原因不明、未だ治療法が確立していない難病、ALS(筋萎縮性側索硬化症)。発症すると体を動かす運動ニューロンが変性して徐々に壊れ、歩くことや話すこと、食べること…日常のありとあらゆる行動ができなくなり、最終的には自力での呼吸すら困難になる病気です。1日も早く治療法を見つけるために、ALSの認知活動を続ける団体があります。(JAMMIN=山本めぐみ)

「一人の小さな行動が、大きなことにつながる」

「ヒロ」こと藤田正裕さん

「1日も早く治療法を見つけ、ALSを終わらせるために、一人でも多くの人にALSを知ってほしい」。2012年に一般社団法人END ALSを立ち上げた「ヒロ」こと藤田正裕(ふじた・まさひろ)さん(43)。30歳を目前にALSと診断されて今年で13年。まだ、治療法は見つかっていません。事前に用意したアンケートに答えていただくかたちで、近況を伺いました。

──ヒロさんの近況を教えてください。


特に変化はなく、変わらず毎日を過ごしています。

──日々の生活の中で、ヒロさんの今の心境を教えてください。


病気やケガや事故がなく無事に過ごせている事がありがたい。今後、友達や仲間と出かけたい。外出するのが楽しみ。

2023年のお正月、ヒロさんのお兄さん親子、親友親子と

──今の生活の中で、ポジティブに感じていることや時間、ネガティブに感じていることや時間を教えてください。

ポジティブ→夜、「今日も無事に終わった」と思う。

ネガティブ→「いつになったら薬が出来て、治療法の研究が進んで治験が受けられるんだろう。間に合わなくてこのまま死んじゃうのかな」と、1日の中でふと考える。

──コロナも落ち着いてきましたが、挑戦したいこと、やってみたいプロジェクトがあれば教えてください。


友達や仲間とみんなで海に行こうプロジェクト。

──読者の皆さんへのメッセージをお願いします。

一人の小さな行動から大きなことにつながると信じているので、皆さんのやってみようと思う気持ちに期待しています。

「ALSと闘う人たちの生きる力になりたい」

アマゾンジャパンでクリエイティブプロデューサーとして働く傍ら、END ALSの活動に賛同し、「ALSと闘う人たちの力になりたい」と、歌手活動を行うシンガーのHanaさんにもお話を聞きました。

サラリーウーマンシンガーのHanaさん

HanaさんがEND ALSを知ったのは5年前。大切な人がALSを発症したことがきっかけだったといいます。

「私にとっては父親のような、大切なファミリーの一人がALSになりました。自分に何ができるのか、模索していた時にヒロさんの著書『99%ありがとう ALSにも奪えないもの』(ポプラ社/2013年)と出会い、END ALSのことを初めて知りました」

「インターネットで調べると、ちょうど近くでALS患者が絵画モデルとなるデッサン会を開催するのを知り、足を運んだのが最初です。ヒロさんの思いにすごく共感し、その後、支援させていただくようになりました」

「ALSになった私のファミリーは、もともと音楽をやっていました。彼と血縁関係はありませんが、介護などを手伝う中で、これからを生きていく勇気や力を与えられないかと思ったんです。彼には自作の曲が50曲以上あって、ある時、彼の音楽仲間が、彼が歌ったデモテープを渡してくれました。声でかたちにして、曲を残していてくれたんです」

デモテープを聴き、「歌だったら、私にも挑戦できるかもしれない」と、本格的にボイストレーニングを始めたHanaさん。友人の結婚式などで代わりに歌うと、喜ぶ彼の姿があったといいます。

Hanaさんの最初のジャパンツアー“Still Alive” での歌唱シーン。パワフルで温かい歌声が会場を包んだ

「彼はALSを発症してから、最後、声が出るか出ないかのギリギリの時までライブをやって、20年以上続けたバンドを解散していました。自分の歌を聴いて喜ぶ彼の姿を見て、私が発起人となって解散したバンドのメンバーに集まってもらい、約4年ぶりにバンドを再結成したんです。」

「再結成した彼のバントと、彼の曲を歌うために結成された介護士を中心としたバンド、私でスリーマンライブをしたんです。彼は泣いていました。歌うことはできなくても、彼の曲だけが流れるライブでした。心の中で、一緒に歌ってくれていました。彼の音楽は必ず受け継がれていくことを、皆で伝えることができたと思います」

「彼の姿を見て、それぞれかたちは違えど、本人や家族がALSと闘いながら生きるかたちを模索する時に、何か楽しめたり希望を見出せたりする場所を提供すること、あるいはそれができる介護の体制をつくっていくことが、すごく大切なんじゃないかなと思いました」

岡山県在住のALS患者さんとそのご家族と、岡山でのライブ終了後に記念撮影

「素晴らしい曲がこれだけあるんだから、歌わないのはもったいない。代わりに歌い続けようと思ったし、全国にいるALSと闘っている人とその家族に対して、『あなたのことを想っている人がいるよ』ということを、彼の歌にのせて伝えて、勇気や希望を感じてほしい。ALSになっても、可能なかぎり自分らしく生きる道があると知ってほしい」

「当事者や家族が、ALSになっても外に気持ちを向けていくことを、当たり前にできるようになる。そんな社会を作るために、まずはALSのことを知ってもらおうと、ライブでは彼の曲を歌うだけでなく、ALSについても積極的に話しています」

