4月2日は、国連が定めた「世界自閉症啓発デー」。今では幅広く自閉スペクトラム症として捉えられることが多くなってきたという自閉症ですが、一体どんな特徴があるのか、生活の中でどのような困難があるのかを知らない人も少なくありません。自閉症の当事者とその家族の会として50年以上活動している団体に話を聞きました。(JAMMIN=山本 めぐみ)
「行動や態度の意味を理解して、温かく接してほしい」
「自閉スペクトラム症の一人ひとりの行動や態度の意味を理解して、温かく接してほしい」。
そう話すのは、一般社団法人「日本自閉症協会」会長の市川宏伸(いちかわ・ひろのぶ)さん(76)。市川さんは医師であり、当事者の親でもあります。
「自閉症という字そのものが表すように、自閉スペクトラム症の人は自分の中に閉じこもり、周囲の働きかけに反応しないというふうに言われた時代もありましたが、これは正しくありません。一昨年にちょうど団体創立50周年を迎えましたが、この50年で自閉スペクトラム症児者をとりまく環境は大きく変わりました」
「自閉スペクトラム症の特徴として、本人は友達を作りたい、周囲と良い関係を築きたいと思っていても、脳の発達の仕方が違うために、周りの多くの人とは異なる感覚や理解になります。そのことから言葉で自分の意思を相手に分かるように伝えることにも困難をかかえます。また、一般的に常識とされることを身につけるのが苦手で、本人はまじめに取り組んでいても周囲から誤解されたり理解を得るのが難しかったりするということもあります」
「自閉スペクトラム症の方が抱える課題は、暮らしている地域や年齢、障害の程度によっても異なる」と話すのは、団体事務局長の大岡千恵子(おおおか・ちえこ)さん(63)。
日本自閉症協会は、自閉スペクトラム症の当事者と保護者のための会員組織として、年6回の機関紙や自閉症に関するガイドブック・DVDの発行、最近では動画を通じた最新の情報発信などを行いながら、自閉スペクトラム症のある人たちのより良い暮らしのために全国各地の会員団体と連携し、国に対して提言も行っています。
「自閉スペクトラム症」とは
「自閉スペクトラム症」にはどのような特徴があるのでしょうか。
「見た目ではなかなかわかりづらいですが、対人関係やコミュニケーションをとることに困難をかかえます。近年『発達障害』という言葉をよく目にするようになりましたが、自閉スペクトラム症やアスペルガー症候群、学習障害(LD)や注意欠陥多動性障害(ADHD)、トゥレット症候群、吃音症などもまとめて発達障害と定義されます」
「ただ、一人ひとり症状も違えば複数の障害が重なっているケースも少なくなく、『発達障害だからこう』『自閉症だからこう』というふうに断言はできません。一人ひとりを理解した上で必要な支援を行っていく必要があります」
新しい診断基準(「自閉症スペクトラム/自閉スペクトラム症(Autism Spectrum Disorder、ASD)」)では、自閉症で知的障害のある人もそうでない人も、虹の帯のように連続した帯と考えて、スペクトラムと呼んでいます。ASDには以下のような傾向があります。
・コミュニケーションや周囲とのやりとりに違いがあり、他の人の視点、気持ちに気づきにくく、自分の思いが強いため、相互のやりとりに難しさを感じることがあります。
・抽象的な表現は苦手な傾向があります。絵や写真など視覚的にわかる説明や短く具体的な言葉などの工夫をしていただくと伝わりやすくなります。
・いつもと同じ状態ややり方を好む、興味の幅が狭くこだわりが強いなどの傾向があります。
・刺激への過敏が見られる人や逆に鈍感な人もいます。
知的な遅れがなく
障害に気づかないことも
「ひと昔前は自閉症というと知的障害を併せ持つイメージが強かったし、教育や住まいの支援についても知的障害を持つ方が中心でしたが、現在では知的な遅れの有無を含め、対人関係やコミュニケーションに困難をかかえる方たちをまとめて自閉スペクトラム症ととらえる流れになっています」と市川さん。では、自閉スペクトラム症と診断される人の知的障害の有無はどのぐらいの割合なのでしょうか。
「ここは完全に切り分けることが難しい部分ですが、知的障害を併せ持つ方と持たない方、半々ぐらいだと考えられています。知的障害がなく自閉スペクトラム症と診断される方の中には、本人もそのことに気づかずにずっと生きてきて、なぜか周囲とコミュニケーションがうまく取れない、言葉の意味合いを違って受け取ってしまうといったことで悩みを抱え、それをきっかけに専門機関を受診して分かる方もいます」
「ただ、自閉スペクトラム症と診断されたからといって、これは薬を飲めば治るというものではありません。特性があるということを前提に社会生活を送っていくことになります」
環境がストレスとなり
二次障害に苦しむことも
特性から周囲と思ったように意思疎通をとることができない、対人関係がうまくいかない、置かれている環境に適応できないということが日常生活の中で起きてきた時に、そのことが本人に重いストレスとなり、イライラする、不安になる、鬱になる、眠れなくなるといった二次障害に悩まされることもあります。
「自閉スペクトラム症であることが周囲から理解されて受け入れてもらえない、あるいは自分も自閉スペクトラム症であることに気づいておらず日常生活の中でどうしてもうまくいかないという環境に身を置いていると、周りと同じようにできなくて怒られ続けるとか、周囲から浮いた存在になってしまう、冷たい目で見られるといったことが本人の不安をますます強くするし、自信喪失にもつながります」
「そうすると症状がより強く出てしまい、たとえば物を壊すとか、一つの物事に執着してなかなか離れられない、鬱状態になる、極端な例では幻覚を見るようになり統合失調症のような症状を発症するケースもあります」
