「厳しい現状だからこそ、それをそのまま伝えるのではなく、楽しく伝えることで多くの人に知ってもらい、身近に感じてもらいたい」。熊本の動物保護団体や動物愛護センターなどの協力を得て、保護犬猫に新しい家族を見つける譲渡会を開催するプロジェクトがあります。(JAMMIN=山本 めぐみ)

楽しく、誰でも歓迎の譲渡会を通じて保護犬猫の存在を伝える

ジョートフル熊本が開催する譲渡会場。「保護団体ブースは、参加する団体それぞれの個性が出ていて、チャリティー物販も多種多様。飼えなくても楽しいお買い物で保護動物を支援できます。こちらの看板犬も、もちろん保護犬!」

熊本を拠点に、「楽しい」譲渡会を主催するボランティアプロジェクト「ジョートフル熊本」。

「『ジョートフル』は、『譲渡をFULL(いっぱい)に』と『JOYFUL(楽しい)』をかけあわせた造語です」と話すのは、代表の旭爪利砂(ひのつめ・りさ)さん(50)。楽しい譲渡会を通じて保護犬猫の存在や保護団体のことを広くたくさんの方に知ってもらいたいと、譲渡会に特化した活動を行っており、「熊本をモデルケースに、ゆくゆくは全国に広がってほしい」と旭爪さんは話します。

譲渡会のこだわりは「楽しい」ことと「誰でも歓迎」であること。

「今すぐに犬猫を迎え入れる予定がなくても、あるいは譲渡会や保護犬猫にまだそんなに興味がなくても、気楽に足を運んでもらえる場所をつくりたい」と、アーティストのライブ、キッチンカーや作家さんによる雑貨の出店、ワークショップ開催など、さまざまなコンテンツを入れて会場を楽しめる工夫をしています。

お話をお伺いした旭爪さん

「今は飼えない、あまり興味がない、でも私たちの譲渡会を通じて、保護動物や保護団体に味を持ってもらったら大成功」と旭爪さん。「いつの日か犬猫を迎え入れようという時に、楽しい思い出と共に譲渡会のことを思い出してもらって、保護動物が選択肢のひとつになってくれたら」と話します。

「保護団体は、とにかく毎日の動物たちのお世話と管理が大変です。私たちは保護団体ではないからこそ、今はまだ飼う予定のない方、まだ譲渡会や保護犬猫の存在を知らないという方に、もう少しゆるいつながりやきっかけで譲渡会を知ってもらい、足を運ぶハードルを下げることが役割だと考えています」

なぜ、「楽しい譲渡会」なのか

会場が屋外の場合は、全長11メートルの特設トレーラーハウスが猫の譲渡会場となる。エアコンも換気扇も完備しており、天候や気温に左右されず譲渡会が開催できる

「保護動物に対して、捨てられた理由がある、かわいそう、懐かない、汚いといった誤解をもっている人が正直まだまだ多いと感じています」と旭爪さん。また保護団体に対しては、「特殊な活動をしている、特殊な人たち」「動物にしか興味がない怖くて変わった人たち」といった印象を抱いている人もいると話します。

「保護動物の問題は難しくて重いものだし、保護団体は、過酷な現実と向き合う日々です。ただ、それをそのまま伝えても、伝えられる側は見たいとは思ってくれません。たとえばSNSを開いて、意図せずかわいそうな犬猫の姿が流れてきた時、目を背けてしまうことがあると思うんです」

譲渡会場にはキッチンカー、ハンドメイド雑貨やアクセサリー、青果、お花、各種ワークショップ…、さまざまな店舗が並ぶ。「ステージがある会場では、ダンスや音楽などのライブ、著名人による保護犬猫トークショーなども開催しています」

「だからこそ、私たちは気軽に、軽やかに、楽しく保護動物を知ってもらうきっかけを作りたい」と旭爪さん。「目を背けるのではなく、目を向けてもらいたい。だから、『楽しい』にこだわって活動しています」

「譲渡以外のことでも興味を持ってくださったら嬉しいですし、『誰でもウェルカム』という雰囲気があれば、もっと気軽に足を運んでもらえて、保護動物のことを知ってもらえる。この問題をより身近に感じ、保護動物に関心を向けてくれるのではないかと思っています」

「まずは会場に足を運んでもらうこと。ジョートフルの譲渡会には複数の保護団体が参加しているので、それもお客さんにとっては大きなメリットだと思っています。というのは、それぞれの団体の、犬猫をたくさんお世話してきた保護動物のプロ中のプロの方たちから直接話が聞けて、それぞれの団体さんの良さや違いを感じていただけるからです」

