異常気象、地球温暖化など環境の問題だけでなく、今年に入ってからは新型コロナウイルスの大流行、イギリスのEU離脱やアメリカにおける黒人差別問題、さまざまなニュースが地球を駆け巡っています。この動乱の中、私たち人間、そして地球はどこへ向かおうとしているのでしょうか。何万年もずっと前から、進化を遂げながら地球の変化を見守ってきた生き物・サンゴに魅せられた一人の科学者に、未来への話を聞きました。(JAMMIN=山本 めぐみ)
” open=”no” style=”default” icon=”plus” anchor=”” class=””]「100年後に残す」ために
サンゴ礁の隆起によってできた鹿児島県の小さな島・喜界島にある「喜界島サンゴ礁科学研究所」。国際的なサンゴ礁研究の拠点として、地球規模での気候変動解析と未来予測のために必須である一次記録を次世代に残すための事業を展開しています。研究所理事長の渡邊剛(わたなべ・つよし)さん(49)は、北海道大学で教鞭を執るサンゴ礁地球環境学研究の第一人者です。
「サンゴだけで数百年生きるし、サンゴが集まってできたサンゴ礁は、長いものは数十万年そこに存在します。時間をかけ、さまざまな変化や危機に対応しながら生き延びてきたサンゴには、地球の変動の記録が閉じ込められている」とその魅力を語ります。
喜界島サンゴ礁科学研究所は、「100年後に残す」という理念のもと、サンゴ礁の調査・研究だけでなく、子どもを対象にしたサイエンスキャンプやサンゴ塾の開催などを通じた教育活動や、地元の人たちにもその魅力を知ってほしいと普及活動にも力を入れています。
そこには、渡邊さんの研究への思いがありました。
「僕はサンゴ礁研究のために、世界各地の熱帯のフィールドを巡りました。往々にしてフィールドは、田舎で少しアクセスが不便な場所が多いです。そうすると、分析は大きな研究機関じゃないとできませんから、標本採取のためだけにぱっと現地へ行って帰るということが起きます。もしそのサンゴによってたとえ良い研究結果がもたらされたとしても、地元の人は知らないまま、その地域に還元されないままという状況にずっと違和感を感じていました。その地域でサンゴを採取させてもらうからには、地域の方たちにも共有して、還元できるようにしたい。そんな思いもあって、地域に根付いた場所であることを目指しています」
動物?植物?サンゴの生態
サンゴは地球の熱帯・亜熱帯の、栄養塩がなく枯渇した海域に生息するイソギンチャクの仲間。体内に褐虫藻(かっちゅうそう)と呼ばれる植物プランクトンを飼っていて、褐虫藻が太陽の光で光合成して得たエネルギーを栄養に変えて生きながらえる動物の一種です。「地球上の物質を循環させ、他の生き物のいのちや地球環境に対しても大きな役割を担っている、まさに『不動力』の持ち主」と渡邊さん。
「海の砂漠地帯であってもサンゴがあることによって、そこがいろんな動植物の住処となっています。サンゴ礁には実にさまざまな住人がいて、家のかたちもそれぞれです。多様性が広がる世界は、知れば知るほど複雑で魅力的です」
近年、地球温暖化の切り口からサンゴの白化現象(サンゴが死に、白くなってしまうこと)に関する報道を目にする方も多いのではないかと思いますが、これは温暖化や海洋酸性化によってサンゴと共生する褐虫藻がダメージを受け、失われることでサンゴの白い骨格が透けて見える現象。近年、サンゴの絶滅を危惧する声もあるといいます。
サンゴの研究によって、二酸化炭素量を知ることができる
世界各地のサンゴを採掘し、研究し続けてきた渡邊さん。炭酸カルシウム(CaCO3)を生成しながら生きているサンゴは、化学分析をすることでそのサンゴが存在してきた間の二酸化炭素量を知ることができ、地球温暖化やそれによる気候変動と人間活動との因果関係を知ることができます。
「地球温暖化の原因は二酸化炭素の排出によるものですが、しかし実は、この二酸化炭素の排出が人為起源のものであるのかどうかははっきりと証明されていない」と渡邊さん。
「人為起源の二酸化炭素の排出は、これまで長く歯止めの効かない環境問題として認識されてきましたが、実際には人為起源の二酸化炭素がいつから、そしてどれ程海に溶け込んできたのか、その事実はわかっていません。というのも、私たち人間は100年も200年も前から海の二酸化炭素量を記録してきたわけではないからです」
「なので、アメリカの現リーダーのような方が出てきて『地球温暖化の原因は、人間が出した二酸化炭素だという根拠はない。だから二酸化炭素を排出しても問題ない』といわれてしまったら、それを否定するだけの証拠が、現状ないのです。しかしサンゴは、すべてを記録している。人為起源であるという証拠がないというのなら、サンゴに聞いて証拠を出してやろう、と思っています。サンゴはとても繊細で敏感な生き物で、まさに時代の生き証人なのです」