「二次的な症状には薬を出すことはできても、自閉スペクトラム症の症状そのもの、対人関係やコミュニケーションに直接効くような薬はありません」と市川さん。
「眠れないとか不安が強いといった二次障害に対応することも大切ですが、根本的な部分として、自閉スペクトラム症の症状、環境の改善のために対応することが大事ではないかと思います。本人に合った環境に変える、本人に合う環境に戻してあげるだけで、状態がぐっと改善されることも少なくありません。そうでないと、不安を抑える薬とか不眠を和らげる薬とか薬ばかりたくさん処方され、環境自体はかわらずストレスがかかり続けて、かえって本人もつらくなってしまうということも起きてしまいます」
「『障害』は社会が生み出しているもの」
「『自閉スペクトラム症であること』よりも『適さない環境でストレスを抱え続けること』が問題の原因となっていることも少なくない」と事務局長の大岡さん。障害特性が受け入れられることで、当事者のストレスも大きく軽減されるのではないかと話します。
「『障害がある』という時、その『障害』とは『社会で生きていくときの障害』を指すのではないか、『障害』は社会が生み出しているものであるのではないかという考え方が拡がりつつあります。私たちは一人ひとりそれぞれに得意不得意があって、個性があります。私たちのなかに、自閉スペクトラム症の特性を理解できる素地はあると思うのです」
「診断はされていなくても、日常生活でそこまで大きくは困っていなくても、皆それぞれ不得意なことや苦手なことは持っているんですよね。自分の苦手なことでずっと怒られたり白い目で見られたりしたらどうだろう?と考えた時に、何となく自閉スペクトラム症の方たちが置かれている状況をイメージしてもらえるところがあるのではないでしょうか」
「悪いところではなく良いところを見つけ、その個性を尊重することができたら生きていくうえでの『障害』は減っていくのではないでしょうか」と市川さん。
「自閉スペクトラム症の人たちは、純粋で嘘がつけない人たちです。本当のことを言って相手を怒らせてしまう。ごまかせないのです。今の日本社会ではそれがなかなか受け入れられず、だから生きていくのがつらくなってしまうというところがあるのです」
「良さを見つけ、温かく受け入れて」
「線引きするのではなく、人としてまるっと受け入れてみることができたら、その方だけでなくきっと周りももしかしたら楽になって過ごしやすくなることもあるのでは」と大岡さん。
「自閉スペクトラム症に限らず、『障害』ではなく『その人自身』を見てもらえたらと思います。違いをマイナスにとらえるのではなく、自分にはない発想を楽しみ、受け入れ、その人が夢中になっていることや好きなこと、得意なことに向かっている姿を温かく見守ってもらえたら。自閉スペクトラム症の人たちの見え方、考え方を『そうなんだ』と知ってくださって、人として付き合う楽しさを見出してくださったら嬉しいなと思います」
「大切なのは、言い方」と市川さん。
「僕は医師として外来で自閉スペクトラム症の人たちを診察していますが、『あれができない、これができない』とダメ出しされ続けたら、本人も『自分はダメな人間なんだ』と自信を失い、やがて努力することをやめてしまいます。『社会に適応できない本人が悪い』という見方でなく、『他の人にはない素晴らしい部分はどこにあるかな』と見ると、良いところが見えてくるのではないでしょうか」
「教育の場だけでなくご家庭でも社会でも、いかに本人が成功体験を積み、自信をつけ、自分の中で存在価値を高められるようにできるかが大切です。子育てに苦労している親御さんもいらっしゃいますが、大変な中でも、我が子の中に何か人とは違う、その子だけのキラッと光る個性や才能を、ぜひ見つけてあげて欲しいと思います」
「残念ながら、今はまだまだ社会が発達障害に対して違和感を持っています。受け入れられる社会になったら、本当に素晴らしい仕事をする人たちで、良いところをとらえていけば、社会的にも貢献できる人たちであるということをお伝えしたいですね」
自閉症啓発のための活動を応援できるチャリティーキャンペーン
チャリティー専門ファッションブランド「JAMMIN」(京都)は、日本自閉症協会と1週間限定でキャンペーンを実施し、オリジナルのチャリティーアイテムを販売します。
3/22〜3/28の1週間、JAMMINのホームページからチャリティーアイテムを購入すると、1アイテム購入につき700円が日本自閉症協会へとチャリティーされ、自閉スペクトラム症の認知や理解を広めるためのパンフレットやチラシ、動画等の制作費として使われます。
コラボデザインに描いたのは、風に乗り、大空に浮かぶ気球。気球の中に描いた宇宙は一人ひとりに秘められた無限の可能性を、気球と一緒に飛ぶ鳥たちは一人ひとりの個性を受け入れ、伴走しながら支える個人や社会を表現しています。
チャリティーアイテムの販売期間は、3/22〜3/28の1週間。JAMMINホームページから購入できます。
JAMMINの特集ページでは、インタビュー全文を掲載中!こちらもあわせてチェックしてみてくださいね。
・自閉症の特性を知り、「自閉症だから」ではなく「人として」付き合う楽しさを見出して 〜一般社団法人自閉症協会
山本 めぐみ(JAMMIN):
JAMMINの企画・ライティングを担当。JAMMINは「チャリティーをもっと身近に!」をテーマに、毎週NPO/NGOとコラボしたオリジナルのデザインTシャツを作って販売し、売り上げの一部をコラボ先団体へとチャリティーしている京都の小さな会社です。2014年からコラボした団体の数は350を超え、チャリティー総額は5,500万円を突破しました。