2011年3月11日、東日本大震災が発生しました。あれから10年。被災地を拠点に、震災の起きた年から毎月、震災を忘れないためにという思いでキャンドルを灯してきたプロジェクトがあります。「失われたいのちを思う時にこそ、当たり前の日常の大切さや自分の『いのち』が見えてくる」。プロジェクトに込められた思いを聞きました。(JAMMIN= 山本 めぐみ)

「忘れないをカタチに」毎月11日にキャンドルを灯す

「仮設住宅から公営住宅ができ、南気仙沼の住民の方たちと命灯会を開催した時の一枚です。ここで灯させてもらえること、一緒に手を合わせることができることを本当にありがたいと感じました」(「ともしびプロジェクト」代表・杉浦さん)

毎月11日にキャンドルに火を灯し、東日本大震災のことを後世へと伝え続ける「ともしびプロジェクト」。震災から8ヶ月後の2011年11月より毎月欠かさず灯し続けてきました。

プロジェクトを主催する杉浦恵一(すぎうら・けいいち)さん(34)は愛知県出身。高校生の時に交通事故に遭ったものの一命を取りとめ、「生かされた意味」の答えを求めて、高校卒業後は日本各地を旅したといいます。

「道中、東北の方たちにも大変お世話になりました。24歳の時に震災が起き、『お世話になった恩を今こそ返したい』と思い、一週間後には被災地を訪れて支援活動をしていました」

2011年4月、福島県いわき市。「海岸沿いを走っている時に見つけた桜、この桜に勇気をもらった気がしました」(杉浦さん)

「少しずつ仮設住宅が建ち、人々の生活が一旦落ち着いてくる一方でまだまだ瓦礫だらけのところもあり、支援が必要だと活動を続ける中、被災した方たちに必要なものを尋ねると、多くの方が『忘れないでほしい』『忘れられるのがこわい』といったことを口にされました」

「最初から明確なビジョンがあったわけではありませんが、被災した方たちの『忘れないでほしい』という思いをSNSでつなぐことができるのではないかと思い、毎月11日の月命日にキャンドルを灯す『ともしびプロジェクト』をスタートしました」

気仙沼に移住した杉浦さん。2014年にはキャンドル工房も作り、活動の傍らキャンドルの制作・販売も行っています。

「灯す」行為の真ん中に、「私」がいる

2014年3月、気仙沼女子高校の生徒たちと手作りしたキャンドルで、取り壊しになる校舎で最後のイベントを開催。気仙沼のシンボル的な存在だった校舎も取り壊され、跡地には災害公営住宅が建設された

毎月11日にキャンドルを灯し続けてきた中で、杉浦さんはあることに気づきました。

「『誰かのために』何かをしたいという思いから始まったプロジェクトでしたが、毎月灯していく中で、『誰かのために』でありながら、実は『僕たち自身のために』灯しているのではないかと感じるようになったのです」

「『誰か』を想って灯すのだけれど、灯しているのは『私』である。灯している『私』側にも何かしら大きな作用がある、そういう世界観があるのではないかと感じるようになりました。僕自身、灯すことを誰のためにやっているのか、という問いがずっとありました。被災した方たちの忘れないでほしいという声、その願いをカタチにするために始めたけれど、疑問がずっと抜けなかった。それは『(灯す行為の)目的は誰か』ということではなく、『私と誰かとの境目はどこなのだろう』といった類の疑問でした」

岩手県一関市にある藤源寺の住職、佐藤良規さん(写真右)と

そんな時、杉浦さんは東日本大震災で津波に遭い、トラックの上で九死に一生を得た佐藤良規(さとう・りょうき)さんというお坊さんと出会います。親しくなって宗教の世界に触れるうちに、「灯すことで亡き人を想うこと、それは亡き人を想いながら『私』自身の生き方や『いのち』を問うことであり、それは仏教の『法要』の世界観と非常に似ている」と感じたといいます。

「亡くなった人にとっては、私たちが想ったり祈ったりすることに何か効果があるわけではありません。でも、想い、祈り、灯す、その行為の真ん中に『私』がいるということ、それは『私』にとって、亡き人を想いながら『生きるとは何か』を自らに問う行為であり、『いのち』とは何か、そこと向き合い、認識し直すことであるのではないかと。そしてこの行為は、生死を超え、時代を超えて『いのち』をつないでいくものだと感じました」

「今、どう生きるか」

ともしびプロジェクトは海外にも広がっている。東日本大震災の起きた3月11日にスペイン・バルセロナの海岸に集まった人たち

「灯す行為は誰のためでもなく、自分自身のためのものである」ということを身をもって感じた杉浦さん。そこから「ともしびプロジェクト」をさらに発展させた「命灯会(みょうとうえ)」が生まれました。

「命灯会では、参加してくださった方にそれぞれ2本ずつ、青いロウソクを灯してもらいます。1本は今ここには無いいのちのため、1本は今を生かされている私たちのいのちのため。そうして灯した時に生まれる『今、どう生きるか』という問いや感覚、空間を共有するような場です」

「生かされている私たちが『いのち』と向き合うことによって、初めて報われる魂があるのではないでしょうか。自然災害は止められません。生きている限り、死ぬことも止められません。だからこそ自分の『いのち』と向き合い、この瞬間を最大限に生きられたら。その時に、灯す行為が、その人に何か直感的に訴え、その人の『いのち』自体をも灯すきっかけになるのではないかと思っています」

