小児がんなどの重い病気で長期入院する子どもたち。日々の治療や入院生活はつらく、決して楽なものではありません。「入院中の子どもたちとその家族に、笑顔と勇気と心のケアを」。その思いでさまざまなプログラムを海外からも取り入れ、子どもたちを支援してきた団体があります。現在はコロナ禍でより隔離されてしまった小児病棟の子どもたちのために、新たな取り組みも始めています。(JAMMIN=山本 めぐみ)

生後間も無く白血病と診断されても闘病を笑顔で生き抜いた小さないのち

静岡県立こども病院で、秋に引退予定のファシリティードッグ「ヨギ」。病院の屋上まで、入院中の子どもと一緒にお散歩して気分転換

NPO法人「シャイン・オン!キッズ」は、小児がんなどの重い病気を抱える長期入院中の子どもたちに笑顔を届け、自己肯定感や前向きな気持ちを育む「心のケア」をサポートする団体です。現在の活動のメインは、トレーニングを受けた犬を病院に派遣する「ファシリティドッグ」と、「ビーズ・オブ・カレッジ」というプログラム。

「どちらの活動も、病院での治療や薬とは異なり効果が目に見えてわかるものではありません。しかし日々の治療や入院生活に耐えている子どもの負担を和らげ、自信や勇気与えるものです」と話すのは、団体広報の橋爪浩子(はしづめ・ひろこ)さん。

団体創立のきっかけとなったのは、生まれて1ヶ月で急性リンパ性白血病と診断され、闘病の末に2歳を目前に亡くなったタイラー・フェリス君の存在でした。

タイラーくんは闘病生活の中で、いつも笑顔を絶やさなかった

「つらい入院生活の中でも、タイラーは笑顔を絶やすことはありませんでした。団体創設者であるキンバリとマークは、幼くして天国に旅立った息子の勇気と家族の経験を、同じように苦しみを背負う小児がんの子どもたちとその家族のためにポジティブに役立てたいと強く思い、2006年に団体の前身となる『タイラー基金』を設立しました」と話すのは、事務局長のニーリー美穂(みほ)さん。

「二人は、日本では最先端の医療が受けられる一方で、患者や家族の心のケアの面では大きく遅れていることを知り、欧米で進む心のケアのプログラムを導入することでお世話になった日本の小児医療を支援したい、日本で闘病する子どもたちとその家族のために何かできることをしたい、と活動を始めました。当時まだ珍しかった病児とその家族が滞在できる施設の運営や心理士派遣などを行ってきましたが、現在は病院内のプログラムに重きをおいて活動しています」

子どもたちを癒し、勇気を与える「ファシリティドッグ」

神奈川県立こども医療センターのファシリティドッグ「アニー」は、添い寝も得意

団体の活動の一つである「ファシリティドッグ」は、病院など特定の施設で活動するために専門的なトレーニングを積んだ犬が、看護師経験のある「ハンドラー」とチームを組んで病院のスタッフの一員として常勤し、交流を通じて子どもたちを支援するプログラム、

現在は静岡県立こども病院、神奈川県立こども医療センター、東京都立小児総合医療センターの3病院にて、そしてこの7月からは国立成育医療研究センターでも新たに活動をスタートします。

「時々交流するのではなく、毎日同じ施設に勤務しています。そうすることで入院中のお子さんやご家族個々のニーズに応え、より深い関係性を築くことができると考えています」と橋爪さん。

昨年秋、虹の橋を渡った初代ファシリティドッグ「ベイリー」。「約9年間で延べ22585名のお子さんのもとを訪問し、笑顔と勇気を届けてくれました」(ニーリーさん)

「各病院で、ファシリティドッグとハンドラーは緩和ケアチームの一員であり、『心強い同僚』と表現してくださるとドクターもいらっしゃいます。子どもたちのつらく不安な気持ちを受け入れ、やさしく寄り添い、勇気を与え、治療がより効果的になるようサポートする。ファシリティドッグの力を多くの医療者の方が認めてくださり、医療チームの一員として受け入れてくださっているのは本当にありがたいです」

「子どもたちにとってファシリティドッグは、自分の周りにいるおとなたち、親御さんやお医者さん、看護師さんとはまた違う存在。時にお兄さんやお姉さんであり、時に弟や妹でもある、かけがえのない特別な仲間であり友達であり、『自分のことをわかってくれている』と感じられる存在なのだと思います」

ファシリティドッグは、子どもと一緒に手術室や処置室へも付き添う

「中には、残念ながら闘病の末に亡くなるお子さんもいます。しかし以前、あるお母さんから『ファシリティドッグがいたことで、入院が楽しかった思い出として記憶に残っています』とお手紙をいただいたことがありました。『子どもを亡くして10年近く経つけれど、我が子が(ファシリティドッグの)ベイリーと一緒に笑顔で写っている写真を見ると、入院中のつらい記憶や嫌な思い出を笑顔に変換することができた』と」

