「SODA(ソーダ)」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。「聞こえない・聞こえにくいきょうだい」をもつ「聞こえるきょうだい」を表す言葉で、「Sibling Of Deaf Adult/Children(シブリング・オブ・デフ・アダルト/チルドレン)」から頭文字をとって「SODA」。

聞こえない弟と育つ中で、周囲の対応に違和感を抱えてきた一人の女性が、「対等な関係を築きたい」と「SODAの会」を立ち上げました。(JAMMIN=山本 めぐみ)

「あなたが助けてあげて」というプレッシャー

「同じSODA(聞こえるきょうだい)でもきょうだいという関係への思いはさまざま。感じている気持ちはどれもその人の大切な気持ちです。また育った環境やどのような体験があるかによるところが大きいと思います。どのきょうだいでもそうですよね」(藤木さん)

障がいや病気のあるきょうだい(※「きょうだい」とは、上下男女のない兄弟姉妹を意味する言葉)と育つ中で、「あなたには障がいがないのだから」「あなたががんばりなさい」という周囲からの目や態度が、きょうだい間の関係性に生涯にわたって影響することがあるといいます。

「聞こえないきょうだいをもつSODAソーダの会(以下「SODAの会」)」代表の藤木和子(ふじき・かずこ)さん(38)は、3歳年下の聞こえない弟と育つ中で、さまざまな疑問や葛藤を感じてきました。

「聞こえる側は『聞こえる側が聞こえない側を助けるのは当然』とか『あなたは聞こえるんだからがんばって』といった周りからのプレッシャーを感じて育つことが多いです。一方で聞こえない側も、特別扱いされることを実は望んでいなかったりします。聞こえる・聞こえないで分けるのではなく、時にはケンカしたり助けあったりしながら、きょうだいとして”対等”な関係を築こう、というメッセージを発信しています」

「SODAの会」代表藤木さん(右)と、藤木さんが理事として共に活動するNPO法人「インフォメーションギャップバスター」理事長であり、聞こえない当事者でもある伊藤芳浩(いとう・よしひろ)さん(左)

「SODAの会」では、聞こえるきょうだいだけでなく聞こえないきょうだいとその家族、支援者らと集まり、体験や悩みなどを自由に語り合うことで互いの思いをシェアする傍ら、「SODA(ソーダ、聞こえるきょうだい)」の存在をより多くの人に知ってほしいと活動しています。

「聞こえるきょうだいの中には、自分は聞こえる申し訳なさだったり、周囲の大人が自分には目を向けてくれない寂しさだったり…、いろんな感情を抱えて生きている人がいます」

「一方で聞こえないきょうだいも、『自分が聞こえないせいで、実はきょうだいはいろいろ我慢しているのではないか』『寂しかったんじゃないか』など、『聞こえる側のきょうだいであるSODAの気持ちを知りたい、話したい』と感じています」

「きょうだいとして対等だと思う時もあれば、自分や相手の立場をかわいそうだと思ったり大変だと感じたりする時もある。それは聞こえる・聞こえないにかかわらず、どちらも同じように抱いてきた思いです。しかしそのことを互いに胸に秘めたまま、共有できるような場がこれまでありませんでした」

互いの思いを知らないまま、疎遠になってしまうことも

藤木さんは弁護士として優生保護法弁護団を担当している。写真は2020年6月、東京地方裁判所にて、ろう者の弁護士である松田崚さんと

弁護士として、聴覚障がいのある人やその家族の問題にも携わってきた藤木さん。ここでも「聞こえるきょうだいと聞こえないきょうだいが、互いの思いを打ち明けられる場がいかに限られているかを痛感した」と話します。

「たとえば過去に何度かあったケースですが、親御さんが亡くなって遺産相続することになって初めて、聞こえるきょうだいと聞こえないきょうだいが、手話通訳の方を呼んで話し合う場を持たれたことがありました。その時になるまで、面と向かって話し合ってきたことがなかったのです」

「手話通訳を介して話をしてみると、互いに『そんなことを思っていたの?!』ということがたくさん出てきます。聞こえない側は『(聞こえないために)家族の会話に入れない』『家族から言われるのはいつも要約された結論だけ』といった疎外感やさまざまな我慢をしてきているのですが、聞こえる側も『昔からいつも聞こえる自分が譲らなければならなかった」』『(聞こえないきょうだいが)聞こえないという理由で甘やかされて特別扱いされてずるい、不平等だ』といった思いを抱いていたりします」

