4月2日は「世界自閉症啓発デー」。今では幅広く、「自閉スペクトラム症」として捉えられることが多くなってきた自閉症ですが、どのような特徴があり、生活の中で本人や家族にどんな困難があるのか、どのようなサポートが必要なのかという点は、まだまだ知られていません。自閉症の子を持つ二家族に、話を聞きました。(JAMMIN=山本 めぐみ)

「視覚や聴覚の情報が、すべて同じ情報として一緒に入ってくる」

自閉症のシンボルカラーであるブルーにライトアップされた小倉城(福岡県)。癒しや希望、平穏を表すブルー。毎年200近い施設がブルーライトアップに参加しており、日本各地の人たちの思いをつないでいる

自閉症(自閉スペクトラム症)の人たちに対する福祉の増進および社会参加の促進、広く社会に貢献することを目的に、自閉スペクトラム症のある人たちのより良い未来を目指し活動する一般社団法人「日本自閉症協会」。各都道府県と3政令指定都市にある50の自閉症協会と連携をとりながら活動しています。日本自閉症協会のご紹介を受け、まず最初にお話をお伺いしたのは、NPO法人「東京都自閉症協会」理事長の杉山雅治(すぎやま・まさはる)さん(56)。息子の諒也(りょうや)さん(27)は自閉症で、中度の知的障害があります。

お話をお伺いした杉山さん(写真右)と、息子の諒也さん。「2021年の年末年始に、私の実家のある静岡に行った時に登った浜石岳の山頂にて。静岡に行った際は必ず、地元の低山登山を楽しみます」

「息子の知的レベルは6〜7歳で、たとえば『お父さん、電車乗ります』とか『お散歩、行く』とか、2から5〜6語の単語をならべて自分の意思を伝えることができます。つたないながらも人と話をするのが大好きで、知らない人にも話しかけたりします」

「自閉症の人は、視覚や聴覚の情報をうまく処理して頭に伝えることが苦手なようです。たとえば、今私がこうやって面と向かって話をしている時、他で音がしても特に気になりません。正面で顔を見て話していると、周囲の様子は特に入ってこないし、印象にも残りません。だけどそれが、すべて同じような情報として一緒に入ってきてしまうようです」

「息子には聴覚過敏があり、普段からイヤーマフをつけて生活しています。自宅の中はイヤーマフだけでも良いのですが、様々な音が飛び交う屋外ではそれだけではだめで、イヤフォンで好きな音楽を大音量で聴きながら、その上にイヤーマフをつけて外部からの音を遮断しています」

自閉症の特性を知ることで、対応できることもある

毎年11月に開催される東京都自閉症協会「おやじの会」のキャンプにて。「久しぶりに会ったボランティアのお兄さんとの2ショット写真です。大好きな人と会うと、必ずこのような2ショット写真を撮ってもらい、自分でコレクションしています」

外出が大好きで、とても人懐こい性格の諒也さん。「ただ、行動が衝動的で、気になることがあるとスッとすぐに手が出てしまい、何度かトラブルになったことがある」と杉山さんは話します。

「気になる人や、気になる女の子(特に気に入った髪型の子)に出会うと、近づいていって話しかけたり、手を握ったりしてしまいます。それで行きづらくなってしまったお店も何軒かあります。本人としてはストレートに思ったことを行動に移しているのですが、距離感が掴めず、相手をこわがらせたり怒らせたりしてしまうことがあるんです」

「ただ、どんな人かを一度理解してもらえると、かわいがってもらえるところがあるようです」と杉山さん。

「怯えたり拒絶反応を示したりすると、本人は気になって気になって、ますますかまいたくなってしまう。本人は誰かや何かを傷つけようとか苦しめようという意図はないのですが、抑圧すると余計に暴れて周りにも迷惑がかかってしまうときもある。自閉症を知ってもらうことで、対応が変わってくるところもあるのかなと思っています」

「私たちと何も変わらない。同じ世界を生きる、一人の人間」

諒也さんのコレクション。好きなキャラクターのぬいぐるみと鍵でいっぱいの自分の部屋にて。「こうやって自分で作った鍵にキーホルダーを付けて、壁に飾っています。飾っているのはほんの一部。机の中にはこの数倍の鍵が大切にしまってあります」

就労支援事業所で、軽作業や公園清掃などをしている諒也さん。音楽が大好きで、ジャンル問わずさまざまな音楽を聴き、ピアノも得意だといいます。

「絶対音感があるのか、耳で覚えて弾くことができます。転調も自由にできます。今も発表会に向けて課題曲を練習していますが、人前で演奏して褒められるのは嬉しいようです」

