4月2日は、国連が定める「世界自閉症啓発デー」です。自閉症のある人にはどんな特性があり、どんな生活を送っているのでしょうか。1968年に発足し、日本各地の自閉症児者の当事者及び保護者で構成される団体と連携しながら啓発活動や政策提言を行う「日本自閉症協会」。自閉症のある人と暮らす二つのご家族に話を聞きました。(JAMMIN=山本 めぐみ)

「自閉症に対する正しい知識が広まれば」

2022年の世界自閉症啓発デーのポスター

最初にお話をお伺いしたのは、横浜市自閉症協会の代表を務める中野美奈子(なかの・みなこ)さん(57)。横浜市自閉症協会は1979年から活動し、今年で43年目を迎えます。会員の多くは自閉症・自閉スペクトラム症のある当事者の家族で、現在510名ほどが所属しています。

「28歳の長男は重度の知的障害と自閉症を併せ持ち、26歳の次男は個性豊かな人です。最近では自閉症特有の症状や、そこに対して特別な支援が必要であることなども知られるようになってきましたが、一昔前は自閉症に対する知識や意識が皆無に等しく、その点で苦労もたくさんありました」

中野さんの長男の進さん。「二語文程度の発語力と理解力です。自閉症特性の中でも一般の方にわかりにくいのが感覚の問題で、長男の場合は偏食です。ご飯粒が食べることができません。米粒を食べる=我々が砂を噛むのと似た感覚のようです」

「また近年、自閉症で知的障害のある人もそうでない人も、虹の帯のように連続した帯と考える新しい診断基準『自閉スペクトラム症』の広がりも出てきています。知的に問題がない場合、ぱっと見て障がいがわかりづらく、『面倒な人』『わがままな人』と周囲から煙たがられてしまうような風潮がまだまだあります。『こういう特性の人たちがいるんだな』という正しい知識と理解が広がることで、寛容な社会が広がっていけばと思っています」

特性が知られていないがゆえに「ルールにそぐわない」と集団からはじかれてしまうことも

自宅で焼肉を楽しむ進さん。「レストラン・おうち焼き肉が大好きです。自分のペースで、自分の焼き具合で食べることがとても好きです」

「自閉スペクトラム症のある人は、空気が読めなかったり、すぐに物事を忘れてしまったりといったことがあります。また正義感の強い人が多く、マイルールでいろいろと進めてしまうところがあります」と中野さん。

「たとえば、バスに乗った時にいつも同じ席に座りたいという子がいます。運転手さんのすぐ後ろの席に座りたくて、そこにすでに座っている人がいると『どいて』と言ってしまいます。自閉症の特性を知ると納得はできるのですが…、コミュニケーションをとることが難しく、そこで苦労することが少なくありません」

「コミュニケーションが難しいので、困っていることがあった時、相手にそのことを伝えることも難しいようです。何でどう困っているかを本人が把握していないことも少なくありません。意思をうまく伝えられないことがストレスになってものを叩いたり蹴ったりしてしまい、『ルールにそぐわない』と集団からはじかれてしまうようなケースも、残念ながら少なくありません。」

「何もわからない国にぽんと放り出されるような不安を抱えている」

「春が近づき暖かくなってきた日に長男がストーブを点けていたので『ストーブお休み』と伝えると、その時は消してもまたすぐ点ける、そして私が注意をする、を繰り返していたので文字にして伝えたところ、納得してくれました。『納得してもらう=合意形成を得る』というのは、コミュニケーション能力に問題のある自閉症児者には大事なことだと思います」

「自閉症のある子を育てる親として感じることは、『わからないことに対する不安度がとにかくすごく高い人たち』だということ」と中野さん。日々の生活での工夫を尋ねました。

「日々の暮らしでは、朝起きて、何時にご飯を食べて…という1日の流れがすでに決まっていて、そこと異なることが出てくるとやはりストレスに感じてしまうようです。見通しがついたり終わりが視覚的に見えれば、不安は軽減されるようです」

「ファーストフード店やコンビニに一緒に行くのですが、たとえば同じコンビニでも、A店とB店は本人にとって全く別の店です。何曜日に何店に、また誰と行くかということも紙に書いて共有しています。

