2020年からはレジ袋有料化が義務付けられましたが、改めて知り、考えてほしい海のごみのこと。「海のごみ問題は、プラスチック廃棄物の問題」と語るのは、30年以上にわたり海のごみ問題に取り組んできた「JEAN」のお二人。今、海のごみ問題が抱える課題を伺いました。(JAMMIN=山本 めぐみ)

私たちが目にすることができるのは、海ごみ全体のたった1%。

海岸でクリーンアップをする前に撮った写真。「浜の小石を覆うようにたくさんのプラスチックごみが漂着しています。すでに劣化して破片になっているものも少なくありません」

一般社団法人「JEAN(ジーン)」は、東京都国分寺市を拠点に、1990年より海のごみ問題に取り組んできました。

「問題解決のためには、ざっくり大きく分けて二つ必要なことがあります」と話すのは、スタッフの小島(こじま)あずささんと、吉野美子(よしの・よしこ)さん。海に浮いていたり海岸に漂着したりして私たちの目に見えるごみは、実は海ごみ全体のたった1%しかないといいます。

「残りの99%は行方不明といわれています。おそらく海中を漂流しているか、もしくはすでに海底に沈んでしまったのだろうと思われます。調査から、世界で最も深いマリアナ海溝の底にもごみがたくさんあることがわかっていますが、そうなるともうどうすることもできません」

お話をお伺いした小島さん(写真左)、吉野さん(写真右)

「岸や浜辺に漂着しているごみ」「海上や海中を漂流しているごみ」「海底に沈んでいるごみ」の3つを指す海洋ごみ。そのうち、私たちが唯一手を出すことができるのが「漂着ごみ」で、この漂着ごみをクリーンアップするのは、とても重要なことだと二人は話します。

「ただ、この漂着ごみにしても、ずっといつも同じ場所にあるわけではないですよね。見える範囲のごみを全部拾い切っても、次の波でまたわんさかやってくる、なんてことも少なくありません。ですから見つけた時、拾える時に拾うことがすごく大切です」

JEANは、拾ったごみの正体を国際的に行われている手法で調査する「調べるクリーンアップ」を30年以上にわたり展開してきました。現在、世界の116の国と地域で行われているこのキャペーンは毎年9月〜10月にかけて開催されていますが、日本では独自に年間を通して活動しており、海洋ごみのデータを蓄積しています。

「意図しないごみ」を減らすことで、海に流れ着くごみを減らすことができる

海岸に漂着したごみ。足場が悪く、人がほとんど行かない海岸には、海から来るプラスチックごみが溜まり続けている

海のごみを拾う一方で、出るごみ自体を減らすことも大切ですが、日々の生活の中で、意図せずにごみになっているものが実はたくさんあると二人は指摘します。

「ごみとして出した訳ではなく、現在進行形で使っているうちにごみになっていくもの。プラスチック製品は、紫外線や風雨の影響を受ける屋外で使うと劣化しやすくなります。

たとえばプラスチックの洗濯ばさみや植木鉢、カラーコーンなどが意図しない散乱ごみになる可能性が大きいです」

「プラスチック製の人工芝も、屋外で使われることが多いものですが、劣化すると踏んだ摩擦でちぎれたりして、意図せずにごみになることがあります。いずれも破片になって環境中に出たら最後、自然には還らないプラスチックごみです」

家の周りやベランダなどでも使われている人工芝。「プラスチック製のため、人工芝は古くなるとちぎれ、排水路を通って川から海へ流れ出ます。海で集めたプラスチック片の中にもたくさんあります」

「たとえ海から遠く離れた場所で出たごみであっても、雨とともに水路や道路の側溝に入って下水道を流れ、大雨などによって川に溢れ出て、やがて海へとたどり着くのです。家庭の排水溝からも、化粧品に含まれることのあるプラスチック製のラメやビーズ、化繊の衣類の洗濯で出る細かい糸くずなどが下水道に流れ出ています」

