静岡県と山梨県にまたがる日本一の高さを誇る山、富士山。現在では日本を象徴する山として世界にも広く知られ、2013年にはユネスコの世界文化遺産に登録されました。しかし一方で、一部の登山者や業者、ドライバーなどによるごみの問題や、自然保護の問題に悩まされてきました。「美しい富士山を次の世代へ」、1998年から富士山の環境保全に取り組むNPOがあります。(JAMMIN=山本 めぐみ)

富士山の環境保全のために、さまざまな活動を行う

3,776mの始まり、駿河湾に面した浜辺での清掃活動の様子。「生物多様性の観点からも富士山を総体として捉え、海岸から山体までいろいろな場所で清掃活動を行っています」

認定NPO法人「富士山クラブ」は、富士山の環境保全のために、自治体や企業、他団体とも協力しながら、ごみ問題や外来種の駆除、森づくりに25年にわたって取り組んできました。

一概に富士山といっても、静岡県と山梨県にまたがる広いエリアです。「標高の高いところと山の麓とではまた状況が異なっており、それぞれのエリアの課題に合わせて活動しています」と話すのは、富士山クラブ事務局の佐伯弘美(さえき・ひろみ)さん(47)。

「最近では、アウトドアやSDGsのブームで、山登りのマナーに関する常識が浸透してきたと感じています」と話すのは、静岡事務所長の深澤寛貴(ふかさわ・ひろたか)さん(47)。

「私たちは富士宮市からの委託事業で、富士登山シーズンの7〜9月上旬に、富士宮口登山道でごみの状況を調査しています。5合目以上では、飴の包み紙や登山用具の破損した一部などの小さなごみを散見しますが、基本的にはきれいと言っても良い状況だと思います」

しかし最近は、日本で暮らす外国人や海外からの登山者も増えており、「慣習や文化、認識の違いからごみが出てしまうということもあります」と深澤さん。登山経験や環境保全に対する意識がないまま、コンロやバーベキューセットを持ち込み、そのままごみを置いて帰るということが稀に起きることもあったといいます。富士山クラブでは静岡県と協働し、ごみの持ち帰りを啓発するキャンペーンも行っています。

「呼びかけ活動で現場に立っていると、日本人や外国人に関わらず、山登り初心者と見受けられる方で、安全に関わる十分な装備をしていない方が目立ちます。雨具を持っていなかったり、ビニール合羽で登ろうとする登山者も珍しくなく、これは他の高山では見られない光景かもしれません」と深澤さん。

「この取り組みを通じて、ごみを出さないことをお伝えするだけでなく、安全にもさらに目を向けていただく必要があると感じ、そこも併せて発信しています。ポスターや動画、音声ガイドなどによる現地での案内はもちろん、登山者が利用する公共交通機関、大学や外国人の就労者が多い企業さんなどに登山シーズン前からお送りし、周知をはかっています」

世界文化遺産登録後は来訪者も増加。
一人ひとりが「ごみを出さない」徹底を

多言語による「ごみは持ち帰りましょう」というメッセージを記載したごみ袋を配布しながら、登山者に呼びかけを行う。「外国人登山者を中心にアンケートの聴取を行い、より効果的な方法も検討しています」

2013年に世界文化遺産に登録されて以降は、「良い意味でも悪い意味でも、誰もが気軽に訪れる場所になっている」と深澤さん。

「多くの方に親しんでいただくことは大切ですが、一方で、何の制約もないまま誰でも何でもウェルカムとなると、結果、自然や環境に対して理解のない方も多く訪れることになり、保全からは離れた場所になってしまうというリスクはあるのかなと思います。それは富士山の美しく豊かな自然を脅かすことにもつながりかねません」と警鐘を鳴らします。

世界文化遺産に登録された翌年からは、「保全協力金」というかたちで、一人一千円の入山料の徴収が始まりました。しかし「これはあくまで任意のもので、強制力は持たないもの」と深澤さん。