活動のきっかけは、2016年の熊本地震

2016年、熊本地震から数ヶ月後の熊本県動物管理センター(現在は「熊本県動物愛護センター」に改称)で

熊本で活動を始めてから、現在も関東在住の旭爪さん。ジョートフル熊本を立ち上げたきっかけは、2016年4月に起きた熊本地震だったといいます。震災から4ヶ月後の2016年8月、東京都渋谷区が主催する「防災フェス」のペット防災の企画のため、熊本を視察に訪れたのが最初でした。

「飛行機が熊本の空港に近づいた時、上空からは青い陸地が見えて、『さすが、水の都熊本』と思ったのですが、青いのは水ではなく、すべてブルーシートでした。仮設住宅の建設が間に合わず、避難所にはまだたくさんの人が暮らしていました」

「地震から4ヶ月、関東では時折思い出したように報道されるだけだったので、まさかこんな状況になっているとは思いもよりませんでした。動物管理センターをはじめ多くの保護施設は当時、文字通り犬猫が溢れていました。そこで、自分も被災している方も多いのに、それでも一生懸命、日々保護動物のお世話をする方たちの姿を目の当たりにしたんです」

「その姿を見てしまったら、何もしないという選択肢はありませんでした。保護団体でもないし、そもそも関東に住んでいる自分たちに一体何ができるのか。犬猫の引き取りやお世話はできなくても、譲渡会だったらできるかもしれないと、メンバーと夜な夜な語り合い、現在の活動を始めました」

「悲惨なことだからこそ、楽しく伝えたい」

譲渡会終了後に記念撮影。保護団体、出店者、ジョートフルの皆さん

「実は今のように楽しく活動する前は、少し過激な方向に走っていたんです」と旭爪さん。

「動物愛護法改正のパブリックコメントを集めるために、家族、親族、友人、会社の同僚…周りに声をかけまくって無理矢理協力してもらい、殺処分反対のデモ行進に参加し、動物実験や肉食に反対してビーガン(動物性の食品を口にしない、完全菜食主義者)になった時期もありました。気がつけば、いつの間にか友人は減っていました」

「私のタイムラインには、同じように過激に活動する人たちが発信する、目を背けたくなるようなつらい動物たちの姿があふれ、心は疲弊しきっていました。やりたくてやっていたことなのに、全然楽しくなかった。その時、『重くて難しいことだからこそ、軽やかに伝えよう。自分も周りも楽しく続けられるよう、楽しく表現しよう』と思ったんです」

「自分に何ができるのか」と、日本国内のみならず、海外の保護団体にも訪れた旭爪さんは、そこで「楽しく」伝えるというあり方を知ったといいます。

動物保護団体「英国王立動物虐待防止協会(RSPCA)オーストラリア」のブリスベンにあるアドプションセンター内にあるカフェテリア。「天井の金網部分はキャットウォークになっていて、猫部屋(広い個室)とつながっています。気が向いた猫が歩いて来たら、その様子を見ながら食事ができる。猫も人間も楽しめるしかけがしてあります」

「ドイツやオランダ、アメリカ、オーストラリアなどの保護施設を訪れた際、保護と譲渡の施設が分かれているところをいくつか見たんです。保護施設は人の少ない田舎にあるけれども、人通りの多い都会の路面店に『アドプションセンター』と呼ばれる譲渡の場を作り、保護動物や自分たちの団体のことを知ってもらうように工夫されていました」

「多くのアドプションセンターは、オシャレで素敵な雰囲気で、もちろん匂いもないし、ペットグッズショップがあったり、何度も訪れたくなるさまざまなしかけがありました。スタッフの方もフレンドリーで、ウェルカム感いっぱいの場所が多かったです」

「楽しく明るく見せられるのは、すごく良いなと思いました。『悲惨なことを悲惨なふうに伝えない。重いことは軽やかに表現する』ということは、活動の中でずっと心がけていること。運営の上で苦労は多々ありますが、それを人には見せたくないし、感じてほしくない」

「保護動物のために、いろんな立場でいろんな想いで活動する人がいて、どれもすごく大切だし、いろいろあっていいんだと思うんです。その一つとして、私たちは、楽しく譲渡促進ができたらいいなと思っています」

