児童虐待の相談対応件数は年々増加しています。令和2年度は20万5029件(速報値)で、前年度から1万1千件以上増えて過去最高となりました。貧困、虐待などの背景により児童養護施設で暮らす子どもたちや退所後の子どもたちをサポートし、経験や教育の機会を平等に担保したい。そんな思いで活動する団体があります。(JAMMIN=山本 めぐみ)

「子どもの手を借りて、僕たち大人の目を覚ます」

児童養護施設を訪問、段ボールと新聞紙で作った宝探しを子どもたちと楽しむ

一般財団法人「みらいこども財団」は、児童養護施設で暮らす子どもたちを支援しながら、困っている人に対して誰もが手を差し伸べられる社会のしくみを作りたいと活動しています。

「日本では子どもの貧困が進んでおり、それによって児童虐待も非常に増えています。児童養護施設で暮らす子どもたちの中には、施設を卒業してからもトラウマや経済的な理由から、苦しみを抱え続けながら生きている子が少なくありません」と話すのは、代表理事の谷山昌栄(たにやま・まさひで)さん(56)。この問題に関心を寄せ、何か行動を起こしたいという人に、きっかけや一歩を踏み出せる機会をつくりたいと活動を続けてきました。

お話をお伺いした谷山さん(左)と松村さん(右)

「逆説的かもしれませんが、『子どもの手を借りて、僕たち大人の目を覚ます』というか。虐待、またその大きな一因である貧困問題は社会の課題です。これらの課題を本当に解決するためには『親が悪い』と親だけの責任にするのではなく、私たち大人一人ひとりが少しだけやさしくなる必要があるのではないでしょうか」

「大人たちが今より少しだけやさしくなれる、そのためのしくみや場所さえあれば、困っている人に手を差し伸べ、一緒に笑顔になれる機会がもっともっと増えていきます。そうすれば、世界をよりよく変えていけると信じています」

大切なのは、子どもたちと「信頼関係を築く」こと

施設訪問で。子どもたちはボランティアで訪れたクルーと一緒に走り回ったり肩車をしてもらったり、自由に思い切り楽しむ

これまでにさまざまな企業の協力を得て、300を超える施設に洋服や家具、生活用品などを提供してきたほか、教育支援などを行ってきたみらいこども財団。しかし「活動の基盤は児童養護施設の訪問」と話すのは、スタッフの松村明香(まつむら・はるか)さん(27)。コロナ以前は最大で300名を超えるボランティアが在籍し、関西と関東の28の児童養護施設を、各施設毎月1回以上、毎月のべ4〜50回訪問していました。

「施設によって、また子どもたちの年齢によっても希望はまちまちなので、基本的にはノープランで訪問し、やりたいことを聞いて、一緒に鬼ごっこをしたり、ドッジボールをしたり、工作をしたりおしゃべりをしたり…。『何をするか』よりも『子どもに寄り添い、信頼関係を築く』ことが何より大切だと思っています」と谷山さん。

「目的は無理に訪問することでも、物品だけを提供することでもありません。子どもたちが施設を出た後も、自分の足でしっかりと生きられる支援をしたい。なので、ものに頼らない支援も心がけています。子どもたちが本当に必要としているのは、自分の存在を認めて受け入れ、寄り添ってくれる大人の存在なのではないでしょうか。人とつながり、関わることで生まれる感覚や感情を何よりも大切にしたいと思っています」

もう一度、人の素晴らしさを感じ、信じる心を取り戻して欲しい

「コロナ禍で全国から約3万枚のマスクの寄付をいただき、約200の施設にお送りしました。仕分けや梱包などボランティアクルーが頑張ってくれました。たくさんの方からのご寄付は非常に心強く、嬉しいものでした」

