「障がいのある人が、働くことを通じて自分の思いをかなえる場所に」と、農業に取り組む事業所があります。事業所を初めて丸4年。「障がいのある人が、まだ社会に隠れている現実がある」と感じている中で、仕事としての農業、受け皿としての地域の可能性を聞きました。(JAMMIN=山本 めぐみ)

「『働くこと』でかなえられるものがある場所でありたい」

畑で作業する、三休のメンバーたち。「メンバー同士で、仕事を教え合うことがあります。この写真は、経験のあるメンバーさんが熊手の使い方を指導しているところ。畝を立てる畑に、一緒に堆肥を撒いていきます」

京都府京田辺市にある就労継続支援B型事業所「三休(さんきゅう)」は、農業と、自分たちで育てた野菜やハーブを提供するカフェを中心に、障害のある人が働く事業所です。

「一般就労を目指す方、あるいは一般就労はまだちょっと難しいけれど社会のつなぎ目で働きたい、社会と関わりたい、それぞれに背景はありますが、いずれにしても『働くことがしたい』という人が集まっています」と話すのは、施設長の世古口敦嗣(せこぐち・あつし)さん(35)。

「人によって目指すゴールは異なるけれど、『働く場所』であることがまず大前提にあります。というのは、働くことではじめて見えてくる世界があるから。『働くこと』でかなえられるものがある場所でありたい」と話します。

お話をお伺いした、三休施設長の世古口さん。施設に併設する「三休カフェ」で

「真剣に働くからこそ、良いものを提供しようと頑張るからこそ、生まれてくる働きがいや自信があると思っています。お客様からいただく『おいしかったよ』『よかったよ』という声は、働く人たちの誇りにもつながっています」

ずっと福祉の業界に携わってきた世古口さん。「働く自信がない、働くのがこわいという人の話を聞いていると、本当にあと半歩、ということが少なくない」と話します。

「最初は怖くても、ちょっとだけ背伸びして挑戦してみる。『働くこと』には、それが『楽しい』とか『自分もできるかも』という自信にもつながりやすいところがあると思っています」

「支援する・される」ではなく「一緒に働くチーム」という関係性

道の駅の出荷に向けてベビーリーフを梱包。「1日で200~400パック出荷しています」

就労継続支援B型事業所は制度上、日々通所する人数に対して行政から運営側にお金が支払われ、通所する人たちが働いて得た利益は、運営側は受け取ることはできない仕組みになっています。

「つまり、通所する人たちが働こうが働かなかろうが、運営側にはお金の面で、あまり関係ないような仕組みになっているところがあります。そこで生まれがちなのが、『支援する側・される側』、強い言い方をすると『管理する側・される側』という対立的な関係性です」と世古口さんは指摘します。

「一般的な福祉施設は『やさしく接して、無理はさせないでおこう』というところがまだまだ多いと思います。通所する方の挑戦ややりがい、本当の意味での居場所というところにしっかり向き合っている施設は、そこまで多くないとも言えるかもしれません」

「でも、僕らは『一緒に働く』ということを何よりも大切にしたい。細かな農作業のこと、何を植えて何を収穫するか、カフェで出すメニューのこと、売上のこと、小さなことを一つひとつ、皆で話し合いながら、チームワークで働くことを大切に、ここで働く人たちの工賃を上げることを目標にしています」

メンバーが主体となって毎月開催している「三休会議」。「売上報告や農業や室内の進捗状況のシェア、そして、今後のやるべきことややりたいことに対しての意見を聞いています。メンバーが納得や理解を持てるようにすること、話しやすい雰囲気をつくることを心がけています」

「一人ひとりが主体になるような声がけを意識していますし、僕らは福祉の専門職でプロではありますが、『あなたたちを支援しますよ』という顔は、極力薄めて関わるようにしています。それよりも『僕らは、一緒に働くチームやで』っていうことの方が大事。『これをやって』と言うのではなく、同じように『一緒にやる』ということです」

「その都度出てくる課題や方向性については、『こう思っているけど、どう?』と通所するメンバーたちと話し合い、意見を聞き、答えを導き出します。意見を交わすためには、自分たちが何を目指し、何を基準にするのか、三休としての価値観、『三休らしさ』を都度、定義したり説明したりするようにしています」