「海のごみ問題は、プラスチック廃棄物の問題です」と二人。

「今、目の前にある海ごみだって、もしかしたら自分が踏んだ人工芝かもしれないし、自分が使っていた何かかもしれない。プラスチック製品なしでは成り立たない社会の中で『私は無関係です』とは誰も言い切れないと思うんですね。『自分も海ごみの当事者なのだ』ということを、心のどこかで意識していただけたらと思っています。

「誰かのせい」や「かわいそう」では問題の根本は解決しない

ごみになった漁網に絡まっていたゴマフアザラシ。「合成繊維の漁網は自然にはずれることはなく、アザラシが自分ではずすこともできません」

近年のSDGsブームやレジ袋の有料化などにより、プラスチックごみや海のごみ問題への関心は、ひと昔前に比べて高まっているのではないでしょうか。

「確かに、海ごみについての認知度は上がりました。ただそこで、『海にごみを捨てる悪い人たちがいる』『海の生き物たちがかわいそう』という方向に向いてしまうと、そういう一面はあるにせよ、『かわいそう』や『悪い人のせい』で済んでしまうきらいがあります。問題が自分ごと化されず、根本的な解決につながっていかないところがあると感じています」

「少し前に、プラスチックのストローが鼻に刺さったウミガメの映像が世界を駆け巡りました。海ごみがブームのようになってしまったためにセンセーショナルな映像ばかり目立つようになり、情報も発信の数が多くなるにつれ、玉石混交の度合いが増しているようです」

ごみの分別や回収日などのルールを守って集積所に出すごみでも、収集車が来る前にカラスが散らかしてしまうこともある

「『かわいそうなカメ、かわいそうなクジラ。誰かが捨てたごみのせいで』と、この問題を『自分は関係ない』というところに落とし込んでしまうと、根本的な解決の入口にさえたどり着きません」

「海辺がきれいになることは非常に良いことだし、海ごみの問題解決のきっかけとなる点では素晴らしいことです。ただやはり、そこに向き合うスタンスとして『誰かが捨てたごみを拾う、ボランティアの私』という気持ちがあると、結果としてこの問題が根本のところで自分ごと化はされないまま、達成感や満足感で終わってしまうようなところがあるのではないでしょうか」

「『もしかしたら自分も海のごみの原因の一部かもしれない、自分の問題でもあるんだ』ということに気づくことが、大きな一歩になります。一人ひとりがそれを意識するだけで、出るプラスチックごみの総量を確実に減らすことができます」

「自然に還る素材」は海ごみ問題の解決につながるか

プランターやジョウロなどの園芸用品もプラスチック製のものが多い。気づいたときには割れていることも

最近では、プラスチックを自然に還る素材などに代替するなどして、環境への配慮をうたう企業も増えてきていますが、その辺はどうでしょうか。

「新しい技術が問題の解決につながっていくのであればいいですが、結局使い捨てになってしまうようでは、ごみはかえって増えてしまいます。海に出るプラスチックごみを減らすために、『まずは使い捨てプラスチック製品をなくしていこう』というのが本来の話のはずですが、代わりのプラスチックに置き換えることに注目が集まっているようです」

「『生分解性プラスチック』という言葉を皆さん聞いたことがあるのではないでしょうか。自然界に存在する微生物の働きによって最終的に二酸化炭素と水に分解される性質を与えられたプラスチックのことですが、分解するために、要は使い捨てることになりますよね」

「しかもこれには、『一定の条件下』で『時間をかけて』という約束事があって、きちんと回収し、完全に分解するまで、人為的にその条件を満たし続ける必要があります。そうすると、そのルートから外れてしまった散乱ごみなどは一体どうなるのでしょう」

海岸に漂着していたマイクロプラスチック。「大きなごみでさえすべて拾うことはできないのに、5㎜以下のマイクロプラスチックを広大な海岸全体で回収するのはほぼ不可能です」

「ひとたび環境下に出てしまったら、それぞれに雨や風や波や動物など自然界の偶然によって移動して、どんなところに行ってしまうか予想もつかないのが散乱ごみです。人間が与えた通りの生分解の環境、分解の途中で動いたりせず、そこでじっとして条件におさまることができると思いますか」