「SODA」とは英語の「聞こえない人のきょうだい」の頭文字を取った言葉。「飲み物のソーダと同じなので子どもたちも含めて皆さんすぐに覚えてくださいます。私にとってソーダは、仲間との乾杯や、頑張るぞ!という時の特別な飲み物です」と藤木さん

「聞こえるきょうだいは、子どもの時に、聞こえないきょうだいの病院や療育センターについて行って、自分だけずっと待合室で待たされたり留守番で置いて行かれたりした経験があると、何が起きているのか、何をしているのかがわからず不安です。そんなことが積み重なって、不安な気持ちが誰にも受け止められないままだと、『聞こえないきょうだいともう一切関わりたくない』と拒絶してしまうこともあるのです」

「私自身を振り返って幸運だったと感じるのは、弟に付き添って療育センターに行くと、スタッフの方たちが『お姉ちゃんも来てくれた』と歓迎してくれたんですね。入り口がよかったので、今も聞こえない当事者や支援者の方々と一緒に活動しているのだと思います。もしあの時、誰にも声をかけてもらえず、大人たちが弟につきっきりで一人で待つだけだったら、もう関わりたくないと感じただろうし、嫌になっていたと思います」

きょうだいという「特別な関係性」

「きょうだい同士は遠慮しない」と藤木さん。

「聞こえる・聞こえないという線引きの前に『きょうだい』という関係性があるからです。だからもしかしたら、聞こえるきょうだいは、聞こえないきょうだいの『聞こえない』という事実を、ある意味軽く見てしまっているようなところもあるかもしれません」

「だけど、聞こえる・聞こえないよりも前に『きょうだい』であり、相手の人柄や性格があるのだということを、身をもって感じてきたのが、聞こえるきょうだいだと思います。怒られたり都合の悪いことを言われた時に、(聞こえないことを理由に)わからないフリをしたりする、聞こえないきょうだいのズルもすぐ見抜きます(笑)。それはズルいなあとかダメだなあとか思ったりする、そこにあるのは”対等”な関係性なのだと思います」

社会の不平等な扱いが、きょうだい間に溝をつくってしまうことも

「SODAの子どもたちと話していると、自分もそうだった!と思ったり、ハッと考えさせられたり、ほほえましくなったりします。やはり子ども時代の入り口が大切だと強く思います」(藤木さん)

しかし一方で、「周囲を含めた関係になると、”対等”というわけにはいかなかった」と藤木さんは話します。

「特にひと昔前は、障害のある人に対してかわいそうという意識が強く、親御さんが聞こえないきょうだいを特別に扱うケースも少なくなかったと思います。聞こえる・聞こえないという理由だけで、同じ家庭で育つきょうだいなのに『あなたが我慢しなさい』『聞こえるあなたは自分でやりなさい』『聞こえないんだから仕方ないでしょ』いった風に不平等に扱った結果、それはきょうだいの間に溝を作る一因にもなり得ます」

「聞こえないきょうだいも決して望んではいないのに『かわいそうだから』と特別扱いされ、聞こえるきょうだいはそれに不満を募らせる、そんなふうに周囲がいびつな関係にしてしまっているのかもしれません」

「いつもままといっしょで、うらやましい」「なんでいつもわたしがめんどう見るの」「いやなこともあるけどときどきかわいい」…子どもたちの手で書かれた言葉。「ひとつひとつの言葉と気持ちをじっくり受け止めて一緒に考えていきたい」と藤木さんは話す

「聞こえないことへの配慮は必要で、何もかも同じようにという平等は難しいと思います。だけど、お互いが納得できる”平等”を見出すこと、着地点を一緒に見つけることはできるのではないでしょうか。そのためには、まずは自分の思いを言葉に出して伝えられること、相手や相手と同じ立場の人の思いを知り、理解することが大切だと考えています」

聞こえない側の立場として、NPO法人「インフォメーションギャップバスター」理事長の伊藤芳浩(いとう・よしひろ)さんは、「聴覚障がいのある人は、家族との間にコミュニケーションのバリアがある」と指摘します。