富士山クラブ理事長、アルピニストの野口健さん(写真中央)と。清掃活動後の一コマ

「当団体の理事長でアルピニストの野口健氏から聞きますが、海外では、その国の最高峰ともなれば登る為に数百万円とかかる山もあるそうです。一概にそれが良いとはもちろん言えませんが、今の状況をみていると、うまく旗振りをしながら、環境保全のためにある種の抑止力、何らかの手段となるものも必要かなとは思います」

「ごみ禁止」などの看板設置はできないのでしょうか。

「富士山は『自然公園法』をはじめさまざまな制約があり、それに守られている場所でもあります。たとえば5合目以上は特別保護地区にもなっているので、看板を設置するというのはとても難しくなります」

森づくりの作業中に目にしたキジの孵化。「皆伐後の植林から10年余りで木々は育ち、連なる世界も拡がりをみせていることを実感した瞬間です」

「『ごみが問題なら、単純にごみ箱を設置したらいいじゃないか』と思われるかもしれませんが、こちらも制約があります。いわゆる廃棄物処理法の観点からも、特に登山における山のごみに関しては、『ごみ箱を設置しよう』というふうには動きづらいのです」

「富士山のごみ問題をどう解消するのか、その手段は我々も模索中ですが、まずは『ごみを出さない』こと」と深澤さん。

「ごみ箱があると皆、ごみを出します。ごみ自体を出さないようにすること、自分が出したごみは自分で持ち帰ることを徹底すること。それが浸透することが、最も現実的な解決策でではないでしょうか。ごみを出さないための準備や工夫を皆さんにお伝えしていくことも、我々の役割だと思っています」

富士山麓ではドライバーのポイ捨てが目立つ

富士山のごみ。「少し広いスペースのある沿線で、ごみの不法投棄が常態化してしまうこともしばしばです。森の中で、野営のあとそのまま不法投棄された現場を発見することもあります」

富士山の麓では、山の上とはまた別のごみの問題に直面しています。

「ひと昔前は、一部の悪徳業者が、人目につかない林道にテレビや洗濯機、タイヤなどの大型ごみを大量に不法投棄するような状況がありました。行政や地元の方たちも含め、環境に対する意識が高まったことによって、今はこういったことは随分減りました」

「では今、私たちが何に注力しているかというと、富士山の麓の、いわゆる『ポイ捨てごみ』の問題です。富士山は、首都圏に住んでいる人たちからすると、自然に触れられて距離感もよく、ドライブにはもってこいです。また、産業の基幹道路でもあります。しかし富士山周辺の道路沿いには、車が入れるコンビニエンスストアやドライブインは少ないです」

放置された車(2008年)。その中や周囲には、冷蔵庫と思しきものをはじめさまざまなものが捨てられ、まさにごみがごみを呼ぶ状態になっていた

「そんなことも影響してか、そこかしこの沿線でごみが散見される状況です。幅の広い路側帯やチェーン脱着所など広いスペースでは、悪質なドライバーの方が車を停めてごはんを食べ、そのままペットボトルやお弁当のごみを捨てるということが常態化してしまっている箇所も多くあります」

「私たちはこれらの場所での調査も行っていて、きちんとデータを踏まえた上で、行為者・原因者と思われる業界団体さんへの具体的な訴えかけも検討しています」もう一つ、この活動の中で困っているのが「ペットボトルのし尿」問題だと深澤さん。

集まったごみ。「毎回、道路沿いを1〜2キロごみ拾いしただけで、数十本の中身入りペットボトルを回収してしまいます」

「コンビニやドライブインが少ない=トイレが少ないということも影響しているかもしれませんが、車に乗っている方が空いたペットボトルに用を足して、ポイッとその辺に捨ててしまうのです。し尿の処理に関しては、衛生面や法的にも、心配や手間が余計に掛かってしまいます」

「陸地のごみは川に流れ、やがて海に到達します。富士山は駿河湾に面していますが、田子(たご)の浦という海岸で清掃活動をしていると、打ち上げられるペットボトルのごみがカーペットのように敷き詰められていることもしばしばです」

