学校でずっと「正解」を教えられてきた子どもが親になった時、子育てが始まると、そこに「正解」も、「正解」を教えてくれる人もなく、壁にぶつかる人は少なくありません。「100人いたら、正解は100通り。一人で抱え込まず、共有することで生きることがもっと楽になる」。そんな思いから、京都・大阪のベッドタウンとして発展した滋賀県草津市で活動するNPOがあります。(JAMMIN=山本 めぐみ)

「気にしなくていいよ」といえる団体でありた

団体が運営する育児サークルの一つ「玉っこひろば」は、2011年にスタート。「はじめに必ず『ママの本気じゃんけん』をして、勝ち残ったママには素敵なプレゼントがあります。とにかく育児中のママを笑顔にしたい!笑わせたい!という思いでやっています」(堀江さん)

滋賀県草津市で活動するNPO法人「くさつ未来プロジェクト」。活動拠点である南草津は、京都・大阪へのアクセスが良く、ベッドタウンとして発展した街です。結婚を機にこの地に移り住んだのが、団体代表の堀江尚子(ほりえ・なおこ)さん(48)でした。堀江さんは、高校生、中学生、小学生の3人の男の子を育てる母親でもあります。

「この街は20年ほど前から子育て世代を中心に人口が急増しましたが、子育て環境の整備が追いついておらず、また地域のコミュニティも薄く、一人で小さな子どもを育てるお母さんがたくさんいました」と当時を振り返る堀江さん。

「私自身がそうでした。初めての土地、初めての子育て。わからないことばかりでしたが、スーパー以外に行く場所も、話し相手になってくれる友達もいませんでした」

「子育てには『正解』がありません。だけどそれまでの教育でずっと『正解』を教えられてきたから、挫折しました。子育てが中心の生活は十分に睡眠をとれるまとまった時間もなく、それでいて子どもの検診に行けば『平均体重よりも小さい』とか『これができない』とか、他の子と比べて指摘されたりする。そんなことを続けていると、お母さんはどんどん自信を失ってしまうと思いました」

「このままではいけない」と感じた堀江さんは、2007年、妊娠中にマタニティビクスの教室で出会った西川伸子(にしかわ・のぶこ)さん(51)と共に育児サークルを立ち上げます。

育児サークルから活動をスタートさせた堀江さん(右)と、西川さん(左)

「3歳半の検診で検尿があります。そこで何が起こるかというと、採尿のために『この時までにオムツを外そう』とお母さんが必死になって、オムツ外せなかったら落ち込むんです。でもそれって何か違うと思っていて。ただでさえ初めてのことばかりで不安な子育て、『正解』だけでなく『そんなん、気にせんでええよ!』と言ってあげられる団体でありたいと思っています」

様々な価値観を持つ人と出会える場をつくりたかった

母子分離育児サークル「キラキラキッズ」は、平日の約2.5時間、子どもを預かってママに一人でゆっくりしてもらうためのサークル。「春休みや夏休みは卒業した幼稚園、小中学生もお手伝いに入り、地域の異年齢交流の場にも。お世話する経験は小中学生にとってもすごく貴重。たてよこななめの人間関係を地域に作るしかけです」(堀江さん)

「私たちの世代は、集団の中ではみでたらダメ、皆と同じじゃないとダメという工場のような教育を受けてきた」と堀江さん。

「その結果何が起きているかというと、今の子どもたちに対して、『どうせ無理』とか『失敗するからやめておきなさい』と、周りの大人たちが子どもたちの自己肯定感や可能性を知らないうちに奪ってしまっているという現実があります。まずはここから抜け出さないと、同じことが繰り返されてしまう。やりたいことがあるのに他人の目を気にしたり、周りと比較したり、失敗を極度に恐れたり…、私はこのあり方は確実におかしいと思っています」

「日本の10代の若者の死因の第一位をご存知ですか?自殺です。そして、彼らを自死に追いやった、その母親は私たちなんです。私には、思い当たることしかありません。私の息子は不登校を経験していますが、10歳ぐらいまでは親ががんばればなんとかなる。でも10歳を過ぎたら、子どもは親が言っても聞かないし、やらないものはやりません」