「そろそろ『代替』ではなく『減らす』ことに向き合う局面にきているのではないでしょうか」と二人。

「たとえばストローです。プラスチックをやめて紙や麦わらなど自然素材にする、それはそれでいいアイディアだと思います。だけど『そもそもストローが絶対に必要?使わなくても済むこともあるのでは』という議論がなかなか出てこないのです」

「使い捨てを全てやめるべきだと言っているわけではありません。ストローがないと飲みにくい場合もあります。また、医療などの分野では、衛生面から使い捨てが必要です。せっかくの技術を、こうした本当にそれを必要としている分野や製品に注力してもらえたらと思います。その上で『なくても良いよね』というものは無くしていくという議論や選択も必要なのではないでしょうか」

プラスチックをゼロにするのは不可能。何を残し、選択していくかという発想を持つ

道路際の植栽に投げ捨てられた使い捨てのプラスチックカップ。マイボトルを利用すればカップも蓋もストローもいらない。マイボトルに入れてくれる店も増えている

「現代の社会からプラスチック自体をなくすことは、非現実的でしょう」と二人。

「私が今かけているメガネもそうですが、日用品や家具、車のタイヤ…日常の生活のあらゆるところにプラスチックが使われています。これをゼロにすることは到底無理があります」

「それでも未来に向けて、自分がプラスチックごみを出している当事者であることを認識して、『であれば、何を減らしていくのか』や『何を選択していくのか』を、みんなで考えていけたらと思っています」

「企業ができること、個人ができること、個人の立場やいる場所によってもできることは異なるでしょう。でも『これはプラスチックじゃなくてもいいかも』『そもそもなくてもいいかも』とその都度、地道に一つひとつを意識して選択していくことが、この問題の解決につながっていくのではないでしょうか」

「部活帰りに寄り道してひと泳ぎした高校生が、潮が引いた遠浅の海をにぎやかにおしゃべりしながら戻ってくる。こんな海が次の世代にとってもその次の世代にとっても、日常であり続けますように」

「プラスチックを作ったのは我々人間です。プラスチックが発明されてからまだ100年ちょっと、日用品として身の回りに存在するようになったのはほんの5〜60年前であるにもかかわらず、驚異的なスピードとインパクトで海を汚染してきました」

「処理方法はあまり考えずに、安くて便利だからと大量に作ってきましたが、自分たちが処理できないからと言って自然界に押し付けて平気でいるのは、どこかおかしいのではないでしょうか。人が地球環境に与えた影響と、その結果が私たち自身にもたらす影響を考えると、とにかくこれ以上悪化させない方法を考え出していくしかありません」

団体の活動を応援できるチャリティーキャンペーン

チャリティー専門ファッションブランド「JAMMIN」(京都)は7/18〜7/24の1週間限定で「JEAN」とコラボキャンペーンを実施、オリジナルデザインのチャリティーアイテムを販売します。

1週間限定販売のコラボアイテム。写真はTシャツ(700円のチャリティー・税込で3500円)。他にもバッグなど販売中

JAMMINのホームページからチャリティーアイテムを購入すると、1アイテム購入につき700円が団体へとチャリティーされ、海のごみ問題を一人でも多くの人に自分ごととして捉え、日々の生活の中でアクションを起こしてもらうための啓発活動の資金として活用されます。

JAMMINがデザインしたコラボデザインには、プラスチックのカップの中に、ごみであふれる世界を描きました。決して他人ごとではなく、今この瞬間、私たちの選択や行動の一つひとつが、この問題と深く結びついていることを表現しています。

JAMMINの特集ページでは、インタビュー全文を掲載中。こちらもあわせてチェックしてみてくださいね!

待ったなしの海のごみ問題。「誰かが出している」のではなく「出しているのは自分かも」という意識が、社会を変える〜一般社団法人JEAN

「JAMMIN(ジャミン)」は京都発・チャリティー専門ファッションブランド。「チャリティーをもっと身近に!」をテーマに、毎週さまざまな社会課題に取り組む団体と1週間限定でコラボしたデザインアイテムを販売、売り上げの一部(Tシャツ1枚につき700円)をコラボ団体へと寄付しています。創業からコラボした団体の数は400超、チャリティー総額は7,000万円を突破しました。

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