子どもを持つがん患者同士がつながれるコミュニティサイトを運営する一般社団法人「キャンサーペアレンツ」の代表理事西口洋平さんが8日、40歳で死去した。胆管がんを患っていた。西口さんの活動について紹介した記事(2019年4月9日掲載)を再掲する。
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一生のうちに二人に一人が診断されるという「がん」。今健康な人でも、決して他人事の病気ではありません。一方で、がんを患う人の就業の継続や、地域・知人などのコミュニティとどう関わっていくかなど、がん患者が社会とつながっていくには高いハードルがあるといいます。子どもを持つがん患者同士がつながれるコミュニティサイトを運営する一人のお父さんに話を聞きました。(JAMMIN=山本 めぐみ)
子どもを持つがん患者同士が集まれる場を
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「お子さんがいるということを前提に、がん患者さんがサイトに登録すると、投稿したり他の人の投稿を閲覧したりすることができます。利用者の年齢やがんの種類、ステージのほか、お子さんの年齢や配偶者の有無など細かい検索ができて、自分と近しい境遇の人を見つけることができるのが大きな特徴です。さらに、患者さん同士が直接メッセージ交換もできます。サイトの利用は無料。現在は全国に3,000人ほどの会員がいて、いろんなやりとりが生まれています」
そう話すのは、代表理事の西口洋平(にしぐち・ようへい)さん(39)。西口さん自身も、子どもを持つがんの当事者。2015年、体調不良から病院を受診し、ステージ4の胆管がんであると告げられました。
「がんに対する先入観や誤解、知識不足による大きなギャップがあると感じています」と西口さん。「がんと診断されても、24時間ずっと治療をしているわけじゃない。その人の生活には、子どもと遊んだり、勉強を教えたり、仕事をしたり、将来のことを考えたり…、病気以外の時間もたくさんある」と話します。
がん患者の生活に近い情報の調査・発信も
「病院で治療の話はしますが、それ以外の話はしません。でも、患者さんが生活の中で実は困っているという事実があります」と西口さん。キャンサーペアレンツでは会員にアンケートをとって、がんの当事者の悩みや困りごとなどの現状を情報としてまとめ、社会に発信する活動も行っています。
「たとえば、運動や食事について。術後治療をしながらどこまで運動をしたらいいのかとか、食欲がない時にどうやってカロリーを摂取したらいいのかといった情報は、患者さんも知らない状態。私たちがサイトを通じて調査してみたら、やはり9割の患者さんがそういった情報を得ることができなかったと回答しました」
「子どもがいる患者さんの生活を考えると、お金についての悩みもある」と西口さんは指摘します。
「入院や治療のために仕事ができなくなると収入が減りますが、子どもがいる場合、教育費をどうしようかという悩みが出てきます。『旅行費や娯楽費は削れるが、教育費はできれば本当は削りたくない』という思いを抱えている親御さんがたくさんいるのではないかと調査を行いました」
「『がんになったからこうだ』という一言だけでは片付けられない様々な影響があるという実態を、調査結果を通じてたくさんの方に知ってもらいたいと思っていますし、患者さんの実態を知ることで、困りごとを解決するための方法が見えてきます。他にも薬のことや仕事のこと、子育てのこと…テーマはまだまだいろいろあると思っています。正しい情報がきちんと伝わるという点では、患者さんにとっても企業にとっても有益だと感じています」
「若くしてがんになるのはマイノリティー。悩みを相談できる場所がなかった」
西口さんに、団体を立ち上げたきっかけについて聞いてみました。
「2015年に僕自身がんと宣告された時、身近に相談できる人がいませんでした。がんと告知された時、子育てのこと、治療のこと、仕事のこと、家族への告知…、本当にいろんな悩みが出てきます。しかし当時、若くしてがんになるというのはまだまだマイノリティーでした。子どもがいて、夫婦共働き。日中は働いているか子育てをしているかで、同じ境遇の人と会ったり語らったりできる場所がありませんでした」
「僕は、娘への告知をどうするかですごく悩みました。同じように悩んでいる人がどこかにいるのではないかと思い、子育て世代のがんの当事者たちが悩みを話し合えるようなサイトを作ろうと思ったのがきっかけです」
患者同士が自由につながれる
コミュニティサイト「キャンサーペアレンツ〜こどもをもつがん患者でつながろう〜」では、「治療のアドバイスはしない」「意見を強要しない」といった最低限のルールが定められている以外は、患者同士自由につながることができるといいます。
