3月21日は、国連が定めた「世界ダウン症の日」。今年の世界ダウン症の日のテーマは、「With us not for us」(私たちの「ために」ではなく、私たちと「一緒に」)。「あなたのためだから」と、意思表示が得意ではない相手に対し、一方的に意見を押し付けていないでしょうか。「一緒に」であるためには、まずは相手を知ることから。ダウン症のある人の生活に関する大規模な実態調査が実施されました。(JAMMIN=山本 めぐみ)

ダウン症のある人たちの大規模な実態調査の背景

「日本ダウン症協会×JAMMIN」2023年のデザインモチーフは「パン」。23対ある染色体の21番目が3本あることから起こるダウン症にちなみ、23種類のパンのうち、ひとつだけを「3つ」描いた恒例のシリーズ

2023年1月、「公益財団法人日本ダウン症協会」と「日本ダウン症学会」が実施した「ダウン症のある方たちの生活実態と、ともに生きる親の主観的幸福度に関する調査」の最終報告が公表されました。ダウン症のある人たちの家族・約1600家族から回答を得た、大規模な実態調査だといいます。

「今回の大規模調査は、私たちと『一緒に』をかなえるために、まずはダウン症のある人たちの実態を知ろうよというところで始まりました」と話すのは、日本ダウン症協会代表理事であり、医師の玉井浩(たまい・ひろし)さん(69)。

「知的障害のある人の意思の確認は、難しいことがあります。本人の意見を聞く前に『こうなんじゃないの』と言ってしまうことがある。『こうでしょ』、『こう思っているんでしょ』と聞いたら、ダウン症のある人たちの場合、多くが『うん』と答えてしまうんです」

玉井さんの娘のみほさん。「昨年8月から、大阪市内のコーヒースタンドで週3日働いています。夢はバリスタになることです」

「ダウン症のある人たちの意見を聞くことの難しい部分でもありますが…、これは極端な話、たとえばやってないいたずらを『あなたがやったんでしょ』と言われて、やっていないのに『うん』と答えてしまい、『本人はやったといっている』などということにもつながりかねません」

「本人にとっての事実は何であるのか、本当はどう思っているのか、何を感じているのか、周りの人たちが上手にサポートをする必要がある」と玉井さん。ダウン症のある人たちの生活について、今後も継続的に調査して、実態を見守る必要があると話します。

さらにこの調査は、広がりを見せる「新型出生前検査(NIPT)」を意識したものでもあると話すのは、理事の水戸川真由美(みとがわ・まゆみ)さん(62)。

玉井さん(写真下)、水戸川さん(上段中央)

「生まれる前に胎児の染色体異常(ダウン症候群(21トリソミー)、エドワーズ症候群(18トリソミー)、パトー症候群(13トリソミー)の通常染色体数異常)を調べる新型出生前検査の広がりとともに、お腹の中の我が子の障害があるとわかった時、妊娠の継続や中断の選択を迫られる家族がいます」

「その時、根拠なく『障害があると困る』『よくわからないけど、なんだか怖い』などと、十分な情報を得ることがないままに判断をしてしまうことがあります」

「日本ダウン症協会としては受検の有無やその選択を問うことはなくとも、妊婦さんやご家族が困るとかこわいと感じていることが果たして本当にそうなのか、ダウン症のある人とその家族の実態を知ってもらった上で判断してほしい、感じることは様々ですが、判断材料の一つとしてほしいという思いも、この調査にはありました」

調査から見えてきたこと

「日本ダウン症会議」のワークショップでの一コマ。「この会議には、専門家や有識者に交じって、ダウン症のある人も当事者として参加します」

今回の調査を通じて見えてきたことは、どのようなことなのでしょうか。お二人に聞きました。

「ダウン症のある人の就労可能年齢のうち、最低賃金もしくはそれに近い金額で就労している人の割合は、8人に1人でした。多いと感じるか少ないと感じるかはそれぞれですが、私は、想像していたよりも多く感じました」と玉井さん。