イレギュラーなことが発生する場合は、絵と文字を使って紙に書いたりスマホで情報を見せたりして説明をします。そうするとニコッと笑って理解しているようですから、改善のための手がかりはあります。本人にとっては、『状況がわからないこと』がただただ不安なんですね」

スケジュールを記載した紙。「自閉症のある人は、いつ、だれと、どこで、何をしたら終わり、そして次になにがある、というのがわかることが、心の安定につながるようです」

「その状況を想像するに、私たちが知らない国に放り投げられるような不安感を抱いているのではないかと思うんです」と中野さん。

「言葉も何もわからない国にぽんと放り出されたら、私たちも非常に不安になりますよね。右も左も話している言葉もわからない中で、でもトイレのマークがあればトイレに行けるし、レストランや売店の看板が出ていれば、少なくともそこでそれが買えるとか食べられるということがわかります。そうやって確認できれば、不安は少し和らぎます」

「看板も何もなかったらどうでしょうか。右も左もわからない国で、伝えられない、わからない、理解してもらえない…、自閉症のある人の日々の生活はそこに近いものがあると思います」

「毎日のリズムやルールが体に入っていると、真面目で正義感が強く、個別のまめなサポートがあることによってより能力を発揮できる人たちです。あたたかく見守ってもらえたら嬉しいなと思います」

多動で会話のできない息子。「どんな将来があるのだろう」と不安だった

もう一人お話をお伺いしました。三重在住の中野喜美(なかの・よしみ)さん(72)の息子の元洋(もとひろ)さん(43)は、特別支援学校高等部を卒業後に一般就労し、社会人25年になります。現在は、自動車部品の製造会社で正社員として勤務しています。

お話をお伺いした中野さん。息子の元洋さん(写真右)、お孫さんと。「息子は料理を作るのも好きで、休みの日は献立を考えてお料理を作ってくれます」

「息子は幼児の頃、目も全然合わず、言葉を発するのも遅かったです。しゃべり出しても会話にならず『何か違う、何かおかしい』と感じていました。といっても40年も前のこと、自閉症に関する知識は当時、そこまで浸透していませんでした」

「小児科の先生に『息子は自閉症というものではありませんか』と尋ねても『そんなわけない』と一蹴されました。病名もつかず周りの理解も得られず、息子はコマーシャルを呟き、私の事を母親だと分かっているのか、この子にはどんな将来があるのだろうか…と不安でした」

5歳の時、小児精神科に特化した病院と出会ったことをきっかけに、同じ自閉症のある子を持つ親たちとつながることができたと中野さん。

「当時はまだこのような病院が少なく、全国からお子さんが通っていました。幼児から小学生の頃は奇声を発したり、多動で手を離せばどこかへ走って行って迷子になるので、気が休まらず必死でした。『集団の中での生活が、本人の成長にもつながる』という主治医の言葉もあって、周りに助けてもらいながら小中と普通学級に通いました」

そんな中、元洋さんは次第に「文字」に興味を持つようになったといいます。

「街中の看板やよその家の表札などを読んで聞かせ、家で見てきた文字を書くとうれしそうにする姿を見て、『文字にこんなに興味があるなら、きれいな文字を書かせてあげよう』と思い、8歳から書道を習うようになりました。書道教室に通い始めて10年で初段を獲得し、今日に至るまで36年通っています」

見通しがつくと、落ち着くことができる

三重県自閉症協会の啓発イベントにて、書道の腕前を披露する元洋さん

「自閉症はその特性に注目されがちですが、皆と同じこともたくさんあります」と中野さん。

「同じ人間なので、自閉症であるとかないとかにこだわらず、あまり考え過ぎずにその人として付き合ってもらえた方が本人も楽なのではないかなと思います。ただ、困っている時に少しの手助けがあるとすごく生きやすくなるので、特徴を知ってくださる方が一人でも多いとありがたいなと思います」

では、どのような特徴があるのでしょうか。

「息子はサプライズが苦手です。伝えたいことは文字にして伝えると、本人が納得しやすいです」

「人それぞれですが、早口でパパッと言われたことは理解するのが難しく、耳からの情報よりも目で見た情報の方が入りやすいということがいえます。言葉は抽象的で不確かなところがあるので、息子の場合は、口で伝えるだけでなく紙にも書いて、目のつくところに置いて伝えます。目で確認できるので、本人は安心できるようです」

