3月21日は、国連が定めた「世界ダウン症の日」。国際ダウン症連合(DSi)が発表した今年のキーワードは「Connect(つながる)」。昨年からの新型コロナウイルスの流行により、リアルな場で人と会うことが難しくなりました。世界中がロックダウンするという前代未聞の出来事、大きな不安の中で見えてきた「つながる」ことの大切さとは。(JAMMIN=山本 めぐみ)

「コロナ禍でも、彼の存在に救われた」

「行善寺 やぶそば」で働く成之坊晃生さん。地域の方たちがおいしいお蕎麦を食べに訪れます

最初にお話を聞いたのは、ダウン症のある成之坊晃生(なりのぼう・あきお)さん(20)と、お母様の靖子(やすこ)さん。晃生さんは、石川県白山市にある社会福祉法人「佛子園(ぶっしえん)」の中にある蕎麦屋さん「行善寺 やぶそば」に勤務しています。

洗い物や床の掃除だけでなく、毎日夕方の鐘つき、時々配膳もするという晃生さん。

「佛子園さんの母体が行善寺というお寺なので、このお寺の鐘を毎日夕方5時につくというお仕事を任せていただいています。彼が就職した時に、最初にいただいた仕事です。

近くに住んでいるので時々風にのって彼がつく鐘の音が聞こえてくるのですが、鐘が鳴るのは5時5分のこともあれば10分のことも(笑)。地方ならではの良いところで、ゆったりした時間が流れています」と靖子さん。

夕方の鐘をつく晃生さん。足元にあるのは、鳴らした鐘の数を数えるための空き瓶のキャップ

晃生さんに「お仕事は楽しいですか?」と尋ねると、笑顔で「楽しい!」という答えが返ってきました。

しかし昨年、新型コロナウイルス感染症拡大防止のために緊急事態宣言が出た1ヶ月間ほどは、晃生さんは心疾患があるため自主的に仕事を休んだといいます。

「寂しくなかったけど、寂しかった」と当時を振り返る晃生さん。休んでいる間は自宅で過ごし、動画や大好きな嵐のライブ映像を見たり、歌ったり踊ったり、風呂掃除や洗濯物をたたむなどの家事を手伝ったりして過ごしたといいます。

ステイホーム中、大好きな「嵐」の歌をカラオケで楽しむ晃生さん

「誰か家にいたので、そこまで寂しいという環境ではなかったと思います。ただやはり外出しなくなった分、体重は2キロほど増えました。でも歌と踊りが大好きで、大好きな嵐の曲を完全コピーしてキレッキレで激しく1時間ほど踊るので、体力を使うし、見ているこちらも楽しく、元気にしてもらっていました」と靖子さん。

「私たち家族も、晃生さんに救われています。先が見えない不安の中で、彼の純粋無垢な言葉や態度に、どれだけ笑顔にしてもらったかわかりません」

地域の中でつながりを築き、生きていく

今年二十歳になった晃生さん。成人式にスーツを着て、職場の皆さんとの記念写真

今年二十歳になったばかりの晃生さん。「生まれ育った地域になじみ、つながりを築いていってほしい」と靖子さんは話します。

「そう願うのは、親である私たちの行く末を思うからです。私たちが亡くなった後を考えると、彼が生きていくためには地域とのつながりが非常に大切ということが頭の中にありました。私たちが年老いた後、または亡くなった後、彼が彼らしく生きていく、そのためのつながりを築いてほしい。今の職場が、ありがたいことに彼の良さをたくさん引き出してくれました。おしゃべりが好きなので、チャンスがあれば、接客にもどんどん挑戦してほしいですね」

「会えなくても、オンラインでつながれた」

「世界ダウン症の日」に合わせ、公益財団法人「日本ダウン症協会」は毎年、「世界ダウン症の日」記念イベントを開催してきました。しかし昨年は、コロナの影響によってオンラインでの開催に切り替え、今年もオンライン配信というかたちで2月11日に開催されました。

「世界ダウン症の日キックオフイベント2021」は、コロナのためほとんどの出演者はリモートでの参加、司会者もソーシャルディスタンスを保っての開催となった。写真はイベント終了後、共に司会を務めるあべけん太さんより復帰を祝って贈られた色紙を手にする笠井信輔さん

今回のイベントに特別な思いで参加した方がいます。フリーアナウンサーの笠井信輔(かさい・しんすけ)さん(57)。2012年より司会者としてこのイベントに携わってきた笠井さんですが、昨年は一視聴者として、病室からこのイベントを見守っていました。

