ケニアで障がいのある子どもたちのための事業を立ち上げた日本人医師がいます。差別と偏見が強く、障がいがあることが「悪霊の仕業」や「うつる」「親族に呪いがかかる」などといわれ社会から遠ざけられてしまったり、人目につかないところで育てざるを得ない状況があるといいます。「一人ひとりが、可能性のある特別な存在」。活動への思いを聞きました。(JAMMIN=田中 美奈)

ケニアで障がいのある子どもたちや家族を支援

「シロアムの園」を立ち上げた、小児科医の公文和子さん

ケニアにて、重い障がいのある子どもたちとその家族のために「シロアムの園」を2015年に立ち上げた小児科医の公文和子(くもん・かずこ)さん(53)。

「一人ひとりのニーズに合わせたケアを目指して、医療や教育の提供、心理面でのサポートを行いながら、子どもたちの居場所としても機能しています。現在は約50名が通っていて、小児科医の私、作業療法士、理学療法士、特別支援教諭、幼稚園教諭、ソーシャルワーカー、カウンセラーなどの専門職のスタッフが子どもたちを迎えています」

「支援の中心は子どもたちですが、親御さん自身が自信を持って生きられる環境がなければ、子どもたちは輝けません」と公文さん。「子どもたちが幸せでいるためには、ご家族も幸せである必要がある」と、家族へのサポート、また地域での啓発活動にも力を入れています。

障がい者への根強い差別や偏見のため、障がいのある子どもたちや家族が外出できず、社会参加が難しくなっている現実がある中、「私たちの活動の最終ゴールは、子どもたち自身が社会の中でどう生きていくのか、その可能性を考えながら自ら実践していけること。そのお手伝いがしたい」と公文さんは話します。

根強い障がい者への差別・偏見。
障がいのある子どもが隠されてしまう社会環境も

ケニアにある「シロアムの園」で、絵本を一緒に読むジェーンちゃんとお母さん

2015年、シロアムの園を開設した公文さんが出会ったのが、重度の障がいのあるジェーンちゃんという女の子でした。ジェーンちゃんの家族も地域からの差別や偏見を恐れ、彼女を家の中に閉じ込め、隠して生活せざるを得ない状況だったといいます。

公文さんと出会った当初、当時11歳だったジェーンちゃんの体重は10kgほどしかなく、ジェーンちゃんもお母さんも、顔には表情がありませんでした。

「『もしかしたらこのまま感情表現ができないのかもしれない』と思っていたジェーンちゃんが、シロアムの園に通い、人と関わりを持つ中で、次第に笑い、表情を見せるようになりました」と公文さん。

「シロアムの園に2年通った後、彼女は亡くなりましたが、私たちにとってもわからないことばかりの中で、触れ合って触れ合って互いを感じながら、私もスタッフも、彼女と彼女のご家族から受けたものはとてつもなく大きい。本当に出会えてよかったと思っています」

教育や福祉、医療など、多岐にわたる課題

毎朝のお祈りの時間。「自閉症と重いてんかんのあるコリンズ君は、シングルマザーのお母さんに捨てられ、おばあちゃんに育てられています。生活が苦しく先が見えない状況の中でも、シロアムの園につながり、おばあちゃんもコリンズ君も希望を捨てません。皆で心を合わせて祈る時に、一人ひとりの子どもたちの命に光を見出すことができます」

差別や偏見以外に、ケニアで暮らす障がいのある子どもたちやそのご家族にはどのような壁が立ちはだかるのでしょうか。

「まず、教育面です。学校が障がいのある子どもを受け入れてくれない、学校に通えたとしても、適切な教育が受けられないといった課題があります。食事やトイレなどの介助が必要な子どもたちは、学校に通うことができません」

「そうすると、子どもたちが日中行く場所がありません。居場所をつくることも、私たちの役割の一つです。シロアムの園は医療施設ですが、子どもたちやご家族からは学校と呼ばれています」

重い障がいのある子どもたちのグループ療法のクラスにて、子どもたちとそのお母さんたち。「クリスマスの発表会で、皆おめかししています」

「また、福祉や医療面の課題もあります。日本では障がいのある子どもたちが療育サービスを受けることができますが、ケニアではそもそも療育という概念がほとんど存在しません。そのためリハビリの機会も少なく、必要な支援につながっていくことが難しい状況があります」