「しかし逆に言えば、残りの7人は就労できていないということ。本人に働きたいと意志があっても、条件や環境がそれを阻んでいるのか、働くだけの能力が十分に開発されていないのか…、状況はそれぞれもちろん異なるとは思いますが、実態がわかったことで、働きたい意志のある人の就労のために何ができるかといった次のステップ、国としてダウン症のある人に対する政策も考えていけるようになると期待しています」

「ワイン飲めるぜ!」。日々の生活を楽しむ35歳、清野 俊昭(せいの・としあき)さん

「データを見ていると、共働き家庭が増えているのではないかという印象を受けました」と水戸川さん。

「ひと昔前は、障害のある子を持つお母さんは仕事を続けられない、仕事は辞めないといけないというイメージがありましたが、そこは大きく変わってきているようです。39年前、私が脳性麻痺の娘を産んだ時は、今と全く状況は違いました」

「当時、障害のある子を持ちながら仕事をしようと思ったら、人の手配やお金の工面…、すべてにおいて工夫が必要でした。母親が仕事を持つ事への理解、ましてや障害のある子がいながら仕事をすることに、世間は好意的ではありませんでした。徐々に社会的な支援や環境が整ってきたんだと感じています」

「社会を変えていくためには、当事者が声を上げていかなければならない」と二人。

「そうしなければ社会は変わっていかない。今回の生活実態調査は、日本ダウン症協会として、その思いも強くありました。『あなたのために』が、実態の見えない相手に対する一方的な押し付けになるのではなく、『一緒に』であるために、まず当事者たちのことを発信すること。知ってもらうことが、あたたかいサポートや寄り添いの実現につながっていくと信じています」

「障害のある人だけが固まって何かやるのではなくて、ダウン症のある人がどんどん、堂々と街に出ていくことで、知ってもらえることがある。今回の調査もそうなんですよね。まずは私たちが発信して、ダウン症のある人たちのことを知ってもらえたらいいなと思っています」

「社会とつながっていることが、本人の大きな自信につながっている」

ここからは、日本ダウン症協会が毎年制作している啓発ポスターの2023年のモデルにも選ばれた、秋田県在住の佐藤冴子(さとう・さえこ)さん(32)、母親の由紀子(ゆきこ)さん(63)にお話を聞きました。

パン屋さんで働く佐藤冴子さんがモデルになった、2023年の啓発ポスター

現在、秋田市内にある食パン専門店で働いている冴子さん。オープン当時から働き、今年で4年目だといいます。「(パンの)袋詰めの作業が楽しい。お客さんに渡す時と、レジ打ちが楽しい」と目を細めます。

「レジも間違わずに打てるようになり、本人はとても楽しそうです」と母親の由紀子さん。

「お客さんが来るととても元気な様子で、社会とつながっていることが、本人の大きな自信につながっているのかなと感じています。お客さんも皆さんやさしくて、『がんばって』と声をかけてくださいます」

「今年に入ってから、施設の都合で、商品の袋詰めやシール貼りといったバックヤードの仕事をメインでやるようになりました。本人としては接客にやりがいを感じ、自信を持っていたようなので、このところ少し元気がなさそうです」

日々の生活で、冴子さんが大切にしていること

佐藤冴子さん(写真左)と、母親の由紀子さん

自分で稼いだお給料で、休みの日はカフェへ行ってお茶をするのが好きだという冴子さん。

「本人にとっては『お給料をいただいた』ということが重要なようで、中身がいくらというのはあまり関心も興味もないようです。カフェのお茶代だけもらって、あとはそのまま私に渡しています。カフェでは一人の空間を過ごしたいようで、同じテーブルには座らせてもらえません(笑)。ケーキセットを、すごく時間をかけて食べています」