「聞こえない当事者だけでなく、そのきょうだいや親御さんなどのご家族も、それぞれ個別に悩みを抱えていながら、それがなかなか共有されない現実があります。どちらかが負担に感じることが大きくなっていった時に、いつかそのバランスが崩れてしまうこともあります。そうなる前にお互いに思っていることを知り、相手を尊重し、助け合えるような関係、環境を築いていくことが大切なのではないでしょうか」(伊藤さん)

「聞こえる・聞こえないではなく、一人ひとりを見られる社会に」

2021年1月に開催した、家族内のコミュニケーションについて考える「家族をみんなでカンガエルーシンポジウム」にてスタッフの皆さんと。「聞こえる・聞こえない、家族、支援者の枠を越えて力を合わせ、イベントは大成功でした」(藤木さん)

埼玉の田舎町で弟と共に育った藤木さん。

「親が弁護士をしていたので、『家業を誰が継ぐか』という問題がありました。長男である弟が生まれたものの、彼が聞こえないとわかった瞬間から、長女である私の肩に『後を継いでほしい』という親の期待が重くのしかかり、強い反発心を抱いていました」

「聞こえないけれど弁護士として活躍されているろう者、難聴者の方もいます。しかし当時はそのような情報が手に入らなかったばかりに『聴覚障がいがあるからこの子は無理』と、親が最初から弟の可能性を諦めてしまったことについて、今は弟も彼なりの人生を歩んではいますが、悔しいという思いがあります」

「将来の夢や仕事については、聞こえる・聞こえないに関わらず、それぞれに希望や向き不向きがあります。聞こえる・聞こえないに関係なく、自分の意思のもとで人生が選択できる、挑戦できるということが大切だし、そのような社会の実現のために今後も発信を続けていきたい」

「聞こえるきょうだいの立場として、聞こえないきょうだいと”対等”の関係が良い、そうありたいと私は思っています。そのためには、そもそも聞こえない人に対して、もっとフラットな社会を実現していく必要があります」

団体の活動を応援できるチャリティーキャンペーン

チャリティー専門ファッションブランド「JAMMIN」(京都)は、「SODAの会」と1週間限定でキャンペーンを実施し、オリジナルのチャリティーアイテムを販売します。

2/8〜2/14の1週間、JAMMINのホームページからチャリティーアイテムを購入すると、1アイテム購入につき700円が「SODAの会」へとチャリティーされ、SODAの会のイベントに参加する人たちが、聞こえる・聞こえないという壁を越えてそれぞれ思いを語り、シェアできるように、イベントに「文字支援」や「手話通訳」をつけるための資金として使われます。

チャリティー期間に合わせ、2/8~2/14の1週間、YouTubeチャンネル「SODAきょうだい児と福祉?法律?情報ちゃんねる」にて、連続夜8時から日替わりで「聞こえるきょうだい(SODA)」らが登場、ライブ配信を行います(「文字支援」「手話」あり。詳細は「SODAの会」ホームページ:https://soda-siblings.jimdofree.com)。

「JAMMIN×SODAの会」2/8〜2/14の1週間限定販売のコラボアイテム(写真はスウェット(カラー:杢ホワイト、価格は700円のチャリティー・税込で7600円)。他にもTシャツやパーカー、トートバッグやキッズTシャツなど販売中

コラボデザインに描いたのは、肩を並べた楽しそうな後ろ姿。“Siblings by chance, friends by choice”、「きょうだいは偶然、友達は選択」というメッセージを添えました。

チャリティーアイテムの販売期間は、2/8〜2/14の1週間。JAMMINホームページから購入できます。JAMMINの特集ページでは、インタビュー全文を掲載中!こちらもあわせてチェックしてみてくださいね。

聞こえない兄弟姉妹がいる「SODA(聞こえるきょうだい)」の立場から、「”対等”な関係」を社会に発信〜聞こえないきょうだいをもつSODAソーダの会

山本 めぐみ(JAMMIN):
JAMMINの企画・ライティングを担当。JAMMINは「チャリティーをもっと身近に!」をテーマに、毎週NPO/NGOとコラボしたオリジナルのデザインTシャツを作って販売し、売り上げの一部をコラボ先団体へとチャリティーしている京都の小さな会社です。2014年からコラボした団体の数は300を超え、チャリティー総額は5,000万円を突破しました。

【JAMMIN】
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