一人でも大変な子育て、多胎(双子や三つ子)を育てるとなるとどうでしょうか。二人を同時に抱けない、あやせない、一人が泣き止んだらもう一人が泣き出す…。心身を追い詰められていくお母さんたち。「あなたは一人じゃないよと伝えたい」。自らも双子を育てる一人の母親が、子育てを支援するNPOを立ち上げました。(JAMMIN=山本 めぐみ)

「命の誕生を当たり前に喜べる社会」を目指して

NPO法人「つなげる」代表の中原さんの双子のお子さんの幼い頃。「近くにいると嬉しそうに笑う双子の姿がかわいいと思いましたが、泣き声が怖くなることもありました」(中原さん)

「誰もが命の誕生を当たり前に喜べる社会」を目指して、多胎(双子や三つ子)をはじめとする子育て家庭と社会のつながりをつくるために、主にオンラインでの交流や相談支援を行うNPO法人「つなげる」。代表の中原美智子(なかはら・みちこ)さん(51)も、双子を育てる当事者です。

「多胎・単胎にかかわらず、子育ての中でしんどさを抱え、孤独を感じているママパパは少なくありません」と中原さん。

「その時に自己否定に走っていくのではなく、『自分だけじゃないんだ』と思える場所があることが、まず何よりも大切。そこが起点となって、ご自身で力を取り戻していけるような支援がしたい」と話します。

情報が少なく、一般的な認知が低い多胎の子育て

お話をお伺いした中原さん

「多胎の子育てとなると、単胎育児とくらべて極端に情報が少なくなり、適切な知識や経験を得ないまま、疲弊してしまうママパパが少なくありません」と中原さん。「子育てにあたり育児書を読んだり、保健師さんやご自身の親からアドバイスをもらったりしますが、単胎育児を前提としているシーンが多くみられます」と指摘します。

「たとえば、自分の母親に『子どもの夜泣きで眠れない』とこぼすと『子どもは泣くものだから、仕方ない』と返される。でも、それが一人じゃなく、二人や三人だったらどうでしょうか。双子や三つ子が皆、同時に泣くわけではありません。一人が泣き止んだと思ったらもう一人が泣き出す…、ママは休まる間がありません」

「保健師さんからは『授乳するときは、赤ちゃんの目をみてあげてください』」とアドバイスをもらうのですが、双子や三つ子ではどうやってもできません。どうにかがんばって、まずは一人に集中してミルクをあげたいと思う。でも、もう一人がわんわん泣く。『なぜ、私はうまくできないんだろう』と自信を失くすママは少なくありません」

「ずっと赤ちゃんに付きっきりなので、自分の時間はおろか、寝る時間も食べる時間もない。代わる代わる泣く子を一晩中抱え続けて、腱鞘炎になってしまったママもいます」

双子ベビーカー。「写真は、つなげるのメンバーの双子ちゃんです。エレベーターなどもギリギリの幅だったりします。双子と荷物を載せると、30キロを超えます」

「多胎育児に関する情報の少なさ、多胎の子育てが知られていないということは、一つ大きな課題」と中原さん。育てる当事者や周りの人たちが、「多胎の子育ては、単胎と同じようにはいかない」ということを、まず知ることが大切だと話します。

さらに、多胎・単胎にかかわらず「母親が一人で頑張るもの」という社会全体の雰囲気が、孤立した子育てを生み出していると中原さんは指摘します。

「ママは『産むと決めたのは自分だから、頑張るしかない』と、誰にも助けを求められない。『子育ては自己責任』のような風潮の中で、そこに多胎育児特有の悩みが重なると、ママはもっともっと大変になって、無力感や閉塞感を強めてしまうのです」

「つなげる」では、通話アプリ「LINE」のオープンチャットで気軽に相談やおしゃべりができる「ふたごのへや」、「oVice」というオンライン会議用サービス使って気軽に音声で話ができる「ふたごのひろば」の支援サービスのほか、相談員が個別にオンラインで相談に乗る「つなげる相談室」なども開催しています。

