森林を伐採しての再生可能エネルギー開発や「害獣」対策によってすみかやいのちを奪われている野生動物がいます。1997年から25年にわたり、クマをはじめとする野生動物が暮らせる森の保全・再生をめざした森づくり、環境教育、調査、環境省や地方行政などへの政策提言などを行ってきた団体があります。今、クマが置かれている状況を聞きました。(JAMMIN=山本 めぐみ)
クマたちが暮らす豊かな森の保全に取り組む
一般財団法人「日本熊森協会」は、「動物たちに帰れる森を、地元の人たちに安心を」を合言葉に、クマをはじめとする野生動物たちとの共存をめざし、生息地の再生や、野生動物を殺さないようにするための活動に、25年にわたり取り組んできました。兵庫県にある本部のほかに全国に28の支部があり、それぞれの地域に合わせた活動にも取り組んでいます。
「熊森協会という名前にもあるようにクマがシンボルですが、それはクマが奥山生態系の頂点に位置しているからで、クマだけを守りたいと思っているわけではありません。クマの棲む森が守られれば、それ以下の野生鳥獣たちの生息が保証されるだけではなく、豊かな森から湧き出す清らかで滋養豊かな水によって、川や海の魚たちの生息も保証されます」と話すのは、団体スタッフの池田典子(いけだ・のりこ)さん。
最近では、罠で鳥獣被害対策を進める国の方針のもと、シカやイノシシを捕獲する「くくり罠」が多数設置されるようになり、クマが誤って捕獲(錯誤捕獲)されて殺処分されることが多くなっているといいます。
「クマがくくり罠にかからないように、くくり罠の直径を真円12センチ以下にしたり、クマの生息地でくくり罠を掛けることを禁止したりすべきという提案を地方行政や環境省にしています」と池田さん。
「法的には錯誤捕獲された野生動物は放獣しなければならないのですが、そのまま殺されたり、あるいは罠にかかったまま誰にも発見されず放置されて餓死や凍死したりするケースがほとんどです」
「クマだけではなく、キツネやタヌキなど、あらゆる動物が錯誤捕獲されて死んでいます。運よく生き残れても、足が切断されて3本足になってしまったという動物も増えています。3回くくり罠にかかり、足が1本だけになってしまったカモシカも発見されています。私たちは、このような残虐な罠は使用禁止にすべきであるとずっと主張しています」
風力発電や太陽光発電の建設により野生動物の暮らす森が破壊されている
もう一つ、このところ協会として力を入れて取り組んでいるのが、再生可能エネルギー(再エネ)事業による森林破壊問題だといいます。
「『なぜ、クマと再エネ?』と思われるかもしれませんが、実は今、『エコでクリーンな再生可能エネルギー』と謳いつつ、クマたちが暮らす奥山の森の木々が広範囲かつすごい勢いで伐採されている事実があるのです。風力発電やメガソーラー建設によって、奥山が大規模に破壊されています。この勢いで再エネ事業が進めば、野生動物たちは安心して棲める場所がなくなります」
「たとえば宮城県加美郡では、水田地帯を取り囲む奥羽山脈の尾根筋の森を削り、高さ150〜200メートル級の風車が最大約170基建設される計画が進んでいます。この地域に限らず、地元の方たちはこのような再エネ事業の計画を知らず、知った時には森林が伐採されてしまっていたり、山が削られてしまっていたりでもはや手遅れという状況が全国で起きています」
「再エネ開発によって我が国の生物の多様性や水源の森が失われるという大変な問題が起きているにも関わらず、マスコミはなぜか報道しません。『発電時に二酸化炭素を発生しないクリーンな再生エネルギー』というイメージの裏で、発電設備を作るのに大量の化石燃料を使っているし、風車の寿命は20年なので、20年経つとまた新たに建て替えねばならないのです」
「第一、二酸化炭素の吸収源である森林を伐採して設置するなど本末転倒で、『これは本当にサスティナブル(持続可能)なのか』『本当に脱炭素につながるのか』などと疑問に思わざるを得ないことがあまりに多く、このような事実をぜひ多くの方に知っていただきたいと思っています」
