食物アレルギーへの社会の認知や理解は、一昔前と比べて格段に広がりました。しかし、多くの人が抱いているのは「同じものが食べられなくてかわいそう」「大変だね」といったネガティブなイメージ。「認知が広がった今だからこそ、ポジティブな面を知ってほしい」と、食物アレルギーの当事者が夢や希望をプレゼンするイベントがこの8月に開催されます。開催への思いを、イベントを発案したNPOに聞きました。(JAMMIN=山本 めぐみ)

新型コロナウイルス下での食物アレルギーの当事者の生活への影響は

「アレルギーのこどもも、そうでない子も安心して集える場を作ろう」をコンセプトに京都府京田辺市で活動する地域コミュニティー「ばーばの手」の皆さんと、一緒に芋ほり&青空ごはん。アレルギーの有無に関わらずたくさんの子どもが参加した

新型コロナウイルスの流行によって、外出自粛、リモートワーク、幼稚園や学校の休園・休校など、人々の生活は大きく変化しました。普段から食べるものが制限される食物アレルギー。当事者の子どもとその家族の生活には変化が起きているのか、食物アレルギーの子どもとその保護者の居場所づくりや日常生活相談など当事者支援を行っているNPO法人「FaSoLabo(ふぁそらぼ)京都」理事の小谷智恵(おだに・ともえ)さん(53)に尋ねました。

小谷さんは「皆さん比較的冷静に行動されている」と言います。

お話をお伺いした小谷さん(写真左)。とあるイベントにて、アレルギーフリーのケーキを子どもたちに渡しているところ

「普段からアレルギー対応食(食物アレルギーがある人のための食材)をスーパーで手に入れるのが難しいことや、食物アレルギーのために日常的に外食が難しいことから、食材等は日ごろからインターネットで購入したりストックされたりしているので、学校が休校になっても普段事として捉えられているのかもしれません」

一方で、団体としては開催予定だったイベントを一旦すべてキャンセルにしたとのこと。

「食物アレルギーの子は喘息をもっていることも多く、新型コロナウイルスの情報が出始めた当初は喘息や慢性疾患のある子どもは特に気をつけるようにと言われていたので、皆さん特に外出しないことを徹底されていました。また、団体理事の医師の先生方から現場の緊迫した状況も感じられたので、収束のためにまずは医療の現場を守っていただくこと、そのために本業に専念していただくことが私たちに今できる最善のことだと判断し、割と早い段階で中止の判断をしました。現在はオンラインのレシピ紹介や交流会・相談などを始めています」

「しんどい状況だからこそ、
未来の夢を共有したい」

2007年、京都で開催されたイベントにて、いろんな味の味噌汁体験。「右の男の子二人は、私の長男と次男です。長男がアレルギーっ子でした」(小谷さん)

そんな中、食物アレルギー当事者である子どもたちが夢を発信する「食物アレルギー・ドリームプランプレゼンテーション」というイベントを、今年8月の開催に向けて準備を進めているといいます。なぜ、このタイミングでの開催に踏み切ったのでしょうか。

「企画自体は昨年からスタートしていましたが、今回の件があって運営スタッフとも話し合い、『どういうかたちであれ実施しよう』という結論に至りました。本来であれば協賛企業(石井食品株式会社)さんから提供しただいた千葉の会場で開催する予定でしたが、状況次第ではオンラインでのライブ配信に切り替える可能性もあります。いずれにしても当初の予定通り、8月8日に実施します」

「感染拡大防止のために多くの方が外出自粛している中で、家でテレビをつけたりインターネットを開いたりすると、メディアが発信するニュースはコロナ一色です。ニュースに限らず、昔のドラマや番組の再放送が増えました。それはすなわち『昔を振り返っている』或いは『今を見ている』状況だと思います。賛同は得られないかもしれないし、『楽しむ』という言葉を使うことさえもはばかられるような状況ですが、こんな時期だからこそ『未来を見る』場があっても良いのではないかと思ったことが、いずれにしても開催すると決断した理由です」

