大阪で2009年に初開催されて以来、参加者を増やしてきた冬のビッグイベント「大阪グレートサンタラン」。大阪城周辺をサンタの格好をした参加者が一同に走り、参加費の一部が入院中の子どもたちへのクリスマスプレゼントになるチャリティーランです。「クリスマスだけでなく、年間を通じて入院中の子どもやその家族を支援したい」。サンタランを呼びかけた女性が、新たなNPOを設立しました。(JAMMIN=山本 めぐみ)

誰もが笑顔になれるチャリティーの循環を

病院でガチャガチャをひく子ども。「ガチャガチャひけるよ、と声がけすることで、痛みを伴う治療もぐっと頑張れる子どもたちがたくさんいるという声をいただいています」

NPO法人「プロジェクトサンタ」は、病気と闘う子どもたちとその家族を応援するために、何かを我慢するのではなく、楽しみながらチャリティーに参加できるしくみを作りたいと活動する団体です。

「現在の具体的な活動の内容としては、病院に入院中の子どもたちが喜んでくれるガチャガチャを設置したり、付き添いのお母さんに一杯のコーヒーを届けたりしています」と話すのは、代表の矢野舞(やの・まい)さん(40)。

お話をお伺いした矢野さん

「昨年からの新型コロナウイルスの感染拡大によって、感染症対策のために訪問支援が制限されました。遊びや学習のボランティアさんなどが入ることが難しくなり隔離された小児病棟で、特にガチャガチャは病院関係者の方に運営していただけるので、病院からも『子どもたちが数少ない楽しみの一つとして喜んでいる』という声をいただいています」

「コロナ禍の今、新しく設置したいというお声もいただくようになり、病院へのガチャガチャ設置が現在のメインの活動となっていますが、私たちとしては応援する・される側に関わらず、どちらも楽しく笑顔になれるような寄付の循環を作り、今後全国の病院にも広げていくことができたらと思っています」

企画を持ち込んでスタートした「大阪グレートサンタラン」

矢野さんが企画を持ち込んでスタートした「大阪グレートサンタラン」の様子。「参加者が1万人を超えた2014年の様子です。大阪城公園内をぐるっと一周するコースです」

「プロジェクトサンタ」は、2009年より毎年開催されてきたチャリティーマラソン「大阪グレートサンタラン」から生まれました。

参加者がサンタの格好をして大阪城公園を走り、参加費の一部が入院中の子どもたちへのクリスマスプレゼントになるというこの取り組みは、実は留学中のスコットランドでこのイベントに偶然遭遇した矢野さんが、帰国後「日本でもやりたい」と声をかけてスタートしたものでした。

「帰国後、どうにか日本でも開催できないかとあちこちに声をかけていた中で、ある時『OSAKAあかるクラブ』という大阪を明るくするために活動している団体にメールで企画を持ち込んだのです」

「母が、OSAKAあかるクラブの初代キャプテンを務められていたやしきたかじんさんのファンで、彼がテレビ番組で『新しく団体を立ち上げたので、今後チャリティーなどもやっていきたい』とおっしゃっていたのを観て、『この団体さんならサンタラン実現できるんじゃない?問い合わせてみたら』と言ってくれたんです。あれよあれよと言う間に話が進み、開催が実現しました」

2010年、サンタランで集まったチャリティーで、初めて病院の子どもたちへ直接プレゼントを届けた。「老朽化したツリーを新しくしてほしいという希望もあったので、当時一番大きなツリーを購入し、病棟のプレイルームに寄贈しました」

2010年、サンタランで集まったチャリティーで、初めて病院の子どもたちへ直接プレゼントを届けた。「老朽化したツリーを新しくしてほしいという希望もあったので、当時一番大きなツリーを購入し、病棟のプレイルームに寄贈しました」

第1回目の開催は200名ほどが参加し、毎年少しずつ規模を大きくしながら、最大では11,000人(2014年)もの人が集まる大イベントとなりました。

「皆でサンタの格好をして走るという見た目のインパクト、また当時はこういった『ファンラン』と呼ばれる、皆で同じテーマで楽しく走ろうという活動自体がブームだったこともあって、多くの人に認知していただきました」と矢野さん。

矢野さん自身が会議場で働き医学会を担当していた関係から、つながりのあった小児科の医局に連絡を取り「協力してもらえませんか」と頼み、集まったお金で入院中の子どもたちに直接プレゼントを買って届けるようになりました。

「クリスマスだけでなく、年間を通じて応援したい」

ガチャガチャ設置のきっかけとなった医師の先生と一緒に。「私たちの活動は、現場の皆さんに支えられています」

サンタランが広がる一方で、「年に一度のクリスマスだけでなく、一年を通じて入院中の子どもたちを楽しく応援する取り組みができないか」と考えるようになった矢野さん。

2015年にアメリカ・シアトルにある子ども病院を訪れた際、現地企業の協力を得て、入院中の子どもに付き添うお母さんたちに無料でコーヒーをサービスしているのを知ります。

「『自分のために淹れてもらった一杯のコーヒーが、入院中の子どもに付き添うお母さんたちの気持ちを救うこともある。そしてお母さんが笑顔になれば、子どもを笑顔にすることもつながる』というスタッフの方の言葉に感動し、『日本でもできないかな』と思いました」

帰国後、関わりのあった病院の看護師さんたちに相談し、2017年に始まったのが「ティータイムプロジェクト」です。地域のコーヒーショップの協力を得ながら、関西のいくつかの病院で実施しました。

アメリカ・バージニア州生まれのコーヒーチェーン「Greenberry’s COFFEE」の協力を得て実施したティータイムプロジェクトの様子。「コーヒーも美味しいのですが、個人的にはスコーンも美味しくてオススメです」

