障がいを理由にやりたいことができない。入りたいお店の入店を拒否される、通いたい学校に通えない、交通期間を利用できない…こういったことが起きているのをご存知ですか。オリンピック・パラリンピック開催に向けて東京ではバリアフリーが進んだ一方で、地域生活や雇用、教育などさまざまな分野において、障がいのある人を取り巻く環境には課題が残っています。1986年から当事者の声を発信、国に働きかけてきた団体に話を聞きました。(JAMMIN=山本 めぐみ)

設立当初より当事者の声を発信、国に対して働きかけを行う

2016年に施行された「差別解消法施行」をお祝いするパレード。日本全国からたくさんの仲間が集まり、東京でパレードを行った

認定NPO法人「DPI日本会議」は、全国の93の団体(2020年12月現在)が加盟する障がい当事者のネットワーク団体です。

「1986年の設立当初より鉄道駅のエレベーター設置など、障がい者の公共交通機関利用に関する運動を中心に行い、2000年代に入ってからは障がい者が施設ではなく地域で当たり前に育ち、働き、暮らせる社会を目指して、政策提言や権利擁護活動を中心に活動を続けています」と話すのは、ファンドレイザーの笠柳大輔(かさやなぎ・だいすけ)さん(38)。

「制度やしくみはすぐに大きく改善できるものではないので、一つひとつ地道な活動ではありますが、当事者としての声を国に向けて伝え、より良い社会の実現を目指しています」と話します。

お話をお伺いした佐藤さん(左)と笠柳さん(右)。世界最高のバリアフリー水準を満たすべく働きかけ、完成した新国立競技場の前での記念撮影(2019年12月)

「団体には三つの特徴があります」と話すのは、事務局長の佐藤聡(さとう・さとし)さん(53)。

「一つ目は、当事者による活動であること。二つ目は、知的障がい・身体障がい・精神障がいや難病といった障がいの種別を超えて活動しているということ。三つ目は、障がい者の問題を個人の問題としてではなく社会の問題として捉えて活動していることです」

「私たちが直接障がい者を支援しているわけではなく、『地域生活』『アクセシビリティ(バリアフリー・情報保障)』『教育』『雇用労働』など分野ごとに8の部会に分かれ、それぞれに現場の声や課題を集めて国に対して制度や法制度改定の働きかけを行うことで、課題解決を目指しています」

オリンピック・パラリンピック開催を追い風に、一気に進んだ東京のバリアフリー化

2020年12月から運用が開始された、車両との段差と隙間がとても少ない新幹線の駅ホーム

事務局長の佐藤さんの専門分野は「バリアフリー」。新型コロナウイルス感染拡大によって2020年の開催は延期こそされたものの、オリンピック・パラリンピック開催のために着々と準備が進められた東京では、バリアフリー化がかなり進んだといいます。

「公共交通機関、鉄道・バスに関していえば、東京はものすごく良くなりました。鉄道だと、東京にある760駅のうち現在は約98%が、エレベーターや車椅子対応トイレの設置・駅構内の段差の解消などバリアフリー化されています」

「バリアフリー法(高齢者、障がい者等の移動等の円滑化の促進に関する法律)は2000年に施行され、少しずつ改正されてきましたが、具体的な基準は古いものでした。オリンピック・パラリンピックの開催にあわせ、東京は良いタイミングで気運が高まったところがあります。開催に向けて基準を改正し、またまじめにそれを実施してきたことで、世界の標準レベルに追いついてきています」

新国立競技場の車いす席500席。前の人が立ち上がっても見えるように設計(サイトラインが確保)されている

「オリンピック・パラリンピック開催というところでは、公共交通機関だけでなく試合会場になるスタジアムのバリアフリー化も進みました。たとえば会場となる新国立競技場は、全席68,000席に対して車椅子席が500席用意されています」

「スタジアムについては、バリアフリーに関する細かな世界基準が設けられてはいるのですが、たとえば東京ドームは、46,000席のうち車椅子席はたった22席しかありません。アメリカ・ニューヨークのヤンキースタジアムは、全50,000席のうち車椅子席は1,000 席設置されています。各国で基準こそ異なるものの日本は全体的にまだまだ不十分だと言えます」