ポスターやパネル、絵画を用いた新しいかたちの譲渡会も開催

犬猫の生体展示無しで、ポスターやパネルで紹介する譲渡会場

新しい試みとして、リアルな譲渡会だけでなく、ポスターや絵画展示による譲渡会も開催してきたジョートフル熊本。

「リアルな譲渡会の場合、生体OKの会場は限られてしまいます。主に猫の譲渡会場として使うために、クラウドファンディングで集まった資金で購入した全長11メートルのトレーラーハウスを入れられるだけの広い会場は、そんなにたくさんありません」

「また百貨店やオシャレな商業施設は、黙っていてもたくさんの人が訪れる場所ですが、犬や猫を室内に入れての譲渡会の開催はなかなか難しいということがあります。そこで、たとえば雑貨販売イベントなどで、1コーナーとして雑貨などを販売しつつ、譲渡対象の動物たちのポスターや等身大パネルを展示するといった工夫をしています」

絵画による譲渡会。「動画や写真ですらなく、あえて絵で。『会ってみたい』と思わせるための実験的な試みです。同じ動物がモデルでも、写実的だったりデフォルメした表現だったり。こちらの作品は、東京在住の作家『アトリエシャボン玉』によるもの」

「絵画の譲渡会については、『譲渡対象の子たちを絵で表現するなんて、いちばん遠いのでは』と思われるかもしれませんが、あえてそこを逆手にとった企画です。絵画にすることで、見る方が想像力を膨らませてくださり、興味を持って保護団体さんに足を運んで会いに行ってくださったりして。譲渡のひとつのきっかけにもなるといいなと思っています」

2022年11月には、熊本市の中心地にある大型商業施設「サクラマチクマモト」4階に、「保護犬猫について学べて、買い物で支援できて、いつもの仲間や新しい仲間に会える、楽しい学びと出会いの場」がコンセプトの店舗「ジョートフルーム」をオープン。

「国内でも類をみないユニークなスタイルの楽しいチャリティーグッズショップ&コミュニティスペースです。譲渡対象の動物のポスターや絵画展示、保護犬猫を応援できる各種チャリティーグッズの販売、コーヒーが飲めるスペースもあります。ふらっと立ち寄れて、保護動物や譲渡のことを気軽に知ったり相談できたりする場になればと思っています」

団体の活動を応援できるチャリティーキャンペーン

チャリティー専門ファッションブランド「JAMMIN」(京都)は2/13〜2/19の1週間限定で「ジョートフル熊本」とコラボキャンペーンを実施、オリジナルデザインのチャリティーアイテムを販売します。

JAMMINのホームページからチャリティーアイテムを購入すると、1アイテム購入につき700円が団体へとチャリティーされ、譲渡会の開催に必要な資金(譲渡会場として使われるトレーラーハウスの輸送費、保護団体の各ブースに設置する長机や椅子のレンタル費、譲渡会の案内チラシやポスターの印刷費など)として全額活用されます。

「日々の保護活動で大変な保護団体さんの譲渡会参加の負担をなるべくゼロにするため、とにかく犬や猫と来てさえいただけたら、すぐ譲渡会が開催できるかたちにしていますが、ご寄付やグッズの売り上げなどでなんとかやりくりしつつかなり赤字の状態で、譲渡会運営費の多くは、自分たちの持ち出しになってしまっています」(旭爪さん)

1週間限定販売のコラボデザインアイテム。写真はTシャツ(左・700円のチャリティー・税込で3500円)。他にもバッグやキッズTシャツなど販売中

1週間限定販売のコラボデザインアイテム。写真はTシャツ(左・700円のチャリティー・税込で3500円)。他にもバッグやキッズTシャツなど販売中

JAMMINがデザインしたコラボデザインには、帽子やかぶりものをかぶったり、メガネをかけたり、スカーフを巻いたり…、クスッと笑える犬猫の姿を描きました。人の楽しい笑顔の中心に、保護犬猫たちもまた幸せに、安心して存在している様子を表現しています。

JAMMINの特集ページでは、インタビュー全文を掲載中。こちらもあわせてチェックしてみてくださいね!

保護犬猫の譲渡をいっぱいに!楽しい譲渡会で、保護動物と出会うきっかけを〜ジョートフル熊本

「JAMMIN(ジャミン)」は京都発・チャリティー専門ファッションブランド。「チャリティーをもっと身近に!」をテーマに、毎週さまざまな社会課題に取り組む団体と1週間限定でコラボしたデザインアイテムを販売、売り上げの一部(Tシャツ1枚につき700円)をコラボ団体へと寄付しています。創業からコラボした団体の数は400超、チャリティー総額は7,500万円を突破しました。

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