「今の子どもたちは学校、塾、部活の往復ですし、親たちもまた会社と家を往復する生活になりがちです。そうすると家庭はどんどん閉塞してしまう。だから子どもにとっては親とは異なる価値観を持つ大人と出会う、また親にとっては自分とは違う価値観を持つ大人と出会う、そんなきっかけが生まれる場所を作りたいと思いました」

「たくさんの人と関われば関わるほど、生きることは楽になる」

サークル「親子Try部」で大人VS子どもレゴ対決での一枚。「遊びながら、親として子どもへのかかわり方を学びます」(堀江さん)

「日常にたくさんの人が関われば関わるほど視野が広がって、大人も子どもも生きることがずっとずっと楽になる」と堀江さんは話します。

「一つの居場所しかないと、たとえばみんなが『赤』と言っているのに自分だけ『白』と言ったら、それは『間違い』なんですよね。でも、探せば必ず自分と同じように『白』という人がいて、そうしたらそれはもう、間違いでも何でもなくなる。大人も子どももたくさん人と関わりながら、少しずつ、自分にとって都合の良い仲間や環境を増やしていけたら良いんです。どれも『正解』なのだから」

読売新聞の草津の販売店の協力で、月に一度「子ども虹色新聞」を約4万部発行。真剣な表情を浮かべる子ども記者の皆さん。「子どもたちが好きなお仕事、興味のある職場(お店)に子ども記者として取材に活かせていただき、記事を書いています」(堀江さん)

「アメリカの精神科医であるウィリアム・グラッサー博士が提唱した『選択理論』に『上質世界』というものがあります。一人ひとりが理想とする世界、どんなものが好きで、どんなふうに過ごしたいか、何を大切にしているか…それが『上質世界』です。自分がこれだと思う世界の実現のために、ただただ突き進めたら良い」

「一人一人に『わくわくエンジン』が搭載されていて、それがオンになるタイミングも、オンになるかならないかも皆それぞれ異なるし、違って当然なんです。それぞれに夢があります。それを信じて追求し、実現できる社会をつくりたいと思っています」

「私が自分の子どもたちにいつも言っているのは、『親も間違うよ』ということ。『親も完璧じゃないから、自分が『こっちだ』と思ったら、親の言うことではなく自分の直感を信じて欲しい。自分に都合の良い人を見つけて、その人を見て進んでいったらいいよ」と伝えています」

「どうせ無理、をなくしたい」子どもロケット体験教室をスタート

2016年9月、宇宙のロケット開発に挑み続ける植松努さんの『思うは招く』の講演会を草津にて初開催した時の1枚。右が植松さん、左が堀江さん。「この時、植松さんが『児童虐待を無くすために仲間が欲しいです』とおっしゃって。『私、植松さんの右腕になる!』と決めました」(堀江さん)

2016年からは、手作りのロケットを子どもたちと空に飛ばす「子どもロケット体験教室」をスタート。ここにはどのような思いがあったのでしょうか。

「植松努(うえまつ・つとむ)さんをご存知でしょうか。北海道でマグネット製造の傍ら、宇宙のロケット開発に挑み続けている方です。その理由が、『どうせ無理』という言葉の虐待をなくしたい、というもの。植松さん自身子どもの頃、周囲の大人から『どうせ無理』といわれた経験がありました」

「子どもロケット体験教室」にて、自作のロケットを手に笑顔を浮かべる子どもたち。さあ、このあと発射に挑戦!