アメリカ・バージニア州生まれのコーヒーチェーン「Greenberry’s COFFEE」の協力を得て実施したティータイムプロジェクトの様子。「コーヒーも美味しいのですが、個人的にはスコーンも美味しくてオススメです」

「その際、お子さんのためにかわいい歯ブラシセットやマスクケース、ペットボトルの上にとりつけるカバーなど、一緒に小さなお土産をお渡ししていました。というのも、付き添いのお母さんの中には、子どもを病室に置いて自分だけがコーヒーを飲んで休むことに罪悪感を覚えるという方がいらっしゃったのです」

「あるいは家で家族の帰りを待つ入院中の子どものきょうだいさんのために、何か喜んでもらえるちょっとしたお土産があればいいなと思って用意していたんです」

入院中の子どもが笑顔になれるガチャガチャ設置

子どもたちのためのちょっとしたお土産。「ラッピングの資格を持ったメンバーがいるので、マスクケースや歯ブラシセットもかわいく包装してくれました」

ティータイムプロジェクトで子どもへの小さなお土産を用意していたのとは別に、小児科の先生や看護師さんたちが、入院中の子どもたちが日々の治療をがんばったご褒美にキラキラしたシールや小さなおもちゃを自前で用意して渡しているという話を聞いていた矢野さん。「何かサポートできないか」と、病院へのガチャガチャ設置をひらめきます。

「ただご褒美として手渡すだけでなく、子どもたちが自分でアクションできるほうが楽しいんじゃないかと思い、最初に大阪大学医学部附属病院にガチャガチャを設置してもらいました」

「そうすると、あるお母さまから『他の病院にもおいてほしい』という声をいただきました。昨年からはコロナの流行で病院への出入りが制限される中、ガチャガチャは人が出入りする必要がなく景品さえ補充できれば運営が継続できるので、入院中の子どもたちにとって数少ない楽しみの一つになっているようです」

ガチャガチャのカプセル。「当初は景品を直接入れる予定でしたが、希望の景品を揃えるうちにカプセルに入りきらないものも増えてきて、番号札を入れている病院も多いです」

「『入院前からガチャガチャが好きだった子が、病院の中でもガチャガチャができることに目を輝かせて喜んでくれた』『手術して全然笑わなかった子が笑顔を見せ、好みの景品が当たると大喜びしてくれた』『何が当たるかわからないワクワク感が、治療に前向きになれるエネルギーを与えてくれる』といった声をいただいています」

「一旦設置さえしてしまえば、あとはそれぞれの病院の方針に沿って、良いように使っていただいています。何か大きな治療の前後だけでなく、たとえばリハビリをがんばったとか、子どもたちの日々のがんばりに連結して使っていただいています」

チャリティーを「楽しめる」ことが長続きの秘訣

病院訪問をしていた時の一枚。「子どもたちが喜んでくれたら、と真剣な大人達はみんなサンタさんだなと思います」

ガチャガチャ設置や景品補充に必要な資金は、現在は寄付でまかなわれていると言いますが、「コロナが落ち着いたら、サンタランのように楽しみながら参加できて、なおかつチャリティーできるイベントやしくみを今後打ち出していきたい」と矢野さん。

「チャリティーをする側に『してあげる』とか『してあげた』感があると、受け取る側も負担です。私自身、『チャリティーをしている』という感覚はなくて、ただ楽しいことを追求している感じです。だから続けられていたのだと思います」

現在は、大阪枚方市にある「ひらかたパーク(ひらパー)」と一緒に新たなチャリティ−イベント企画を進めているといいます。

「地元の方たちに愛されて来年110周年を迎えるひらパーさんが、『110周年を機に、地元に長く貢献できるチャリティーイベントができたら』とおっしゃってくださって、私たちも参加者の方たちも、チャリティーを受ける方もひらパーさんも、皆が笑顔になれる楽しいイベントを作っていきたいと思っています」

「自分が楽しくてしたことで、もし相手も笑顔になってくれたらラッキーだな、という感覚。我慢してやっていても続かない。楽しくないと続かないし、本気で面白いと思っていないと人を巻き込みにくい。私はそう思っています」

団体の活動を応援できるチャリティキャンペーン

チャリティー専門ファッションブランド「JAMMIN」(京都)は、「プロジェクトサンタ」と10/4(月)〜10/10(日)の1週間限定でキャンペーンを実施、オリジナルデザインのチャリティーアイテムを販売します。

JAMMINのホームページからチャリティーアイテムを購入すると、1アイテム購入につき700円が団体へとチャリティーされ、入院中の子どもたちにガチャガチャを届けるための資金として活用されます。

「JAMMIN×プロジェクトサンタ」10/4〜10/10の1週間限定販売のコラボアイテム。写真はTシャツ(ワインレッド、700円のチャリティー・税込で3500円)。他にもエプロンやパーカー、バッグやキッズTシャツなど販売中

JAMMINがデザインしたコラボデザインには、キャンプ中のサンタクロースの日常を描きました。人が集まる象徴としてティピー(テント)を、人を笑顔にする存在の象徴としてサンタの面影を描き、団体の活動を表現しています。

JAMMINの特集ページでは、インタビュー全文を掲載中。こちらもあわせてチェックしてみてくださいね!

応援する・されるに関わらず「楽しいこと」でチャリティーが回るしくみを〜NPO法人プロジェクトサンタ

山本めぐみ:JAMMINの企画・ライティングを担当。JAMMINは「チャリティーをもっと身近に!」をテーマに、毎週NPO/NGOとコラボしたオリジナルのデザインTシャツを作って販売し、売り上げの一部をコラボ先団体へとチャリティーしている京都の小さな会社です。2014年からコラボした団体の数は360を超え、チャリティー総額は6,000万円を突破しました。

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