大学院生のときにエイズ孤児支援を行うNGOを立ち上げた門田瑠衣子さん。活動を続けて13年になるが、教育支援に取り組み始めたときは命の危機にもさらされた。門田さんの原体験や「悪魔の子」との出会い、若者へ期待する思いを聞いた。(聞き手・Readyfor支局=渡邊 紗羅)

地域住民に活動の意図を説明する門田さん

――門田さんは2005年、ケニアの孤児院で、エイズにより親を亡くした赤ちゃんたちがベットに寝かせられている姿を目の当たりにしたことがきっかけで、NGOを立ち上げられました。そこから、13年間エイズ孤児支援に取り組んできましたが、これまでの活動を行う中で、どのような困難がありましたか?

門田:ウガンダのスラムで、エイズ孤児のための小学校を建てようとしていたときに、スラムに住む人から「ここに学校はいらない」「すぐに建設をやめないと、明日、学校を壊しに行く」と脅迫されたことは印象に残っています。

建物が壊されるだけでなく、自分の身も危険にさらされている状況に、夜も眠れない日々が続きました。日本から一緒にやってきたスタッフには、帰国してしまう人もいました。

自分はいいことをしているのに、スラムの人もスタッフもそれをわかってくれない。そのように自分を正当化して相手を責めるばかりで、相手と対等に向き合う強さを持っていませんでした。

私の身はウガンダ人のボランティアの方が常に一緒に行動して守ってくれましたが、自分のいたらなさを痛感しました。

――そうだったのですね。ですが、これまでに1000人以上の子どもに教育支援を行い、3万人へエイズ予防の教育を行ってきました。相手と向き合う強さをどのようにして持つことができましたか。

門田:ある一人の男の子との出会いが私を変えてくれました。ボロボロの服を着て、靴も履かず、毎日学校にも通わせてもらえず家事の手伝いをさせられている、デリックという8歳の男の子でした。彼は両親をエイズで亡くし、引き取られた親戚の家では「悪魔の子」と呼ばれて食事はいつも残り物でした。

そんな彼は、おどおどとしながらも、「学校に行きたい」という精いっぱいの思いを私に伝えてくれました。そこで思ったのです。彼の「学校に行きたい」という思い、声を、私はちゃんと届けられていただろうか?と。

彼の言葉は自分の行動を振り返るきっかけとなり、私は、スラムに住んでいる人たち、学校を建設するために力を貸してくださる大工さんたちといった、小学校を建てる上で関わる様々な人たちの声に、真摯に耳を傾けることを心がけるようになりました。

すると、建設現場は地元の人達の声と笑顔で賑わい、脅迫も自然となくなりました。完成した学校にはデリックも通うことができ、10年経ったいま奥さんと子どもと幸せそうに暮らす便りをいただきました。

自分の踏み出す一歩で、誰かを幸せにすることができる。私にそう思い起こさせてくれたデリックとの出会いは、今の自分に大きな意味と喜びをもたらしてくれました。

地元住民とともに小学校の土台作りに精を出す

――現在は、人口の約10人に1人がHIVに感染しているウガンダのルウェロ県で活動しています。約10人に1人がHIV陽性になっているのは何が原因なのでしょうか?

門田:ウガンダでは若者の失業が社会問題になっています。特に田舎ではそれが顕著です。健康問題、差別による孤立や失業など貧困と教育の問題は密接に絡み合っています。家庭が負担しなくてはいけない小学校の学費のうち制服代や進級テスト代を払えずに中退する子どもも多く、その数は2人に1人とも言われます。

HIVに関する正しい知識、偏見の払拭などが学校教育などで徹底できず、HIV陽性ないし元エイズ孤児の若者たちはより困難を抱える状況に陥ってしまっています。約10人に1人がHIV陽性の現状を解決するためには、複合的にからみあう問題の解決が必要なのです。

10人に1人がHIVの街で地域のために活動する若者たち

――若者に対して職業訓練を行うため、その費用をクラウドファンディングで集めています。どのような企画でしょうか。

門田:今回はウガンダの若者の失業問題に焦点を当てています。HIV陽性の若者のうち、職業訓練を受けたことがあるのは4人に1人です。彼らは十分な生計を立てる術がわからず、「自分はどうせ死ぬ運命だから」と人生に悲観的になってしまいます。

そんな若者たちに前向きに明日を生きてもらえるよう、農業、ネイル、ヘアメイクなど、現地でポピュラーなビジネスに必要なスキルの習得を目指します。

「雇用される以外にも、自ら稼ぐことのできるスキルの習得」を目指しているため、彼らのそれぞれのニーズに寄り添うべく、研修は特定のビジネスに絞りません。3〜4つのビジネスを組み合わせて習得することで季節による収入のバラツキや失敗時の無収入のリスクを減らせるようにしています。

就業には健康状態を良好に保つ必要があるため、HIV治療にも前向きに取り組むことのできるように、HIVや栄養についての研修も組み込んでいきます。

*現在、Readyfor VOYAGEプログラムにて、クラウドファンディングに挑戦しています。(このプロジェクトはAll or nothing形式です。8月10日午後11時までに、350万円以上集まった場合に成立となります)


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