「2015年の秋に植松さんの講演動画(TED×Sapporo)を初めて観た時、ものすごく共感して。すぐにアポを取って2016年に植松さんを滋賀に招待して講演会を開催し、本州でもロケットを飛ばしたいと指示をいただいて子どもロケット体験教室を開催するようになりました」

「先ほど『上質世界』の話をしましたが、皆それぞれ、本来自分の夢や好きなこと、興味関心を持っています。だけど『そんなの無理』『失敗するからやめておきなさい』と言われ続けて、いつの間にか夢を諦めてしまう。そうなってほしくない。『ロケットを空に飛ばす』というやったことのない経験を通じて、自信を取り戻して欲しいと思っています」

「発射ボタンを押す時に手が震えます。『自分だけ失敗したらどうしよう』『飛ばなかったらどうしよう』…、そんな不安が見えます。だけどロケットが飛んだ時、皆さんすごく良い顔をしてくれるんです」

「大人も子どもも、自分を肯定できる世界を広げてほしい」

「自分が育児をしていた時、子どもたちを連れて公園で水遊びさせるなんて、とても疲れてできなかった。誰かが遊ばせてくれたらどんなにうれしかっただろう。今余裕がある私なら、噴水のど真ん中で子どもを抱っこしてはしゃげる。それが実現できた時の一枚です。過去の私を助けるために、ずっと育児サークルをやっているんだと思います」(堀江さん)

精力的に活動する堀江さんの活動へのモチベーションは、どこからきているのでしょうか。

「直感がふっと湧いた時、それを否定せずに動いた時のミラクルがすごい。ミラクルが起こり過ぎるんです。その楽しさを知っているから、もう止められないというか(笑)。あとは、こわくて誰も開けないような扉も、そこに何があるのかワクワクしてとりあえず開けてみたい、みたいなところはありますね。時々頭をぶつけて痛いこともあるし、怒られて凹むこともあります。でも、それも捉え方は自分次第。ポジティブに楽しみながら、これからも本音でやっていきたいです」

2020年9月、滋賀県立琵琶湖こどもの国で開催した子どもロケット体験教室

「大人も子どもも、いろんな人と出会って『これでいいんだ』とか『そんな考えもあるんだ』と自分を肯定できる世界を広げていってほしい」と堀江さん。

「夢や本音を『言い続ける』ことってすごく大切で、100人いたら100人に『ダメ』って言われることでも、でも違う方向を見たら『良いね』って言ってくれる人が必ずいます。正面を見たら反対する人ばかりかもしれないけれど、もしかしたら真後ろに、100%応援するよと言ってくれる人がいるかもしれない。だから団体として、そんなきっかけを今後も作っていきたいと思っています」

子どもたちにロケット体験教室を届ける活動を応援できるチャリティーキャンペーン

チャリティー専門ファッションブランド「JAMMIN」(京都)は、「くさつ未来プロジェクト」と1週間限定でキャンペーンを実施し、オリジナルのチャリティーアイテムを販売します。

「JAMMIN×くさつ未来プロジェクト」コラボアイテムを買うごとに700円が団体へとチャリティーされ、児童養護施設や外国にルーツを持つ子どもたちが通う学校でロケット教室を開催するための資金として活用されます。

「JAMMIN×くさつ未来プロジェクト」10/12~10/18の1週間限定販売のコラボアイテム(写真はベーシックTシャツ(カラー:ブラック(カラーは全10色)、価格は700円のチャリティー・税込で3500円))。他にパーカー、トートバッグやキッズTシャツなども販売中

JAMMINがデザインしたコラボデザインに描かれているのは、北極星めがけて飛ぶロケット。大人も子どもも一人ひとりが、思い描く夢や「こうなりたい」という目標に向かって、誰にも否定されることなく自分を信じてまっすぐ突き進める社会がもっともっと広がって欲しいという願いが込められています。

チャリティーアイテムの販売期間は、10月12日~10月18日の1週間。JAMMINホームページから購入できます。JAMMINの特集ページでは、インタビュー全文を掲載中!こちらもあわせてチェックしてみてくださいね。

「思うは招く」。人と人とをつなぎ、大人も子どもも夢を持ち、実現できる未来を創る〜NPO法人くさつ未来プロジェクト

山本 めぐみ(JAMMIN):
JAMMINの企画・ライティングを担当。JAMMINは「チャリティーをもっと身近に!」をテーマに、毎週NPO/NGOとコラボしたオリジナルのデザインTシャツを作って販売し、売り上げの一部をコラボ先団体へとチャリティーしている京都の小さな会社です。2014年からコラボした団体の数は300を超え、チャリティー総額は5,000万円を突破しました。

【JAMMIN】
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