亡くなった人からの提供を受け、日本で年間に実施される臓器移植の件数は年間500件に足りません(2019年)。臓器移植を受けた人たちの多くはその後、元気になって学校や職場に復帰し、豊かな人生を送っているといいます。一方で、臓器移植以外に回復が見込めない病気のために臓器の提供を待つ人の数は現在、1万4千人超。この圧倒的な差の背景の一つには、「死」や「もしもの時」がタブー視され、語られてこなかったことがあるといいます。(JAMMIN=山本 めぐみ)

「臓器移植のおかげで元気な生活を送っている人がいることを知って」

腎臓移植を受けた直後の谷川さん(左)と提供者のお父様。「父からの腎臓移植を受けた約1週間後の写真です。まだ入院中ながらも、互いが元気であることを喜び合いました」(谷川さん)

NPO法人「日本移植者協議会」は、臓器移植者の全国組織として臓器移植当事者への支援のほかに、ドナー(臓器提供者)とその家族への感謝を発信し、日本における臓器移植医療の社会の理解が進むよう活動を行っています。

団体副理事長の中井真一(なかい・しんいち)さん(57)と理事の谷川基務(たにがわ・もとむ)さん(35)、心臓移植を受けた理事の渡邉源喜(わたなべ・もとき)さん(47)はそれぞれ、腎臓と心臓の臓器移植を受け、普通の人と変わらないぐらい元気な生活を送っています。

お話をお伺いした中井さん(左)、谷川さん(中央)、渡邉さん(右)

「私たちだけに限らず、臓器移植を受けて元気になった方たちがたくさんいますが、臓器移植のこと、臓器移植を受けて元気な生活を送っている人がいるということはあまり知られていません」と3人。

「運転免許証やマイナンバーカードに臓器移植提供の意思表示を書き込む欄があることをなんとなくは知っていても、記入せずそのままにしているという方も少なくありません。『自分や家族の身に何かあったら』ということを普段の生活の中で考えたり話し合ったりするのは難しいし、まだまだタブーとして捉えられているところがあると感じています」

「私たちは、単に『臓器提供をする方を増やしたい』というわけではなく、臓器提供を希望する・希望しない、そのいずれであってもそれは本人の意思であって尊重されるものであるということは大前提として『まずはこの問題について一度考えてみて欲しい、そのきっかけを作りたい』という思いで活動しています」

臓器移植が長くタブー視されてきた日本

子どもに絵本を読み聞かせる谷川さん。「ふとした時に、何気ない日常を享受できていることが本当にありがたいと感じます」(谷川さん)

日本ではさまざまな社会的経緯から、脳死下の臓器移植が長くタブー視されていた歴史があると3人は指摘します。

「社会として人の死や『もしものことが起きたら』とか『亡くなったらどうするか』ということが語られてこなかったということも、臓器提供にかかわる議論自体が進んでこなかったことの背景にあるのではないかと思います」と渡邉さん。

「一方で、『自分に何かあった時には、臓器を提供したい』という意思を持っている方もいらっしゃって、そういった方たちの権利もまた認められるべきだという動きが過去にありました。時間はかなりかかりましたが、医療の制度の面などでも少しずつ臓器移植が前向きに捉えられてきていると感じます」

運転免許証の裏面。「この機会に、ぜひご自身の運転免許証や保険証をチェックしてみてください。いざという時のために意思表示をしておいていただきたいと思います」(中井さん)

「ひと昔前には臓器提供意思表示カード(ドナーカード)の配布などもありましたが、今は免許や保険証、マイナンバーカードにも臓器提供に関する意思を表示できる欄があります」と中井さん。

「一度それを見て、考えて、自分の意思に当てはまるところにマルをつけてもらえたらと思います。先日、免許の更新に行ったら、この意思表示欄に関する説明を受けました。臓器移植を取り巻く環境は、少しずつ変わってきていると感じます」

「ありがとう」以外の言葉で言い表せないドナーへの思い

移植を受けた子どもたちの作品展を全国各地で開催。「臓器移植を受けた子どもたちが、その喜びや思いを素直な気持ちで描いた作品を展示しています。子どもたちの感性にあふれた作品は、”いのち”の尊さと生きる喜びを語りかけてきます。これらの作品は全国各地で貸し出し、展示しています」(中井さん)

中井さん、谷川さん、渡邉さん、いずれも臓器移植者。中井さんと谷川さんは家族から腎臓を、渡邉さんは亡くなった方より心臓の提供を受けました。臓器を提供してくれたドナーへの思いを、次のように語ります。