諒也さんが幼い頃から、日本自閉症協会東京都支部(現東京都自閉症協会)の「おやじの会」に参加し、おやじ仲間たちとキャンプやバーベキューを積極的に開催してきた杉山さん。「同じような環境で子育てをする父親たちと、損得感情なく、あうんの呼吸で一緒にいられたこと、仕事だけではない仲間できたことは大きな財産」と話します。

東京都自閉症協会「おやじの会」の冬のバーベキューにて。「私にとっては、かけがえのない仲間たちです」

「子どもの障害を抱えて悩む家族は少なくないと思いますが、私はこの場所があったおかげでため込まずにやってこられたし、息子も閉鎖的にならず、外に出て行く機会を作れました」

最後に、読者の方へのメッセージを伺いました。

「独り言を言ったり大きな声を出したりして、変わっていると感じるかもしれません。だけど何も特別な人ではなくて、たまたまちょっと障害を持っているだけ。障害者だからといって、保護されなければならない、隔離されなければならない存在でもありません。自閉症の人たちを、普通の人として受け入れてもらえたら嬉しいです」

三つ子の長男と三男が自閉症、育てるだけで精一杯の日々

熊本県自閉スペクトラム症協会事務局長の福岡順子(ふくおか・じゅんこ)さん(57)は、三つ子のお母さん。三つ子の長男の知寛(ちひろ)さん(享年21)、三男の勇成(ゆうせい)さん(30)が、重度の知的障害がある自閉症を持って生まれました。

福岡さん(写真左)と、三男の勇成さん。「毎回楽しみにしているアミューズメントパークへ。この日は強風で観覧車は大揺れ、勇成の表情はこわばっています。鞄につけたくまモンのヘルプカードはお守りで、外出時の必須アイテムです」

「三つ子の真ん中の健常の子と比べて発育が遅いかなとずっと心配して経過観察していましたが、二人が自閉症だと診断されたのは、3歳検診の時でした。当時、自閉症という言葉はまだあまり知られていませんでした」

「身体的には問題がなく、知的障害ともまた少し違うらしい。自閉症とは何なのか、図書館でいろんな文献を読みあさり、自閉症が脳の機能障害であることも初めて知りました。同時に、自閉症の原因を『親の育て方にある』とか『しつけがなっていない』と非難された時代もあったと知り、愕然としたことを覚えています」

「『なぜ、うちの子が』『三つ子のうち、一人ならまだしも、二人も』…。暗くて長いトンネルのように出口の見えない日々を過ごしていました」

「自立を最優先に」、座るところから、一つひとつ教えていった

生後8ヶ月頃、ご自宅で。「狭いリビングで歩行器に乗り、三人でぶつかりあっていました」

「長男と三男で、自閉症のタイプが異なりました」と福岡さん。

「長男は多動で、気になるものがあるとすぐに走っていってしまう。家から脱走して迷子になることなんて、数えきれないほどありました。三男はこだわりが強く、プラレールのパーツの一つが無くなろうものならパニックになってかんしゃくを起こし、夜通し泣いている。同じものを買いに行くために『早く朝が来てほしい』と思いましたね」

「椅子に座ることや座ってからもじっとしていること、普通であれば教えなくても当たり前にできるようなことを教えていくということが、すごく難しかった」と振り返る福岡さん。

「私が二人に『座って』と言うと、おうむがえしにただ言葉を返すだけで、意味は理解していません。逃げ回る二人を追いかけまわして座らせる。かろうじて座っても、すぐに立ち上がってウロウロしたり部屋を出て行ったりしてしまう。とにかく必死でした」

小学校入学の記念写真。「自閉症の二人は写真館をうろうろして、なかなか落ち着いてくれませんでした」

座ることからはじめて、布団干しや料理…、「なるべく自分でできるように」と必死に教えてきた福岡さん。それはなぜなのでしょうか。

「三つ子の真ん中、次男は健常児です。『この子に、二人の重度の障害児を背負わせてはいかん』というのがいちばん思っていたことかもしれません。次男は兄と弟の障害のことで、周りからいろんなことを言われもしました。あの時は私も悔しくて歯がゆくて、気持も穏やかでいられなく、わんわん泣いていました」

「その時に次男に言ったのは、『いつか二人のことを、自信を持って僕の兄弟だと言えるようにするけん。もうちょっと待っとって』と。歯を食いしばり、二人の子育てにもう一段、ギアを上げて必死で頑張っていました」

