かつて人々の暮らしの側にあった「里山」。人間の生活を支えると同時に、人の手が入ることでその豊かな生態系が守られてきました。「里山」を、人の生活と調和した持続可能な自然の姿の一つモデルとして、日本の森を保全するために活動するNPOに話を聞きました。(JAMMIN=山本 めぐみ)
自然と調和した
持続可能な社会の実現のために
1995年より各地で森づくりや里山再生に取り組むNPO法人「樹木・環境ネットワーク協会」は、「森を守る・人を育てる・森と人をつなぐ」をテーマに活動しています。
「多くの方がご存知なところでいえば、東京・上野にある上野動物園の緑地管理や八ヶ岳の登山道の整備もさせていただいています。森づくりのフィールドを持ち、そこを拠点に実践的な技術を磨いたり経験を積んだり、人々が自然と触れ合う機会を提供できるのが私たちの大きな強み」と話すのは、団体事務局長の後藤洋一(ごとう・よういち)さん。
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また、若い世代にも豊かな森の魅力を伝えていきたいと、初心者から参加できる観察会や子どもたちを対象とした自然体験プログラム、企業のCSR活動サポートや行政との連携を通じ、普及啓発活動にも力を入れています。
姿を消しつつある
「里山」をモデルとした森づくり
「関東を中心に13あるフィールドの多くは、『里山』をモデルとした森づくりを行っています」と後藤さん。里山とは、いわゆる裏山のような、人々の生活と密接に関係した雑木林のことだといいます。
「人が関わって手を入れることで生物多様性が守られた森、人の暮らしや文化とバランスがとれた森。それが現代において目指すべき森のあり方ではないかと考えており、私たちは里山をモデルケースに、その復元・復活を目指しています」
ひと昔前までは、木を薪や建材として使ったりきのこを栽培したりと、人の生活と密接に関わりがあった森。しかし木を使わなくなったことから人と森との関わりが薄れ、森の荒廃が進んでいます。
「人が入らなくなり、放置され荒れてしまった森を従来の里山に戻していこうという取り組みを行っていますが、ただ木を植えたり整備したりすれば良いということではありません。地域ごとに環境や生態系の違いもあるので、そこを理解した上での森づくりが重要です」
「人が立ち入らなければ緑豊かな森になるのではないか、と思われるかもしれませんが、何百年も人が手を入れ続けてきた里山の森は、人が手を入れないでいるとどんどん変化し、生態系が変わっていきます。たとえば温暖な地域では、冬も葉っぱを落とさない『常緑樹』が育ち、森の地面には一年中光が届かなくなってしまいます。そうすると明るい森で毎年咲いていた花が消え、その花に集まっていた昆虫がいなくなり、その昆虫をエサとしていた野鳥が来なくなり、明るい森にすんでいた生き物が消えてしまうのです」
「人の目が行き届かなくなると、不法投棄や犯罪の現場になることもあります。最近では大雨による土砂崩れや、森で暮らしていたクマやイノシシが人里に現れて害をもたらすこと、林業経営の難しさなども問題になっています。健康な森を維持することは、生態系を守るだけでなく、地域社会の安全にも関わってくるのです」
「陽樹(ようじゅ)」を植えた森に変化が
団体のフィールドの一つ、東京町田市にある「町田フィールド」でリーダーとして活躍する広瀬攻(ひろせ・おさむ)さんと、グリーンセイバーの高橋(たかはし)まり子さん、団体の広報を担当する石崎庸子(いしざき・ようこ)さんにもお話を聞きました。
20ヘクタールにも及ぶ広大な「町田フィールド」では、森づくり活動を月に3回ほど行われているほか、さまざまな企画イベントも開催されています。
「冬になっても葉が落ちず、暗い場所でも成長する常緑樹は『隠樹(いんじゅ)』と呼ばれます。温暖な関東以南の平野部の森では、放置されると陰樹が勢力を増し、クヌギ・コナラなど落葉樹の『陽樹(ようじゅ)』が育ちません。町田フィールドでは10年以上前から陰樹であるシラカシ等の伐採を進めながら、ひと昔前までは10年15年育った頃に、薪や炭として活用されてきた陽樹を残してきました」と広瀬さん。
「大きな陰樹の伐採により空が大きく開けた丘には、明るくなるのを待っていたように翌春からキンラン・ギンラン・エビネ等、春の妖精と呼ばれる花々が芽を出し、嬉しそうに復活するのです。森が明るくなって道も整備されると、近隣に住んでいる方や近くの保育園の子どもたちが、時にはお弁当を持って訪れてくださいます。人が戻り、もっともっと明るい森に戻っていきます。毎日来られる方もいらっしゃいますよ」
「森の魅力伝えたい」
さまざまなイベントも開催
