不登校やひきこもりになる子どもたちを、地域で未然に防ぐために。子どもたちが本気で、やりたいことと向き合える環境を作りたいと、鎌倉で20年に渡り活動してきたNPOがあります。子どもを中心に、関わる学生ボランティア、さらにそれを支える周りの大人たち、皆が「本気で向き合う」「本当にやりたいことをやる」循環を大切にしているといいます。(JAMMIN=山本 めぐみ)

「子どもたちが、大人には見せない表情を学生に見せた」

2013年の建長寺合宿の集合写真。子どもたち、学生ボランティア、大人たち、合わせて300名以上が参加した

20年前の2003年、鎌倉にある建長寺(臨済宗建長寺派大本山)で開催された合宿をきっかけに活動をスタートした認定NPO法人「鎌倉てらこや」。世代を超えてふれあい、学びあい、育ちあう、現代版「てらこや」を目指して活動しています。

建長寺での合宿開催のきっかけは、不登校やひきこもりの子どもたちの居場所支援の第一人者である精神科医の森下一さんの鎌倉での講演。「子どもが不登校や引きこもりに陥る前に、社会や地域ができることがあるのではないか」という言葉に賛同した人が集まり、3日間の合宿が開催されたのでした。

「初回は20人ぐらいの子どもと、鎌倉てらこやの前理事長でもある、早稲田大学社会科学部教授(現名誉教授)の池田雅之先生の『池田ゼミ』に所属していた学生ボランティアが26人、大人が20人ぐらいの参加だったと聞いています」と話すのは、池田ゼミ出身で、鎌倉てらこや副理事長・事務局長の小木曽駿(おぎそ・しゅん)さん(40)。小木曽さんは翌年の2004年から合宿に参加、今日に至っています。

お話をお伺いした小木曽さん(写真左)

合宿の3日間、お寺で子どもと大学生たちが寝食を共にする中で、子どもたちが、大人に見せない表情を、学生には見せることに気づいたといいます。

「大人に対しては大人向きの関わりをするけれど、学生相手には全心全力でぶつかって、本音を心から解放する子どもたち。合宿の最後には、また会おうねと泣きながら肩を叩き合う姿が見られました」と小木曽さん。

その様子を見た大人たちが感動し、「年1回の合宿だけでなく、子どもと学生とが継続して関われる場所をつくろう」と、年間を通して地域の自然や文化を体験する鎌倉体験事業をスタートしました。「学生を中心に子どもたちと向き合い、大人たちは周りでそれを支える」という鎌倉てらこやの活動の基盤は、この時にできたものだといいます。

「本当にやりたいことをやる」「本気である」

鎌倉ならではの体験を届けたいと、さまざまな体験事業を実施。写真は陶芸体験の様子

2009年には、商業ビルの一室を自分たちで改装、「てらこやハウス」として、念願の居場所事業もスタート。子どもたちのあらゆる「やりたい」に学生ボランティアが伴走し、子どもたちが親の目を気にせず安心して自由にいられる、家庭でも学校でもない「第3の居場所」だといいます。

「今、子どもたちは塾や習い事で忙しく、『本当にやりたいことをやる』ことや、それに『本気で向き合う』機会や経験が減っていると感じます。なんとなくゲームをする、なんとなくサッカーをするではなくて、『本当にやりたいことをやる』を大事にしています」

「『本気であること』は、私たちがすごく大事にしていること」と小木曽さん。

「2003年、初めて建長寺合宿を開催するにあたり、最初に話し合われたのが『本気であること』でした。大人として子どもを見守りますが、壁をつくるのではなく、大人も子どもたちと一緒になって楽しむこと。大人でも子どもでもなく、『一人の人間』として向き合うこと。それを『本気』と表現したんです」