「自然を破壊する再エネ開発は、他生物のためにも次世代のためにも禁止すべきです。再エネは電力の大消費地であり、すでに自然を壊してしまっている都市でこそ行うべきなのです。私たちは今、自然破壊型の再エネ事業に規制をかけてほしいという署名を集めています。2万筆を超えたので、近々国に提出する予定です」
「『再エネ反対』と言っているのではなく、自然を破壊し、地域住民の安全安心な生活を脅かすような再エネ開発に反対しているのです。エコでクリーンなイメージの裏で、野生動物たちや地元の人々が困っているということをまず多くの国民に知っていただきたいと思っています」
時速200キロで回転する風車の脅威
「風車と聞くと、ゆっくり回る牧歌的なものをイメージする方もいらっしゃるかもしれませんが、再エネの風車はそれとは全く異なります」と池田さん。
「高さが200メートル級の風車だと、回っている羽の先の時速は200キロにもなります。『バードストライク』と呼ばれますが、山を越える渡り鳥も時速200キロの羽に巻き込まれたらメッタ斬りです」
「また『カルマ渦』というのですが、羽の回転で生まれる風の渦に巻き込まれて墜落死する鳥たちも出てきます。低周波を発生するので、超音波を発生して距離を測ってとぶコウモリはいなくなるかもしれません。害虫を食べるコウモリがいなくなることで、農業への影響も懸念されています」
「時速200キロで回る巨大な羽は『シャドウフリッカー』という大きな影を作ります。協会の会員の一人は、三重県の青山という地域に建設された風力発電を見に行った際、影が襲ってくるようでとても怖く感じたと言っていました。人間よりも敏感な野生動物たちにとっては、もっともっと恐怖感は大きいはずです」
「さらに風車建設では、森の中に、場所によっては50メートルもの幅で、風車の羽を尾根まで運び上げるための運搬路が切り開かれます。カーブの部分では特に周りの木々がたくさん伐採されます。高さ200メートル級の風車を建てようと思うと、地下20メートルほどの基礎も掘らねばなりません」
「風車の耐久年数は20年ほどと言われています。業者が撤退する際に、コンクリートで固められた基礎までは撤去できないでしょう。ということは、尾根筋に永遠に巨大なコンクリートの塊が残った状態になります。業者には撤去義務がありませんから、風車もそのまま放置されることが考えられます。台風や地震で倒れてきたら、その巨大さゆえとても危険です」
「果たしてこれでいいのか。山の尾根を掘ってコンクリートを打ち込めば、生態系が破壊され、山の乾燥化が進み、木が枯れたり、濁水の流出や川の水量が変化したりなどの影響が懸念されます。土砂災害の危険性も高まります」
「再生可能エネルギーとかサスティナブルと謳いつつ、果たして本当にそうなのか、一体何のため誰のための開発なのか、ということなんです。森林が二酸化炭素を吸収するのなら、森林を伐採して『脱炭素社会の実現のための再エネ事業です』だなんて本末転倒です。先日の国会での質疑で萩生田経産大臣も『小学生すら、何のために木を伐っているのかと思うだろう』と答弁されていました」
五島列島の北端にある「宇久島」では島の4分の1の規模のメガソーラーを建設中
「私たちはクマをシンボルに活動しているので、再エネ開発によってクマたちの森が破壊されていくことにどこよりも危機感を抱いている」と池田さん。今、日本各地で再エネ開発による自然破壊のトラブルが起きており、各地でこの問題に取り組む団体と2021年7月、「全国再エネ問題連絡会」を結成しました。北は北海道から南は鹿児島まで、現在40ほどの団体が加盟しています。
「クマから少し話がそれますが、再エネ開発による自然破壊というところで、長崎県の五島列島の北端にある宇久島(うくじま)で進行中の太陽光発電の計画も皆さんに知っておいていただきたいです。島の4分の1を埋め尽くす160万枚もの太陽光発電パネルの建設が進んでいるのです」
