日本で働く外国人の数は、過去最高の172万人超(2021年10月時点、厚生労働省「『外国人雇用状況』の届出状況まとめ」より)。家族と日本にやってきた子どもたちのうち、2万人が学校に通えていないことがわかりました(2020年3月27日、文部科学省より発表)。言葉や文化の異なる日本で、孤立せずに過ごしてほしい。無償で日本語のプログラムを届ける団体があります。(JAMMIN=山本 めぐみ)

日本に来た子どもたちに
100時間の日本語プログラムを届ける

「一人100時間プロジェクト」のレッスンの様子。顔の見える授業では、交流や友情も生まれる

一般社団法人「外国人の子どもたちの就学を支援する会」(以下「sfcs」)は、「周囲の人と、嬉しい時は嬉しい、困った時は困ったと意思疎通ができて、日本での暮らしが孤立せず、豊かなものになっていくように」と親と一緒に日本に来た5〜12歳の外国人の子どもたちに、無償で100時間の日本語プログラム「一人100時間プロジェクト」を届けています。

「日本に来て、日本語がわからない、あるいはある程度の日常会話ができるようになっても、読み書きに課題があって授業についていけず、学校にだんだん行きたくなくなってしまう子どもがいます」と話すのは、代表理事の石川陽子(いしかわ・ようこ)さん(42)。

「一人100時間プロジェクトの『100時間』は、これで完全に日本語をマスターできるというものではありません」と話すのは、理事の竹丸勇二(たけまる・ゆうじ)さん(61)。

「日本の学校に通う時、その子自身が孤立しないような学校生活につなげるという意味合いでの『100時間』。『嬉しい』とか『楽しい』とか、『もうちょっとゆっくり話して』とか『消しゴム貸して』といった、生活をしていく上で、周囲の人たちと最低限のコミュニケーションがとれるようにするためのプログラムです」

お話をお伺いした、写真右から石川陽子さん、小原ブラスさん、竹丸勇二さん

希望者全員にプログラムを届けることは資金的に難しいため、希望者を募った上で、子どもがどのぐらい日本語が話せないか、そのことによる課題の深刻さや、オンラインでプログラムを受ける環境があるかを面談で確認し、その上で「深刻度が高いと判断した方に、優先的に受講していただいています」と二人。

プロジェクトをスタートした昨シーズンは5人の子どもたちに、今シーズンも5人の子どもたちに、プロジェクトを届けています。

子どもたちが「楽しめる」レッスンを心がける

5~6歳の子どもたちのグループレッスンの様子。「お父さん、お母さん、お兄さん、お姉さんなど、家族を日本語で言えるようになったので、それぞれに家族の絵を描いて、一緒に勉強している仲間同士、互いの家族を紹介しているところです」

100時間のプログラムを、子どもたちは概ね8ヶ月ほどかけて学びます。

「回を重ねるごとに、授業に参加する子どもたち同士が仲良くなり、少しずつ会話も増えていて、見ていて微笑ましいです」と石川さん。

石川さんは、日本語教師として日本語学校で勤務した後、日本で働く大人の外国人向けに日本語研修などを行う会社を2019年に起業、そこでのノウハウを活かしながら「子どもに教える」ことに特化した研修も行っており、100時間プロジェクトは、この研修を受講した「子どもに合った日本語指導」ができる日本語教師をアサインしているといいます。

「来日したばかりの子どもは、何もわからないような状態です。そのような中でも『お勉強』にならず、とにかく楽しみながら、遊びながら日本語を学んでほしい。そのためには、日本語教師として非常に高い専門性が求められます」

プロジェクトを通して、ひらがな、カタカナが書けるようになった子どもからのお礼の手紙。「支援してくださった皆さまへ、書けるよういなった文字でお礼の手紙を書きました」

「最初は耳から日本語に慣れてもらい、一緒に体を動かしたり会話をしたりしながら、語彙を徐々に増やしていく。そうするとすんなり、抵抗なく言葉が出てくるようになります。一番のポイントは、『レッスンが嫌にならない』こと。子どもたちが自ら進んで面白がれるようなレッスンを心がけています」