特別な訓練を受け、子どもたち一人ひとりのニーズや状況に応える

「入院中のお子さんとその家族が皆で書いてくれたカードです。『アニー、ありがとう』『ずっとともだちだよ』『またあそぼうね』…。ファシリティドッグへの思いが伝わってくる嬉しいプレゼントです」(橋爪さん)

ファシリティドッグは最低60以上のコマンドを覚え、ハンドラーの指示に従い病棟内を適切に動きます。

「お子さんの病状や病室内の環境も配慮しつつ、たとえば手術後の子には寄り添うように、元気な子には同じように活発な感じで付き添います。一人ひとりの状態に合わせながら、子どもたちを癒し、支える役割を担っています」と橋爪さん。

現在各病院で活躍する「アニー」「アイビー」「ヨギ」「マサ」「タイ」の5頭は、ファシリティドッグとしていずれも特別なトレーニングを受けた犬たち。ファシリティドッグとチームを組んで活動するハンドラーもまた、医療資格を持つ人に限定しているといいます。

東京都立小児総合医療センターに勤める「アイビー」。医療スタッフの一員であり、コロナ禍にあっても感染対策をしっかりと行い病院に常勤している

「現在のところ、臨床経験5年以上の看護師資格を持つ方に限定しています。ハンドラーが医療的なケアに直接関わることはありませんが、犬と一緒に行動しながら、見た目ではわからないさまざまなことをその都度判断して動いています」

「『病室に入り、子どものそばに寄り添う』という流れ一つをとっても、子どもたちはそれぞれ医療機器に囲まれていたり免疫力が低下していたりするので、一人ひとりの治療や体調にさしさわりのないアプローチ、病状や治療状況によって注意しなければならないことがあり、医療的な視点でその都度適切な判断が必要になります。主治医や医療チームとの連携も必須なので、医療の知識と経験が必須です。また感染対策に関する知識も重要です」

「時には手術室まで同行することもあります。手術前の麻酔は不安でこわいものです。そんな時、犬がそばにいてくれることは、子どもに大きな安心感を与えます」

「ビーズ」はつらい闘病の日々を乗り越えた証

子どもたち一人ひとりがつないだビーズは治療の記録、そして勇気の証

もう一つの活動が、子どもの治療の記録を日記のようにビーズでつなぐ「ビーズ・オブ・カレッジ(”Beads of Courage、勇気のビーズ”)」プログラム。

「入院中の子どもたちが、医療スタッフと一緒に、色とりどりのビーズをつなぎながら治療や検査を記録し、治療に前向きに取り組めるよう導くプログラムです」とニーリーさん。プログラムを通じて子どもと医療者との対話が増え、さらに子どもの病気に対する理解も深まることで、治療が進みやすいという効果も見られるといいます。

「治療一つひとつにビーズの色や種類が決められています。たとえば入院した時は黄色のビーズ、輸血を受けた時は赤いビーズ、採血や注射、管など針を刺した時は黒いビーズ、化学療法は白のビーズ…といったふうにです」

闘病中の子どもがつないだビーズ。ビーズ一つひとつに意味があり、小児がんの子どもが一回の入院で集めるビーズの数は一人平均して900〜1000個にもなるという

「中には特別なビーズがあります。手術を受けた時は星のかたちをしたビーズ。放射線治療を受けた時は暗闇で光るビーズ、あるいは『これは本当にがんばったよね』という特別な出来事、たとえば髪が抜けて皆に会いたくなかったけどがんばって院内学級に行ったとか、具合が悪かったけど階段を上がったとか、そんなふうに本人が何かチャレンジした時には、国内のとんぼ玉作家さんが寄贈してくださった、手作りの『がんばったねビーズ』をつなぎます」

「ビーズをつなぐことで自身の経験や気持ちを客観的に振り返りつつ、それがひとつのかたちになることで、可視化され、本人の中でつらかった経験もストンと腑に落ちて、やがて自信へとつながっていく。つらいことも自分は乗り越えられた。だからもし次にまた治療を受けることになっても乗り越えられるんだ、と立ち向かう勇気が湧くのです」

コロナでより制限が増えた子どもたちにオンラインで笑顔を届ける挑戦も

コロナ禍において、より隔離された状況に置かれている小児病棟の子どもたちに、オンラインで工夫を凝らしたさまざまなワークショップを届ける「シャイン・オン!コネクションズ」をスタート。「英語番組でお馴染みのエリックさんのプログラムは、子どもたちに大人気です」(ニーリーさん)