「オンラインでの開催は、時間や環境に縛られず、参加したい時に参加できるし、バーチャルだからこそ気にせずに話せる、というメリットもあります。同じように多胎の子育てをする親同士、悩みを共有し、励まし合える場所です」

周囲からの理解を得るのが難しく、物理的にも外に出るのが難しい現実

地域ふたごサークルの活動風景。「皆で子どもたちをみています。手が足りないこともあるので、ピアサポーターさんが見守りで来てくれることもあります」

「相談されるママの中には『外に出られない』と、つらそうに話される方が多くいます」と中原さん。

「世間的にはどうしても『かわいい』が先行して、それはもちろんそうだし、そう言ってもらえると嬉しいのですが、なかなか多胎育児の現実が知られていないところがあります」

「双子が代わる代わるずっと泣いていると、知らないご近所さんから『泣き声がうるさい』『虐待やネグレクトではないか』と言われることがあったり、双子が歩けるようになると、どちらも視界に入るように少し離れた距離で子どもを見るのですが、『近くで見なさい』とか『ちゃんと世話していない』と小言を言われることもあったりするんです」

「私は、先に長男の子育ての経験があったので、双子の子育ての中で『多胎育児はこんなにも違うんだ』と感じることが多々ありました」と中原さん。

「私は暴力の絶えない家庭に育ったので、『私は虐待はしない。虐待を連鎖させない』と心に誓って子育てをしていましたが、双子の育児で心身を消耗し、追い詰められ、その一線を超えてしまいそうになったことがありました。自分が変わってしまいそうで、とても怖かった」

オンラインの支援サービス「ふたごのへや」と「ふたごのひろば」。「ふたごのへや」はLINEオープンチャットで、多胎ママパパなら無料で参加することができる。「匿名だからこそ、ふだんは口に出せないつらい悩みを話せることもあります」と中原さん

「環境的なことは、大きかったです。双子のベビーカーは重くて、街中の段差や階段で運ぶことは難しく、横幅もあるので、狭いトイレやエレベーターに入れません。一度、出先のトイレが狭く、どうしても双子ベビーカー入れることが無理で、子どもたちが連れ去られてしまうかもしれないという不安と恐怖を感じながら、一人で個室に入ったことがありました」

「もうひとつは、『人手がない』ということ。おっぱいをあげるのも、離乳食を作り、あげるのも二人分。それをすべて一人でやるのは限界がありました。二人とも同じように食べてくれるわけではありません。一人に食べさせることに集中してもう一人から目を離した隙に、お皿をひっくり返したり、泣いたり、喉につまらせたり…」

「ある日、近所のママ友に『つらいんだ』と連絡をしたら、1、2ヶ月間、中学生のお嬢さんが放課後、離乳食をあげるために来てくれました。それはすごく助かりました。離乳食をあげるのもそうですが、私にとっては唯一の話し相手にもなってくれたんですよね」

「望んだ場所へ、自由に行きたい」

現在販売されている「ふたごじてんしゃ」。「日本で初めて、未就学児を2人同時に送迎できる3輪自転車です」

「双子の子育てに追われ、なかなか外出できず、それでも育児書には『情緒的な発育のために、天気の良い日にはお散歩にいきましょう』と書いてある。それができない自分を責めたし、子どもたちの情緒の発達に、何か悪い影響を与えてしまうのではないかと不安でした」と子育てを振り返る中原さん。

「私がこの子たちの体験の機会を奪っているのではないかと、二人にものすごく申し訳なく感じていました。もっと自由に出かけて、この世界のいろんなものを見せてあげたい。望んだ場所へ、いつでも自由に行くことができる手段がほしい」と、双子を乗せられる自転車をつくった中原さん。その後、企業と組んで、2018年に「ふたごじてんしゃ」をとして量産化。同じような悩みを抱えるお母さんたちに届けることができるようになりました。

