「18トリソミー症候群」をご存知でしょうか。ヒトが持つ18番染色体全体の重複に基づく先天異常症候群で、自然流産や子宮内胎児死亡、出生後間もなく亡くなることも少なくありません。生まれてから1歳を迎えられるのは30%程度と言われています。「『出会えた奇跡をありがとう』を発信したい」。18トリソミーの子どもを持つ4つの家族に、話を聞きました。(JAMMIN=山本 めぐみ)

「どれだけ生きたかではなく、どんな時間を過ごしたか」

就寝時、人工呼吸器を使用する心咲ちゃん(左)。「心咲が落ち着いて寝られるように、妹が手を握って一緒に寝てくれます」(2021年、自宅)

「18トリソミーのことをたくさんの人に知ってもらいたい。短命といわれても、こんなにがんばっている子どもたちがいることや家族にとってかけがえのない存在であることを知ってほしい」。18トリソミーの子を持つ家族による任意団体「Team18」。最初に話を聞いたのは、代表の岸本太一(きしもと・たいち)さん(36)。長女の心咲(みさき)ちゃん(9)は、お腹の中にいる時に18トリソミーであることがわかりました。

 

心咲ちゃんは四人姉妹の長女。写真右から4人目が心咲ちゃん、その隣が岸本さん。「2019年3月、地元の公園で撮った写真です。週末は家族でよく近くの公園に出かけます」

「現在は特別支援学校の4年生です。学校には毎日スクールバスで通っています。普段の生活では、人工呼吸器や痰の吸引、胃ろうから食事を注入するなどの医療的ケアが必要です。一人で立って歩いたり言葉を発したりすることはありませんが、好きな人に会ったときや、好きな人の声を聞いた時、好きな遊びをするときなどは、笑顔を見せてくれたり、手足をバタバタ動かして気持ちを表現してくれます」

「今は元気でも、この先長くは生きられない命かもしれない。だけど、大切なのはその長さだけじゃない。短くてもどんな時間を過ごしたか。たった1日かもしれない、数ヶ月かもしれない、1年かもしれない。一日一日を大切に積み重ねていけたらと思っています」

「生まれるよりもずっと前から、共に過ごす時間は始まっている」

 

「出産から約1年半後の2013年8月27日、我が子が18トリソミーで生まれてきたことを初めてSNSで紹介した時の写真です。心咲の存在を隠し殻に閉じこもっていた私にとって、この日はとても大切な日です」

新型出生前診断(NIPT)により、生まれる前にダウン症や18トリソミーといった染色体異常について気軽に調べられるようになっている昨今、岸本さんの思いを聞きました。

「僕たちの団体が発信している『出会えた奇跡をありがとう』という言葉に、すべてが込められています。お母さんのお腹の中から外の世界に生まれ出る時、それももちろん出会いの瞬間ですが、新しい命はお母さんとお腹の中で出会い、共に過ごす時間は出産日よりもずっと前に始まっています」

「その子が持って生まれたかけがえのない命は、誰かと比べたり、選んだりする必要がない尊さを持っています。だから、Team18では、『出会えた奇跡をありがとう』を伝え続けたいです」

「お腹の中で、ずっと一緒に暮らせたら…」出産前に抱いた複雑な思い

 

優樹くんと小都奈さん。「ママの抱っこが大好きで、抱っこしながらの手遊び歌が一番喜んでくれます。最近入院生活が続いていたので、家でこの笑顔を見られることが何よりの幸せです」

次にお話を聞いたのは、妊娠8ヶ月の時に18トリソミーであることがわかった竹田優樹(たけだ・ゆうき)くん(5)の母親の小都奈(ことな)さん(31)。入院や手術を繰り返しながら、現在は二人の弟と家族5人で元気に暮らしています。

お腹の中の赤ちゃんが18トリソミーかもしれないと告げられた時のことを、竹田さんは次のように振り返ります。

「何がなんだか全く訳がわからず、涙が勝手に溢れ出ました。隣にいた主人が手をぎゅっと握ってくれて、そこで我にかえったことを覚えています。通常は妊娠40週ほどで出産しますが、お医者さんの判断で、優樹は普通より1ヶ月長い44週をお腹の中で過ごしました。普通より1ヶ月ほど長く妊婦をしたのですが、この間は精神的にかなり参っていました。『本当にお腹の中に赤ちゃんはいるのかな』『病気だからこんなに苦しいのかな』と」

「それでもエコーで見ると、元気に動く優樹の姿があって。嬉しかったですね。『生まれて来ないでお腹の中にいたら、ずっとこうやって元気でいてくれるのかな。ずっと一緒にいられるのかな。お腹の中にいる方が幸せなのかな』と思ったりもしました」