会や生活の中で、居場所や生きがいを見出していくことの大切さ

今日も、お弁当を楽しみに出勤!順子さんの用意した弁当を包む勇成さん

9年前、長男の知寛さんは21歳の時、急性心筋梗塞で突然亡くなります。

「重度の自閉症でしたが愛嬌のある、みんなから愛されるキャラクターでした。今では長男が残してくれたたくさんの思い出を、家族と笑顔で語らうことができるようになりましたが、三男は生まれてずっと長男と一緒でしたから、亡くなる意味が理解できず、2年近くは心が不安定で、そわそわした様子でした」

今、三男の勇成さんは、自宅から1時間半以上かけてバスを乗り継ぎ、毎日福祉作業所に通っています。

「周りから自分で通うのは無理だと言われました。送迎を利用する、もしくは私が送っていくのは、やり方としては簡単です。でも、社会と接点を持てるひとつの窓を取り上げ妨げてまで、それをする必要があるのかなと思ったんです」

「常に誰かがそばにいる暮らしの中で、自分だけの時間は必要です。一人で過ごす心地良さ、それが大好きなバスであればとても素敵なひとときだろうと思います。慣れるまではもちろん支援が必要でしたし、利用するバス会社さんにも足を運び、『こういう子が乗ります。何かトラブルがあった時には、責任を持って対応します』と事情を話したりもしました」

「それでも何度もトラブルはあって、時間通りにバスが来ないとパニックを起こしたり、乗客とトラブルになったこともありました。やっとなんとか慣れてきて、10年になりました。毎朝、すがすがしい表情で出勤しています」

「できたこと」に目を向けて、幸せな日々を紡いでいく

家族のために料理の腕を振るう勇成さん。自分で育てた野菜でカレー作り

「最近になってやっと、こういう子育ても、まんざらでもないかなと思えるようになりました」と福岡さん。

「子育てを振り返ると、失敗もたくさんありました。でもそれを数えるより、数は少ないかもしれないけれど、できてよかったということに目を向けられるようになると、みんなが幸せになります」

「何を教えるにも時間がかかりました。健常な子どもなら自然と身につくことも、ひとつひとつ手取り足取り、親子で戦いながら、自分を振るい立たせることも数知れずでした。支えてくれる方たちを見つけて、どんどん味方になってもらいました」

「今、振り返って思うのは、自閉症の子どもを育てたからこそ見えた、いろんな景色があったなと。そう思わせてくれた子どもたち、支えてくれた主治医の先生、両親や兄姉へは感謝しかありません。子育てがひと段落した今、次は私が若いお母さんたちに『こういう人生も捨てたものではないよ』という気持ちを伝え、応援していきたいと思っています」

団体の活動を応援できるチャリティーキャンペーン

日本自閉症協会会長の市川さん(写真右)、事務局長の樋口さん(写真左)。「自閉スペクトラム症の人とその家族、そして周りの人たち、皆でしあわせに暮らせる未来を目指して日々活動しています」

チャリティー専門ファッションブランド「JAMMIN」(京都)は、「世界自閉症啓発デー」に向けて、3/6〜12の1週間限定で「日本自閉症協会」とコラボキャンペーンを実施、オリジナルデザインのチャリティーアイテムを販売します。

JAMMINのホームページからチャリティーアイテムを購入すると、1アイテム購入につき700円が団体へとチャリティーされ、自閉症の啓発のために活用されます。

1週間限定販売のコラボデザインアイテム。写真はTシャツ(左・700円のチャリティー・税込で3500円)。他にもバッグやキッズTシャツなど販売中

JAMMINがデザインしたコラボデザインのコンセプトは「世界がひろがる、社会とつながる」。つながった線で、手や顔、花…さまざまなものが見えてくる絵を描きました。一人ひとりの中にある世界と、誰もが社会とつながり、いきいきと暮らす様子を表現しています。

JAMMINの特集ページでは、インタビュー全文を掲載中。こちらもあわせてチェックしてみてくださいね。

4月2日は「世界自閉症啓発デー」。同じ社会を生きる、自閉症を知って〜一般社団法人日本自閉症協会

「JAMMIN(ジャミン)」は京都発・チャリティー専門ファッションブランド。「チャリティーをもっと身近に!」をテーマに、毎週さまざまな社会課題に取り組む団体と1週間限定でコラボしたデザインアイテムを販売、売り上げの一部(Tシャツ1枚につき700円)をコラボ団体へと寄付しています。創業からコラボした団体の数は400超、チャリティー総額は8,000万円を突破しました。

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