「仕事として良いものを提供できれば、障がい者への差別や偏見をなくすことにもつながる」

京都市内の大学近くにあるオーガニックハーブティー店へ、ハーブの納品へ。「『三休のミントは生命力があり、香りが強い。とても良いよ』と評価していただいています。このお店で三休のミントが提供していただいたことで、口コミでどんどん納品先がひろがっていきました」

農業は未経験からのスタート。「最初に農家さんから技術指導をしていただいたおかげで、何とか農業がかたちになった気がします」と振り返る世古口さん。

「ただ、1年目は家庭菜園レベル、本当にいろんな失敗をしながら2年目に農作業、3年目にはなんとか農業、4年目でやっと農業ビジネスの可能性が見えてきたと感じています」

「お金を稼ぐ難しさは、この4年、ひしひしと感じました。生半可な気持ちや福祉的な感覚で挑んでいたら潰れるし、メンバーさんの工賃も低くなるばかりです。農業もカフェも、僕らスタッフがしっかり勉強して『どう売上を出すか』を考えないと、メンバーさんに満足できる工賃が渡せません」

「ポジティブな働く場所であるために、僕らがまずは『稼ぐ』ということに前のめりでいたいと思っていて。だからこそ楽しいし、これからの可能性に、僕自身もすごくワクワクしています」

毎年4月以降に収穫するカモミールの畑。「収穫したものは、フレッシュな状態ですぐに乾燥機に入れ、ハーブティーの原料として自社で消費もしつつ、カフェやレストラン、病院などにも卸しています」

「僕は前職で生活介護もしましたが、障がいのある人は、まだまだ市民の中に隠れていて、見えない現実があります。障害のある人が社会に出て、仕事としてものやサービスを提供した時に、それがおいしいとか心地が良いと思ってもらえたら、障害者への差別や偏見をなくすことにつながると思っているから、働くことにこだわりたい」

「そしてまた、社会とつながっていること、他者との関係で『いいね』と言ってもらえることは、障がいのある人たちの自信にもつながると思っています。だからこそ、僕らは、仕事づくりと地域づくりの両輪でやっていきたい。三休は、いろんな人の人生が交錯し、ポジティブなものが生まれる場でありたいと思っています」

三休で育てたハーブを使ったオリジナルハーブティーの販売を開始。「使っているハーブは、すべて三休の畑で、栽培期間中農薬を使わずに育てたもの。すべて国産のハーブのハーブティーはなかなかめずらしいと思います。フレッシュさをぜひ味わってほしい」と話す

「三休を立ち上げた時、僕自身の原体験、少年時代に経験した地域の思い出を、この場所でもかなえたいと思いました。それは何かというと、そこで暮らす人たちの顔や名前、生活が見えて、笑い声や泣き言も聞こえて、福祉というサービスがなくても、何かあった時には助け合える関係性が生きている地域です」

「三休を起点に、障がいのある人もごく自然に地域になじみ、同じように笑ったり泣いたり、普通に暮らせる地域づくりをしたいという思いは、立ち上げ当初から何ひとつ変わっていません。メンバーさんだけでなく、お客さんや地域の方たちとの交流も増えてきて、より可能性を感じています」

「一緒に土を耕しながら、一緒に喜びを感じていきたい」

三休の畑ではどのような作物を植えているのでしょうか。立ち上げ時から三休を支えてきた、スタッフの八木慎一(やぎ・しんいち)さん(38)に詳しく話を聞きました。

「万願寺とうがらしや玉ねぎ、ベビーリーフといった野菜のほか、およそ20種類のハーブを育てています。特に、京都の特産である万願寺とうがらしに力を入れていて、2022年にはトータルで3トンを出荷しました。4月から〜お盆までが収穫の時期。ここはぐっと踏ん張って、秋になるとローゼルなどのハーブ類や葉物の野菜の収穫に移っていきます」