「僕たちが知っている限り、施設を卒業した子どもたちはとても苦労しています。幼少期の経験から、ほとんどの子どもたちは人を、大人を信じていません」と谷山さん。

「施設を訪問すると、『来月、お母ちゃんが迎えにきてくれるねん』と笑顔で話してくれる子がいます。家に帰りたくて仕方ない、そんな気持ちが、親でも施設の先生でもない僕たちにだからこそ出せる。でも、そんなふうに話してくれる子ほど、その願いがかなえられることはありません」

「人としての根本的な部分、もう一度人と関わり、信頼することの大切さやすばらしさを、施設にいる間に少しでも感じてもらいたい。そうでないと社会に出た後、どれだけお金があったとしても解決できない壁にぶち当たってしまうかもしれません」

「じゃあ、子どもたちにどうやって信頼してもらうのか。毎月訪問を続けることしか思いつきませんでした。信頼してくれないかもしれないけれど、それでも『こんな大人もおったんや』と思ってもらえる可能性が少しでもあるのであれば、やり続ける意味があると思っています」

施設を出た子どもたちの進学を支援する「オンライン里親」プロジェクト

「オンライン里親」プロジェクトで支援を受ける涼花さん(仮名)。「自分と同じように児童養護施設で育った子どもたちを支えたい」と心理学を学んでいる。「学費や生活費など自分で払いながら、正直『なんでこんなことばかり』とつらく感じることが多かったのですが、多くの方に支援していただき、気持ちに少しゆとりを感じられるようになりました」

18歳で施設を出た後、進学しても頼れる大人が周りにおらず、生活費や学費を稼ぐためのアルバイトが忙しく学業についていけなくなったり、体調を崩してアルバイトを休んだら家賃さえ払えなくなってしまったり…、ギリギリの状況で暮らしている子が少なくないと二人は話します。みらいこども財団では「親に頼ることが難しい子どもたちにも、機会を平等に届けたい」と「オンライン里親」プロジェクトをスタートしました。

「施設を退所した子どもの進学を、卒業までを何人かの大人たちが一緒になって経済的にサポートする取り組みです。オンライン里親になってくださった方たちには子どもたちの日々の学校生活や成長を綴った報告レポートを配信しているほか、直接オンラインで顔を見て話す場を設けています」

「子どもたちにとって、見ず知らずの人が応援してくれるということはとても大きな力になるようです。また里親になられる皆さんにも『こんな支援がしたかった』とすごく喜んでいただいています。支援する・されるという壁を超え、共に成長できるプロジェクトです」

「プライバシーを守るために子どもたちは仮名での支援ですが、卒業後は本名を名乗って、オンライン里親さんと遠くの親戚のような、温かい交流が生まれてくれたら嬉しいですね」

つないだ手を放さない子どもを見て自分を恥じた

施設訪問で行う「ペットボトルボーリング大会」のメダルを一つ一つ手作り。「子どもたちの喜ぶ顔を想像すると、楽しく作業できます」

経営者でもある谷山さん。この活動を始めた最初のきっかけは、社員の成長を望んだことでした。地域の清掃をしていると近隣から「ありがとう」と声をかけられ、嬉しそうにしている社員の姿を見て「感謝される経験を社員に体験してもらうことも、経営者として自分の役割なのだ」と感じたといいます。

そんな流れから、当時、児童虐待の問題が大きく報道されていたこともあって児童養護施設に物品を送るようになったものの、施設の子どもたちと直接的な交流はありませんでした。谷山さんは当時を「ただ単に『ええこと』をして終わっていた」と振り返ります。

しかしある時、谷山さんに転機が訪れます。付き合いがあった施設から「子どもたちが遊園地に行きたいと言っているから、遊園地に連れていってほしい」と頼まれたのです。

「当日子どもたちに会うと、体にアザがあったり、髪の毛が抜けていたり、顔が腫れていたり…、本当に虐待を受けてきた子どもたちでした。でもそんな子たちが、すごく一生懸命に生きている姿を見ました。一緒に遊園地を回った一人の子は、帰るまでずっと僕の手を握って放してくれませんでした」