「ふたごじてんしゃ」の試乗会を開催すると、そこで聞かれたのは、多胎育児に思い悩むリアルな親たちの声だったといいます。

「『本当はもっとこうしてあげたい』『本当は働きたい』『周りから理解してもらえない』『孤独』『経済的な負担が大きい』『なんで双子を産んじゃったんだろう…』。試乗会に足を運んでくださったママたちが、泣きながらポツリポツリと話してくれました」

当時、家社会福祉士の資格をとるために大学へ通っていた中原さん。悩むお母さんたちの声を聞き、「双子家庭を支援しよう」と決意したといいます。

自分の力を信じて目的地に向かう。そのために、周りの力が必要

2月末にオープン予定の「ふたごハウス」(兵庫県尼崎市)にて。「夕ご飯をみんなで一緒に食べています。準備するママ、遊びを引き受けるパパ、食事をフォローするママなどみなで分担しています」

「私は、自由でありたかった」と歩みを振り返る中原さん。

「『どう生きるか』は自分で決められる。自分が子どもたちと幸せに生きたいと思えば、必ずそうできるんです。『双子だからできない』ではなくて、『あそこに行くんだ』と旗を立てた目的地に向かって、『どうやったらたどり着けるかな』とワクワクしながら進んでいきたい。ただ、一人ではそれはかなえられないと思うんです」

「疲れた時はちょっと休んで、大変な時は『ちょっと手伝って』と周りの人に助けを求めることができれば、できない自分を否定することなく、自分自身の力を信じながら生きていけるのではないでしょうか」

「多胎に限らず、単胎の子育てをするママからもさまざまな悩みを伺います。多胎だからということを訴えたいのではなく、子育てにはそれぞれに大変さやつらさがあって、その一つひとつを受け入れ、認め合いながら、子どもが育つ、この社会自体を変えていくことができれば」

「子どもたちが幸せになるためには、親が幸せであることが大切。ママの『ごめんなさい』『すみません』を、『ありがとう』『助かった』という言葉に変えていきたい。大変そうだなという状況に直面した時に、『手伝いましょうか』『ちょっと手伝ってください』と声を掛け合って、お互いにお願いができる、助け合える社会を作っていきたいと思っています」

団体の活動を応援できるチャリティーキャンペーン

チャリティー専門ファッションブランド「JAMMIN」(京都)は2/6〜2/12の1週間限定で「つなげる」とコラボキャンペーンを実施、オリジナルデザインのチャリティーアイテムを販売します。

JAMMINのホームページからチャリティーアイテムを購入すると、1アイテム購入につき700円が団体へとチャリティーされ、2月末に兵庫県尼崎市でオープンを予定している、多胎育児に特化した居場所「ふたごハウス」の運営資金として活用されます。

「多胎育児に特化した居場所は、私が知る限り、日本にはありません。近くの方はもちろん、日本各地から旅行ついでに足を運んでもらえるような、子育ての拠点にしていきたいと思っています」(中原さん)

1週間限定販売のコラボデザインアイテム。写真はTシャツ(左・700円のチャリティー・税込で3500円)。他にもバッグやキッズTシャツなど販売中

JAMMINがデザインしたコラボデザインには、花を二つ描きました。その周りには、成長を見守る動植物たち。多胎育児をはじめとする育児が孤立せず、皆が手を取り、見守り合いながら、温かく共に成長していこうというメッセージが込められています。

JAMMINの特集ページでは、中原さんへのインタビュー全文を掲載中。こちらもあわせてチェックしてみてくださいね!

多胎の子育てを支援、「誰もが命の誕生を当たり前に喜べる社会」を目指す〜NPO法人つなげる

「JAMMIN(ジャミン)」は京都発・チャリティー専門ファッションブランド。「チャリティーをもっと身近に!」をテーマに、毎週さまざまな社会課題に取り組む団体と1週間限定でコラボしたデザインアイテムを販売、売り上げの一部(Tシャツ1枚につき700円)をコラボ団体へと寄付しています。創業からコラボした団体の数は400超、チャリティー総額は7,500万円を突破しました。

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