一方で課題も

車いすでも入ることができる居酒屋にて、DPI日本会議副議長の西村正樹さんが大好きなおにぎりを手に大喜び

さらには来訪者の観光などを見込んで、新しく建設されるホテルや鉄道などにも細かい基準が設定され、バリアフリーが進んできたと佐藤さんは話します。

「新幹線のバリアフリーも進んでいます。2019年末から国の検討会があり、当事者団体として参加してきました。たとえば東海道新幹線でいえば、1,323席のうち車椅子席はこれまで1〜2席しかありませんでしたが、総席数に応じて約0.5%以上の車椅子席を確保するように制度が改正されました。1,323席であれば、6〜7席は用意しなければいけないということになります」

しかし一方で、「果たして障がい者が安心して東京を訪れることができるかというと、そうとも言えない」と佐藤さんは指摘します。

2020年8月、新幹線のバリアフリー対策検討会に出席する佐藤さん

「というのは、スタジアムも、移動する公共交通機関も、帰って過ごすホテルもバリアフリーが進みましたが、一方で食事したり買い物したりする小規模な店舗についてはまったく改善できておらず、バリアフリーが進んでいないのです。たくさんの方が東京に来られた際に、この辺りの課題がより浮き彫りになるのではないでしょうか」

また、地方との格差も大きな課題になっていると佐藤さんは指摘します。

「東京は改善が進められたものの、たとえば鉄道でいえば、日本全国にある9500の鉄道の駅のうちバリアフリー化されているのは4500駅ほどしかありません。つまり残る5000の駅はバリアフリーに対応しておらず、地方の鉄道のバリアフリー化についても、大きな課題が残っています」

「何を食べたいか」ではなく「どのお店なら入れるか」

2019年、愛媛県松山市で開催されたDPI全国集会にて、打ち上げで道後温泉街の居酒屋へ

「小規模店舗では、段差がある・通路が狭いなど物理的な面でバリアフリー対応されていないことに加え、もう一つの課題があります。2019年に私たちの団体が集めた差別事例(約500件)のうち、最も多かったのは『入店拒否』でした」と佐藤さん。

「実際、車椅子の方たちが5人ぐらい集まって一緒に外食する時、普通だったら『何を食べたいか』を基準に選びますが、そうではなく『どのお店だったら入れるか』を基準に選んでいます。盲導犬ユーザーさんに関していえば6割以上が入店拒否を経験しています」

「それはすなわち、改善のための『しくみ』がないということを意味にしています。法制度を整えて『しくみ』を作っていけば改善も進みますが、国としても権限がないのが現状なのです。デパートやモール、商業施設などは、床面積2,000平米以上の施設についてはバリアフリーの整備義務がありますが、これは共用部分にしか適用されません。なので通路やトイレはバリアフリーでも、テナントを借りている各ショップに入ると、段差があるとか、通路が狭い、いすが固定されていて車いすで座れないといったことが起きています」

「国は2016年に『障害者差別解消法』という法律を施行しましたが、守らないと罰則があるとか営業できないといった効力を持つものではありません。障がい者が社会参加しづらい環境がまだまだ残っています。そういった分野において、当事者団体である私たちが声をあげ、国に働きかけ、事例を提示しながら、制度政策を改善していく。粘り強く一つずつ、細かい基準を改善していく以外に道はないと思っています」

障がいのある人もない人も、同じ場所で同じ時間を過ごすことが何よりも大切

2020年10月、山本博司厚生労働副大臣を表敬訪問。「厚生労働行政における障害福祉策に対する要望書」を提出し、意見交換を行った

「障がいがあるからといって、優しくして欲しいわけではないんです。当たり前のことを認めて、どこにも参加できるようにしてほしい。優しさで終わらせてほしくないのです」と二人。なぜ、障がい者と健常者の壁はなかなか埋まっていかないのでしょうか。

「僕は『教育』がその根源にあると考えています。障がい者と健常者を隔てるのではなく、幼いうちから同じ空間を共有すること、『インクルーシブ教育』を行うことが非常に大切ではないでしょうか」と佐藤さん。