「私の場合は、腎臓移植を受けたおかげで大学も無事に卒業し、就職に至るまで健康な人とほぼ変わることなく元気で暮らすことができました。健康体である自分の身体にメスを入れることになるにも関わらず腎臓を提供してくれた父には感謝しかありません」と話すのは、父親からの腎臓移植を受けた谷川さん。

「その後はありがたいことに、結婚して子どもも生まれました。父から腎臓移植を受けることがなければ全く違う人生を歩んでいただろうし、もしかしたら死んでいたかもしれません。一方でさまざまなライフステージを歩んできた中で、親になって初めてわかる感覚もあります。感謝はもちろんですが、子どもの頃には感じることのできなかった、『愛する我が子に自分の臓器を提供するとはこんな気持ちなのか』という不思議な感覚を持つことがあります」

愛知腎臓財団主催の腎臓移植者のキックベースボール大会に参加、奮闘する中井さん。「移植を受けてスポーツがまた出来るようになり感謝しています」(中井さん)

弟から腎臓移植を受けた中井さんは「よく決断してくれたなという感謝の気持ち」と話します。

「社会人になってから腎臓が悪いことがわかり、2年ほど人工透析を受けましたが、人工透析は週に3回、毎回2〜3時間はかかります。30代後半、働き盛りで仕事も一番がんばっている時期だったので、透析に通うために思ったように働けずショックでした。弟がドナーとして名乗り出てくれ、移植を受けたおかげで無理のない範囲で仕事に復帰し、普通に近い生活に戻ることができました」

「毎回時間をとられた透析に通う必要もなくなり、水分コントロールをしたり体がむくんだりすることも無くなり、人工透析に通っていた期間があった分、移植のありがたさをより強く感じています」

「それまで寝たきりだった人生が、比較できないほどに変化した」

闘病していた頃の渡邉さん。「移植に至るまで5年以上、待機生活を過ごし、その間、入退院を繰り返しました」(渡邉さん)

渡邉さんは幼い頃より心臓に疾患があり、亡くなった方から心臓の提供を受けました。幼い頃より体が弱く、大学生の時には車いす、そして酸素を吸う生活になり、移植を受けるまでの数年間はほぼ寝たきりの状態だったといいます。

「20代半ばの頃、当時の主治医の先生に『何歳まで生きられるか』と尋ねたことがありました。そうすると先生は『30代かな』と。ショックでしたね。しかし今から10年以上前に心臓移植を受け、今私は40代になり、50代も見えてきました。生きることさえ想像できなかったけれど、移植を受けたおかげで、生きているだけでなく元気に働いています。移植を受ける前の自分とは比較できない、全く違う生活をさせてもらっています」

渡邉さんは心臓移植を受け、現在はフルタイムで働くことができるようになった。「今は地元の医療機関に勤務し、社会とのつながりを持てていることに感謝の日々です」(渡邉さん)

「亡くなった方からの移植の場合、臓器提供されたドナーの方とそのご家族、臓器提供を受けた患者、それぞれプライバシーが守られているために直接連絡を取り合うことはできません。私に心臓を提供してくださった方がどなたなのかはわかりませんが、本当に感謝しています。この気持ちを手紙にして病院に託すことで、毎年ご家族様に思いを届けています」

「全く見知らぬ方から命を救っていただいて、今、大病を患うこともなく、日々元気に働くことができています。二人と同じく『ありがとう』以外に適切な言葉が見つかりません。大事にしていきたいと思うと同時に、死にかけで寝たきりの状態だった私が臓器提供を受けたことでこんなにも元気になれたということを、団体の活動を通じて、また個人としても発信していきたいと思っています」

臓器の移植を待つ人は1万4千人超、一方でドナーは年間100人ほど

「献腎移植(亡くなられた方からの腎臓の提供)」を受け、元気な日々を送る移植者の方(左)。「ご自身の得られた経験から、臓器移植への理解をすすめるため、啓発活動のためのイベントに精力的に参加されています」(中井さん)

渡邉さんや中井さん、谷川さんように移植を受けて元気な生活を送るケースがある一方で、現在、臓器の移植を待つ人は1万4千人を超えています。

「亡くなった方からの臓器移植件数は2019年で500件足らず、一方で臓器移植を待っている方は1万4千人を超えています(2020年4月末現在)。この500件という数字は、移植を受けた人の数です。一人のドナーから心臓や腎臓、肝臓とそれぞれ臓器が提供されるケースもあるので、ドナーは100名ほどしかいません」

「臓器移植を受けた当事者として臓器移植のありがたさは身に染みて感じていますし、移植医療によって一人でも多くの方が救われて欲しいと願っています。だからといってみんなに『臓器提供をしてください』ということをお伝えしたいわけではありません。提供する・しないは、それぞれ守られるべき権利であり、選択の自由は一人ひとりにあります」