フリーアナウンサーに転向した2019年10月、「ステージ4」の悪性リンパ腫であることが判明し、12月から4ヶ月にわたる闘病生活を送った笠井さん。闘病の末、悪性リンパ腫は完全寛解し、今年もまたこの舞台へと戻ってこられたのです。

今年のキックオフイベントのバッグステージ。司会を務めた笠井さん(写真左)、タレントのあべけん太さん(写真中央)、フジテレビアナウンサー上中勇樹(写真右)さん

「この一年で戻ることができたことが、まずは本当に幸せ」と笠井さん。

「昨年は病室に居て、『ああ、参加できなかったな』と本当に悔しい思いをしました。『来年は絶対戻るんだ!』と奮起しましたよね。そして戻ってくることができた。困難を克服することができたんだなと感じています」

退院後、自宅療養中もコロナの感染リスクを避けるためにご家族と別離生活を送っていた笠井さん。「つながる」ことをどんなふうに感じていたかを尋ねました。

笠井さんはSNSを通じ、闘病のありのままを発信し続けた。抗がん剤治療による倦怠感に苦しむ姿

「2019年12月に入院した当初はコロナのコの字もなくて、最初の1ヶ月は家族や友人、知人や同僚…、本当にたくさんの人がお見舞いに訪れてくれて、つらいながらも賑やかに支えてもらいました。それが年が明け、緊急事態宣言が出ると家族でさえも面会しない方が良いということになりました。病院の看護師さんや先生にもたくさん支えてもらったけれど、『つながる』ということがどれだけ大切かを実感しましたね」

「だけど一方で、オンラインでつながり続けることができたんです。大学時代の友人が『zoomお見舞い』を企画してくれて皆でワイワイ話したり、LINEやメールで知人家族ともつながって、本当に力になったし、助けてもらいました。会えない、それは確かにそうなんだけど、だからこそオンラインでつながれた。これはとても大きなことだと思います」

自らの意志でつながっていくことが大切

写真は退院後の2020年5月、息子さんの17歳の誕生日の1枚。「1階では家族が誕生日会、2階では自宅療養していた私がコロナの感染リスクを考えセルフロックダウン中。しかしテレビ電話をつなぎっぱなしにしておくと、まるで自分が1階の食卓にいるように、映像を見ながら会話して食事ができるのです」(笠井さん)

「自分ががんになって初めて、仲間同士でつながることがこんなにも力になるのだということに気づきました」と笠井さん。

「その時に、ITが役に立ちました。どんどん活用したら良いと思います。中にはITに苦手意識を持っている方もいるかもしれません。あるいは病気や障がいの度合いによっては、『人様の迷惑になるのでは』とつながること自体を避けている方もいるかもしれません。でも僕は、オンラインはリアルな場よりもずっと参加しやすいと感じているんです」

「オンラインの集まりにまず参加してみる。カメラもマイクもオフにして話を聞くだけでもいいんです。もし会話に加わりたくなったら、オンにして加わればいいんです。逆に『合わないな』と感じたら、退出すればいい。苦手意識を持たずに『まずはやってみる』という姿勢が大事だと思います」

「リアルな場よりも参加しやすいからこそ、意思を持って『自らつながっていく』ということを、より意識しなくちゃいけない。人とリアルに会えない今は、『偶然会った』とか『声をかけられた』みたいなことがなかなか少ないですから。勇気を持って『自らつながっていく、つないでいく』という姿勢が必要だと感じています」

「勇気を出してつながることで、
何かが変わるかもしれない」

「入院中はまさに外に出られません。コロナの緊急事態宣言が出た際は、そのことを逆手に『#うちで過ごそう』を発信しました」(笠井さん)

では、笠井さんが「つながる」ことで得たものは何だったのでしょうか。

「一言でいうなら『共感』でしょうか。我々が生きていく上で大事なのは、すべて共感です。それは感情の共有であり、出来事の共有でもあります。つながりは生きる力になるものであり、それがなければ人は孤立していきます」

「ITが発達したからこそ、人がつながりやすくなって共感しやすい環境が生まれ、孤立も防ぎやすくなっています。また今は、コロナの時代で人と接触できないからこそ、マイノリティの方や表に出ていくのが難しい人たちともつながりやすくなっているのではないでしょうか」

「インターネットの世界は良くも悪くも共感が生まれやすいです。履き違えることなく上手に使いながら、感謝と謙虚さを失わず、良い方向で共感を生み、仲間を増やしていきたい」と笠井さん。

「ダウン症やその他の障がいのある方のご家族の中には、障がいをオープンにしていない方もいらっしゃるかもしれません。でももしかしたら、つながることによって何かが変わる可能性もあります。まずは同じ境遇にある仲間たちの世界に出て行ってみませんか。