「たとえばですが、色を覚えるレッスンの時に、『これは何色?』と尋ねて、子どもたちが『黄色』と言えるようになったら、次は『黄色のものが、部屋にありますか?』と尋ねます。そうすると、子どもたちは嬉しそうに部屋の中で黄色のものを探してきてくれる。画面越しに見せてくれた黄色のものを、『それは何ですか?』とまた尋ねる。そうやって、知っていることに一つ、また一つと日本語を紐づけて、広げていくようなイメージです」

「日本に来て、全部が嫌いになった」
一人の男の子との出会いが、活動のきっかけ

石川さんが日本語学校に勤めていた頃、8か国の留学生が共に学んだクラスでの一枚。「留学生同士が協力し、助け合いながら日本語を習得しました。どんな研修でも、この時のメンバーと同じ成長ができるようにサポートして行きたいと強く思っています」

石川さんはなぜ、外国人向けに研修を行う会社とは別に、子どもたちに特化した活動を始めたのでしょうか。

「きっかけのひとつは、香港から来た一人の男の子でした。母国では勉強が好きだったそうですが、日本に来て日本語がわからず、学校の勉強についていけなくなり、『全部嫌い、学校にも行きたくない』と。『日本語』だけがきっかけで、好きだったものが全部嫌いになるなんて切ないと思ったし、日本に来て、そういう思いをしてほしくないと思いました」

「また一方で、日本で働く外国人の方たちと接していると、『母国から家族を呼びたいけど、自分が日本語でこれだけ苦労しているのに、子どもには苦労をしてほしくない。一緒には暮らせないけど、母国で生活や勉強を続けてもらった方が良い』という声も多く聞きました」

「家族を呼び寄せて一緒に暮らすか暮らさないか、そこを迷う理由も、やっぱり『日本語』なんですね。香港人の男の子の表情がずっと記憶に残っていたのもあって、ずっとずっと気になっていたんです」

「限られた研修の中で、日本語を話せるようになっていただくこと。これが自分たちの強みでもあったので、そこを活かして、子どもたちのためにも、実践的な日本語のレッスンが届けられるのではないかと思ったこと。それが、子どもたちのための団体を設立したきっかけです」

「外国人が住みやすい地域を作ることは、
地域に暮らす皆にとって良い地域づくりにもつながる」

小原ブラスさん。タレント、コラムニストとして多方面で活躍中

sfcsの活動に賛同し、理事として主にこの問題の啓発を行っている、タレントでコラムニストの小原(こばら)ブラスさん(31)は、6歳でロシアから来日した当事者でもあります。見た目は外国人、だけど中身は日本人。日本で暮らす中で、「日本に馴染めない」という外国人の声を多く聞いてきたといいます。

「僕自身は何不自由ない子ども時代を過ごしました。育った場所の地域性もあったのかもしれませんが、周りの人たちに恵まれて、苦労したなと感じたことがあんまりないんです」

「ただ、大人になって他の外国人の方たちと出会った時に、僕の見た目は外国人だから、日本で暮らす外国人の方の本音が、いろいろ聞こえてきて。『子どもが日本の学校に通ってるけど、全然なじめへん』『自治体の集まりとか、PTAの会とか、全く理解できへん』『ごみの分別がわからへん』…」

「学校になじめなかった子が、結局不登校になってしまったという話も聞きました。『こんなんやったら、子どもを日本に呼ばんかったらよかったわ』とか『子どもだけ先に国に帰ってもらった』という声もありました」

子どもの頃の小原さん。「小学校の時、母が作ってくれたロシア式のロールキャベツのお弁当を、周りは『変なの』と。その次の時、母は三角のおにぎりとおかずを作ってくれました。周りと馴染んでほしいという親心で、実は見えないところでがんばってくれていたんです」

「僕はたまたま恵まれた環境にいたんだと思い、日本に来て、学校に通えていない外国人の子どもがどのくらいいるのか調べていた時に、sfcsを知ったんです。問い合わせをしたのがきっかけで、今は理事として、この課題を発信しています」

「誰かのための活動に見えるかもしれませんが、この活動は、僕自身のためでもあります。僕は日本で育ち、教育を受けて、日本の子と同じように育ちました。でも、見た目は外国人です。何かあった時に『やっぱり外国人は』とか『外国人やからこうなんや』って言われたら、僕も住みづらくなる」