「子どもの頃、野山で遊んだ経験が忘れられない。あの頃の風景を取り戻したい。それが原点となって森づくり活動を始める人は少なくありません」と話すのは、広報の石崎さん。
「ところが今、自然を体験する機会は減る一方です。体験型のプログラムを通して自然に興味を持つ人が増えれば、少しずつでも世界が変わっていくのではないか」と、団体ではさまざまなイベントを企画、開催しているといいます。
「特に子どもは自然に対して素直に好奇心を示してくれる」と話すのは、グリーンセイバー の高橋さん。団体では、年間を通じて子どもを対象にした「子どもわくわくプロジェクト」を開催しています。
「子どもが自然に親しむことを目的としたプロジェクトです。たとえば『ススメ!子ども忍者』という企画は、江戸時代の人たちが自然をどんなふうに生活に取り込んでいたか、クイズ形式で子どもたちに考えてもらう企画です。ほかにも『湧水にジャブン!』という森の中の湧水で遊ぼうという企画や、『竹取物語』という竹素材を使ってクラフト体験をする企画など、自然を前面に押し出すわけではなく、子どもたちが興味のあるものをきっかけに森の中で過ごす中で自然と草木や昆虫に興味を抱き、楽しんでもらえるような工夫をしています」
多様な人の集まりが、多様な森づくりにつながる
「樹木・環境ネットワーク協会」の愛称である「聚(しゅう)」という言葉が、団体のあり方を表しているとメンバーの皆さん。
「環境保全のための活動が広がっていく中で、それぞれ得意なことや興味のあることを持ち寄って情報交換しながら、『こんなことをやりたい』『これならできるから手伝うよ』と助け合って歩んできました。人が集まることで何かができる。『集』の旧字体である『聚』という愛称には、そんな思いが込められています」と石崎さん。
「私たちのフィールドである自然や森は、『聚』の土台なのかな、と思います」と後藤さん。
「その土台の上に様々な分野に興味のある人たちが集まり、その多様性があるからこそ、団体としての意識や環境も多様化していく。『人の多様性』が、フィールドである自然や森を育てることにもつながっていくのではないかと思います」
「私たちの究極的な課題は『持続可能な社会を作っていこう』というもの。それは何のためかというと、私たち一人ひとりの幸せのためなんですね。SDGsでは『誰一人取り残さない』ということをテーマに掲げていますが、私たち人間や共存する生き物を包括して受け止めてくれる自然環境が存在しなければ、この社会が存続することも、人々が幸せになることもできないのではないでしょうか」
「自然を愛し、自然のために活動する人たちが絶滅危惧種にならないように、若い世代や子どもたちが、自然に関心を持ったり好きになったりするきっかけを仕掛けていくことも、『聚』としての大きな使命だと思っています。常に進化しながら、一人でも多くの方を巻き込んでネットワークを広げていきたいと思っています」
豊かな森の発展と、そこから広がる人と自然とのつながりを応援できるチャリティーキャペーン
チャリティー専門ファッションブランド「JAMMIN」(京都)は、「樹木・環境ネットワーク協会」と1週間限定でキャンペーンを実施し、オリジナルのチャリティーアイテムを販売します。「JAMMIN×樹木・環境ネットワーク協会」コラボアイテムを買うごとに700円がチャリティーされ、団体の活動のコアとなるフィールドでの森づくりに必要な道具や企画に必要なアイテム購入のための資金として使われます。
JAMMINがデザインしたコラボデザインに描かれているのは、レコードの代わりに丸太がセットされたターンテーブルの周りで、奏でられる豊かな音に耳を傾ける様々な生き物たちの姿。森づくりを中心に多種多様な人が集まり、それぞれの想いで自然とつながる先に、心地よく快適な世界が広がる様子を表現しました。
チャリティーアイテムの販売期間は、8月31日~9月6日の1週間。JAMMINホームページから購入できます。JAMMINの特集ページでは、インタビュー全文を掲載中!こちらもあわせてチェックしてみてくださいね。
・多様な人が集まり、生物多様性にあふれた森を育む。愛称「聚(しゅう)」に込められた、人と森との豊かな関係〜NPO法人樹木・環境ネットワーク協会
山本 めぐみ(JAMMIN):JAMMINの企画・ライティングを担当。JAMMINは「チャリティーをもっと身近に!」をテーマに、毎週NPO/NGOとコラボしたオリジナルのデザインTシャツを作って販売し、売り上げの一部をコラボ先団体へとチャリティーしている京都の小さな会社です。2019年11月に創業7年目を迎え、コラボした団体の数は300を超え、チャリティー総額は4,500万円を突破しました!