「五島列島はこれまであまり開発されてこなかったので、今でも豊かな自然が残されている美しい島です。絶滅危惧種や天然記念物も現存しており、生物多様性が残されています。美しいこの島に160万枚もの太陽光パネルが建てられたら、何が起きてくるでしょうか」
「景観だけでなく生態系や島民の暮らしにも大きな影響を与えることは避けられません。太陽光パネルは、夏場は表面温度が70度にもなるといわれています。暑くて住めない島になってしまうかもしれません」
「一旦破壊された自然は、二度と元には戻りません。島の人たちは行政や事業者に対して工事の中止必死で訴えてきましたが、何ひとつ聞き入れられず、強引に事業が進行しています」
「太陽光発電ができたら固定資産税が市に入ってくるので、宇久島のある佐世保市はこの事業を歓迎しています。長崎県にも島の住民や漁業者たちが建設しないように訴えましたが、聞いてもらえませんでした」
「全生物が共存できる豊かな自然を次世代に」
「戦後、国の拡大造林政策によって自然林が伐採され、スギ・ヒノキ等の人工林に変わったため、クマは広大なすみかを奪われましたが、それでもなんとか、滅びないでこの国で生き残ってきました」と池田さん。
「しかし今、くくり罠にしても再エネ開発にしても、自然豊かな奥山が害されることで、クマはさらにいっそう首を絞められることになります。最近は山から出てくるようになったとクマが問題視されていますが、自然を破壊した人間側にも大きな責任があります。生き物が棲めなくなった山を、皆さんは、次世代の子どもたちに残していきたいでしょうか」
「宮城県のある森の中に、クマたちが背を擦(こす)りにやってくる木があります。この森で暮らすクマやイノシシ、アナグマ…、いろんな動物が入れ替わり立ち代わりこの木にやってきては、この木で背中を擦っていくんですね。これを見た時、私たち人間とは別に、動物には動物たちの生きる世界があって、森を守ってあげなければならないという気持ちに改めてなりました。自然は、決して私たちだけのものではありませんから」
「山で何が起きているのか、少しだけでも目を向けてもらえたらと願っています。私たちが発信しなければ、皆さんが知ることもないまま巨大な開発が進み、自然が破壊されていくことでしょう。まずは知ってもらうことが大事だと思っています」
団体の活動を応援できるチャリティーキャンペーン
チャリティー専門ファッションブランド「JAMMIN」(京都)は、日本熊森協会と4 /4〜4/10の1週間限定でコラボキャンペーンを実施、オリジナルデザインのチャリティーアイテムを販売します。
JAMMINのホームページからチャリティーアイテムを購入すると、1アイテム購入につき700円が団体へとチャリティーされ、クマをはじめとする野生動物を守る活動のために使われます。
JAMMINがデザインしたコラボデザインには、豊かな自然の中、手を取り合って生きるクマの親子と、それを見守るように太陽や空、森や落ち葉を描きました。何一つ欠けても、自然やいのちの循環は成り立たない。豊かな森を次世代に残していこうというメッセージが込められています。
JAMMINの特集ページでは、インタビュー全文を掲載中。こちらもあわせてチェックしてみてくださいね!
・害獣と決めつけて殺されたり、広大な森林を伐採する再生可能エネルギー開発ですみかが失われようとしているクマたちがいることを知って〜一般財団法人 日本熊森協会
山本めぐみ(JAMMIN):
「JAMMIN(ジャミン)」は京都発・チャリティー専門ファッションブランド。「チャリティーをもっと身近に!」をテーマに、毎週さまざまな社会課題に取り組む団体と1週間限定でコラボしたデザインアイテムを販売、売り上げの一部(Tシャツ1枚につき700円)をコラボ団体へと寄付しています。創業からコラボした団体の数は400超、チャリティー総額は7,000万円を突破しました。