「同じがん患者同士でもみんな環境や価値観は違うし、正解はない」と西口さん。
「当事者同士が情報交換しながら『そんな考え方もあるんだ』とか『こういうやり方もあるんだ』と多様な意見に触れられるのは、このサイトならではの特徴ではないかと思います。正解を見つけることではなく、一人ひとりが『自分はこうしよう』と納得して決断していくためのお手伝いができたらと思っています」
病気になった瞬間に、「病気の人」になってしまう
「僕もそうだったんですが、病気になった瞬間に『病気の人』になってしまうんですね」と西口さん。
「本人も周囲も『病気だから』が負担になる。相手がそれを望んでいればいいですが、大抵の人はそれを望んでいないのではないかと思います。『病気だけど、なにか?』でいいんじゃないか。そう多くのがん患者さんが思っているのではないかと思います」
「健康だった人が、いきなり病気になって『あっち側』から『こっち側』になるわけです。健康だった時は『がんって怖い病気でしょ。死んでしまう病気でしょ』と思っているから、その意識があるがゆえになかなか周囲にもカミングアウト出来ない。
最近、有名人の方がブログなどでがんを公表されることが相次ぎました。『負けるな』とか『治療に専念してください』と言っている人たちが、じゃあ次の日にがんと宣告されて、そういう言葉をかけてもらいたいでしょうか」
「がんと診断されたからといって、がんがその人の生活や人生の中心であるのか。がんが病気としてではなく、生活の中の個性として受け止めてもらえるような環境を作っていけたらと思っています」
サイトで出会った仲間が支えてくれた
西口さんががんであると告げられて4年、サイトを立ち上げて3年の月日が流れました。がんと告知された当初は、治療のこと、周囲の人にどう伝えるか、仕事をどうするか…、全てが初めてのことだらけでストレスも大きかったといいます。
「『妻も子どももいてまだ若い僕がどうして』とか『病気になったのは、あれのせいだったんじゃないか』とか、整理できずやるせない気持ちがずっとあって、悲劇の主人公だと思っていました」
「だけど、サイトをオープンしてみたら同じような人たちがたくさんいました。ここでの出会いが、それまでの『自分はなんてかわいそうなんだろう』『なんで自分だけなんだろう』という思いを消してくれました。たくさんの同じように悩み、生きる人たちに出会い、『僕一人が悩んでいる場合じゃない』と思わせてくれたんです」
「僕たちがやっていることって、ただがんの患者さんがやっているというだけで、特に変わったことはやっていないんですよね。がん患者にだって、子育てや仕事の悩みもあれば将来の悩みもあるし、日々の生活の中でちょっとしたいろんな悩みがある。人として当然のことで、それを『がん患者がやっている』というだけ」
「そう考えると、『がん患者だから』という壁、『あっち側』と『こっち側』という意識の壁がなくなれば、いつか僕たちの活動は必要ではなくなると思っています。その壁が本当にすべて無くなるのかはまだわかりませんが、そこを目指して今後も活動していきたいですね」
キャンサーペアレンツの活動を応援できるチャリティーキャンペーン
チャリティー専門ファッションブランド「JAMMIN」(京都)は、「キャンサーペアレンツ 」と1週間限定でキャンペーンを実施し、オリジナルのチャリティーアイテムを販売します。「JAMMIN×キャンサーペアレンツ」コラボアイテムを1アイテム買うごとに700円がチャリティーされ、キャンサーペアレンツが運営するサイトをより使いやすくするための開発費や、オフ会開催のための資金となります。
コラボデザインに描かれているのは、大小様々な植物が生い茂った浮島。浮島はキャンサーペアレンツのコミュニティを、植物は一人ひとりの生き方を表現しており、それぞれがつながりながら、自分らしく生きていく様子を表しています。チャリティーアイテムの販売期間は、4月8日~4月14日の1週間。チャリティーアイテムは、JAMMINホームページから購入できます。
JAMMINの特集ページでは、インタビュー全文を掲載中!こちらもあわせてチェックしてみてくださいね。
・「つながりは、生きるチカラになる」。がん患者同士がつながるサイトを通じて「生きにくさ」を解消したい〜一般社団法人キャンサーペアレンツ
山本 めぐみ(JAMMIN):
JAMMINの企画・ライティングを担当。JAMMINは「チャリティーをもっと身近に!」をテーマに、毎週NPO/NGOとコラボしたオリジナルのデザインTシャツを作って販売し、売り上げの一部をコラボ先団体へとチャリティーしている京都の小さな会社です。創業6年目を迎え、チャリティー総額は3,000万円を突破しました。