「そんな姿を見て、僕は自分を恥じました。こんな子どもたちがいるというのは知っていたけど、見て見ぬフリをしていた。自分が本当にできることを何もやっていなかったと思いました」

さらにその時、谷山さんは自分が生きる意味を教えられたといいます。

「人間は誰も皆、役目を持って生まれてくると思うんです。僕の役目は何なんだろう、僕は何を成し遂げなければならないのだろうとずっと探していました。遊園地で子どもたちと過ごしたこの時、僕自身が子どもたちに心を変えられ、その時に初めて『ああ、これが自分の役目なのだ』と感じたのです」

「僕のような者でも、子どもによって気持ちを変えてもらいました。僕でもこんなに変わったのだから、他の方たちは、その機会さえあればもっともっと変わると思うんです。

僕でさえ心を変えられたのだから、社会は必ず変えられる。僕はそのためのきっかけをつくっていけるんじゃないか。その思いと信念だけは、まったく変わらずに活動を続けてきました」

「ごまかさずに本気で向き合い続ければ、その思いは、子どもたちに伝わる」

活動に賛同するスポーツジムのスタッフの皆さんと。「一緒に施設訪問をしたり、チャリティー企画のご寄付をいただいたりしています」

「児童養護施設で暮らす子どもたちが置かれている状況は、厳しいところも、報われないところもあるかもしれません」と谷山さん。

「到底考えられないような逆境かもしれないけれど、そこに縮こまるのではなく、逆境をバネに大きく羽ばたいてほしい。そのために、もう一度人を信じる力さえ取り戻すことができたら、僕たちをはるかに超えて、大きく成長する可能性を秘めた子どもたちなのではないでしょうか」

「逆境かもしれないけれど、それを成長のチャンスと捉えてもらうために、寄り添い、愛情をかけること。子どもたちに本気は伝わります。大人の僕たちがごまかさず本気で関わり続けたら、それは必ず子どもたちに伝わり、人はきっと変わることができると信じています」

団体の活動を応援できるチャリティーキャンペーン

チャリティー専門ファッションブランド「JAMMIN」(京都)は、みらいこども財団と11/8(月)~11/14(日)の1週間限定でキャンペーンを実施、オリジナルデザインのチャリティーアイテムを販売します。

JAMMINのホームページからチャリティーアイテムを購入すると、1アイテム購入につき700円が団体へとチャリティーされ、児童養護施設の子どもたちにオンラインを通じた学習や遊びの支援を届けるために、PCやタブレットなどを贈るために活用されます。

「JAMMIN×みらいこども財団」11/8〜11/14の1週間限定販売のコラボアイテム。写真はTシャツ(700円のチャリティー・税込で3500円)。他カラーやパーカー、キッズTシャツ、エプロンなども販売中

JAMMINがデザインしたコラボデザインには、ベンチに腰かけた子どもと大人が大空に向かってシャボン玉を一緒に飛ばす姿を描きました。シャボン玉をよく見ると、その中に広がっているのは無限の宇宙。一人ひとりが夢を抱き、時に儚く脆く感じることがあっても支えを感じながら、力強く精一杯生きる様子を表現しています。

JAMMINの特集ページでは、インタビュー全文を掲載中。こちらもあわせてチェックしてみてくださいね!

子どもたちと共に、やさしい未来へ。児童養護施設の子どもたちへの支援を通じ、人と人とが信じ合える豊かな未来へ思いをつなぐ〜一般財団法人みらいこども財団

山本めぐみ:JAMMINの企画・ライティングを担当。JAMMINは「チャリティーをもっと身近に!」をテーマに、毎週NPO/NGOとコラボしたオリジナルのデザインTシャツを作って販売し、売り上げの一部をコラボ先団体へとチャリティーしている京都の小さな会社です。2014年からコラボした団体の数は360を超え、チャリティー総額は6,000万円を突破しました。

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