さらに昨年からは、新型コロナウイルスの流行によって以前に増して隔離された状況に陥った小児病棟の子どもたちへ、オンラインにて笑顔と勇気を届ける「シャイン・オン!コネクションズ」というプログラムを実施しています。

つながりのある企業や個人、またクラウドファンディングの実施や助成金を得て、70台のipadと20台ほどのプロジェクタ、「OriHime」という遠隔操作ロボット9台を希望のあった18の病院に配布。専門家や学生ボランティアと共に独自のオンラインワークショップを届けています。

「現在、約15のコンテンツを行っています。ファシリティドッグが子どもたちの元をオンライン訪問したり、みんなで一緒にレゴを作って多様性を学んだり、オンラインで絵本作家の先生と一緒に絵を描いたり粘土をしたりと多種多彩です。最近では院内学級の先生とのコラボも始まり、科学実験や工場見学なども開始しました」

ワークショップにはZoomを利用。一方的に伝えるのではなく、オンラインでつながった子どもたちと双方向の対話も楽しむ。バイリンガルの高校生と英語で交流も

「医療現場からの反応も良く、リアルなつながりが遮断され状態で、外部とつながることがこんなに大きな力になるのだと予想以上に手応えを感じています。画面の向こうでお子さんも本当に楽しんでくださっているようで、中には『入院して一度も笑わなかった子が笑うようになった』という声もあり、オンラインの可能性を実感しました」

「入院中でもさまざまな興味を持ち、想像力を使い、夢が生まれて未来につながっていく。子どもたちがワクワクして、その可能性を最大限に広げてもらいたい。そんな思いでプログラムを開発しています」

「子どもたちの笑顔のために、走り続ける」

2018年、初代ファシリティドッグ「ベイリー」の引退セレモニー。「関わってきたお子さん、ご家族、医療従事者、支援者の皆さんのほかに、ハワイの育成施設からもスタッフたちが来日しました。12歳9ヶ月で虹の橋を渡りましたが、きっと今頃、お星さまになった子どもたちと一緒に、毎日楽しく過ごしていると思います」(橋爪さん)

「入院中の子どもとその家族の笑顔のために、理念やかたちにこだわらず柔軟性を持って『できることがあったらどんどんやっていこう』というのが私たちの団体のスタンスです」と二人。

「環境の変化に迅速に対応し、まずはチャレンジしようという精神で活動をしています。ミッションを常に意識し、『できる人ができることを』というフットワークの軽さがあって、困っている人がいたら何かできないかを考えてすぐ動く、挑戦するというのが私たちのスピリットとしてあります」

「それはやはり、闘病中の子どもたちやご家族に、少しでも笑顔を届けたいから。それこそが私たちの活動の目的なので、そのためにこれからもずっと走り続けていくのだと思います」

団体の活動を応援できるチャリティーキャンペーン

チャリティー専門ファッションブランド「JAMMIN」(京都)は、「シャイン・オン!キッズ」と6/28(月)〜7/4(日)の1週間限定でキャンペーンを実施、オリジナルデザインのチャリティーアイテムを販売します。

JAMMINのホームページからチャリティーアイテムを購入すると、1アイテム購入につき700円が「シャイン・オン!キッズ」へとチャリティーされ、長期入院中の子どもたちに笑顔と勇気を届ける活動資金として活用されます。

「JAMMIN×シャイン・オン!キッズ」6/28〜7/4の1週間限定販売のコラボアイテム(写真はTシャツ(ベージュ、700円のチャリティー・税込で3500円)。他にもスウェットやパーカー、トートバッグやキッズTシャツなど販売中

JAMMINがデザインしたコラボデザインには、目の前にいる人に全幅の信頼を寄せ、リラックスして寝そべる犬の姿を描きました。犬の手には紡いだビーズが。目には見えないけれど深く結ばれた絆や愛情、それによって輝きを増すいのちの尊さを表現しています。

JAMMINの特集ページでは、インタビュー全文を掲載中。こちらもあわせてチェックしてみてくださいね!

小児がんなどの重い病気で 長期入院中の子どもたちとその家族へ、笑顔と自信、勇気を届けたい〜NPO法人シャイン・オン!キッズ

山本めぐみ:JAMMINの企画・ライティングを担当。JAMMINは「チャリティーをもっと身近に!」をテーマに、毎週NPO/NGOとコラボしたオリジナルのデザインTシャツを作って販売し、売り上げの一部をコラボ先団体へとチャリティーしている京都の小さな会社です。2014年からコラボした団体の数は360を超え、チャリティー総額は5,800万円を突破しました。


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