「活動中におしっこ入りのペットボトルを目にすることも多く、陸地のごみの流入を実感したり、浜辺に打ち上げられるのは軽いごみなので、海の中には一体どれだけ沈んでいるのかと思ったり…。清掃活動の現場では、ただごみを拾うだけでなく、参加した方がこういった目を向けなければならない現実を知り、体験していただくことも大切にしています」

「恵みを与えてくれる富士山に、
できる限りに恩返しがしたい」

「富士山は見る方角によってその姿が異なりますが、『自宅からの眺めがいちばん!』と思う人が多いと思います。私もその一人で、剣ヶ峰を正面にみる眺望が好きです」(深澤さん)

静岡事務所長の深澤さんは、静岡県富士宮市の生まれ。「幼い頃から富士山を身近に育ちました」とこれまでを振り返ります。

「今でも山で何かをする時間が好きで、そうやって山に入り、楽しいことができる環境を維持したいと思っています。富士山は日常にいろんな恵みを与えてくれているので、自分ができる限りの恩返しがしたいし、これからもずっと大切にしていきたい存在です」

山梨事務所の佐伯さんは、千葉出身。「富士山を遠くから眺めて育った」といいます。

「子どもの頃から、そして今もなお、富士山はずっと憧れの存在。富士山のためにというのはもちろんですが、応援してくださる皆さんの役にも立ちたい。富士山の環境を取り巻く課題に対して、半歩でも一歩でも、前進を続けていきたいと思っています」

富士山クラブの本部「もりの学校」は、富士五湖のひとつ、西湖のそばの根場(ねんば)地区にある、かつて小学校の分校だった木造校舎。たまにカモシカも学校を訪れ、中を覗いていくという。富士山はここで暮らす生き物たちにとってもまた、唯一無二のふるさと

「富士山を愛する人たちが、世代や立場を問わず集まり、フラットに対話し、活動できる環境で、より良いかたちをみんなで見つけていくことができれば。今の世の中、楽しいこと面白いことがたくさんありますが、自然の中にもそれはたくさんあって、知らないことがもったいない!と思っています」

「さまざまな世代が、それぞれの価値観をもって富士山が直面している課題に取り組むことで、より意味のある活動を継続していくことができればと思います」

団体の活動を応援できるチャリティーキャンペーン

チャリティー専門ファッションブランド「JAMMIN」(京都)は、5/29〜6/4 の1週間限定で富士山クラブとコラボキャンペーンを実施、オリジナルデザインのチャリティーアイテムを販売します。

JAMMINのホームページからチャリティーアイテムを購入すると、1アイテム購入につき700円が富士山クラブへとチャリティーされ、富士山の清掃イベント開催のために活用されます。

1週間限定販売のコラボデザインアイテム。写真はTシャツ(700円のチャリティー・税込で3500円)。他にもバッグやキッズTシャツなど販売中

JAMMINがデザインしたコラボデザインは、気高い富士山と、星が瞬く夜空を描きました。
美しい富士山を、次の世代に残していくために。私たちの一人ひとりの思い、一つひとつの行動が星座のように連なって、やがて大きな希望となり、豊かな未来を導いてほしいという願いが込められています。


JAMMINの特集ページでは、インタビュー全文を掲載中。こちらもあわせてチェックしてみてくださいね。

・「美しい富士山を、次世代へ」。富士山の環境保全に取り組む〜NPO法人富士山クラブhttps://jammin.co.jp/charity_list/230529-fujisan/

「JAMMIN(ジャミン)」は京都発・チャリティー専門ファッションブランド。「チャリティーをもっと身近に!」をテーマに、毎週さまざまな社会課題に取り組む団体と1週間限定でコラボしたデザインアイテムを販売、売り上げの一部(Tシャツ1枚につき700円)をコラボ団体へと寄付しています。創業からコラボした団体の数は400超、チャリティー総額は8,000万円を突破しました。

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