「地域の方たちも、学生とはまた違った形で一緒に活動を盛り上げてくれています。さまざまな方々のお支えによって、活動を継続できています」

「現在300名ほどいる学生ボランティアにも、『子どもたちと本気で向き合うこと』を伝えています。日々の活動前と活動後、一人ひとりとの関わりが本気であり得たのか、しっかり確認しながら、鎌倉てらこやのスピリットを今日までつないできました」

「『子どもたちと本気で向き合うこと』は同時に、『自分と本気で向き合うこと』を求められます。最初はなんとなくボランティアに来ていた学生が、子どもたちとの関わり、振り返りを繰り返していく中で気づきを得て、それをまた次の活動に活かすことに目覚めていく。そんな文化が根付いています」

「木の年輪のようなイメージで、中心に子どもたちがいて、その周りに学生たち、さらにその周りに支える大人たちがいます。支える大人たちも本気であって、子どもや子どもと関わる学生としっかり向き合い、忌憚なく話し合うことを大切にしています。『子どもたちにとって、大切なことは何か』。いろんな立場があるからこそ、いろんな視点で、共に考えていくことができます」

不登校を未然に防ぐために、
より多くの子どもたちに、学生と関わる機会を

学生と子どもたち、皆でブリッジ大会!子どもと思いっきり動き回って遊べるのも、年の近い学生ならでは

2011年には、鎌倉市内の学童保育へ学生ボランティアを派遣する「放課後サポート」事業もスタートしました。

「てらこやハウスの子どもたちと近所の広場で遊んでいたら、同じように広場に来ていた学童保育の子たちと仲良くなって。それで週に一度、その学童保育に通うようになったら、『ぜひまた来てほしい』と喜んでいただいたんです」

「何がそんなに良かったのかを先生に伺うと、やはり若者の力だと。学童保育は、少ない人数で子どもたちを見ていることも少なくありません。一人の子と深く関わったり、本気で鬼ごっこを一緒にやったりということがどうしても難しくなってしまいますが、子どもと年が近い学生たちが元気いっぱい、ポジティブに本気で関わってくれるのがすごくありがたいと」

鎌倉てらこやの活動に参加した人たちが集まる同窓会「鎌倉てらこやホームカミングデー」。高徳院の鎌倉大仏前で記念撮影

「子どもたちにとっても、普段は接することのない学生たちとの関わりが、日常を少し特別にするのではないかと思いました。評判を呼び、現在は鎌倉市内にある16の学童を訪問しています」

「私たちの活動の目的は、不登校やひきこもりを未然に防ぐことです。てらこやハウスは居場所事業なので別ですが、体験事業については、申し込みも参加費も必要。つまり参加できるのは、そのためにお金を使い、送り迎えもして我が子に体験させたいという親御さんの家庭の子どもたちに限られるということを意味します」

「でも本当の意味で不登校の未然予防ということを考えた時に、どのような家庭環境でも、どのような考えをもった親御さんの家庭でも、アプローチしていくことが大事なのではないかと。その時に、自分たちのイベントだけでのアプローチには限界があるとも感じていたので、たくさんの学童保育を訪問することで、より多くの子どもたちと関わることができるようになりました」

「大切なことは、人の手を借りながらも、
自分の力でやりきってみること」

公園で思い切り遊ぶ活動「遊ビバ!」での集合写真。「大切なのは、子どもも学生も大人も全力で、本気で子どもたちと向き合い、思いっきり遊び尽くすことだと思います心を開いて、遊び尽くし楽しみ尽くすことの中で、信頼関係や感動体験が育まれていくと思います」

最初に建長寺合宿が開催された翌年の2004年から、ずっと活動に携わってきた小木曽さん。

「実家が鎌倉で、大学で池田ゼミに入って声をかけていただいて、学生ボランティアとして建長寺合宿に参加したのが最初でした。その後、大学院、博士課程へと進み、NPO論やボランティア論を研究していたので、半分学業、半分仕事のようなかたちでずっと関わりながら、2015年には正式にスタッフになりました」

