汚れがひどい場合には、予備洗浄(手洗い)で汚れを落としてから、高圧洗浄機で洗浄します」

スペースふうでは、イベントやシーンにあわせて大小さまざまな大きさや色の平皿や丼、カップやスプーンを用意しています。食器を安心安全に利用してもらうために、衛生面の管理も徹底しています。

「お貸しした食器は、使い終わった後はそのまま返してもらうのが原則です。一度使った後は、残飯・水分は取り除いてもらいますが、洗わない状態でそのまま私たちのところに送り返していただいています」

「返ってきた食器はまず数を確認し、その後大型の洗浄機に入れて洗浄します。汚れがひどい場合は、洗浄機に入れる前に予備洗いを行います。しっかり汚れを落とした後は消毒の工程へと進み、消毒乾燥庫という電気式の熱風消毒乾燥ができる専用の機械に入れ、80度で45分間、消毒します」

「その後、食器は検品室へ運ばれ、欠けたりヒビ割れたりしているところはないかといったことを一つひとつスタッフが目視でチェックしながら、10個、あるいは20個単位で小袋に密閉して保管します」

想いを新たにしたタイミングでの新型コロナウイルスの流行

検品作業では、洗浄・消毒を終えたリユース食器1枚1枚を目視で最終確認。写真は2018年8月撮影

コロナが流行する以前は、年間500件、約70万個のリユース食器を全国各地に貸し出していたスペースふう。しかし昨年の新型コロナウイルスの流行により、活動は大打撃を受けました。

「人が集うイベントが軒並みキャンセルとなり、2020年の貸し出し件数は前年度の99.4パーセント減、約4,000個にまで落ち込みました」と長池さん。

実はコロナが流行する直前、長年使い続けてきた食器洗浄機が老朽化し、いよいよいつ止まってもおかしくないような状況になってしまったことから、意を決して1000万円の借入をして、新しい食器洗浄機を購入したばかりでした。

コロナで食器の貸し出しが減り大打撃を受ける中、団体の存続のためにクラウドファンディングを実施。新たに購入した食器洗浄機を囲んで、スタッフの皆さんと。「クラウドファンディングに限らず、全国から大勢の方が心を寄せて支援してくださいました。皆さまの想いが、現在のスペースふうにつながっています」

「借入をして新たに食器洗浄機を購入してまで、リユース食器の普及活動を続けるのかどうか。団体として活動を存続するか、あるいは解散するか、スタッフ皆で話し合い、『これからの時代、もっともっとリユース食器の出番を増やして一人でも多くの人に環境のこと、使い捨てやごみのことを考えるきっかけにしてもらいたい』と覚悟を決めて購入し、ピカピカの食器洗浄機を見ては『これからがんばるぞ』と思っていた矢先でのコロナの流行でした」

「貸し出しのキャンセルが続出する一方で、毎月借入金の返済をしなければなりません。わらをもすがる思いでクラウドファンディングに挑戦し、多くの方のご支援をいただいてなんとか存続のチャンスを与えていただいたのです」

「一回きりではない関係性」を築きたい

イベント会場でのリユース食器回収ブースにて。「食べ残しがほとんどなくきれいに返却してくださる食器ばかりで、イベントの関係者さんと感激しました。リユース食器を返却される方から『美味しかったよ!』と声をかけていただくことも多く、その声を出店者・主催関係者に届けていくことも大切な循環だと思っています」

「コロナ流行以前のようにイベントを開催できるようになるまでには、まだもう少し時間がかかるでしょう」と長池さん。そんな中で、「自分たちだからこそできることを」と新たな取り組みをスタートさせています。その一つが、リユースのお弁当箱を用いたプロジェクトです。

「私たちが活動する山梨県でも、年々児童虐待の相談件数が増えています。産後、相談できる相手や頼れる人がおらず、苦しい状況で孤立してしまうお母さんは少なくありません。繰り返し使えるリユースのお弁当箱に想いをのせて、地域の子育てに悩むお母さんにつながりを届けられないかと、現在、地域の団体や行政とも協力しながら準備を進めているところです」