「揺るぎない証拠を示すことが、僕たち科学者の役割」
「研究によって二酸化炭素の排出が人為起源であると証明されたとして、『人間だけが悪い』といいたいわけではない」と渡邊さん。
「サンゴが教えてくれる過去を通じて、私たちの活動がどれだけ温暖化に寄与しているかがわかれば、将来、持続可能な地球や社会をつくっていくためのヒントなります。それは今だけでなく、100年後にも届けることができると信じています」
喜界島サンゴ礁科学研究所は2015年より、私たちの生活がどれだけの二酸化炭素を、いつから排出してきたのかを調べ、また将来を予測しようというプロジェクト「CoralCO2プロジェクト」をスタートしました。
「地球温暖化にしてもそうですが、当たり前のように思っている物事が、果たして本当に事実なのか。大人になるとどうしても頭がかたくなってわかった気になりがちですが、実はそんなにわかっていることばかりではないと思っています」
「賛成反対とか、良い悪いとか、何派を支持する、しないとかではなく、データを通じて『揺るぎない証拠』を示すことができるのが科学のすごさで、それが僕たち科学者の役割でもあるし、データは、未来に向けても提示できるもの。科学が、それぞれの人がそれぞれの立場で、客観的に対等に、そして一緒に問題を考えていく材料になるし、それが結果として未来にもつながっていくと思っています」
今を俯瞰し、100年後の未来に思いを馳せる
「我々人間の暮らしは一見進化しているようで、昔の人たちは、もっとうまく調和して生きていたのではないか」と渡邊さん。
「喜界島の歴史や文化をみても、先人たちの知恵やサンゴと共に生きてきた歩みが生き生きと見てとれます。自然保護活動をしている人の多くが『人間が悪い』といいますが、一方で人間も生き物として残っていくためにいろいろと進化を遂げて、今の状況が起きています」
「地球ができてからの5億年の歴史を見ると、もっといろんな出来事があって、それでもサンゴはその度に結果として生き延びてきました。地球のしくみの中で、サンゴと人と、どうやってバランスを上手く取っていくことができるのか、皆さんと一緒に考えていきたい。新型コロナウイルスの流行や人種差別の問題、今、さまざまな問題が地球上で起きていますが、100年前と比較しながら、今を俯瞰し、100年後の未来にまで思いを馳せる時期に来ているのではないでしょうか」
「変わりゆく地球や社会の中で、それでも変わらない『何か』がある。そのヒントが、サンゴ礁にあると僕は思っています。科学者としてまだそれを見つけられていないけれど、でもこれまでサンゴが歩んできた歴史、環境や気候の激変を乗り越えてきた歴史の中に、未来へのヒントがあるはずです」
「100年後に残す」サンゴの調査・研究を応援できるチャリティーキャンペーン
チャリティー専門ファッションブランド「JAMMIN」(京都)は、「喜界島サンゴ礁科学研究所」と1週間限定でキャンペーンを実施し、オリジナルのチャリティーアイテムを販売します。「JAMMIN×」コラボアイテムを買うごとに700円がチャリティーされ、サンゴの調査・研究のための資金として使われます。
「サンゴ研究を通じて地球で今、何が起きているのかを知り、そして未来へとつなげていくために、チャリティーアイテムで応援してくださったら嬉しいです」(渡邊さん)
JAMMINがデザインしたコラボアイテムには、サンゴのポリプを中心に、海の生き物や喜界島の花、鍬(くわ)やオールを描きました。サンゴを中心に豊かな生態系や文化が育まれる様子を表現しています。チャリティーアイテムの販売期間は、7月6日~7月12日の1週間。JAMMINホームページから購入できます。JAMMINの特集ページでは、インタビュー全文を掲載中!こちらもあわせてチェックしてみてくださいね。
・変化する地球を見守り続けるサンゴ礁。サンゴに隠された「未来を生きるヒント」を求めて〜NPO法人喜界島サンゴ礁科学研究所
山本 めぐみ(JAMMIN): JAMMINの企画・ライティングを担当。JAMMINは「チャリティーをもっと身近に!」をテーマに、毎週NPO/NGOとコラボしたオリジナルのデザインTシャツを作って販売し、売り上げの一部をコラボ先団体へとチャリティーしている京都の小さな会社です。2019年11月に創業7年目を迎え、コラボした団体の数は300を超え、チャリティー総額は4,500万円を突破しました!