「学校に通えずにいる子どもたちが、何か楽しいと感じることに取り組み、自分の夢を誰かに知ってもらったり応援してもらったりする良い機会になるのではないかと思いました。それは大人たちも同じ。しんどい今だからこそ、子どもたちが発信する夢が、希望につながることもきっとあるのではないかと思ったのです」

「夢や希望はないのですか?」
10年前、訪れた企業でかけられた一言

食物アレルギーに配慮し、パティシエ体験ができる「こどもパティシエ」のイベントでの一枚。米粉のクレープのデコレーションのための果物を切る

「食物アレルギー・ドリームプランプレゼンテーション」の構想は、10年前のある出来事をきっかけに、以来、小谷さんの心の中にずっとあったといいます。

「10年前、当時はまだ食物アレルギーが社会で認知されておらず、企業に支援のお願いに伺う度に『こんなに大変なんです』『受け入れてもらえなくてつらいんです』と食物アレルギーのしんどさを伝えていました。ある時、京都の企業さんに伺いました。担当の方に食物アレルギーのしんどさを伝えると、『しんどさはすごくわかるけれど、食物アレルギーのある子どもたちが描く夢だったり、未来への希望だったり、そういうのはないのですか』と聞かれたんです。ハッとしました」

「私自身、息子の食物アレルギーで心身ボロボロになった時期がありました。でも、活動から15年が経って振り返ってみると、食物アレルギーの認知は広がったものの、耳を傾けてみると『アレルギーって大変だね』『食べられるものが少ないってかわいそう』『外食も難しいし、旅行もなかなか行けないね』といったネガティブなイメージばかり聞こえてきたのです」

「当時は、食物アレルギーというものがあるのだということ、そのことによる生活や食事づくりの大変さを知って欲しかったし、まず知ってもらわないことには国や自治体の制度や仕組みを変えていくことは難しかった。でも、そこを一生懸命15年間やってきた弊害として『食物アレルギーのつらい面』ばかりが広がってしまったんです」

「でも、若い世代のアレルギーっ子たちと接していると、食物アレルギーの経験をマイナスでばかり捉えていない。そんな彼らの情熱に触れて、『もう食物アレルギーのマイナス面を伝える時期ではない。プラスの面を伝えていく時期だ』と思った」と小谷さん。関わりのあった仲間に声をかけ、今回のイベント企画がスタートしました。

食物アレルギーだからこその夢や希望を発信

プロジェクトの運営委員の一人、アレルギーナビゲーターの細川真奈さん(写真前列中央)を招いての「おしゃべり交流会」での1枚。細川さんは離乳食時より食物アレルギーの当事者。今はそれを強みに変え、株式会社「eat is」を立ち上げ、各地でイベント企画や運営、商品開発などに携わっている

初開催となる「食物アレルギー・ドリームプランプレゼンテーション」は、食物アレルギーの子どもたちが、食物アレルギーであるからこその自身の体験やアイディア、夢や希望を、企業を始め多くの人の前でプレゼンするプロジェクトです。

「応募は4月半ばに締め切っており、小学5年生から大学生まで7名の出場者が当日夢を語ってくれます。『食物アレルギーのために給食が食べられずお母さんが毎日お弁当を作ってくれていたけれど、市販の冷凍食品も食べられなかったので、お母さんがすべて一から手作りで作ってくれた。将来はアレルギー対応の冷凍食品を開発したい』という夢や『食物アレルギーユーチューバーになりたい』といった夢がありました」

「出場する子どもたちにとってこのプロジェクト参加が自信につながってくれたらというのはもちろんですが、子どもたちを支える親御さんや周囲の大人たちが当事者の思いを知ることで、発想をプラスへと転換させるきっかけになってくれたら嬉しいですね」

「大人たちが、子どもたちに本来備わっている生きる力を
再認識するきっかけになれば」

年に一度開催されるビッグイベント「オープンキャンパス」にて。「チョコレートファウンテンで子どもの相手をしている二人は同い年で、共にアレルギーっ子。一緒にイベントを手伝っている姿はとても嬉しい光景でした。食物アレルギーだったからこそ出会った二人です」(小谷さん)