大好きなパフェを前にうっとり

「本人の中に、たとえば月曜日は何時から何をする、それが終わると何をする…と、事細かく、ものによっては分刻みで決めているルーティンがあって、日々、それに沿って行動しています。昨年おばあちゃんが亡くなったのですが、今でも毎週、金土日の16時には自宅から歩いてすぐのおばあちゃんの家へ一人で行き、そこで過ごすのが日課です」

「特に何をするということはなくて、自宅からカフェオレなどを持っていって飲んだりしながら、ゆっくり過ごしているようです。昼間はさんざん『ドライブに行く』と騒いでも(笑)、おばあちゃん家へ行くために、16時には帰って来ます」

「私がいなくなった後も、同じような生活を送ることができたら」

冴子さんの誕生日を祝う。「心室中隔欠損で生まれ、脊柱側湾症も患っている冴子の誕生日祝いは格別に嬉しいです。この笑顔が、ずっと続きますように」

今後を見据え、「生活の中での細かいルーティンやこだわりは、少しずつ減らしていかないといけないと思っています」と由紀子さん。

「私が元気に動くことができ、彼女に付き添えるうちはまだいいですが、そうでなくなった時には、また別の誰かと生活をしていかなければなりません。本人の中で生活へのこだわりが強く、施設のショートステイなどを勧めてみても嫌がります」

「昨年、ようやく本人も説得して、あるグループホームへ行きました。一晩泊まれたのは大きな前進でしたが、食べるものや時間にこだわりがあって、翌日の午前中には、迎えにきてと連絡がありました。先のこととなると、本当に考えてしまうのですが…、本人の中で決まりきってしまっているものを、少しずつ溶かしていかなければならないと思っています」

仲間の皆さんと。友人宅での忘年会での一枚

「徐々に私も歳をとり、一緒に行動することが少しずつしんどくなりつつありますが…、ダウン症のある子と一緒にいると、楽しい、おもしろいと感じることが日々たくさんあります」と由紀子さん。

「同じようにダウン症のある子を持つお母さんたちとつながることができ、家庭の悩みを赤裸々に相談できる、本当に良い友人を持つことができました。この子がいてくれたおかげで、毎日、充実した日々を送らせてもらっています」

「私が死んだ後も、この子が今と同じような生活を送ることができたら御の字ですが、まずは体に気をつけながら、そこに向けてがんばっていきたいと思っています」

ダウン症啓発を応援できるチャリティーキャンペーン

チャリティー専門ファッションブランド「JAMMIN」(京都)は、「世界ダウン症の日」に向けて、2/20〜2/26の1週間限定で「日本ダウン症協会」とコラボキャンペーンを実施、オリジナルデザインのチャリティーアイテムを販売します。

JAMMINのホームページからチャリティーアイテムを購入すると、1アイテム購入につき700円が団体へとチャリティーされ、ダウン症啓発ポスター制作や展示に必要な資金として活用されます。

1週間限定販売のコラボデザインアイテム。写真はTシャツ(左・700円のチャリティー・税込で3500円)。他にもバッグやキッズTシャツなど販売中

JAMMINがデザインしたコラボデザインには、今回、ポスターに選ばれた佐藤冴子さんが働くパン屋さんにちなみ、23種類のパンを描きました。23対ある染色体のうち、21番目が3つあることから発症するダウン症。ダウン症を表現するために、ひとつだけ「3つ」、食パンと瓶入りのバターを描いています。

JAMMINの特集ページでは、インタビュー全文を掲載中。こちらもあわせてチェックしてみてくださいね!

私たちの「ために」ではなく、私たちと「一緒に」。ダウン症のある人がより良く生きる社会のために〜公益財団法人日本ダウン症協会

「JAMMIN(ジャミン)」は京都発・チャリティー専門ファッションブランド。「チャリティーをもっと身近に!」をテーマに、毎週さまざまな社会課題に取り組む団体と1週間限定でコラボしたデザインアイテムを販売、売り上げの一部(Tシャツ1枚につき700円)をコラボ団体へと寄付しています。創業からコラボした団体の数は400超、チャリティー総額は8,000万円を突破しました。

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