リユースのお弁当箱。「現在いろいろとリサーチしており、いくつかの条件にあったお弁当箱を関係者と検討しています」

「温かい気持ちのこもったお弁当を届けてくれる人が地域にいたら、それを食べて元気になれます。リユースなので回収にも伺わなければなりません。そんなちょっとした関わりの中から、お母さんの悩みを聞いたりちょっと息抜きができたり…、そんなゆるい関係づくりができたらと思っています。リユース食器は『返却する』手間が最大の課題ですが、この課題を逆手にとって最大の強みにして、地域で孤立したお母さんたちとつながっていきたい」

そしてもう一つが、リユーストレーの開発です。

「スーパーで鮮魚や生肉が乗ったトレーは、リサイクルできるといえども、その後ごみになります。ひと昔前は、お豆腐を買うのに容器を持ってお豆腐屋さんに行きました。地域のスーパーは、お客さんが繰り返し足を運ぶ場所です。だからこそ一回きりではなく、リユースで活用できるしくみを考えていきたいと思っています」

「いろいろと課題があってなかなか実現までは長期戦になりそうですが、リユース食器を通して、『一回きりではない関係性』が地域でも広がり、暮らしが豊かになるような流れを作っていけたらと思います」

「楽しく、豊かに、喜びながら循環していく」

「コロナ以前は、毎年地元の小学生が授業の一環としてスペースふうを訪れ、スペースふうのこと、お祭りのごみのこと、リユースのしくみ、リユース食器のことなどなど学んでいました。子どもたちは皆熱心な表情で話を聞き、ノートに書き込んだり、質問してくれたり。一生懸命な子どもたちとの交流は、私たちにとっても貴重な経験となっています」

「コロナは私たちにとって大きな転機でしたが、同時に、私たちが何をしていきたいか、何を目指していくべきかを改めて認識させてくれた出来事でもありました」と長池さん。

「『ごみ』と表現してしまうと、私たちの日常から分断されたもののように感じますが、もとをたどれば、ごみも私たちの生活の一部であり、資源であり、大きな循環の中にあるものではないでしょうか」

「だから、人もモノも大切に、汚いもの、捨てるもの、隅っこに置いてできるだけ目の届かないようにするのではなく、何か楽しく、豊かに、喜びながら循環していくことができる方法を皆さんと一緒に考えていきたいし、一緒につくっていきたいと思っています。『リユースって楽しい』と思っていただけるような、プラスアルファの価値を生み出していくことができたら、私としてはすごく嬉しいですね」

団体の活動を応援できるチャリティーキャンペーン

チャリティー専門ファッションブランド「JAMMIN」(京都)は、「スペースふう」と9/13(月)〜9/19(日)の1週間限定でキャンペーンを実施、オリジナルデザインのチャリティーアイテムを販売します。

JAMMINのホームページからチャリティーアイテムを購入すると、1アイテム購入につき700円が「スペースふう」へとチャリティーされ、リユース食器普及のための活動資金として活用されます。

「JAMMIN×スペースふう」9/13〜9/19の1週間限定販売のコラボアイテム(写真はTシャツ(ワインレッド、700円のチャリティー・税込で3500円))。他にもエプロンやパーカー、バッグやキッズTシャツなど販売中

JAMMINがデザインしたコラボデザインには、キャラクター風のリユース食器を描きました。器から器へと手渡される花は、一度使ったらごみになるのではなく、皆が大事にする・皆から大事にされることで、未来を担う次世代へと愛をつないでいく様子を表現しています。

JAMMINの特集ページでは、インタビュー全文を掲載中。こちらもあわせてチェックしてみてくださいね!

リユース食器を通して、人もモノも使い捨てにせず、循環して大事にされる社会を目指す〜NPO法人スペースふう

山本めぐみ:JAMMINの企画・ライティングを担当。JAMMINは「チャリティーをもっと身近に!」をテーマに、毎週NPO/NGOとコラボしたオリジナルのデザインTシャツを作って販売し、売り上げの一部をコラボ先団体へとチャリティーしている京都の小さな会社です。2014年からコラボした団体の数は360を超え、チャリティー総額は6,000万円を突破しました。

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