「不安が強く、毎日何回も同じことを確認します。予定変更や想定外の出来事が苦手です。たとえば週末に買い物に行く予定がある時に、行くのか行かないのかという確認を何回もします」

社会人25年。「たくさんの人に助けてもらい、長く続けてこられた」

出勤前、会社の作業服を着て鏡の前で髪を整える元洋さん。「髪を整えて、今日もがんばろう」

社会人になって25年の元洋さん。「息子のことを理解しようと近づいてくださる方がいたことが、仕事がよく続いてきた理由だと思います」と中野さんは話します。

「息子はすごく真面目で根気よく仕事ができる人で、そういう意味では本当に恵まれたものを持っています。自閉症ながらも周りの方たちが助けてくださり、かわいがってもらえるのも真面目な働きぶりのおかげだと思います」

「支援学校を出た後、最初の会社は13年ほど勤めました。リーマンショックや会社の合併などで転職を2回経験し、今の職場は8年目になります。長く続ける中で、1日をどのように進めていくかということを、本人の中でも把握できているのだと思います」

「1日のスケジュールが見えていると落ち着いて生活ができます。自閉症のある人の特徴として、見通しがつくと安心できるということが言われています。会社で仕事をすることは、毎日ほぼ同じで休憩なども時間通りなので、気持ちが楽で、落ち着いて仕事に集中できるのだと思います。逆に次に何をするかわからないとか、内容が変則的な仕事などは向かないと思います」

社員旅行でシンガポールへ、「楽しめる時間を、これからも」

「習字を習い始めて20年の節目に念願の個展を開きました。友達や従姉妹などいろいろな人たちが実行委員会を作ってくれて、半年の準備を経て開催できました。先生と息子を囲み、実行委員の皆さんと撮った一枚です」

社員旅行でシンガポールへも行ったという元洋さん。

「『一緒に行って誰が面倒を見るんだ』というふうになった時に、部長さんが『僕は一緒に行きたいな』と言ってくださったと聞きました。ちょっと目をかけてくださる方がいれば、変わってくるんだなと思います。想定外のことが苦手ですが、本人なりに外面があって、周りを見てついていったようです」

「今は仕事も週末の休みも、本人なりに楽しく過ごしているようです。CDを集めるのが好きで、394枚という数のCDを彼なりに分類しています。私にはその分類も理解できませんが、本人が楽しめる世界や一人で楽しめる時間を持っていることが一番いいことだと思うので、何もいわずそっと見守っています」

「先のことは見えないのであまり心配しすぎてもしょうがないと思っていますが、毎朝、暗いうちから張り切って出勤していく彼の姿を見送りながら、この先も今の暮らしを、なるべく続けられたらと思っています」

自閉症啓発を応援できるチャリティーキャンペーン

チャリティー専門ファッションブランド「JAMMIN」(京都)は、日本自閉症協会と3 /14〜3/20の1週間限定でコラボキャンペーンを実施、オリジナルデザインのチャリティーアイテムを販売します。

JAMMINのホームページからチャリティーアイテムを購入すると、1アイテム購入につき700円が団体へとチャリティーされ、自閉症のある子どもたちへの周囲の理解を広げるための動画や冊子制作のための資金として活用されます。

「JAMMIN×日本自閉症協会」3/14~3/20の1週間限定販売のコラボアイテム。写真はTシャツ(700円のチャリティー・税込で3500円)。他にもパーカー、バッグなど販売中

JAMMINがデザインしたコラボデザインには、明るく灯る電気の気球に乗って、町を眺める人の姿を描きました。自閉症のある人の才能や可能性が、社会や未来を明るく照らす様子を描いています。

JAMMINの特集ページでは、インタビュー全文を掲載中。こちらもあわせてチェックしてみてくださいね!

4月2日は「世界自閉症啓発デー」。自閉症/自閉スペクトラム症のある人のことを知って〜一般社団法人日本自閉症協会

山本めぐみ(JAMMIN):
「JAMMIN(ジャミン)」は京都発・チャリティー専門ファッションブランド。「チャリティーをもっと身近に!」をテーマに、毎週さまざまな社会課題に取り組む団体と1週間限定でコラボしたデザインアイテムを販売、売り上げの一部(Tシャツ1枚につき700円)をコラボ団体へと寄付しています。創業からコラボした団体の数は390超、チャリティー総額は6,500万円を突破しました。

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