日本にいる技能実習生の数は32万人超(令和5年、法務省「外国人技能実習制度について」から)。農業や漁業、建設、食品製造、介護などさまざまな分野で働きながら技能を学ぶ技能実習生。しかし受け入れ体制が十分でなく、また安価な労働力として扱われ、窮地に追いやられる若者がいることをご存知でしょうか。「日本で暮らすベトナム人の駆け込み寺」として、ベトナム人技能実習生や留学生を支援する団体があります。(JAMMIN=山本めぐみ)

技能実習生が「安価な労働力」として
使い捨てられている

コロナ禍において職を失い、行き場を失ったベトナム人の若者たちとの朝食の様子。「コロナ禍の3年間に支援した人数は3万人。保護して就労の継続支援や帰国支援を行いました」

「人材育成を通じた開発途上地域等へ技能、技術又は知識の移転により国際協力を推進する」ことを目的に作られた技能実習制度。技能実習生は来日後、受け入れ先の企業で3年ないし5年、専門の技術を学びますが、日本で年間、1万人もの技能実習生が「失踪」していることをご存知でしょうか。

「夢を抱いて来日したはずの技能実習生や留学生が、自殺したり失踪したり、強制帰国に追い込まれたりする事実がある」と話すのは、在留ベトナム人の帯同支援や国際協力、日本語教育などを通して、彼らが日本で再出発できるよう支援を行うNPO法人「日越ともいき支援会」代表の吉水慈豊(よしみず・じほう)さん(54)。

お話をお伺いした吉水慈豊さん

「この制度の本来の目的は、技能や技術の移転であるはず。それが正しく理解され、運営されていればいいのですが、企業側が『安価な労働力』として実習生を受け入れ、使い捨てるような事例が横行しています」と吉水さん。

「受け入れ企業のうち、7割ほどはきちんとされていると感じます。問題は残りの3割で、パワハラや暴力、いじめ、給料未払いや長時間労働などが起きています」

「トラブルが起きても、守られるのは企業側と監理団体」

電車にはねられ、左手足を失ってしまった元技能実習生。入管(出入国在留管理庁)と連携し、出国支援を行った

日越ともいき支援会では、これまでにのべ3万人のベトナム人の若者を支援してきました。

「彼らの話を聞いていると、残念ながら『受け入れ企業から人として扱われていない』と言わざるを得ません」と吉水さん。

「態度が気に入らない、いびきがうるさい、遅刻した…。見下し、何かと文句をつけて悪者にして、実習生をやめさせる方向に追い込んでいく。本人はどうしたらいいのでしょうか。家族もいない日本で、働きに来ているのに、職と住まいを同時に失ってしまいます」

制度の中で、たとえば職場を変えたり、あるいは支援が必要な状況に陥った際に、技能実習生を救済するしくみや機関はないのでしょうか。

「実は現行のこれまでの制度では、原則として『3年間転籍できない』という縛りがありました。しかしそれが人権侵害にあたると国際的に批判を受け、新たな制度では、転職の制限が緩和されるようです」

コロナ禍では多くの技能実習生が解雇され、実習の継続が困難となった。彼らを支援するため、全国から集まった食糧を1万人に届けた

「しかし実は、現行の制度でも、何か問題があった場合には転籍できるようになっています。ただ、そこに誰も寄り添わない。技能実習生の受け入れにあたっては、国から認可を受けた監理団体が企業とタッグを組んで管理をします。その監理団体にとって、技能実習生が自分たちと取引のある企業で働いてくれている間はお金になるからいいけれど、そうでなくなると自分たちに利益がありません」

「なので、それ以外の個人的なこと、転籍や職場で起きた問題などは何もサポートしません。つまり、機能していないのです。何かトラブルがあった時に、技能実習生ではなく、企業と監理団体が守られる制度になっているんです」

「国は現在の制度の改善を行うことなく、転籍縛りを短くした新しい制度にしようとしています。しかし縛りの期間を短くしたところで、適切な支援がなければ、問題は何一つ解決しません」