『迷惑がられるかもしれない』とか『うちの子は意思疎通できない』とか、そんなのは関係ないです。仲間は皆、そんなの百も承知です。優しいです。だから勇気を出して、まずは仲間の中でつながってみませんか」

「つながりは、生きる力」

2017年のキックオフイベントにて、ダウン症のある書家・金澤翔子さんの書「絆」の載った日本ダウン症協会のパンフレットを手に、会場の皆さんと。「大勢で一緒に撮った一枚。また集える日を気長に待ちたいですね」と日本ダウン症協会理事の水戸川真由美さんは話す

昨年11月に発売された、自らの闘病生活を綴った著書『生きる力 引き算の縁と足し算の縁』(笠井信輔著、KADOKAWA)の中で、困難の中でもプラスを見つけ、逆境を乗り越えていく「足し算の縁」について語っている笠井さん。それは10年前、アナウンサーとして報道に携わる中で出会った、東日本大震災の被災地の人たちから学んだ姿勢だと話します。

「『皆さんから学ばせてもらったことを、今度は自分が生かしていこう』と、がんが発覚した早い段階で意識を切り替えられたのは大きかった」と笠井さん。

「コロナ禍の今は特にそうですが、『何でこうなのかな』って思うことが多かったり、良いことがあまりなかったりしますよね。だけど、自分に困難が降りかかってどん底に落ちた時こそが捉えどころではないでしょうか。自分もだけど、『人間、どん底だっていいことあるじゃないか』と思える瞬間があります。悪性リンパ腫のステージ4、しかもフリーランスになったばかりというタイミング、どうしようもなくなったけど、だけどやっぱり『がんになったからこそこうなれた』という自分を探してみる」

インタビューでの一枚。日本ダウン症協会理事の水戸川さん(上段右)も一緒に、笠井さんの著書を手に記念撮影

「『なんで自分ががんなんだ、なんで入院しなきゃいけないんだ』と思うんだけど、病室でつけたテレビが面白かったり、食事が美味しかったり…、最悪の時にもプラスのことは起きている。ほんの少しずつでいいから、それを捉えていくんです。貯金は何も千円や1万円じゃなくても、1円からできるんですよね」

「その時に、『つながる』ことで意識や考えが変わることもあれば、『このままでいいんだ』と自信を持てることもある。つながりはやはり、生きる力になっていくんだと思います」

「つながる」をテーマにした2021年の「世界ダウン症の日」を応援できるチャリティーキャペーン

チャリティー専門ファッションブランド「JAMMIN」(京都)は、「日本ダウン症協会」と1週間限定でキャンペーンを実施し、オリジナルのチャリティーアイテムを販売します。

2/22〜2/28の1週間、JAMMINのホームページからチャリティーアイテムを購入すると、1アイテム購入につき700円が「日本ダウン症協会」へとチャリティーされ、今年の「世界ダウン症の日」啓発ポスターを日本各地に届けるための資金や、オンラインにて開催されたキックオフイベントを引き続き多くの方に楽しんでもらうための動画技術費に使われます。

「JAMMIN×日本ダウン症協会」2/22〜2/28の1週間限定販売のコラボアイテム(写真はロンT(カラー:ベージュ、価格は700円のチャリティー・税込で3800円)。他にもTシャツやパーカー、トートバッグやキッズTシャツなど販売中

コラボデザインには、乾杯するさまざまなグラスを23描きました。その中に、一つだけ2つではなく3つで乾杯するクリームソーダが。「21トリソミー」、ダウン症が23対ある染色体のうち1つだけ2つではなく3つあることから発症することを、明るくポジティブに表現したデザインです。

ダウン症のある方たちが、幼少期から青年期、そして年老いてからも暮らしの中で地域に溶け込み、また訪れる先々でグラスを重ね、共に楽しさを分かち合う仲間に恵まれる、つながりあふれた社会になるように。そんな思いも込められています。

チャリティーアイテムの販売期間は、2/22〜2/28の1週間。JAMMINホームページから購入できます。JAMMINの特集ページでは、インタビュー全文を掲載中!こちらもあわせてチェックしてみてくださいね。

「つながりは、生きる力になる」。3月21日「世界ダウン症の日」に向けて〜公益財団法人日本ダウン症協会

山本 めぐみ(JAMMIN):
JAMMINの企画・ライティングを担当。JAMMINは「チャリティーをもっと身近に!」をテーマに、毎週NPO/NGOとコラボしたオリジナルのデザインTシャツを作って販売し、売り上げの一部をコラボ先団体へとチャリティーしている京都の小さな会社です。2014年からコラボした団体の数は300を超え、チャリティー総額は5,000万円を突破しました。

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