「優樹の生命力や成長が、私たちを前に向かせてくれた」

二人の弟と。「盛大ではなくても、ささやかなイベントを通じて家族5人で四季を感じながら過ごすことを大事にしています。家族が増えて楽しさも可愛さも倍増しました」

「笑っている姿を見ると、すべて吹っ飛んで幸せになる。優樹は私のバロメーターのような存在」と竹田さん。

「二人の弟も優樹が大好きです。特に次男は優樹と双子のように育ってきて、ハイハイを始めた頃から私のしぐさを真似て優樹のよだれを拭いてくれていました。何でもお手伝いしてくれます。入院でいなくなると『どこに行ったの、いつ帰ってくるの』『さみしい』と言って心配しています」

「今は家族5人、とにかく楽しく過ごしたくて。いつまで一緒にいられるのか、それはわかりません。でもこの瞬間、優樹の人生の一瞬を家族で共に生きることを何より大切にしたい。二人の弟たちにも、優樹と過ごすかけがえのない温かな日々を感じ取って欲しいと思っています」

「お腹の中にいる時から現在に至るまで、波はありました。落ち込むこともあったけれど、それを感じさせないほどの優樹の生命力や成長が、私たちを前に向かせてくれて、強くしてくれました。優樹が笑ってくれるから、私たちも前を向くことができます」

娘を通じて生まれる温かな交流

地元の小学校に通う尾﨑咲良(おざき・さくら)ちゃん(10)の母親の真紀(まき)さん(43)。咲良ちゃんは生まれてから18トリソミーであることがわかりました。

 

三姉妹の長女の咲良ちゃん。二人の妹と、真紀さんと

「生まれて間もなく、ミルクの飲みがわるくて活気がなく、大きな病院で検査を受けて18トリソミーであることがわかりました。治らない予後の悪い病気だという診断を受けて衝撃は受けましたが、母としてできる目の前のことをしているうちに、生まれてきてくれたことや少しずつ成長して喜びを与えてくれること、家族の絆を強くしてくれたこと…、いつの間にか娘に対して感謝の思いの方が強くなっていました」

すくすくと成長し、あきらめかけていた地元の小学校への入学もかなった咲良ちゃん。「学校も先生も大好きで、毎日嬉しさを体全体で表現しています」と尾崎さん。

「学校の友達は皆障害への垣根が低く、咲良のところに寄ってきて声をかけたり頭を撫でたりしてくれます。特別扱いするわけではなく、自分たちの世界や遊びもあるんだけど、その合間にふと来ては遊んだり手をにぎったり、手紙をくれたり。心温まる交流を見ていると、地域で生きることを選んでよかったと思います」

「咲良が、私の生きる軸」

 

 

「淡路島の公園に行った時の写真です。二人の妹の咲良への愛があふれています。咲良の笑顔があれば、皆幸せになれます」

「生まれてから心配することもありましたが、それ以上に与えてもらう喜びのほうが大きい」と尾崎さん。

「自分のことだとなかなか自信がなかったり人間関係に悩んだりすることもありますが、咲良に関することだけは、自信を持って思いを伝えられる自分がいる。咲良が私の生きる軸になっていると感じます」

「私が泣いていようが怒っていようが、私をまるごと受け入れてくれていると感じます。落ち込むことがあっても、その度に『大丈夫やで』『母ちゃんがいてくれて嬉しいで』と彼女に言ってもらってきたような気がします」

「私はこの子の広報部長だと思っていて、できるだけ多くの人に咲良のことを知ってもらって、咲良の生きた軌跡を残していきたい。できるだけたくさんの人の記憶に咲良の存在が残ればいいなと思うし、私が彼女に癒されたように、この子なりに発信している人を幸せにする力を、多くの人に感じてもらいたい」

帝王切開の前夜、「不安しかなかった」

最後にお話を聞いたのは、村山心音(むらやま・ここね)ちゃん(9)の母親の真由美(まゆみ)さん(43)。誤嚥性肺炎で昨年10月から入院中の心音ちゃん。現在、村山さんは病院と自宅を行ったり来たりの生活を送っています。

 

心音ちゃんと村山さん。2021年2月、入院中の病院で

「心音は生後半年で気管切開の手術を受け、普段の生活では人工呼吸器を使用しています。食事は鼻からチューブで腸まで通していますが、誤嚥を繰り返して何度か入院しました。現在も入院中ですが、一時は危ないという話もありました」