「さらに転籍縛りが短くなると、来日してまだ日が浅く、日本語や日本での暮らしに慣れていないベトナム人が、ぽっと一人で社会に放り出されるような事態が今後もっと増えるだろうということが容易に想像されます。一度受け入れたら最後、面倒を見ない企業や監理団体、それを見過ごす国の制度。これでは路頭に迷う若者は減りません」

「僕は、犯罪者になるために日本に来たわけじゃない」

コロナ禍、就労継続困難な若者たちの就労先確保のために全国を飛び回った吉水さん
 

これまでの支援で、具体的にどのようなケースがあったのでしょうか。

「昨年末に支援したケースでは、愛媛の工場で働いていた技能実習生たちに5千万円近い賃金未払いがありました。時給300円とかひとつ1円といった違法な低賃金で、残業代も出さずに労働力として酷使していたのです」

「北海道で農業に携わっていた技能実習生は、暴力を受けていましたが、監理団体に相談に乗ってもらえず、そのまま失踪というかたちで姿を消しました。その後、私たちの方で再出発を支援しました。…本来であれば、ここは監理団体が担う部分であるはずなのですが」

吉水さんには、活動の中で出会った、忘れもしない一人の若者がいるといいます。

「フォンくんは技能実習生として来日し、一生懸命働いていました。しかし受け入れ企業の給料の支払いが悪く、毎月の給料は約束通りの13万ではなく、多くて6~7万、普段は3〜4万円しか支払われませんでした」

「技能実習生として日本に来るためにはまとまったお金が必要で、そのために親族に借金をしたり、家を担保に銀行からお金を借りたりしていることが少なくありません。来日後に実習生として働きながら少しずつ返済するかたちですが、給料が約束通り支払われず、フォンくんは借金の支払いに困るようになり、一大決心をして失踪したのです」

受け入れ企業先でパワハラを受け、国の支援にもつながることができなかった結果、髄膜炎となり四肢麻痺になってしまったフォンさん

「それでも借金は返さなければなりません。不法就労でお金を稼いでいた時に倒れ、障害が残って四肢麻痺になりました。歩くことができなくなったフォンくんの帰国支援をした際、空港へ向かう道すがら、彼が泣きながら言ったのは、『僕は、犯罪者になるために日本に来たわけじゃない。日本のせいで犯罪者にされたんだ』と。この言葉が、ずっと私の頭に残っています」

「受け入れ企業が毎月の給料をきちんと払い、借金を返済しながら生活が送れていたら、フォンくんは失踪せずに済んだのではないでしょうか。夢と希望を持って来日し、頑張ろうとしている若者の人生を、一部の大人の安易な考えで、狂わせても良いのでしょうか。このような不幸な若者を、一人でも減らしたい。活動の根本にある思いです」

「亡くなった背景を明らかにすることが、
今後の予防と、彼らの供養にもつながる」

2019年、ずらっと並んだベトナム人の若者たちの位牌

多くのベトナム人の若者を支援してきた吉水さん。その背景には、吉水さんの生まれ育った環境があるといいます。

「私は、埼玉の岩槻にあるお寺に生まれ育ちました。住職だった父は、ベトナム戦争のあった1960〜70年代、戦禍から逃れてきたベトナム人僧侶を受け入れていました。ベトナムとしても、優秀なお坊さんを国外に避難させたいという思いがあったのでしょう」

「お寺の離れにベトナムのお坊さんたちを住まわせ、食事を提供し、大学の学費を支援していました。そんな中で幼少期を過ごしたため、ベトナムの人が身近でしたし、父の姿を見て、『困っている人に施すことは当たり前』ということを、幼いうちから教え込まれたように思います」

「父がベトナムと深い関わりがあった関係で、2011年にベトナム大使館の依頼で、日本で亡くなったベトナム人の若者の遺骨や葬儀の支援をしました。お盆になると『新盆』といって、新たに亡くなった方を供養するのですが、そこに並ぶ位牌の数は、私たちのお寺で、だいたい平均して毎年15ほど。しかしその時、なんと150を超えるベトナム人の位牌が並びました。…しかも、亡くなった子たちは皆20代でした」