「日本で暮らす外国の方たちが地域になじみ、苦労しなくて良い社会を作っていく必要があるし、結果、それは巡り巡って、日本の文化や歴史、地域の秩序や治安を守っていくことにもつながります。僕はたまたまこの見た目なので、日本人と、日本で暮らす外国人とをつなぐような役割ができたらと思っているし、今後、そんな人も必要になってくるんじゃないかなと思います」

新しい日本人としての心構えを

100時間プロジェクトを受けた子どもからの感謝の手紙。手紙には「日本語のべんきょうは、楽しいです。べんきょうをして、日本語がわかるようになりました。日本語がじょうずになって、日本の大学に入りたいです」とある

今後、日本で暮らす外国人はもっともっと増えていきます。その中で、私たちができることはどのようなことなのでしょうか。

「僕のように見た目は外国人でも、中身は日本人という人もいます」と小原さん。

「いろんな背景の人が同じ社会で暮らす時に、改めて『日本人とは』ということと向き合う必要があると思っています。それぞれに背景があるし、考え方があるし、その一つひとつを互いに尊重しながら、その過程も人によってそれぞれですが、日本という国で、一人ひとりが平和に楽しく暮らすという同じ方向のゴールを見据えて、共に歩んでいけるといいのかなと思います」

「『外国人だから』とか『女性だから・男性だから』といった色めがねではなくて、目の前にいる『その人自身』と向き合ってみること。心の余裕がある時に、目の前にいる人を観察して、その人自身と接してみるということにぜひトライしてもらえたら嬉しいです」

一人100時間プロジェクトの中で開催している交流会。「外国人の子どもたちと同年代の日本人の子どもたちも参加し、日本語を使って自己紹介やクイズをしました。子どもたち、日本語教師、関係者、皆で楽しい時間を過ごしました」

「私は海外で暮らしたこともないし、日本語以外は話せない、スタンダードな日本人です」と石川さん。

「だから、相手が外国人であるという理由で、心の距離を置いてしまう気持ちもわからなくはありません。でも、外国人の方たちはそんなに遠い存在じゃないということを知っていただけたらと思っています。見かけたら挨拶をしたり、困っていそうだったら、声をかけていただけたら。たとえ言葉が通じなくても、気持ちは必ず伝わります」

「2070年には、10人に一人が外国人になると言われています」と竹丸さん。

「これからもっともっとグローバルな社会になっていくことを、皆頭ではわかっていても、やっぱりどこかこわい気持ちがある。言葉が通じないと思うかもしれません。でも、日本語でいいから、話しかけていただければ。今は『やさしい日本語』があります。私たちも新しい日本人としてのマインドを持って、『やさしい日本語』を一緒にやりましょう、そうお伝えしたいです」

団体の活動を応援できるチャリティーキャンペーン

チャリティー専門ファッションブランド「JAMMIN」(京都)は、6/12〜6/18 の1週間限定でsfcsとコラボキャンペーンを実施、オリジナルデザインのチャリティーアイテムを販売します。

JAMMINのホームページからチャリティーアイテムを購入すると、1アイテム購入につき700円が団体へとチャリティーされ、日本に来た子どもたちに「一人100時間プロジェクト」を届けるための資金として活用されます。

 1週間限定販売のコラボデザインアイテム。写真はTシャツ(700円のチャリティー・税込で3500円)。他にもバッグやキッズTシャツなど販売中

JAMMINがデザインしたコラボデザインには、花を持っていたり、鉛筆を持っていたり、鳥がとまっていたり…いろんな手を描きました。

国籍や性別、年齢、好きなこと、大切にしていること…皆それぞれに違います。一人ひとりが互いをリスペクトし、認め合っていこうという思いを込めたデザインです。

JAMMINの特集ページでは、インタビュー全文を掲載中。こちらもあわせてチェックしてみてくださいね。

・未就学・不就学の外国人の子どもたちに、100時間の日本語学習プログラムを届ける〜外国人の子どもたちの就学を支援する会(sfcs)

「JAMMIN(ジャミン)」は京都発・チャリティー専門ファッションブランド。「チャリティーをもっと身近に!」をテーマに、毎週さまざまな社会課題に取り組む団体と1週間限定でコラボしたデザインアイテムを販売、売り上げの一部(Tシャツ1枚につき700円)をコラボ団体へと寄付しています。創業からコラボした団体の数は400超、チャリティー総額は8,000万円を突破しました。

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