震災の起きた2011年、福島県いわき市での炊き出しに参加する杉浦さん。「一生分のありがとうという言葉をかけてもらいました」(杉浦さん)

震災の後、混沌の中で被災した人たちが口にした「忘れないでほしい」という言葉。

「何を忘れないでほしいのだろう。なぜ忘れないで欲しいのだろう…、それが具体的に何を意味するのか、正直あまりよくわかりませんでした」と当時を振り返る杉浦さん。しかし今になって、思うことがあるといいます。

「それはもしかしたら、生かされた人として『本当のいのちを生きる』ということや『どう豊かに生きていくか』と問い続ける、そのことを『忘れないでほしい』ということでもあったのではないかと感じています」

「文明が発展し、社会は便利で豊かになりました。しかしその一方で、『いのち』を感じること、そのつながりを体感すること…、こういった部分が見過ごされ、ポッカリと抜け落ちてしまったと感じます。そして生きる力を見失い、焦り、孤独に陥る人がいるのもまた事実です。灯すことで、もう一度『いのち』のともしびを灯し直す。震災は、そんなメッセージをくれたのではないでしょうか」

千年先まで灯すために

名古屋にある「瑞因寺」で開催した命灯会での一枚。ともしびに手を合わせる子ども。「手を合わせる姿に美しさを感じました」(杉浦さん)

「千年に一度の大災害」と言われる東日本大震災。「であれば僕たちもまた、千年先まで灯していく必要がある。同じ過ちを繰り返さないためにも、千年先まで灯し続けることで伝えていく必要がある」と杉浦さんは訴えます。

「大きな火というよりは、小さなたくさんの火。集まること、つながること、それによってきっと見えてくるものや生まれるものがあると思っていて、日本だけでなく、世界中で灯したいと思っています。国や文化、宗教や宗派の違いも超え、ともに灯す。その時に生まれる、そこにしかない空間や概念を共有した先に、想像もつかない、また新たな世界観が生まれるのではないかと思っています」

「困難にある時、人は『自分だけが苦しい』と思いがちですし、そのことがさらにその人を孤独に陥らせることがあります。でももし、誰かと灯すことができたとしたら、もしかしたら『何一つ、つながりあっていないものはない』という『いのち』そのものの存在に思いを馳せることができるのではないでしょうか」

「命灯会に特別に作法はありませんが、それぞれのやり方で明かりを灯し、手を合わせる姿になんとも言えない美しさがあります」(杉浦さん)

「『伝統』という言葉がありますよね。これはその昔、『伝燈』、つまり『燈(とも)し伝える』と書いたそうです。人の手によって油が注がれ新しく継ぎ足されながら、途絶えることなく続いていく。それはやがて語り継がれるものになり、すべてを超えて千年先をも照らしていく。東日本大震災という一つの天災を機に生まれたこの明かりを通して、あの出来事から復興したという事実を伝えていく、それは人類の一つの希望の光となっていくのではないでしょうか」

「東日本大震災は、前代未聞の大きな困難の中で、いのちの大切さ、生きることの大切さを教えてくれた出来事だったのではないでしょうか。暗闇の中で、それでも身を寄せ合って火を灯し、希望を見い出して歩んできたその姿は、まさに生きる力、『いのち』そのものを私たちに教えてくれるものではないでしょうか」

「あの日を忘れない」。311のともしびを灯すチャリティーキャンペーン

チャリティー専門ファッションブランド「JAMMIN」(京都)は、「ともしびプロジェクト」と1週間限定でキャンペーンを実施し、オリジナルのチャリティーアイテムを販売します。

3/1〜3/7の1週間、JAMMINのホームページからチャリティーアイテムを購入すると、1アイテム購入につき700円が「ともしびプロジェクト」へとチャリティーされ、東日本大震災の月命日である11日に、311のキャンドルを灯すために使われます。

「JAMMIN×ともしびプロジェクト」3/1〜3/7の1週間限定販売のコラボアイテム(写真はロンT(カラー:ダークグレー、価格は700円のチャリティー・税込で3800円)。他にもTシャツやパーカー、トートバッグやキッズTシャツなど販売中

JAMMINがデザインしたコラボデザインに描かれているのは、灯された2本のキャンドルと、それを包み込む手。2本のキャンドルは「大切な人」と「自分自身」の「いのち」、包み込む二つの手は「いのち」を見つめる自分自身の手でもあり、過去から未来へ、また人から人へと、時代や生死を超えてつながれ、紡がれていく希望の「いのち」の象徴としても描かれています。

チャリティーアイテムの販売期間は、3/1〜3/7の1週間。JAMMINホームページから購入できます。

JAMMINの特集ページでは、インタビュー全文を掲載中!こちらもあわせてチェックしてみてくださいね。

「忘れないをカタチに」。東日本大震災から10年、「いのち」を灯し続ける〜ともしびプロジェクト

山本 めぐみ(JAMMIN):
JAMMINの企画・ライティングを担当。JAMMINは「チャリティーをもっと身近に!」をテーマに、毎週NPO/NGOとコラボしたオリジナルのデザインTシャツを作って販売し、売り上げの一部をコラボ先団体へとチャリティーしている京都の小さな会社です。2014年からコラボした団体の数は300を超え、チャリティー総額は5,000万円を突破しました。

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