障がいがある子どもや医療的ケアが必要な子どもたちの日常生活では、「ケア」が中心になりがちで、それ以外の経験の機会がどうしても少なくなってしまう現状があるといいます。「遊び」を通じて、医療的ケア児や肢体不自由の子どもたちにも人と関わる機会や挑戦する機会、学ぶ機会を提供したいと活動するNPOがあります。(JAMMIN=山本 めぐみ)
子どもたちの「やってみたい!」を引き出す居場所
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藤沢市辻堂の海の近くにある施設は、ガラス張りで外からも見える開放的な造り。300平米の広さには、大小さまざまな遊具が設置されています。
「テーマパークのように、子どもたちが『遊びたい』『やってみたい』とチャレンジしたくなる場づくりを意識しています」と話すのは、代表の横川敬久(よこかわ・のりひさ)さん(43)。
「リノア」は、医療的ケアが必要な子どもや肢体不自由の子どもを持つ親御さんたちの「養護学校と家庭の往復で地域の人たちと関わる機会がないし、子どもを連れて遊びに行けるような場所も少ない。子どもたちがのびのび過ごせる居場所を作れないか」という声に応え、2015年にスタートしました。
「光遊びの遊具や、立ち上がる練習につながる器具だけでなく、15、6人ぐらいの子どもが一度に乗れる大きなトランポリンや、電動バイク、ゴーカート…。本当にいろんな遊具があります。障がい者を対象にした遊具だけではなく、ごく普通の一般的な遊具も揃えることを意識してきました。なぜなら『障がいの有無にかかわらず子どもたちが皆一緒になって遊べる居場所を作ること』が、私たちに求められたことだからです。障がいがあっても、工夫をすれば一般的な遊具でも楽しく遊べるようになります」
「障がいの有無で相手を特別扱いするのではなく、『やりたい』という気持ちをお互いが大切にしていける場にしたい。もちろん、障がいのある子に対して特別な配慮やサポートは必要ですが、必要以上にはサポートしないように気をつけています。サポートばかりしていると、子どもからどんどん経験の機会を奪うことになるからです」
手厚い支援が、「できない」を生むことも
「特別扱いしてくれて、自分の代わりに何でもやってくれる大人たちに囲まれて育った時、その子はどうなるでしょうか。大人になった時、誰がその子を特別扱いしてくれるでしょうか。誰かが大人になったその子の支援をするとなった時、その子が育ってきた環境のようにはいかない可能性もあります」と横川さん。「リノア」をスタートする前、障がい者の就労支援の作業所で働いていた横川さんは、利用者さんたちの反応に違和感を覚えたといいます。
「『この仕事やったことある?』『これをやってみたい?』などと毎回いろいろ尋ねるのですが、返ってくる答えの多くが『わからない』でした。仕事のことだからわからないのかなと、今度は食事の時に『何が食べたい?』『これを食べる?』と聞くのですが、自分の食べたいものも『わからない』と返ってくる。あ、『わからない』といえば周りが色々サポートしてくれる環境で育ってきたんだなと思いました」
「これまでの人生の中で、いろんなことが『わからない』で済まされてきてしまったこと。そして社会に出てからも『わからない』で済むと思ってしまうこと。そこに違和感を覚えました。もちろん、本人ができないことやわからないことは支援する必要はあります。でも、手厚い支援の結果として、選択できるのに選択できない人、やるべき責任を果たせるのに果たさない人、そんな人たちを僕たち福祉の人間がつくりだして世に送り出しているのではないか。そう感じたんです」
「すべてを先回りしてやってあげるのではなく、本人が意志を伝えられるのであれば、待って、待って、本人が言えるまで待った方が良いと私は思う。その待つ時間こそ、実はその子にとって必要な支援の時間ではないかと思います」
子どもたちは「遊び」を通じ
さまざまな経験を得ていく
「役割をつくったり遊び場をつくったりというのは過程でしかなくて、それらを通じて、彼らがいかに『幸せに生きていけるか』につなげていくことが、本当に必要な支援」と横川さん。
「『リノア』には、体を動かすことができない子も、話すことができない子もいます。『遊び』といっても人それぞれで、役割だってみんな違う。でも好き嫌いがあるのなら、好きなことを持ちながら嫌いなことをどう乗り越えていくことができるか、挑戦したり挫折したりする経験も、その時はつらいかもしれないけれど、社会で生きていく上では大事だということを知って欲しいと思っています」