「当時、技能実習生の置かれた劣悪な環境や実態について、大きく表には出ていませんでした。しかし来日してこんなに短期間で、これだけの若者が命を失うという現実を目のあたりにして、『日本の受け入れ方が、何か間違っているのではないか。どうにかして支援しなければならない』と思いました」

日越ともいき支援会の支援を受け、無事ベトナムに帰国したフォンさん

「若者の不審死は少なくありません。ある朝突然亡くなっていたとか、暴行の痕があって、トラブルに巻き込まれた可能性が否定できないケースもあります。首を吊って自死していたケースもあります。不法就労や不法滞在している若者が、悪いコミュニティとつながり、犯罪に巻き込まれるケースは少なくありません」

「若い命が失われたことに対して、その背景にどんな問題があったのか、それを明確にすることが、今日本にいる若者、これからやってくる若者が同じ道を歩まないようにするための対策になるだけでなく、亡くなった若者たちの供養にもなると思っています」

「彼らにとっての駆け込み寺になりたい」

日本にいるベトナム人の若者たちに向けて、「ともいき青年部」のメンバーが、SNSでさまざまな情報を発信。日本語教室や、日本で犯罪に巻き込まれないよう啓発動画の発信なども行っている

「支援する日本人がいるよ」ということを、まず当事者であるベトナム人の若者に知ってもらいたいと、ベトナム人コミュニティやSNSを活用して広く発信することに、活動を始めた当初から力を入れてきた吉水さん。

「支援している子たちは減りません。日々、さまざまな相談があります。しっかりした受け入れ体制がある企業や監理団体では、大きな問題は起こりません。しかし偶然、本当にたまたま運悪く、ちゃんとしていない企業や監理団体に当たってしまった時に、『運が悪かったから、命が救えなかった』では話になりません」

「そうならない制度にしていく必要があるし、そのためには、我々が声をあげていく必要があります。私たちには『110番』がありますよね。でも、彼らには困った時、SOSを発したい時、110番の代わりになるものがないんです」

「電話をかけるSIMカードを持っていないし、言葉が伝わらなかったりする。私たちは、彼らにとっての駆け込み寺、110番のような存在になりたいと思っています。とはいえ、何か起きてからでは遅い。『困った時にすぐに、いつでも相談してね』という発信を続けています」

「死者が出ているという状況、それを生み出しているのは日本の制度です。中小企業の雇用のあり方、安い労働力として外国人に頼らずに会社が回っていくようなシステム作りも含めて、国が変わっていく必要があるのではないでしょうか」

団体の活動を応援できるチャリティーキャンペーン

チャリティー専門ファッションブランド「JAMMIN」(京都)は、9/25〜10/1の1週間限定で日越ともいき支援会とコラボキャンペーンを実施、オリジナルデザインのチャリティーアイテムを販売します。

JAMMINのホームページからチャリティーアイテムを購入すると、1アイテム購入につき700円がチャリティーされ、ベトナム人の若者たちの支援のために活用されます。

1週間限定販売のコラボデザインアイテム。写真はTシャツ(700円のチャリティー・税込で3500円)。他にもバッグやキッズTシャツなど販売中

JAMMINがデザインしたコラボデザインには、ベトナムの花でもある蓮の花の上に、家を描きました。

人は一人では幸せになれない。一人ひとりの生活や暮らしを社会全体で支え、共に空へと伸びていこうという思いを表現したデザインです。

JAMMINの特集ページでは、インタビュー全文を掲載中!こちらもあわせてチェックしてみてくださいね。

・失踪者は年間1万人。「安価な労働力」として扱われる技能実習生がいることを知って〜NPO法人日越ともいき支援会

「JAMMIN(ジャミン)」は京都発・チャリティー専門ファッションブランド。「チャリティーをもっと身近に!」をテーマに、毎週さまざまな社会課題に取り組む団体と1週間限定でコラボしたデザインアイテムを販売、売り上げの一部(Tシャツ1枚につき700円)をコラボ団体へと寄付しています。創業からコラボした団体の数は480超、チャリティー総額は9,000万円を突破しました。

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