「普段の生活では、体の向きを変えたり、鼻水の吸引や導尿なども介助が必要です。自分の意思で動くということは少ないですが、おしゃべりが大好きで、いつも声を出しておしゃべりしています。言葉を話すわけではないのですが、周りの話は結構しっかり聞いているし理解もしていて、豊かに感情を表現します」

妊娠33週と1日で出産する前日にお腹の中の子どもが18トリソミーであることがわかった村山さん。その時のことを次のように振り返ります。

 

生後1ヶ月過ぎた頃の心音ちゃん。「この頃には動きが活発になり、表情も豊かになってきていました。お風呂も大好きで、暴れる事なくお利口にベビーバスに入っていました」

「もともと妊娠中にお腹のハリが強く、ギリギリなんとかがんばろうと経過観察をしていた中、赤ちゃんの心臓がわるいという話になり、そのまま大学病院に緊急搬送されて18トリソミーであることがわかりました。その翌日には急遽、帝王切開することになりました」

「出産前夜はいろいろと気持ちが着いていけずに眠れませんでした。泣きながらネットであれこれ検索すると、18トリソミーは予後不良とか、わるいことしか書いていない。出産を翌日に控えながら『この先どうなるのだろう』という不安しかありませんでした」

「このままどのように治療が進んでいくのか。何もわからずに不安でしたが、同じように心臓に穴があって手術を受けた方の親御さんがブログでいろいろ発信されていて、それが大きな希望になりました。1歳半で心臓手術を受け、その後は顔色もよくなり体重も増加して、今日まで元気に成長してくれました」

「娘は、私の宝物」

 

2020年7月、自宅にて。「ご機嫌に過ごしている心音です。私が寝ている時、『ママ、疲れているんでしょ?』と気づかってくれて、静かにじっと私の顔を見つめて待っていてくれる優しい娘です」

「娘は、私の宝物」と村山さん。

「全部が大好きです。自我が目覚めていて、名前を呼ぶと返事をしたりじっと顔を見つめてくれたり、意思表示をちゃんとしてくれて、親として日々新たな発見があります。娘が生まれてから、いろんなことを学ばせてもらっています。それまでは当たり前と思っていたことが、本当に感謝なんだなあと。健康もそうですし、いろんな人との出会いや、たくさんの人に助けてもらったり支えてもらったりしてやさしさを感じられることも、本当にありがたいし嬉しいです」

出産前夜に村山さんが感じた不安。今、どんな思いかを尋ねました。

「当時感じていた不安は、今はほとんどありません。今は目の前に娘がいてくれるのだから、とにかく毎日を楽しもうという気持ちしかありません。娘と一緒にいろんなことにチャレンジしよう、1日1日楽しいことを続けていこうと思っています」

「お腹の中にいるお子さんに障害があることがわかった時、生む・生まないの決断はどちらにしてもすごく勇気の要ることです。それぞれのご家庭や考えがあってのことだから、周りが意見したり責めたりできるものではありません。ただ、もしかしたら実際に育てている家族を知ることで、何か変わることがあるのではないでしょうか」

「Team18」を応援できるチャリティーキャンペーン

チャリティー専門ファッションブランド「JAMMIN」(京都)は、「Team18」と8/16(月)〜8/22(日)の1週間限定でキャンペーンを実施、オリジナルデザインのチャリティーアイテムを販売します。

JAMMINのホームページからチャリティーアイテムを購入すると、1アイテム購入につき700円が「Team18」へとチャリティーされ、18トリソミーの子どもたち写真展開催のための資金として活用されます。

 

「JAMMIN×Team18」8/16〜8/22の1週間限定販売のコラボアイテム(写真はTシャツ(ダークグレー、700円のチャリティー・税込で3500円))。他にもスウェットやパーカー、トートバッグやキッズTシャツなど販売中

JAMMINがデザインしたコラボデザインには、宝の地図とコンパス、懐中時計を描きました。デザイン全体が18の数字、そして懐中時計が指すのは、18番目の染色体が3つあることを示す「3時18分」。家族や仲間と出会い、共に過ごす時間はかけがえのない宝物であり、冒険である。そんなストーリーを表現しています。

JAMMINの特集ページでは、インタビュー全文を掲載中。こちらもあわせてチェックしてみてくださいね!

・「18トリソミー」の子どもとその家族のさまざまなあり方を発信、「命の尊さ」を伝えたい〜Team18

山本めぐみ:JAMMINの企画・ライティングを担当。JAMMINは「チャリティーをもっと身近に!」をテーマに、毎週NPO/NGOとコラボしたオリジナルのデザインTシャツを作って販売し、売り上げの一部をコラボ先団体へとチャリティーしている京都の小さな会社です。2014年からコラボした団体の数は360を超え、チャリティー総額は6,000万円を突破しました。

 

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