「だからこそ、この問題について考え、もし自分や大切な家族が事故にあって助かることが難しい状況になった時にどうするか、自分や家族が病気になって臓器移植でしか回復が望めない状況になった時にどうするか、考え、意思を提示して欲しいと思っています」

意思表示がないために、遺された家族が悔いてしまうことも

2010年に「臓器移植法」が改正され、家族の承諾のみで脳死下の臓器提供ができるようになりました。つまり本人の意思表示がなくても、遺された家族の判断で臓器を提供することが可能になったのです。

「これにより、臓器移植の数は劇的に増えました。しかし一方で、その際に残された家族のためにも、臓器提供について意思表示をしようという考えが語られるようになりました。

本人の意思が不明の場合、遺されたご家族が臓器提供を選択した際に、後になってから『これでよかったのか』『本人はこれを望んだだろうか』と悩んだり悔いたりされることがあります。臓器提供を選択しなかった際も然りです」

「ご家族のためにも『もし何かあった時、臓器移植について自分はこうして欲しい』という一言や、運転免許証や保険証での意思表示があれば、もしもの時にご家族の悩みや苦しみ、精神的な負担を軽減することができます」

「誰しも1ヶ月後どうしているかというのは確実ではありません。もしもの時のために家族で話し合う時間を持つこと、何らかの思いを伝えておくことは、ひとつの足がかりになるのではないでしょう」

「もし何かあったとき」について、家族や親しい人と気軽に話し合う機会を

「臓器移植を受けたことにより得られた”いのち”の喜びと、ドナーとその家族の方への感謝の思いを、スポーツを通して表現する『全国移植者スポーツ大会』を開催しています。最後に参加者が手をつなぎ、ひとつの大きな円を作ります。臓器移植を受けて元気になり、今こうしてここにいる幸せを分かち合い、来年も再び会うことを約束する瞬間です」(中井さん)

「臓器提供をするかしないかという話題は、どうしても重い話になってしまう」と3人は話します。

「自分や身内が亡くなるということは、なかなか考えないし、考えたくもないことです。だけど少しだけフランクに、『もし自分が死んだら』という延長線上で話せるような機会を持てたら良いのかもしれません。現実的ではないことを深く話すというのは難しいですから、ぼんやりと気軽にでも、ご家族や親しい方たちと話してみていただけたらと思います」

「語られることの少ない『死』について、たとえば『自分はどんなお葬式にしたいか』といった話から、文脈のひとつとして臓器提供についても話せるような、そんな軽やかなアプローチも良いのかもしれません」

臓器移植医療の理解を進めるための活動を応援できるチャリティーキャンペーン

チャリティー専門ファッションブランド「JAMMIN」(京都)は、「日本移植者協議会」と1週間限定でキャンペーンを実施し、オリジナルのチャリティーアイテムを販売します。

1/11〜1/17の1週間、JAMMINのホームページからチャリティーアイテムを購入すると、1アイテム購入につき700円が「日本移植者協議会」へとチャリティーされ、ドナーの方やそのご家族への感謝、臓器移植の素晴らしさ、健康になったことへの喜びを継続して発信し、臓器移植医療の理解を広げていくための活動資金として活用されます。

「JAMMIN×日本移植者協議会」1/11〜1/17の1週間限定販売のコラボアイテム(写真はスウェット(カラー:ベージュ、価格は700円のチャリティー・税込で7600円)。他にもTシャツやパーカー、トートバッグやキッズTシャツなど販売中

コラボデザインに描いたのは、風に乗って飛ぶタンポポの綿毛。ドナーから提供された臓器が新たに豊かな生命を生き続けていく、いのちのバトンを表現しました。

チャリティーアイテムの販売期間は、1/11〜1/17の1週間。JAMMINホームページから購入できます。JAMMINの特集ページでは、インタビュー全文を掲載中!こちらもあわせてチェックしてみてくださいね。

臓器の提供を受け、元気で過ごす人たちがいる。感謝を届け、臓器移植への理解を深めたい〜NPO法人日本移植者協議会

山本 めぐみ(JAMMIN):
JAMMINの企画・ライティングを担当。JAMMINは「チャリティーをもっと身近に!」をテーマに、毎週NPO/NGOとコラボしたオリジナルのデザインTシャツを作って販売し、売り上げの一部をコラボ先団体へとチャリティーしている京都の小さな会社です。2014年からコラボした団体の数は300を超え、チャリティー総額は5,000万円を突破しました。

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