「ずっと活動に携わり続けてきたのは、『これってすごく大事なことをしているな』という手応えを感じるからです。自分の中ではいろいろとターニングポイントがありましたが、特にインパクトが大きかったのは、2回目に参加した建長寺合宿でした」

「子どもと一緒にやる企画を考えるリーダーになって、灯篭づくりを計画したんです。作った木枠に子どもたちと和紙を貼り、ろうそくに火をつけて並べてキャンドルナイトをしようという、企画を考えました。…結論を先に申し上げると、大失敗でした」

「3週間前から木枠を準備して裏山の作業場に置いてあったのですが、合宿当日、いざ灯篭を作ろうとした時、外にずっと置かれて湿気をたっぷり吸い込んだ木枠は、釘が全然入らなくて。しまった!と思いました」

「それでも子どもたちは本当に一生懸命で、釘は刺せないのでビニールテープで固定して、形も自由でいいよと任せたら、星形だったり三角だったり、それぞれに創意工夫してくれて」

「何も知らない人からすると、灯篭でもなんでもないただのごみで、三日もかけてごみを作ったのかと思われても仕方ないようなものでした。それでも、皆の前で堂々と胸を張って、目をキラキラさせて『これを作った』と言う子どもたちの姿がありました」

ペンキで旗を製作中だったのが、気がつけばボディペインティングに

「大事なのは見てくれではなく、誰かの手を借りながらも、自分の手で何かを作り上げる経験であり、やりきったという感覚なのだと。そのことを子どもたちから教えてもらったし、手応えを感じました」

「何かをやり抜こうとした時に、失敗もあると思うんです。でもそんなことも含め、一生懸命本気で向き合えば、面白さや楽しさはそこに必ず生まれてくるし、その経験は、その後の人生で、自分自身の力を信じる大きな動機にもなるのではないでしょうか」

「周囲の大人や社会が期待することではなく、自分が本当にやりたいことを、そこに伴う責任も引き受けながら、本気でやってみる。それができる場所としてあり続けたいと思うし、少しずつでも、そのような体験や気づきを、今後も届けていきたい」と小木曽さん。

「子どもを中心に、大学生や大人たちがゆるやかにつながり合いながら、一人ひとりが自分らしく、本気で生きていけるような関わり、成長し会える場を目指していきたいと思います」

団体の活動を応援できるチャリティーキャンペーン

チャリティー専門ファッションブランド「JAMMIN」(京都)は、7/3〜7/9の1週間限定で鎌倉てらこやとコラボキャンペーンを実施、オリジナルデザインのチャリティーアイテムを販売します。

JAMMINのホームページからチャリティーアイテムを購入すると、1アイテム購入につき700円が鎌倉てらこやへとチャリティーされ子どもたちがいきいきと、自分らしく生きることを体験できるイベントの開催費として、また活動に携わる学生ボランティアの交通費として活用されます。

1週間限定販売のコラボデザインアイテム。写真はTシャツ(700円のチャリティー・税込で3500円)。他にもバッグやキッズTシャツなど販売中

JAMMINがデザインしたコラボデザインは、太陽、月、星、人や木、動物を描きました。子どもも大人も、どんな時も、互いが互いに作用し支え合いながら、一人ひとりがいきいきと輝く明るい地域を作っていこうという思いが込められています。

JAMMINの特集ページでは、インタビュー全文を掲載中。こちらもあわせてチェックしてみてくださいね。

・子どもを中心に「本気で向き合う」循環を。地域でつくる、子どもの居場所と学び合いの場〜NPO法人鎌倉てらこや

「JAMMIN(ジャミン)」は京都発・チャリティー専門ファッションブランド。「チャリティーをもっと身近に!」をテーマに、毎週さまざまな社会課題に取り組む団体と1週間限定でコラボしたデザインアイテムを販売、売り上げの一部(Tシャツ1枚につき700円)をコラボ団体へと寄付しています。創業からコラボした団体の数は400超、チャリティー総額は8,000万円を突破しました。

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