お話をお伺いした、支援員の八木さん

農業をする上で、福祉の観点から意識していることはあるのでしょうか。

「通常の農家さんは、作業のうち畑8割、室内2割ぐらいではないかと思うんですね。でも三休の現在のメンバーさんでいうと、畑に出て農作業する人が4割、室内作業する人が6割。つまり、総労働時間の4割が畑で費やせる時間で圧倒的に少なく、室内での農作業をどのように生み出すかという課題がありました」

「どの作物をいつ植えるか、畑と室内で仕事をどのように分担するのか、どのようなかたちならお互いが気持ちよく働けて、同時に売上も出すことができるのか、そんなことを日々ミクロに、マクロに考えています」

「先輩の農家さんに操作方法を教えていただいたトラクター。土を起こすことで、虫が出てきて、それを狙う鳥が集まってくる。大地や空と自分がつながっていると感じます」

「たとえば、今ちょうど収穫の時期を迎えているベビーリーフは、出荷のためには先を細かく切る作業が必要になるので、農家さんはあまり積極的には取り組まれないことが多いようです。でも、三休は細かい作業が得意な室内組のメンバーがたくさんいるので、むしろプラスです」

「畑から束を収穫して持ち帰り、室内で水洗いと自然乾燥した後、小さなパックに袋詰めをし、カフェや道の駅で販売しています。イタリアンパセリやディル、カモミールといったハーブも同じ。単価も良くて、出荷するためのきめ細やかで丁寧な仕事にも応えられるのは、メンバーさんたちがいるからこそです」

「『万願寺とうがらしを買った方が箱を開けた瞬間、美しいと思える梱包を心掛けてください』というスタッフの共有をまさに見事に具現化した、Oさんの手掛けた箱。いつも丁寧な手仕事をしてくださるOさん。思わず写真におさめました」

「メンバーさんの工賃の向上は、僕らの大きなミッション。農業には効率も求められますが、そこもかなえつつ、働いてくれている人の充実や満足もかなえられている場所を目指していきたい。そのためにはやはり支援員として、普段からメンバーさんの表情や言動を気にして声がけをすることも大切にしています」

「野菜は本当に、1日見ないだけで、すぐに大きくなるんです。休み明けに畑に行くと、想像以上に大きくなってびっくりなんてこともありました。農業で土や野菜の成長と向き合っていると、些細なことだけど、日々の喜びが大きいんです」

「一方で、人の成長には時間が必要です。でも土に触れてどんどん元気になっていくメンバーさんの姿、一緒に働くことで絆やつながりが生まれる姿を見ていると、よかったなと思いますね。これからも皆と一緒に土を耕しながら、一緒に喜びを感じていきたいです」

活動を応援できるチャリティーキャンペーン

チャリティー専門ファッションブランド「JAMMIN」(京都)は1/30〜2/5の1週間限定で「三休」とコラボキャンペーンを実施、オリジナルデザインのチャリティーアイテムを販売します。

JAMMINのホームページからチャリティーアイテムを購入すると、1アイテム購入につき700円が三休へとチャリティーされ、障害のある人の仕事の可能性を広げるため、畑で採れた作物を乾燥する食品乾燥機を購入する資金として活用されます。

JAMMINがデザインしたコラボデザインに描かれているのは、大地を中心に、花を摘む鳥や歌を歌う鳥の姿。三休が中心となって広がっていくコミュニティを表現しました。

1週間限定販売のコラボデザインアイテム。写真はTシャツ(左・700円のチャリティー・税込で3500円)。他にもバッグやキッズTシャツなど販売中

JAMMINの特集ページでは、世古口さんと八木さんへのインタビュー全文を掲載中。こちらもあわせてチェックしてみてくださいね。

「働くこと」は、生きる楽しさやつながりを生む。障害者の顔が見え、誰もが支え合える地域づくりのきっかけに〜就労継続支援B型事業所「三休-Thank you!!!-」

「JAMMIN(ジャミン)」は京都発・チャリティー専門ファッションブランド。「チャリティーをもっと身近に!」をテーマに、毎週さまざまな社会課題に取り組む団体と1週間限定でコラボしたデザインアイテムを販売、売り上げの一部(Tシャツ1枚につき700円)をコラボ団体へと寄付しています。創業からコラボした団体の数は400超、チャリティー総額は7,500万円を突破しました。

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