「普段から、そしてまた幼い頃からずっと生活が分断されていたら、相手を知らないが故にイメージしきれないし、理解に至らないということがあるのではないでしょうか。障害者のことをよく知らないがために、『傷つけたらいけないな』とか『余計なことをしたらいけないな』と不安になって、できるだけ近寄らないとか、話しかけないとか、排除の意識はなくても、結果としてそうなってしまうということが起きていると思います」

2017年、アメリカ・ワシントンD.Cで世界19か国から障がい者のリーダーが集まって、障害者の自立生活のためのネットワーク「World Independent Living Center Network(WIN)」が設立された。その際の一枚

「皆さんにお伝えしたいのは、まずは『障がいのあるお友達を作ってください』ということです。一緒に遊んだり、ご飯を食べたり、関わることで、本当にいろんなことが見えてきます」

「車椅子生活をする中で、障がい者と健常者を分ける『見えない壁』を日々感じる」と笠柳さん。

「私はシャルコー・マリー・トゥース病という足の筋肉が徐々に萎縮する生まれつきの障がいを持っていますが、小さい頃は走ったりすることもでき、普通学級に通いました。7年ほど前から車椅子生活を送るようになり、またこの団体で10年間働いてきた中で、日々様々な障害当事者と同じ時間を過ごしながら『こういうことで困っているんだな』ということを学び、気づかされてきました」

「社会のさまざまなところに『見えない壁』が存在しています。当事者の声を発信し、制度や政策を変えていくことによって、そこを取り壊していきたい。健常者の方たちが当たり前にやっていることを、障がいの有無にかかわらず誰もができる社会を実現できたらと思っています。当事者として声を発信し、国の政策や制度に訴えかけていく私たちの活動が、それは障がい者だけでなく、生きづらさが蔓延する現代社会に対しても一石を投じることにつながると信じています」

団体の活動を応援できるチャリティ−キャンペーン

チャリティー専門ファッションブランド「JAMMIN」(京都)は、DPI日本会議と1週間限定でキャンペーンを実施し、オリジナルのチャリティーアイテムを販売します。

12/14〜12/20の1週間、JAMMINのホームページからアイテムをご購入いただくと、1アイテム購入につき700円がDPI日本会議へとチャリティーされ、DPI日本会議のオンライン動画による情報発信に必要な資金として使われます。

「2021年は12本のオンライン動画を作成したいと思っています。今回のチャリティーは、身体的なハンディキャップによってその動画を視聴することが難しい方にも、手話や字幕を加えて動画による情報を提供するための情報保障費、また編集費として使わせていただきたいと考えています」(笠柳さん)

「JAMMIN×DPI日本会議」12/14~12/20の1週間限定販売のコラボアイテム(写真はTシャツ(カラー:マスタード、価格は700円のチャリティー・税込で3500円)。他にもスウェットやパーカー、トートバッグやキッズTシャツなど販売中

JAMMINがデザインしたコラボデザインには、様々な果物や野菜の断面図を描かれています。「皆それぞれ違うからこそ、ずっと豊かで深みが出る」、そんな思いを表現しました。“A voice of our own”、「(当事者である)私たち自身の声」というメッセージの単語一つひとつも書体を変えてユニークに描き、個性を認め合う豊かな社会を表しています。

チャリティーアイテムの販売期間は、12月14日~12月20日の1週間。JAMMINホームページから購入できます。JAMMINの特集ページでは、インタビュー全文を掲載中!こちらもあわせてチェックしてみてくださいね。

当事者の声を発信、国に働きかけながら、誰もが「ともに育ち、学び、働き、暮らせる社会」を創る〜NPO法人DPI日本会議

山本 めぐみ(JAMMIN):
JAMMINの企画・ライティングを担当。JAMMINは「チャリティーをもっと身近に!」をテーマに、毎週NPO/NGOとコラボしたオリジナルのデザインTシャツを作って販売し、売り上げの一部をコラボ先団体へとチャリティーしている京都の小さな会社です。2014年からコラボした団体の数は300を超え、チャリティー総額は5,000万円を突破しました。

【JAMMIN】
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