「国の制度として社会保障や医療保険が整っていないため、医療費やオムツなど介護のための出費がかさみ、経済的に困窮する家庭も多いです。子どもの介護のために親御さんが働きに出ることが難しいことも、経済的な困窮の背景にあります」

専門家による、楽しみながら取り組める個別リハビリを実施

子どもたちを診察する公文さん。「子どもたちが到着するとすぐに、親御さんたちは『咳をしている』『熱がある』などの訴えをしてきます。子どもたちのみならず、親御さん、きょうだいさんたちも含めて健康で笑顔でいられるように診療します」

シロアムの園に通う子どもたちは、状況に応じて、週に1〜3回のペースで通所しています。「学校に行っていないお子さんは最低でも週2回、来所できるようにしています」と公文さん。

「全員で朝の会をした後、クラスに分かれて学んだり遊んだりしつつ、並行して個別リハビリを行います。症状に合わせたリハビリを、子どもたちが楽しく取り組めるようにスタッフが付き添います。親御さんにもできるだけ参加してもらい、家庭での注意点や日常生活でのアドバイスなどをお伝えしています」

「クラス活動と個別リハビリの後は、外遊びの時間。トランポリンや砂場で遊ぶ子もいれば、ブランコやサッカーをして遊ぶ子、日向ぼっこをする子もいて、それぞれが好きなように、思い思いに過ごす時間です。その後、ランチを食べて帰宅します。診察は適宜私が行い、子どもたちの健康状態や症状をチェックしつつ、親御さんの困りごとを解決できるよう努めています」

自分たちの手で社会を変えていけるように

脳性麻痺のギフトくん(15歳)にリハビリを行う理学療法士のムハンジさん。「子どもたちやご家族が何に困っていて、どのような生活をしたいのか、話し合いながら療法を進めていきます。何よりも愛をもって」

家族へのサポートや居場所づくりにも力を入れているシロアムの園。

「差別や偏見を受け、自信を失い、自己肯定感が低くなってしまっている親御さんが少なくありません。差別や偏見の言葉を受けるのが怖くて、子どもと一緒に家に引きこもってしまう親御さんもたくさん見てきました」と公文さん。

「しかし、子どもたちが幸せになるためには、親御さんたちのサポートが不可欠です。まずは親御さんたちが自信を得て、前向きになる未来を描けること。そうすると、子どもたちへの意思決定も自ずと希望に満ちたものになっていくのではないでしょうか」

「シロアムの園に来て、自分だけじゃないんだ、仲間がいるんだと感じてもらいたいと思っています。子どもたちがクラス活動に参加している間、ご家族の集いの場も毎日設けています。家族の話をしたり愚痴を話したり、お互いの気持ちを分かち合う時間になっています」

「子どもたちがクラス活動をしている時間、付き添いの親御さんたちは集まって一緒に聖書を読んだり、お祈りをしたり、最近の出来事、考えていることや愚痴などを共有します。毎日の日常からのほんの少しだけ息抜きの時間であり、大変なのが自分一人ではなく、仲間がいることを実感するひと時でもあります」

さらに、保護者に向けた遠足も実施しているといいます。

「物理的にも子どもから離れ、親御さんがリフレッシュできる時間も必要です。普段お世話をしている子どもから一旦離れ、親御さんがその人自身として、一人の人として楽しめるような時間を持てるようにと実施しています」

「『介護者である自分』『親である自分』、つまり『○○ちゃんのお母さん』とか『障がいのある○○ちゃんの育て親』としてではなく、その人自身として、のびのびと自由に過ごせる空間を意識しています」

「お母さんやおばあちゃんたちの変化は目まぐるしく、出会った頃は自信が無さそうにしていた方が、ここでつながりが生まれ、仲間を得て、みるみる元気にたくましくなっていきます」

「そうすると自分の家庭だけでなく周囲にも目を向けるようになり、困窮している他の家族のためにも仲間と一致団結して支援したり、行政に困りごとを掛け合いにいったりと行動を起こすことが増えていきます」

「ケニアではまだまだ、障がいのある子どもたちのアイデンティティは無視されやすいところがあります。だけど、親御さんは発信できる。だから、もっともっと発信して、アクションを起こしていってほしいと思っています」