歌うことでつながり、大きな力を生んでゆく

Hanaさんのライブ終了後に、チームEND ALSの皆さんと撮った一枚。「同じ想いでいてくださっていたことを、ステージ上から強く感じました」

「本人の気持ち、その中でも特にALSと闘う恐怖というのは、どれだけ頑張っても同じ気持ちにはなれない」とHanaさん。

「その時に思ったのが、『わかるよ』っていう同情ではなくて、何が必要なのか、こちらがどういう気持ちでいたらいいのか、当事者ではないからできることもあるんじゃないかなって。私は彼と接する時、あえてすごく普通に接しています。『元気?』『こんな曲ができたよ!どう思う?』って」

「できなくなったことがたとえあったとしても、悲観するのではなくて、代わりにどんなやり方でそれをカバーできるか、それを考えて接したいし、それが当たり前の環境になっていけばと思っています」

2016年からコロナ直前まで実施されたデッサン会 “I’m Still / STILL LIFE”プロジェクト。身体の動かないヒロさんが自ら絵画デッサンのモデルとなって残酷なALSを知らしめるもので、ヒロさん以外にも8人のALS患者がモデルとなり、デッサン会が開催された

「『その人らしい生き方に寄り添いたい』という思いを持って動いている方たちはあちこちにたくさん点在していて、私の活動もその一つ。今はまだつながりきれていないと思っているので、歌い続けていくことで点が強くなっていくし、点同士のつながりができて、やがて線となり、大きな力になると信じています」

「私にとっては、いちばん身近にあって、自分を表現できるものが音楽。これからも前向きに、生きる力を歌い続けたい。歌を聴いて、孤独を感じる時、それをひとつでもふたつでも、払拭してもらえたら嬉しい」

「言葉だけでは伝えきれない表現も、音楽には乗せられます。聴いているだけで涙が溢れてきたり、心が震えたり…、これは万国共通で、どんな人の心にも届けられる。ALSの方にも、聴いてもらうことで何かを届けられたらと思っているし、応援してくれる方々の想いも、一緒に届けていきたいです」

「ALSになっても、
生きることを前向きに選択できる社会に」

2019年に開催したパーティーにて、ヒロさんを囲んで

「日本は、ALSを発症した本人や家族の医療や介護的な負担がとても大きく、ALSの症状が進んで自力での呼吸が困難になった時、人工呼吸器を装着することで延命が可能になるのにそれをしない、つまり『生きない選択』をする方が少なくありません。それが、すごく悔しい」とHanaさん。

「まだまだ生きていけるはずの命なのに、先々の家族への負担や、完全に体が動かなくなり話せなくなる自分自身の姿を想像して、生きるか死ぬかを決めなければならないというのは、すごく酷なこと。本人もですが、家族や周りの人たちも、たとえどのような選択をしても、一生をかけて悩んだり、後悔したりするかもしれません」

「治療法が見つかることを祈るのと同時に、そういうことが少しでも減るといいなと思っています。そのためには、重度訪問介護制度の発展や、患者のみならず家族のサポート、尊厳死に対する法改正など、国の制度の改善が不可欠です。ALSになっても、生きることを前向きに選択できる社会にしたい」

ヒロさんとチームEND ALSの皆さん。「ヒロが海へ行きたいということで、2017年10月に湘南の海へ出かけた時の写真です。また来年の春頃に、ヒロと仲間で海へ行きたいと思っています」(チームEND ALS 大木さん)

「どんな些細なことでも、行動はかならずつながっていくし、誰かの力になります。もし皆さんの中にも同じ思いがあれば、どんなに小さなことでも、ぜひ一歩踏み出して行動にうつしてほしい。そして、それをつなげていってもらえたら嬉しいです」

最後に、Hanaさんからヒロさんへのメッセージを伺いました。

「コロナがあって、まだ実際にはお会いできていないのですが、『お会いできる日を楽しみにしています。必ず治るということ、それは私も、私の周りの人たちも諦めていません。それだけは忘れないでいてほしいです』とお伝えしたいです」

ALSを終わらせる。
治療研究を進めるためのチャリティーキャンペーン

チャリティー専門ファッションブランド「JAMMIN」(京都)は、6月21日の「世界ALSデー」を含む6/19〜25の1週間限定でEND ALSとコラボキャンペーンを実施、オリジナルデザインのチャリティーアイテムを販売します。

JAMMINのホームページからチャリティーアイテムを購入すると、1アイテム購入につき700円がEND ALSへとチャリティーされ、ALSの治療に関する研究を進める大学や医療機関での研究資金として活用されます。

 1週間限定販売のコラボデザインアイテム。写真はTシャツ(700円のチャリティー・税込で3500円)。他にもバッグやキッズTシャツなど販売中

JAMMINがデザインしたコラボデザインには、”END ALS. I’m still alive”というヒロさんの強いメッセージを、ALSの文字が砕け散る様子で表現しました。「ALSを終わらせる」という強い思いが、力強くALSを打ち砕くイメージを表しています。

JAMMINの特集ページでは、インタビュー全文を掲載中。こちらもあわせてチェックしてみてくださいね。

・6月21日は「世界ALSデー」。「どんな小さな行動でも、力になる」。難病ALSの治療法を見つけ、必ず終わらせる〜一般社団法人END ALS

「JAMMIN(ジャミン)」は京都発・チャリティー専門ファッションブランド。「チャリティーをもっと身近に!」をテーマに、毎週さまざまな社会課題に取り組む団体と1週間限定でコラボしたデザインアイテムを販売、売り上げの一部(Tシャツ1枚につき700円)をコラボ団体へと寄付しています。創業からコラボした団体の数は400超、チャリティー総額は8,000万円を突破しました。

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