食物アレルギー治療において「医師や親主導で治療が進められ、診療方針に子どもの声が反映されていないケースがある」と小谷さんは指摘します。

「アレルギーのある食材をあえて少しずつ食べながら体に免疫をつける免疫療法では、たとえば小麦アレルギーのある子どもに対し、毎日3mmずつうどんを食べて様子を見るということをします。しかし、当事者である子どもの本音は『こんなことをやるぐらいなら、小麦は食べられなくても良い』というものだったりします」

「果たして親や大人の意志で治療を進めるのがベストなのか。今回のプロジェクトを通じて、自分の命を守る術は治療だけではないのだということ、子ども自身に楽しみながら見極め、取捨選択して生きていく強い力が備わっているのだということを、医師・保護者・学校の先生・友達などいろんな立場の人たちが感じるきっかけになれば」

そこには、小谷さん自身の体験と、思いがありました。

「重度の牛乳アレルギーがあった息子に対し、牛乳が飲めないと周囲からいじめられるのではないかと不安になって一生懸命飲ませようとした時がありました。ショック症状を起こしたために治療は諦めましたが、5年くらい経った頃、おばあちゃん経由で『もう一度牛乳にチャレンジしたい』という息子の思いを聞かされました。当時、息子が私に直接自分の思い言えないような雰囲気があったのだと思います」

「保護者の方も必死です。だからこそ日頃から、大人が『子どもはどう思っているのかな』『本人はこれで良いのかな』ということを意識できる環境があればいいなと思いますし、このプロジェクトがそのきっかけのひとつになってくれたら嬉しいです」

食物アレルギー当事者の発信を応援できるチャリティーキャンペーン

チャリティー専門ファッションブランド「JAMMIN」(京都)は、「FaSoLabo京都」と1週間限定でキャンペーンを実施し、オリジナルのチャリティーアイテムを販売します。「JAMMIN×FaSoLabo京都」コラボアイテムを買うごとに700円がチャリティーされ、「食物アレルギー・ドリームプランプレゼンテーション」開催のために必要な資金として使われます。

「イベント開催にあたり、広報やオンライン環境整備、社会への発信ツールに必要な資金として使わせていただきたいと思っています。開催方法については新型コロナウイルスの状況を見ながら6月末に決定する予定ですが、会場・オンラインいずれの開催であっても、周知のためのチラシ制作・印刷やその配布などに資金が必要です。ぜひ、アレルギーの子どもたちが未来に描く夢の一歩を応援していただけたら」(小谷さん)

「JAMMIN×FaSoLabo京都」5/25~5/31の1週間限定販売のコラボアイテム(写真はベーシックTシャツ(カラー:ホワイト、価格は700円のチャリティー・税込で3500円))。アイテムは他にパーカー、トートバッグやキッズTシャツなども販売中

JAMMINがデザインしたコラボアイテムに描かれているのは、はしご、気球、階段…、さまざまな方法で太陽へたどり着こうとする子どもたちの姿。無限の発想で食物アレルギーをプラスに変え、大人たちが思いもつかなかったような方法で未来を切り拓く様子を表現しました。

チャリティーアイテムの販売期間は、5月25日~5月31日の1週間。JAMMINホームページから購入できます。

JAMMINの特集ページでは、インタビュー全文を掲載中!こちらもあわせてチェックしてみてくださいね。

「食物アレルギー」をプラスに変えて、未来への夢を発信するプロジェクト「食物アレルギー・ドリームプランプレゼンテーション」〜NPO法人FaSoLabo京都

山本 めぐみ(JAMMIN):
JAMMINの企画・ライティングを担当。JAMMINは「チャリティーをもっと身近に!」をテーマに、毎週NPO/NGOとコラボしたオリジナルのデザインTシャツを作って販売し、売り上げの一部をコラボ先団体へとチャリティーしている京都の小さな会社です。2019年11月に創業7年目を迎え、コラボした団体の数は300を超え、チャリティー総額は4,500万円を突破しました!

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