「あなたも私も、一人ひとりが特別な存在」

クリスマス聖誕劇で、天使役のモニカちゃんの衣装準備。公文さんの鼻の頭にキスをする感触が大好きで、とても幸せそうな顔になるのだそう

公文さんはなぜ、日本から遠く離れたケニアで、子どもたちのための施設を立ち上げようと思ったのでしょうか。

「小児科医として2002年からケニアで働いていましたが、その時に出会ったのが、障がいのある子どもたちでした。子どもたちの笑顔を見た瞬間に一目惚れしました。『この子たちと一緒にいたい』と思ったんです」

「その時、子どもたちの笑顔の裏側にある重いものも同時に感じました。差別や偏見があること、教育の機会がないこと、必要な医療を受けられないこと…この笑顔を見続けるために解決しなければならない問題の大きさを感じて、この子たちを放っておけないと思いました」

「この時、どうして自分がケニアにいるかが初めてわかった気がしました。『ケニアで、障がいのある子どもたちのための事業をやりたい』という気持ちが与えられ、たくさんの方のご支援を得て、2015年にシロアムの園を開設しました」

医者になって2年目の公文さん。当時4歳の白血病の男の子とお母さんと。「男の子は夜の回診で『戦いごっこ』をするのを毎日楽しみにしてくれていました。写真から約一年後に天に召されました。出会う子どもたち一人ひとりが愛おしく、また学ぶ知識や手技もすべて新鮮でやりがいがあり、心身ともにのめりこんでいきました」

医者になって2年目の公文さん。当時4歳の白血病の男の子とお母さんと。「男の子は夜の回診で『戦いごっこ』をするのを毎日楽しみにしてくれていました。写真から約一年後に天に召されました。出会う子どもたち一人ひとりが愛おしく、また学ぶ知識や手技もすべて新鮮でやりがいがあり、心身ともにのめりこんでいきました」

「小児科医としていのちが生まれる瞬間、あるいは亡くなる瞬間に立ち合う中で、いろんなことがありました。クリスチャンの家庭に生まれ、いのちを救いたいと医師になりましたが、助けることができず、納得できなかったこともたくさんあります。医師になってからの数年間は、ストレスからずっと円形脱毛症でした」

「そんな中でも、自分に何ができるのか、自分に与えられた役割は何なのか、常に対話を続けながら今に至っています。シロアムの園に通う子どもたちの中にも、残念ながら亡くなっていく子がいます」

「まだ幼い、愛らしい子どもたちが亡くなる時、納得できない気持ちはあります。ただ一つ言えることは、その子の人生に神さまが確かに一緒にいてくださったということ。医師になって30年近く、そのことだけは心から思えるようになりました」

「『ケニアで障がいのある子どもたちを対象に活動しています』というと、日本の多くの方が、自分とは遠い世界と感じられるように思います。でも、ケニアであろうと日本であろうと、そして障がいがあろうとなかろうと、一人ひとりのいのちは、神さまから与えられたギフト。一人ひとりが特別な存在で、そのいのちをどういう風に生きていくのか。もしかしたらそこに、自由が与えられているのではないでしょうか」

団体の活動を応援できるチャリティーキャンペーン

チャリティー専門ファッションブランド「JAMMIN」(京都)は7/25〜7/31の1週間限定で「シロアムの園」を支援する「シロアム友の会」とコラボキャンペーンを実施、オリジナルデザインのチャリティーアイテムを販売します。

JAMMINのホームページからチャリティーアイテムを購入すると、1アイテム購入につき700円が団体へとチャリティーされ、シロアムの園の運営費として活用されます。

PH10

1週間限定販売のコラボアイテム。写真はTシャツ(700円のチャリティー・税込で3500円)。他にもパーカー、バッグなど販売中

JAMMINがデザインしたコラボデザインには、ケニアの動物や花、植物を力強く臨場感のあるタッチで描きました。それぞれをつなぐように、動物たちの足跡も描かれています。それぞれが自分らしく大地に足をつけて生きる様子、それがかなう社会を表現しています。

JAMMINの特集ページでは、インタビュー全文を掲載中。こちらもあわせてチェックしてみてくださいね!

「一人ひとりが、可能性を持った特別な存在」。ケニアの障がいのある子どもたちとその家族を支援〜シロアムの園

「JAMMIN(ジャミン)」は京都発・チャリティー専門ファッションブランド。「チャリティーをもっと身近に!」をテーマに、毎週さまざまな社会課題に取り組む団体と1週間限定でコラボしたデザインアイテムを販売、売り上げの一部(Tシャツ1枚につき700円)をコラボ団体へと寄付しています。創業からコラボした団体の数は400超、チャリティー総額は7,000万円を突破しました。

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