「私たちは『遊び』を大切にしていますが、『遊び』と言ってもただ遊んでいるだけではありません。子どもが役割を持って責任を引き受けることも、『遊び』の一つ。ここに通うことで周囲にも目を向けるようになり、スタッフの仕事をお手伝いしてくれたり、他の子どもの面倒を見てくれたりする子もいます。そうした積み重ねが成長につながり、それが他者からの『信頼』につながっていくからこそ、子どもたちが興味を持ち、『やってみたい』と思うきっかけ、テンションが高まる居場所でありたいと思っています」
「つらいことや苦しいことも、その人を強くしてくれる」
もう一つ、「遊び」を通じて得られる大きなものが「社会性」です。遊びを通じて社会との接点を持ち、たとえば挨拶をすること、横断歩道では一度止まることなども子どもたちは学んでいきます。
「福祉サービスが充実すればするほど、経験からの学びの機会が奪われていくようなところがあると思います。僕たちも福祉サービスという枠組みで活動こそしていますが、大人にしかできない車の運転やとても重たいものを運ぶなど以外、『リノア』の運営は子どもたちと一緒に考えて実行していこうという意識を持っています」
「既存の福祉の中では『(善意で)やってあげる』『危ないことはやらせない』という色合いが強くなりがちですが、長い人生を考えた時、人に御膳立てされた人生を生きている人が幸せかというと、必ずしもそうではないのではないでしょうか。失敗して苦しんで、それでもやりたいことを実現している人も幸せを感じているのではないかと思います」
「楽しいことだけじゃなく、つらいことや嫌なこともあって、それも経験として人を強くしてくれるもの。だから、障がいがあるからといって避けるのではなく、苦手なことやつらいことも体験していかないと、彼らの耐性も強くならないのではないでしょうか。私たちが何かをしなくても彼らは自分で幸せを見つけるし、見つけられると信じています。ただ、僕が知って欲しいと思うのは、努力をすることで広がる幸せもたくさんあるということ。ちょっとした経験を嫌がらずに頑張ってみることで、世界が広がります」
原点にあるメキシコでの体験
横川さんの活動の原点にあるのは、20代の頃の海外での生活。サーフィンをしながら一年半ほど海外を転々としていた横川さんは、鼓膜に穴が開いてサーフィンができなくなった時、旅先で出会った一人のメキシコ人の自宅に1ヶ月半ほど泊まらせてもらうことになりました。
「その前に2日間一緒にいただけでしたが、『何かあったらおいで』と連絡先をもらっていたんです。滞在中、今のようにインターネットも発達しておらず、言葉も通じず情報がない環境であっても、『いかに相手と関わるか』で生きやすさや関係性が大きく変わる体験をしました」
「言葉が通じないなら通じないなりに、身振り手振りで自分の意思や『僕はこんな人間だ』を伝え合っていると、お互いすごく楽だし、たとえ意見が違っても信頼関係を築くことができる。僕の人間関係の原点はこの体験にあって、そういう意味では相手が誰であっても特別扱いせず、等身大の相手、そして自分を受け入れていくことが、とらわれない自由な居場所をつくっているのかもしれません」
「たとえ体は不自由だとしても、心は自由であってほしい。体は自由でも、心が不自由なこともあります。僕自身、常に自由を感じながら動いていきたいと思っています」
障がいのある子どもたちが「遊び」を通じて挑戦し、成長する活動を応援できるチャリティーキャンペーン
チャリティー専門ファッションブランド「JAMMIN」(京都)は、「ラウレア」と1週間限定でキャンペーンを実施し、オリジナルのチャリティーアイテムを販売します。「JAMMIN×ラウレア」コラボアイテムを買うごとに700円がチャリティーされ、「リノア」の敷地内に、誰もが遊ぶことができる「みんなの公園」をつくるための資金として使われます。
JAMMINがデザインしたコラボデザインに描かれているのは、一緒に自転車に乗るサルと黒猫、ネズミの姿。障がいの有無や年齢、性別や国籍を超えて、誰もが自分らしくありのままで、一緒に楽しく進んでいこうというメッセージを表現しました。
チャリティーアイテムの販売期間は、7月27日~8月2日の1週間。JAMMINホームページから購入できます。JAMMINの特集ページでは、インタビュー全文を掲載中!こちらもあわせてチェックしてみてくださいね。
・医療的ケアが必要な子どもや肢体不自由の子どもにも「遊び」を通じた経験と、挑戦を後押しする居場所をつくる〜NPO法人laule’a
山本 めぐみ(JAMMIN): JAMMINの企画・ライティングを担当。JAMMINは「チャリティーをもっと身近に!」をテーマに、毎週NPO/NGOとコラボしたオリジナルのデザインTシャツを作って販売し、売り上げの一部をコラボ先団体へとチャリティーしている京都の小さな会社です。2019年11月に創業7年目を迎え、コラボした団体の数は300を超え、チャリティー総額は4,500万円を突破しました!